本や雑誌のデジタル化が進んだことにより、自宅にいてもオンラインでさまざまなコンテンツを手軽に楽しめるようになりました。そんな現代だからこそ、美しい図書空間を目的に旅に出てみてはいかがでしょうか。
世界には、レム・コールハースが設計したガラス張りで多面体形状の図書館や、1970年「宇宙船」の愛称で親しまれる図書館、本棚がまるで宙に浮いているかのような図書館など、建築家が手がけた美しい図書館が多数存在しており、実際に訪れるからこそ味わえる特別な体験を提供してくれます。
そこで、今回は本と向き合う時間を特別なものにしてくれる、海外に建つ20の図書館をご紹介します。
ヨーロッパ
【フィンランド、ヘルシンキ】
〈ヘルシンキ中央図書館 Oodi〉
設計:ALAアーキテクツ
竣工:2018年
〈ヘルシンキ中央図書館 Oodi〉は、国際図書館連盟(IFLA)が2019年度に発表した「Public Library of the Year(公共図書館オブ・ザ・イヤー)」に選ばれた図書館です。政府と国民の関係を象徴し、生涯学習や表現の自由を促進するため、主要な公共機関が並ぶ公共スペースの向かい側に建てられています。
図書館としてのスペースは全体の3分の1程度となっており、カフェ、レストラン、公共バルコニー、映画館、オーディオビジュアル録音スタジオ、メーカースペースなどの施設が導入されています。本の貸し出しに加えて新しいサービスを提供するという、実験的なプロジェクトとなっています。
ALAアーキテクツ公式サイト:https://ala.fi
【イギリス、バーミンガム】
〈バーミンガム図書館〉
設計:メカノー
竣工:2013年
宮殿のようなデザインが施された〈バーミンガム図書館〉は、バーミンガムの中心部にある最大の公共広場であるCentenary Squareを記念碑的、文化的、娯楽的な3つの異なる領域に変えるため建てられた建築です。繊細な装飾が施された特徴的な外皮は、かつての工業都市であるバーミンガムの職人技に触発され、設計されました。
内部では、中心部に配置されたエレベーターとエスカレーターが建物内の8つの円形スペースを接続しており、この空間は、経路としてだけでなく、自然光の導入と自然換気を促進しています。
メカノー公式サイト:https://www.mecanoo.nl
【ドイツ、シュトゥットガルト】
〈シュトゥットガルト市立図書館〉
設計:Yi Architects
竣工:2011年
〈シュトゥットガルト市立図書館〉は、これからの市内の中心部とされているエリアに建てられた図書館です。この敷地条件を反映し、建物に壮大な物理的な存在感を与えるため、1辺が45mの立方体の建築として設計することで、この文化センターの重要性を物理的に表現しています。
内部では、5フロアで構成され、ガラス屋根から光が降り注ぎ、垂直動線が螺旋状に配された、本に包まれた正方形の空間であるギャラリーホールが特徴となっています。
Yi Architects公式サイト:http://www.yiarchitects.com/
【デンマーク、コペンハーゲン】
〈デンマーク王立図書館〉
設計:シュミット・ハマー・ラッセン
竣工:1999年
国立図書館の新館として建てられた〈デンマーク王立図書館〉は、磨かれた黒い花崗岩を用いた外壁と、平行四辺形のような外観から、「ブラック・ダイヤモンド」として知られている図書館です。
カフェ、書店、展示室、レストラン、科学・文学機関、屋上テラス、ホールといったさまざまな文化施設を備えた、伝統的な図書館構造から脱却するための拡張プロジェクトとして設計されました。
シュミット・ハマー・ラッセン公式サイト:https://www.shl.dk
【エストニア、タリン】
〈ホワイトシート〉
設計:ニンジャスタジオ
竣工:2020年
エストニアの首都タリンに建つ〈ホワイトシート〉は、ガラスの棚に支えられた屋根が紙のように宙に浮いている、文学的なイメージを連想させる小さな公共図書館です。
犬の散歩にたまに使われるだけの放置された都市空間を活性化し、文学と身近に接することができる空間にするため計画されました。地元の人々はこの建物で本の交換を行い、今では1日のうちでパビリオンに誰もいない時間はほとんどないほど人気の場所となっています。
ニンジャスタジオ公式サイト:https://www.ninja-stuudio.ee/
都市の空き地に紙のように浮かぶ白い屋根 ニンジャスタジオが設計した ガラスの棚がうねる屋根を支える小さな読書空間〈ホワイトシート〉エストニア
北アメリカ
【アメリカ、シアトル】
〈シアトル中央図書館〉
設計:OMA、レム・コールハース
竣工:2004年
〈シアトル中央図書館〉は、OMAの共同設立者であるレム・コールハースが手がけた、本を専門とする施設としての図書館ではなく、新旧のあらゆるメディアが平等に提供されるインフォメーション・ストアとして再定義することを目指したプロジェクトです。
さまざまなカテゴリーの棚が連続して形成されたスロープ「Books Spiral」により、従来の図書館でしばしば発生する、各セクション間の断絶を無くしています。
