LIXILの窓・ドアブランド TOSTEMのフラグシップモデルで、2023年に登場した次世代玄関ドア「XE(エックスイー)」。
業界初となる錠やラッチ、電気錠などのデバイスを機能ユニット(子扉)に納めるドアロック機構を採用し、ハンドルの意匠や自由度を高めたシンプルで美しいデザインを実現しています。
この「XE」は、建築家やインテリアデザイナーにどのようなインスピレーションを与えていくのでしょうか。
SUPPOSE DESIGN OFFICEを主宰する谷尻 誠氏と吉田 愛氏に「XE」をショールームで確認していただきつつ、エントランス空間のデザインをテーマに語っていただきました。
谷尻 誠・吉田 愛 / SUPPOSE DESIGN OFFICE(サポーズデザインオフィス)
谷尻 誠
建築家・起業家 / SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd. 代表取締役
1974年 広島生まれ。2000年建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICE設立。2014年より吉田愛と共同主宰。広島・東京の2カ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設まで国内外合わせ多数のプロジェクトを手がける傍ら、近年「絶景不動産」「tecture」「DAICHI」「yado」「Mietell」をはじめとする多分野で開業、事業と設計をブリッジさせて活動している。2023年、広島本社の移転を機に商業施設「猫屋町ビルヂング」の運営もスタートするなど事業の幅を広げている。
主な著書に『美しいノイズ』(主婦の友社)、『谷尻誠の建築的思考法』(日経アーキテクチュア)、『CHANGE-未来を変える、これからの働き方-』(エクスナレッジ)、『1000%の建築~僕は勘違いしながら生きてきた』(エクスナレッジ)、『談談妄想』(ハースト婦人画報社)。
作品集に「SUPPOSE DESIGN OFFICE -Building in a Social Context」(FRAME社)吉田 愛
建築家 / SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd. 代表取締役
1974年広島生まれ。SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd. 共同主宰。広島・東京の2カ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設など国内外で多数のプロジェクトを手がける。JCDデザインアワードなど多数受賞。主な作品に〈NOT A HOTEL NASU〉〈ONOMICHI U2〉〈千駄ヶ谷駅前公衆トイレ〉など。近年では絶景不動産や社食堂などの新規事業のプロデュース・経営総括を担う。2021年、新たに空間プロデュースやインテリアスタイリングを事業の核とする「etc inc.」を設立。2023年、広島本社の移転を機に商業施設「猫屋町ビルヂング」の運営もスタートすると同時に「yacone」というアイスクリーム事業もスタートするなど事業の幅を広げている。建築を軸に分野を横断しながら活動。
作品集に「SUPPOSE DESIGN OFFICE -Building in a Social Context」(FRAME社)、20周年記念のノンフィクションブック『美しいノイズ』(主婦の友社)がある。SUPPOSE DESIGN OFFICE Website
https://suppose.jp/
Contents
■ SUPPOSEの考える「美しい」エントランス空間
■ 扉の向こう側に期待を持たせたい
■ 重厚で有機的かつミニマルなデザイン
■ テクノロジーの進化に伴う美しい空間インタビュー動画はページ末尾のリンクから!
── SUPPOSE DESIGN OFFICEでは、エントランス空間をどう捉えていますか?
吉田 愛(以下、吉田):「玄関」という機能だけでデザインしないようにしたい、と思っていますね。玄関に限らず、1つの機能で1つのものをつくると、どうしてもいろいろな要素が増えて煩雑になりがちです。なるべくミニマルになるように線の数を減らしたり、素材を減らしたりすることで、小さくてもスッキリした空間になりますし、凛とした空気をまとうようになると思っています。
例えば〈三軒茶屋の家〉でも、インターホンやポストを綺麗に納めて1つの「面」としてつくりました。それが建物のファサードとして、ドアだけではなく、その上までラインが通ることを意図しています。玄関ドア上部のコンクリートには違う表情をつけて、1本の線のようなシンプルな見え方にしました。
谷尻 誠(以下、谷尻):扉だけでなく、私たちの基本としてあるのは、まずプロポーションです。建物に対してドアのプロポーションがどうか、という全体としての比率が前提にあって、その後に機能や材料といった要素を考えています。
やっぱり初めに「美しいものをつくりたい」という思いがあって、それからディティールを消したり、線を消したりという美しさを求める行為があり、そのうえで自分たちの中で「理にかなっているか」という意味での納得がいくつくり方をしています。
究極的には、材料や色が何でもいいといっては言い過ぎですが、特定のものへのこだわりというのは特になく、むしろどんな材料・色でも「美しいプロポーション」になるか、というところを目指しているという感じでしょうか。
── 玄関という空間には外と内をつなぐ役割があります。室内に入るときの体験を提供するという意味では、どう捉えていますか?
