FEATURE
Architecture with Earth for Sustainable Future
10 architectural choices from around the world, including rammed earth, earth blocks and 3D printing
FEATURE2024.01.31

土建築特集:持続可能な未来に向けた土の魅力再発見

版築からアースブロック、3Dプリントまで 進化が進む世界の土建築プロジェクト10選

地球環境への配慮がますます重要視されるなか、環境建築へのグローバルな動きが高まっています。このような状況の中、最も身近な自然素材「土」は、特に注目を集めている素材の1つです。

世界的に歴史が深い版築や、その地に根ざしたヴァナキュラーな建築手法だけでなく、土を高圧で押し固めたアースブロック、最先端テクノロジーである3Dプリントを駆使したプロジェクトなど、土建築は持続可能な未来への新たな一歩となりつつあります。この特集では、土を用いた世界の10の建築プロジェクトを、その手法ごとに分けて紹介します。

Contents

■素材・建材系
・アクセス困難な農村地域で人気が高まる「アースブロック」
・国家レベルの課題に向き合う「廃棄物との合成」

■建設手法系
・世界各地に古くから根付く「版築」
・地域の労働力を活かす「ローカルな建築手法」
・テクノロジーを組み合わせる「3Dプリント」

 

世界で注目される竹建築特集、竹のもつ特性とそれを活かしたサステナブルでヴァナキュラーな5つの建築

素材・建材系

アクセス困難な農村地域で人気が高まる「アースブロック」

近年、特に注目を集めている土を用いた建築手法としてアースブロックがあります。

一般的なレンガのような焼成の工程を必要としない低炭素な手法であり、現地の土という最も身近な自然素材を使用する、という環境配慮の点からだけでなく、建設資材や設備が高価、またはアクセスが困難な地域でも取り入れることができるため、特に農村地域で人気が高まっています。

アースブロック(Earth Blocks)、またはCEB(Compressed Earth Blocks):現地の土壌と非膨張性粘土、骨材の混合物を機械により高圧で圧縮し成形するブロック。また、セメントなどで安定化されている場合にはCSEB(Compressed Stabilized Earth Blocks)とも呼ばれる。

 

〈Doctors' Housing〉

©︎ Andrea Maretto for Kéré Architecture

アースブロックがつくるパッシブクーリングな居住空間

〈Doctors’ Housing〉
設計:ケレ・アーキテクチャ

ブルキナファソの都市レオに建つクリニック宿泊施設〈Doctors’ Housing〉は、2022年のプリツカー賞を受賞した建築家ディエベド・フランシス・ケレにより設計された、医療支援だけでなく知識交流を促進する施設。
5室の居室と共用エリアを備え、モジュール方式とパッシブクーリングを採用。構造的な安全性と熱質量を高め、カラープラスター仕上げで耐候性を確保。ランドスケープデザインはプライバシーとセキュリティを考慮し、雨水を集める貯水池に植物を導入して生態系を促進。環境に配慮した設計が快適な居住環境を提供している。

〈マッタンチェリー聖ジョージ正教会(St. George Orthodox Church at Mattanchery)〉ウォールメーカーズ(WALLMAKERS)

© Jino Sam

アースブロックと版築壁でつくる歴史的な教会の再建プロジェクト

〈マッタンチェリー聖ジョージ正教会〉
設計:ウォールメーカーズ

インドのケララ州に建つ〈マッタンチェリー聖ジョージ正教会〉は、1615年に建てられ、長年の放置により荒廃してしまった教会を再建したプロジェクト。
土壌ベースのマテリアルであるアースブロックや版築壁、型枠を用いずにアーチやヴォールトを構築する古代のヌビアン・テクノロジーを用いた建築となっている。

国家レベルの課題に向き合う「廃棄物との合成」

14億人以上と、世界第2位の人口を誇るインドは、その急速な経済成長によりプラスチック製品の需要も増加しました。その影響から、街中にプラスチックごみがあふれる、排水溝が詰まる、動物が誤飲するといった公害問題に発展しており、2022年7月からプラスチック廃棄物管理規則を強化するなど、国を挙げて脱プラスチックを進めている国です。