また、この「Books Spiral」や駐車場、スタッフルームなど、図書館のプログラムに対応した5つのプラットフォームと、その間をつなぐように配された、読書室などの4つの空間が連なった、特徴的な多面体形状の建築となっています。
OMA公式サイト:https://www.oma.com/
【アメリカ、ソルトレイクシティ】
〈ソルトレイクシティ公共図書館〉
設計:サフディ・アーキテクツ
竣工:2003年
〈ソルトレイクシティ公共図書館〉は、ガラス張りの外壁と吹き抜けが特徴的な、総面積20,000m²超えの図書館であり、明るく開放的で、観光名所としても、市民の交流の場としても、広く愛されています。
6階建て建物の屋上は歩いて登ることができ、ヨガ、養蜂、アートインスタレーションなど、さまざまなアクティビティが活気を与えています。また、屋上の読書園は静かな瞑想の場所であり、360度にわたりまちを見下ろせる場所となっています。
サフディ・アーキテクツ公式サイト:https://www.safdiearchitects.com/
【アメリカ、サンディエゴ】
〈ガイゼル図書館〉
カリフォルニア大学サンディエゴキャンパスに建つ〈ガイゼル図書館〉は、未来的な建築を数多く手がけるアメリカ人建築家ウィリアム・L・ペレイラが手がけた、「スペースシップ(宇宙船)」の愛称で親しまれる図書館です。
地上から上部へ向かうほど幅が広くなり、6階でフロアが最も広くなる外観が特徴的な建築であり、その足元では日影のある屋外空間を提供しています。
設計:ウィリアム・L・ペレイラ
竣工:1970年
【アメリカ、ニューヘイブン】
〈バイネッケ・レア・ブック & マヌスクリップト図書館〉
設計:SOM
竣工:1963年
イェール大学に設計された〈バイネッケ・レア・ブック & マヌスクリップト図書館〉は、貴重な書籍や書類を所蔵する建造物のなかで世界最大クラスの図書館です。
約3cmの幅の窓により、書籍が日光から受けるダメージを受けることなく、かつ読書するために十分な明るさの光が入ってくるようデザインされた、大理石と花崗岩、銅、ガラスでできた特殊な壁で構成されています。
SOM公式サイト:https://www.som.com
【カナダ、カルガリー】
〈カルガリー中央図書館〉
設計:スノヘッタ
竣工:2018年
〈カルガリー中央図書館〉は、ダウンタウンとイーストビレッジを隔てるLRT(ライト・レール・トレイン)の路線を跨ぐように設計されてた図書館です。これにより、あらゆる方向から到着した人々が交流できる文化空間となっています。
六角形パターンのモジュールで構成された、三重ガラスのファサードがオープンな雰囲気の外観を形成しています。
スノヘッタ公式サイト:https://www.snohetta.com/
【メキシコ、メキシコシティ】
〈ホセ・ヴァスコンセロス図書館〉
設計:アルベルト・カラチ
竣工:2006年
〈ホセ・ヴァスコンセロス図書館〉は、作家や哲学者、政治家など多くの顔を持つメキシコの偉人ホセ・ヴァスコンセロスを称えて建てられた、コンクリートとガラスでつくられた図書館です。
「空間の魔術師」の異名を取るアルベルト・カラチによる、本棚が宙に浮いているような構成が特徴的な内観を生み出しています。
アルベルト・カラチ公式サイト:http://www.kalach.com/
アフリカ
【エジプト、アレクサンドリア】
〈アレクサンドリア図書館〉
設計:スノヘッタ
竣工:2002年
〈アレクサンドリア図書館〉は、もともとは紀元前3世紀に建てられた歴史的建造物であったが3世紀に破壊され、大部分の書物や巻物が失われてしまった建築であり、2002年にスノヘッタの設計により新たに手がけられた図書館です。
直径160mにわたる円盤状のボリュームからなる、日時計を想起させるデザインとなっており、地中海方向に向けて傾きながら沈み込むような形状により、広場側では32mまでそびえ立っています。
スノヘッタ公式サイト:https://www.snohetta.com/
オセアニア
【オーストラリア、シドニー】
〈The Exchange〉
設計:隈研吾建築都市設計事務所
竣工:2019年
〈The Exchange〉は、シドニーのダウンタウンの中心、ダーリング・ハーバーの中心に建つ「木のコミュニティセンター」です。周囲の高層集合住宅群とは対極的な、広場と一体化した、低層でやわらかく、温かい建築として構想されました。
市民図書館だけでなく、マーケットや保育園、レストランなど、地域コミュニティに必要な機能が配置されています。また、特徴的な糸を巻きつけたようなパターンで構成された木のスクリーンは、アコヤ材を曲げたものをランダムに配置してパネル化し、そのパネル同士を現場で重ね合わせ、ジョイントが見えないような形で取り付けられています。
公式サイト:https://kkaa.co.jp
アジア
【北京、中国】
〈北京都市図書館〉
設計:スノヘッタ
竣工:2023年
スノヘッタが手がけた〈北京都市図書館〉は、デジタル時代における、コミュニティ・スペースとして設計された図書館です。