吉田:エントランスに入ったときに何が見えるかは重要ですよね。扉の向こうにある「景色」は見えないけれど、扉を開けた瞬間に素敵な空間に出会う、奥には海が見える、山が見えるといったドラマチックなシーンが必要だと思っています。扉の向こう側に「期待値」があるような設計をしたいですね。
── エントランス空間のデザインは、外と内のどのような要素から検討されますか?
谷尻:例えば開放的な空間を設計したいのならば、入り口からのアプローチは狭く暗く、玄関の扉も低くして、何歩か足を踏み入れた先に開放的な空間を用意したりすると、効果的ですよね。全体を見たときの相対的なプロポーションという意味と、空間体験による関係性という意味でのプロポーションがあると思います。両方の側面から決めていくという感じですね。
低い寸法って普通は嫌われますが、下げることによって生まれる体験もあると思います。寸法自体をどう考えるかというよりも、空間の手前と奥とをどうつなぐかという観点で玄関扉のスケールやプロポーションを決めているという部分があります。
吉田:それと、単純に美しさの比率というのもありますよね。例えばグラフィックにしても余白を生かした「センスあるな」という美しい配置と、そうではないデザインがあるじゃないですか。住宅も同じで、普通のサイズのドアを中心にズドンと置くか、縦のフォルムで中心をずらして置くかというだけでも、バランスとしての美しさに差が出ると思います。
谷尻:だから、正解がないんです(笑)。かなり感覚的な話なので。
── 玄関ドアは特注することが多いですか?
谷尻:実はSUPPOSE DESIGN OFFICEでは、これまで制作(特注)でしか手掛けたことがないんです。既製品の扉を使うとどうしてもメーカーの家っぽさが出てしまうので、それを避けてきました。せっかく1点ものの住宅をつくっているのに、汎用性のある、どこかで見たことのある扉がついてしまうことに僕はアレルギー反応があるのは事実です。むしろ家の「顔」だというわりには、多くの人がそれほど大事にしていないなという気がしていました。その家に合う扉を用意するべきだと思っていて。
吉田:おそらく既製品のドアは、機能を重視してつくられてきたと思うんです。だからそうして私たちが制作でつくったドアなどには、機能の面で足りていないところがあるのも事実だと思っています。
そうした中で、今回拝見した玄関ドア「XE(エックスイー)」は、プロポーションと機能の両方を考えられているデザインだと感じました。〈三軒茶屋の家〉で制作したドアとも近しいものがあると思いましたし、これであれば特注の必要はないなと思いましたね。
谷尻:そうだね。これまでは「(世の中に)ないから特注している」というだけで、あればわざわざつくる必要はないので。
吉田:うん。特に高さのサイズをセミオーダーできるようにしていただければ、理想的だなと感じました。
── 「XE」をショールームで確認しているとき、「玄関ドアでは重厚感を大切にしている」と話されていましたね。
吉田:私は車のドアを閉める時の感覚にこだわりがあって、いわゆる高級車のドアを閉めたときの「バンッ」という手応えと音、そして、ふわっとくる風が好きなんです。「XE」はそれに近い重厚感を感じましたね。
谷尻:室内空間の扉は軽いほうがいいですし、機能的な意味でいえば玄関ドアも軽いほうがいいはずなのに、やはり重いほうが良質な感じが漂いますよね。実際、僕も「もっと重くして」と指示することもあるんです。「カチャン」という軽い音で閉まるか、「ガッチャン」と重い音で閉まるか、クローザーやラッチの選び方によっても、空間の質は変わってきます。その点、「XE」は玄関ドアにふさわしい要素があると実感しました。
── 重厚感という点では、素材も重要になると思います。「XE」の面材は、いかがでしたか?
吉田:そうですね。「XE」はエクスクルーシブガラス、タイル、金属調、木目調の素材があるということでしたが、エクスクルーシブガラスのパネルは気に入りました。私たちの設計では青空や夕日など、天候や時間で表情が変わりつつ、周りの風景にも馴染んでいくような住宅を設計することがあるのですが、XEのエクスクルーシブガラスのパネルも同じように朝の時間帯と帰宅時間帯で家の表情を変えられるところが面白いと思うし、建物自体にも馴染みやすいように思います。
谷尻:僕はいつも「有機的でミニマルなもの」をつくりたいと考えていて、事務所の中でもたびたび口にしているんです。ミニマルというと素材感がない空間を想像しがちですが、そうではなくて、有機的であることが大切で。その点で「XE」の時とともに移ろう素材感はすごく有機的ですし、モダンな雰囲気があります。僕らの目指す姿とすごく近くて、良いなと感じた部分でした。
── 枠やハンドルなどについては、いかがでしょう?
