TECTURE MAGでは「TECTURE」の参加メーカーなどに取材し、フローリングのトレンドや最新技術などを3回にわたって深掘りし、紹介しています。
第3回は、さまざまな機能をもったフローリングに注目します。
第1回 フローリング × 塗装(2月14日掲載)
第2回 フローリング × 表情(3月8日掲載)
第3回 フローリング × 機能
家具でへこむ、日に焼ける、物を落とす、こぼすなどなど…面積も大きく、常にハードな環境にあり張り替えが困難なフローリングの選定では、樹種の色や木目の出方などのデザインに加え、強さや汚れにくさ、清掃性などさまざまな面においての強さや機能も求められます。
いくつかのメーカーでは新型インフルエンザが流行した2009年ごろからウイルスに対する問題点に着目。フローリングに抗菌・抗ウイルス性能を付加するための研究・開発が始まり、2015~2016年ごろから製品化されてきました。製品ラインナップが充実している現在、新型コロナウイルスやインフルエンザの流行で注目度が高まっています。
ウイルスや菌に強いフローリングには2種類あります。抗菌・抗ウイルス成分を含んだ塗装や加工を施したものと、抗菌作用のあるシートが使われているシートフローリングです。
抗ウイルス成分を配合した塗料を無垢や複合フローリングに塗布するものでは、ウイルスが床に落ち、表面に接触することで分解・消滅させて効果を発揮します。
抗菌・抗ウイルス性能をもつフローリングは耐薬品性もあるため、次亜塩素酸ナトリウムやアルコールでの清掃も可能です。また、紫外線の触媒作用でウイルスなどを除去する酸化チタンを含んだコーティング剤を使用したフローリングでは、太陽光や室内照明の光で効果を増すものもあります。
表層が抗菌作用のある強靭な樹脂層で形成されているシートフローリングは、傷やへこみにも強く汚れも落としやすいため、ペットの排せつ物や吐しゃ物なども掃除しやすい点で衛生的といえます。また、シートフローリングに切られているV溝は、無垢フローリングなどの溝に比べ狭く浅いため、汚れが溜まりにくいメリットもあります。
これらは上からワックスを塗り、抗菌作用のある層をふさいでしまったり、大きな傷をつけるとその部分は効果がなくなってしまうため注意が必要ですが、日常的な使用で効果が減っていくものではなく、塗り替えや張り替えを必要としません。
コロナ禍を経て浸透した在宅勤務のために長時間疲れにくい椅子を購入したり、室内犬の飼育数が増えたりしたことで、キャスター傷に強い床や、ペットのために滑りにくい床を求める傾向もあります。
ペット対応とされるフローリングには推奨する犬や猫の大きさ、体重の目安がありますが、いずれも滑りにくさ、爪などによる傷つきにくさ、吐き戻しなどの清掃性にも配慮して強度や防滑性を高めた製品群です。さらに生活の場としての快適さを損なわない意匠性があり、機能と両立されている点も人気の理由です。
キャスターや硬いものの落下で生じる、コーティング層や木の繊維が切れてしまうような大きく深い凹みは修復が困難です。どうしても傷をつけたくない場合、体育館やホールで使用されるようなハードな仕上げのものを選ぶ方法もありますが、硬い床で長時間生活すれば疲れてしまいます。
もし子供が硬いおもちゃを落としても、コンクリートの床なら傷は付かないかもしれませんが、転んだらケガをしてしまうかもしれません。ある程度の軟らかさがあることで衝撃を吸収し、ケガを防いでいると考え、一切傷を付けないように備えるばかりでなく、手入れをして暮らしていく方法も選ぶこともできます。
複合フローリングの表面に常温で遠赤外線を発生させる植物由来の成分をコーティングし、足裏が床面に触れることで身体を冷えから守る製品が登場しています。
フローリング自体が発熱する仕組みではないので電源を必要とせず、フローリングと人体がそれぞれ発する遠赤外線の共鳴で輻射熱の効果を発揮することで、末梢の血流が改善することが認められています。
また、木材の気孔にナノ化された鉱物を含浸することで半永久的に遠赤外線を放出し、さらに銀イオンベースのナノ抗菌加工で抗菌効果をもつ、広葉樹を表層材とする複合フローリングもあります。
遠赤外線が体内の分子を振動させて毛細血管の動きが活発になり血流促進につながります。人間だけでなく、ペットの体温上昇やストレス軽減など、居住者の健康や美容面をサポートする多機能フローリングといえるでしょう。
フローリングと無関係ではない 国際情勢や地球温暖化
木材は伐採、製材する環境も国や山地によってさまざまで、国内情勢などで輸出がストップしてしまうこともあります。主に北米やヨーロッパで産出されるオークですが、人気の高さから入手困難になりつつあり、中国や東南アジアへ仕入れをシフトしているメーカーもある一方、中国ではワインブームでオークを樽用に用いたため、建材用がかなり減ってしまいました。
景気や情勢だけでなく、過剰な伐採や焼畑農業の増加、地球温暖化による森林火災など、山地を取り巻く問題はいくつもあります。管理された山地でも製材が採れるまで樹木が生育するには何十年もかかります。色味や木目、価格的にも使いやすい樹種であったオークが、今後希少樹種になる可能性も高いと言われています。
床材メーカーでは自社で森を管理したり、木目や色味といったトレンドに合わせた樹種や山地を探したり、節や色のバラツキなどのキャラクターをバランスよく同梱したラインナップを揃えるなど、持続可能な森林・木材供給の環境を整え、安定した供給のためさまざまな対策がなされています。