東sui京 / 勝亦丸山建築計画 - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
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東sui京 / 勝亦丸山建築計画

日常と非日常のあわいを体験するホテル

〈東sui京〉は、住宅の記憶を宿したまま非日常を感じられる、1棟貸しの小さなホテルである。東京北部の田端駅から程近い、静かな住宅地に位置し、武蔵野台地の緩やかな高低差のある場所に建っている。

田端は、明治期以降、芸術家や文士たちが暮らしていた町として知られている。上野に東京美術学校が開校されると、若い芸術家たちの流れが田端へと広がり、交流の場が生まれ、次第に芸術家村としての性格を帯びていった。大正期に入ると、多くの文士がこの地に集い、田端は創作と生活が重なり合う文士村としての一面をもつようになる。もともとのこの住宅には、こうした土地の歴史を感じさせる空気感があり、〈東sui京〉のコンセプトも、そうした背景を踏まえて立ち上げられている。

本建物は、もともと勝亦丸山建築計画の事務所であると同時に、同社が手がけるシェアハウス事業の拠点の1つでもあった。谷根千エリアのまちづくりに関わる人たちが暮らし、共用部では事務所と居住者が協働してイベントや集まりを開くなど、仕事と生活、地域との関係が重なり合う場として運営されてきた。そうした運営を通して建物所有者との関係も深まり、退去のタイミングで将来的な建物の活用について対話が重ねられることとなった。

検討の過程では、設計者が継続して事業として借りる案や、オーナー自身が事業を行う案など、複数の可能性が提示された。その結果、本プロジェクトでは、事業者が一定期間建物を借り受けて運営を行い、設備の更新や耐震補強といった建物の更新を担ったうえで、将来的に建物をオーナーへ返却する仕組みが採用されている。こうした枠組みのもと、キーマン*が事業主体として参画し、〈東sui京〉のプロジェクトが始まることとなった。

このような仕組みのもと、住宅としての構成やスケール感を大きく変えることなく、ホテルとしての非日常性をいかに立ち上げるかが、計画上の重要なテーマの1つとなり、「日常と非日常のあわい」が空間のコンセプトとして据えられた。

ここでは、日常のなかに常に入り込んでいる外部の要素を、非日常的な要素として捉え直す操作が行われている。1つには、1階の天井を緑がかった左官仕上げとし、わずかな艶を与えることで、庭からの光を天井面に受け止め、色味を伴って室内へと反射させている。これにより、室内はやわらかな緑の気配に包まれ、内装に用いる素材群もその色調に合わせることで、外部の環境が内部へと滲み込むような状態がつくり出されている。

また、広くとられたエントランス部分は、リビングスペースと一体として床にレベル差をつくり、地形の一部のように扱っている。そこに天井高さの操作を加えることで、住宅のスケールを保ちながらも体験に変化を与えている。こうした操作を積み重ねていくなかで、住宅性を失わないラインを見極めつつ、ホテルとしてのラグジュアリーの度合いを慎重に調整しながら設計を行った。

本事例は、空き家として放置されることなく、まちの文化をつくる資源として、新たな時間と使い手を得て更新されていく。〈東sui京〉は、その仕組みと空間の両面から、都市における建物の持続的なあり方を静かに示している。
(丸山裕貴、勝亦優祐)

*株式会社キーマンは、耐震補修・補強工事を30年以上手がけてきた建設会社。その知見を活かし、古い建物を「壊す」のではなく「活かす」ことで新たな価値を生み出す建物再生運用事業「REDO(リド)」を展開。
耐震性の向上とデザイン性を両立させながら、歴史ある建物を次の世代へ繋ぐ取り組みを行っている。

A hotel where experience the boundary between the ordinary and the extraordinary

〈TOsuiKYO〉 is a small, entire-building rental hotel where guests can experience the extraordinary while retaining the memories of a home.
Located in a quiet residential area in northern Tokyo, it sits on the gentle slopes of the Musashino Plateau, built on a site where the garden and building form a unified whole. Initially, the office and residence of Katsumata Maruyama Architects, discussions with the owner upon vacating the space sparked ideas for its new use. The challenge was to preserve the residential structure while achieving the extraordinary atmosphere of a hotel, all under the premise that the building would eventually be returned.

Themed around “the boundary between the everyday and the extraordinary,” the design reflects light from the garden onto the ceiling, filling the interior with a soft, green ambiance. The green-tinged plastered ceiling and harmoniously colored materials create a gentle dialogue between inside and outside. The generous entrance earthen floor space utilizes the natural terrain’s contours to create a semi-outdoor living area. Visitors spend moments enveloped in light and the texture of handcrafted materials, as time seems to seep away quietly.

For the building’s renewal, the operator undertook equipment upgrades and seismic reinforcement, establishing a system to return the building to its owner eventually. Within this cyclical relationship, vacant houses are not left abandoned but are regenerated, gaining new time and users. 〈TOsuiKYO〉quietly presents a sustainable approach for buildings in the city, addressing both the system and the space itself.
(Yuki Maruyama, Yusuke Katsumata)

【東sui京】

所在地:東京都北区田端
用途:ホテル
事業主体:キーマン
竣工:2024年

設計:勝亦丸山建築計画
担当:丸山裕貴、勝亦優祐
植栽:ユニバーサル園芸者
左官:大橋左官
グラフィックデザイン:ROWBOAT
耐震診断・耐震設計・耐震補強:キーマン
運営:カソク
施工:ジャムス

撮影:千葉正人

工事種別:リノベーション
構造:木造
規模:地上2階
敷地面積:279.48m²
建築面積:70.47m²
延床面積:119.07m²
設計期間:2023.05-2023.08
施工期間:2023.09-2023.12

【TOsuiKYO】

Location: Tabata, Kita-ku, Tokyo, Japan
Principal use: Hotel
Project operator: KEYMAN
Completion: 2024

Architects: Katsumata Maruyama Architects
Design team: Yuki Maruyama, Yusuke Katsumata
Landscape: UNIVERSAL ENGEISHA
Plaster work: ​Ohashi sakan
Graphic design: ROWBOAT
Seismic diagnosis, Seismic design, Seismic reinforcement: KEYMAN
Management: KASOKU
Construction: JAMS

Photographs: Masato Chiba

Construction type: Renovation
Main structure: Wood
Building scale: 2 stories
Site area: 279.48m²
Building area: 70.47m²
Total floor area: 119.07m²
Design term: 2023.05-2023.08
Construction term: 2023.09-2023.12

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