谷尻:枠などのディテールはすごく細くて、主張はしないけれどもしっかり存在感があって良いと思いました。
吉田:丁番が見えないので、綺麗な印象に映りますね。あと、ハンドルのチョイスがたくさんあったのもうれしいです。上から下まで一本の棒のようなタイプのものもあれば、スクエアで鋳物のようなクラシックなものもあったりして、それぞれの家の個性に合わせたものを使えそうなところがいいですね。あと、木目でありつつ、それ自体が取っ手であり引き手であるということが分からないデザインは使いやすいと思いました。
谷尻:僕自身はなるべく取っ手を付けたくなくて、凹みがあるところに手をかけるだけにしたいんですよね。もちろん特徴的にわざと取っ手を付けることでデザインを整理することもあるのですが、XEはそのバランスもいいと思います。
── ショールームで谷尻さんは「線を減らすと勝手にモダンになっていく」と話していましたね。
谷尻:近代建築の定義について考えたことがあって、線を減らしたり、分厚いものは細く、重いものは軽く、透明感があるということを目指したのが20世紀の近代建築の姿だったと思います。
そう捉えたとき、僕らがやりたいことは逆の方向です。重いのに軽かったり、線がたくさんあるのにモダンだったり、素材感あるのにミニマルだったりというところに良さがあるのではないかと思って、それらが同居しているようなものをどうやったらつくれるのかといつも思っているんです。そういう意味で、「XE」の世界観にはすごく共感します。
── 「XE」の機能面の感想も聞かせてください。
谷尻:自動開閉機能は、とても良いですね。こうしたものは僕らがいくら設計してもつくれないので悔しいです(笑)。吉田が先ほど話したように、僕らの仕事では機能を発展させていくことはなかなか難しい。テクノロジーが進化している今、「XE」のような扉はあるべきだと思います。
吉田:自動開閉機能があれば、両手が奪われなくて済みますね。車いすの人でも入りやすいとか、いろいろな可能性が広がります。
谷尻:外出先で寝てしまった子供を抱っこして帰ってきて、玄関先でポケットから鍵を出せないシーンとか、よくあるじゃないですか。
吉田:「鍵を閉めなくていいという機能があるからこそ、こういった空間がつくれた」みたいなことも考えていけたら、さらに面白くなりそうですよね。
──「XE」は、どのような事例で使えそうでしょうか?
吉田:高級なコンドミニアム的な住宅やホテルライクな生活などに、すごく合いそうですよね。
谷尻:別荘とかね。遠隔操作できる(※)というのも、例えば管理やお手伝いの人を呼ぶときに勝手に入ってもらえるとか、ゲストを招くといったケースに向いている気がします。
吉田:今は照明や空調も遠隔操作できる機能が取り入れられ始めているので、玄関も同様にそういうテクノロジーが入ってくると、別荘などの生活は楽しくなりそうです。
谷尻:テクノロジーが進化する目的って、物質を減らすことにあると僕は思っていて。例えば、照明にしても照明器具という物質がないのに明るくできるとか、エアコン自体は見当たらないのに涼しいとか、そうしたテクノロジーは建築や空間デザインも変えていくと思います。いつか玄関ドアも、鍵もなく扉もないけれどセキュリティは確保されている、ということが起きてきたら面白いですよね。
吉田:そうすれば、中に庭があって、そこにフリーで入れて、中と外の区別があまりないような空間もつくれるでしょうね。オフィスもそうですが、誰が通れて誰が通れないみたいなことはすでにできていると思うので、ある人にとってはプライベートな空間で、ある人にとってはパブリックな部分という仕分けができたりするのではないかと思いました。
オフィス、住宅、ホテルなど、空間には用途ごとに必要なセキュリティがありますが、それらが全部集約されて、どんなジャンルでも適用できる空間づくりができれば、すごく汎用性の高い空間ができそうです。
谷尻:住宅自体、すでに非住宅的な用途を持ち始めている時代なので、そうした意味で、「住宅らしさ」や「オフィスらしさ」というデザインモチーフを消していったほうが、今の時代に合う気がしています。僕らはそうした要素を消そうとしてきましたし、「XE」のような製品が出てきたことでも、固定概念を超えたデザインが加速していくのではないでしょうか。
(2024.09.04 & 2024.09.05 / LIXILショールーム東京とSUPPOSE DESIGN OFFICEにて)
Movie & photo: toha
Interview: Jun Kato
Text: Tomoro Ando