中国原産のイチョウの葉をモチーフにした細長い柱で支えられたガラス張りの建物であり、渓谷と丘のような曲線的な階段状のテラスが、周囲に広がる風景へと訪問者の視線を誘導します。
スノヘッタ公式サイト:https://www.snohetta.com/
【中国、海口】
〈Cloudscape of Haikou〉
設計:MADアーキテクツ
竣工:2021年
未来的で有機的な建築を数多く手がける中国の設計事務所 MADアーキテクツが設計した〈Cloudscape of Haikou〉は、中国南端に位置する歴史ある港湾都市・海口市の活性化のためにつくられた、図書館や読書スペース、カフェなどを有する有機的な建築です。
未知なる世界への冒険である読書と同様に、この洞窟のような複雑な形状の〈Cloudscape of Haikou〉を訪れるという体験も、日常から緩やかに離れる瞬間としてデザインされています。
MADアーキテクツ公式サイト:http://www.i-mad.com/
洞窟のような建築で非日常を体験する読書空間、MADアーキテクツが設計した図書館やカフェを有する有機的な建築〈Cloudscape of Haikou〉中国
【中国、天津】
〈天津濱海図書館〉
設計:MVRDV
竣工:2017年
MVRDVが中国の天津市に設計した〈天津濱海図書館〉は、空間の中央に位置する光を放つ球状のアトリウムが特徴的な、まるでSFのような図書館です。
曲がりくねった段状の本棚が球体を包むように配されており、その輪郭がファサードにまで広がることで、段状の本棚を外部に表現しつつルーバーとしても機能しています。
MVRDV公式サイト:https://www.mvrdv.com/
【中国、合肥】
〈Horizon Library〉
設計:Protoscapes
竣工:2023年
〈Horizon Library〉は、中国の安徽省(あんきしょう)合肥市(ごうひし)に建つ、三方に面する草原のパノラマを眺めながら読書に浸ることのできる、ホテルに隣接した図書空間です。中国の村の間に広がる草原に、地域活性化の一環として計画されました。
リーディングルームである2階は、片持ち梁となっている3面が草原に向けて突き出しつつ、垂直動線を有する中央のコアから本棚が樹木のように広がり、周囲の景色へと意識を向けるように促します。
Protoscapes公式サイト:http://protoscapes.com/
【中国、修武】
〈氷菊畑の図書館〉
設計:ATELIER XI
竣工:2022年
中国の雲台山の麓、広大な氷菊畑の中に建つ〈氷菊畑の図書館〉は、本の朗読だけでなく氷菊茶のテイスティングや音楽演奏、ワークショップ、農具の保管ができる、地域の住民のための図書館です。
周囲に広がる景観に対して大きな建物を建てるのではなく、機能ごとに分けた5つの小さな立方体のボリュームを分散させて配置しています。また、ボリュームの角の1つをもち上げた勾配屋根とすることで、敷地の四方に広がる景観に向けた、遮るもののない眺めを提供しています。
ATELIER XI公式サイト:https://www.atelierxi.com/
【韓国、ソウル】
〈梧桐森の中の図書館〉
設計:Unsangdong Architects Cooperation
竣工:2023年
韓国、ソウルの梧桐(オドン)公園内に建つ〈梧桐森の中の図書館〉は、中心へ行くほどに高くなる螺旋状に連なる三角屋根が山のような外観を生み出す建築です。
内部では本棚の壁が、空間を仕切りつつもつなげた迷路のような空間を構成し、訪れる人のさまざまな目的に対応しつつ、地元の人々や子供たちのための創造的な空間を生み出している、誰もが楽しめる小さな図書館となっています。
Unsangdong Architects Cooperation公式サイト:https://usdspace.com/
韓国・ソウルの公園に建つ 誰もが楽しめる小さな図書館〈梧桐森の中の図書館〉Unsangdong Architects Cooperation
【韓国、ソウル】
〈スターフィールド図書館〉
設計:Gensler
竣工:2017年
〈スターフィールド図書館〉は、アジア最大の地下ショッピングセンターであるソウルのスターフィールドCOEX MALLにオープンした、多層フロアの図書館です。2,500m²の空間に設けられた、高さ13mにも及ぶ巨大な本棚には、5万冊以上の書籍と雑誌が収められており、多くの人々に憩いや本との出合いを提供しています。
また、一般的な図書館のイメージを覆す開かれたスペースで、コンサートや朗読会などのイベントも開催されています。
Gensler公式サイト:https://www.gensler.com
現代のデジタル化が進む中、図書館は単なる本の保管場所に留まらず、空間そのものが訪れる人々に対し、電子書籍にはない豊かな体験を提供する場となっています。
今回ご紹介した美しい図書館は、建築の美しさやさまざまな文化的な機能が融合した特別な空間ばかりです。訪れるたびに新しい発見と感動を提供してくれる、図書館の魅力をぜひ感じてください。