化粧板などの建築材料・接着剤を製造・販売しているアイカ工業(本社:愛知県名古屋市)が展開する、メラミン不燃化粧板〈セラール〉は、同社の主力商品の1つで、主に壁の仕上げ材として流通しています。先ごろ、プロダクトとしての可能性を拡げ、天井の仕上げ材として施工されました。
施工された場所は、東京駅の北側構内の新たな飲食店街「グランスタ八重北」の1階。今春から今秋にかけて飲食店などが順次オープンし、大勢の人々が行き交う「八重北食堂」のコンコースが縦横に交差する“結節点”の天井部分です。
従前の通路はコンセプトが「キッチンストリート」であったことから、ステンレスや白色タイルなどの無機質な仕上げでデザインされていましたが、今回のリニューアルに伴い、「neutral+」「natural」をコンセプトに、木を基調に温かみのある表情豊かな空間へと様変わりしました。駅コンコースに使用するにあたり、クライアントであるJR東日本が定める厳しい条件をクリアしていることも特筆点です。
これまで、駅コンコースの天井材には、主に金属カットパネルが使われていましたが、今回の「グランスタ八重北」と一体となるコンコースのリニューアルであり、設計側が従来にない高い意匠性を求め、アイカ工業に白羽の矢が立ちました。「壁材の〈セラール〉を天井に使用したい」というもので、これはアイカ工業にとっても新たなチャレンジとなりました。
JR東日本の駅コンコースの内装材として採用されるには、同社の天井材に関する規定やマニュアルに沿った性能を満たすことが必須となりました。そのため、地震や振動における内装材の落下対策などの防止策を定め、これに基づいて駅コンコースで用いる仕上げ材にはビスやジョイナーなどの金物固定による対策を実施することが求められたのです。
これらの打診を受けたアイカ工業は、厳しい条件をクリアするため、東日本旅客鉄道(JR東日本)、JR東日本建築設計と3社共同で、新たな天井施工法(以下、新工法と略)の研究に取り組みました。
今回のプロジェクトに協力した関係者に、新工法の共同研究の経緯について話を聞いています。
以下は、3氏の話を要約したものです。
取材協力(氏名50音順):
・内田直尚氏(JR東日本建築設計)
・城田茂弘氏(JR東日本クロスステーション ※共同研究当時は東日本旅客鉄道在籍)
・山口和彦氏(東日本旅客鉄道)
「天井仕上げ材として従来の主流である金属カットパネルは、強度や耐震性などで優れてはいるものの、意匠の面で課題がありました。商品の選択肢が少なく、デザインの幅も狭くなるのです。その点、アイカ工業のメラミン不燃化粧板は、バリエーションがあり、意匠性にとても優れていました。
とはいえ、元は壁材として開発された建材です。通常は専用の接着剤と仮留めテープで施工されていますが、前述のとおり、JR東日本の規定やマニュアルに沿って天井材として用いるには、長期にわたって安全性を確保するためにハットジョイナーを用いてセラールの固定補助をしなければなりません。これは、セラールの施工時にハットジョイナーを取り付ける目地を設け、その目地部に沿ってビスで取り付けるというやり方です(下の図)。
しかしこの施工だと、手間もかかるうえに、下から天井を見上げたときにビスや金具が人の目に触れてしまう。化粧板の良さであるはずの意匠性を損なうというジレンマがありました。」
アイカ工業〈セラール〉詳細ページ
https://www.aica.co.jp/products/wall/melamine-n-veneer/
「しかしながら、アイカ工業の〈セラール〉は、金属カットパネルにはない意匠性の高さと、特注柄でも小ロットから対応してくれることが大きな魅力でした。悩みの種だった、デザインの幅を拡げることができる。このことから、金属カットパネルに代わる天井仕上げ材としての〈セラール〉の可能性を模索しようと、共同研究がスタートしました。我々としては、進行中だった東京駅構内のリニュアールの天井仕上げで採用したいという希望がありました。となれば、先ほど述べたような施工面での課題の解決が必須であり、新工法を生み出す必要がありました。アイカ工業が愛知県清須市に構える研究開発拠点のR&Dセンターに何度も足を運んで、共同研究に取り組みました。」
駅ならではの振動に耐え、地震発生時の落下を防ぐには、補強面だけでなく材そのものが軽量であることも肝要となります。この点で〈セラール〉は厚さが3mmと薄く、一般的な金属カットパネルよりもかなり軽量でした。
その一方で、3㎜という薄い材にアンカー(支持金物)をどのように埋め込むかという点が課題となりました。さらに、引き抜き強度(落下に対する強度)、せん断強度(地震の横揺れに対する強度)の確保もそれぞれ難易度が高く、何度もモックアップを組んで検証を重ねました。
なお、今回の新工法は、今年9月初旬に北海道で開催された日本建築学会において、「不燃メラミン化粧板を用いた鋼製下地在来工法天井に関する研究 その1 不燃メラミン化粧板の固定方法」と題して、山口氏、城田氏、内田氏らとアイカ工業社員の連名で発表が行われています(集客施設の天井・非構造材、発表番号:20468)。
「アイカ工業には天井材に関するノウハウがなく、最初のうちはなかなかうまくいかなかった」と、城田、山口、内田の3氏は今回のプロジェクトを振り返ります。城田氏らの具体的な要求1つ1つに、アイカ工業の技術者たちが応え、固定部分に必要な強度の確保に至った後も、さらなる性能向上を図ったとのこと。
新工法の完成のめどがついたことなどから、関係各社は具体的に「東京駅八重洲北口での採用」を目標に掲げてプロジェクトを進めていきます。工期のリミットが迫るなか、最終的な仕様が決定。JR東日本の確認を経て、〈セラール〉は東京駅に納品されました。「グランスタ八重北」1階のコンコースを歩いた際には、ぜひ天井の仕上げに注目してください。
施設名称:グランスタ八重北(構成:地下1階「黒塀横丁」/ 1階「八重北食堂」/ 2階「北町酒場」)
所在地:東京都千代田区丸の内1-9-1 JR東日本東京駅構内 八重洲北口地下1階・1階・2階 ※改札外
施工場所:1階「八重北食堂」エリア コンコース
設計:JR東日本建築設計
施工:鉄建建設
環境デザイン:内藤廣建築設計事務所
耐震性向上のほか、万が一の漏水に備えた耐水性や、仕上げ材表面の強度など、JR東日本の厳しい基準を〈セラール〉はクリアしています。
清掃面でほぼメンテナンスフリーであることも、採用理由の1つとなっています。従来のパネルに比べて、メラミン不燃化粧板は帯電性が低いため、静電気による埃の付着が抑えられ、汚れにくいことが評価されました。
天井の仕上げに〈セラール〉を使った新工法の施工に尽力した1人、山口氏(東日本旅客鉄道)は、今回のプロジェクトを振り返り、天井仕上げ材の新工法について次のような見解を示しています。
「従来の金属カットパネルからメラミン化粧板(今回は〈セラール〉)を使用することで、天井仕上げ材の軽量化が可能となりました。耐震性にも有効です。さらに、豊富なデザインバリエーションもあるので、今後、設計者として天井材の選択の幅が広がっていくのではないか。」
壁材だけでなく、建材としてさらなる可能性を拡げたアイカ工業の〈セラール〉です。
アイカ工業〈セラール〉詳細ページ
https://www.aica.co.jp/products/wall/melamine-n-veneer/
〈セラール〉や〈オルティノ〉が採用された今回のような施工事例も、現在開催中の「AICA 施工例コンテスト 2022」 に応募できる対象作品となります。
応募の受付は11月30日まで。詳細は下記の「アイカ施工例コンテスト 2022」応募バナーをクリックのうえ、特設サイトの記載をご確認ください。
審査委員長:谷尻 誠(SUPPOSE DESIGN OFFICE)
審査委員:照井洋平+湯山 皓(I IN)、山根脩平(tecture株式会社 代表取締役CEO)、百々 聡(アイカ工業株式会社 取締役 専務執行役員)
応募締切:2022年11月30日
下記のロゴをクリックすると、プロダクト検索サービス「TECTURE」のアイカ工業オフィシャルアカウントページを閲覧・利用できます。
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