このような状況の中、泥や土と廃棄物を使用した建築に特化したインドの設計事務所ウォールメーカーズは、瓦礫と土、廃棄ペットボトルから作成した構造物で構成された住宅などを手がけています。

プラスチック廃棄物管理規則:インド環境・森林・気候変動省(MoEFCC)が2016年3月に制定。幾度かの改正を経て、2022年7月特に大きな規制の強化を実施。これにより、禁止された使い捨てプラスチック用品(特定の使い捨てプラスチック製の袋、カップ、ストロー、皿、ペットボトルなど)の違法な製造、輸入、仕入れ、流通、販売、使用の禁止規則に対して、国および州レベルの管理室を設置し厳格化。

https://pib.gov.in/PressReleasePage.aspx?PRID=1837518

 

〈Chuzhi〉

©︎ SYAM SREESYLAM

瓦礫と土と廃棄ペットボトルを活用した自然に溶け込む住空間

〈Chuzhi〉
設計:ウォールメーカーズ

渦巻き状の構造体で構成された住宅〈Chuzhi〉は、険しい岩場や生い茂る植物が広がるインドの地域において、「建築に適さない」土地の活用を探るプロジェクト。
瓦礫と土、4000本の廃棄ペットボトルから作成された渦巻き状の構造体が腰掛けから壁、屋根になり住空間を構成している。また、渦巻きは既存の3本の木を避けるように配置されており、居住者の快適さを損なうことなく、家の上部にある木々や周囲の自然な生態系をそのまま維持するよう計画されている。

〈Nisarga Art Hub〉、ウォールメーカーズ(WALLMAKERS)

© SYAM SREESYLAM

天窓でもある座席で楽しむ屋根上の劇場空間

〈Nisarga Art Hub〉
設計:ウォールメーカーズ

インドのエルナクラムに建つ〈Nisarga Art Hub〉は、インドの伝統建築「ケララ(Kerala)」の急勾配な屋根を活かした屋外劇場などにより人々が交流するコミュニティ・レジデンス。屋根に新たに設けた天窓は屋上では座席スペースとなり、75〜80人を収容できる野外コンサートのステージとして使用することができる。
屋上空間だけでなく、隣町から回収した建設廃材と敷地内の土でつくられた壁や、廃品の棚からつくられた格子など、廃材を活かした建築要素も特徴的な建築。

建設手法系

世界各地に古くから根付く「版築」

土を用いた最もポピュラーな建築手法として、「版築(Rammed Earth)」があります。

日本でも馴染みのある版築壁ですが、万里の長城にも使われていたほど古い歴史をもち、近年では土という自然素材が再評価されていることもあり、海外プロジェクトのホテルの施設やヴィラといった空間にも採用されています。

〈Achioté〉

©︎ BoysPlayNice

ジャングルから飛び出す版築のヴィラ

〈Achioté〉
設計:フォルマファタル

コスタリカで初となる版築プロジェクトである〈Achioté〉は、短期賃貸用に設計された2棟の急斜面の上に建つミニマリズムなヴィラであり、生い茂るジャングルの上から突き出し、太平洋に広がる眺望をもたらす。
またどちらのヴィラも、サステナビリティと周囲の自然環境に配慮して設計されている。

〈ヨガスタジオ〉

©︎ Piers Taylor

歴史ある庭園にたたずむ「目立たない」建築

ザ・ニュート〈ヨガスタジオ〉
設計:インビジブルスタジオ

イギリス南西部のサマセット州のホテル「ザ・ニュート(The Newt in Somerset)」に建てられた〈ヨガスタジオ〉は、歴史あるホテルの庭園という環境に対応した版築の壁と没入感のある空間をもつ建築。
森林管理事業も展開し、森の中のスタジオにて活動するイギリスの建築事務所インビジブルスタジオが設計した。

地域の労働力を活かす「ローカルな建築手法」

世界には版築だけでなく、それぞれの地域で古くから使われてきた建築手法が数多くあります。

このようなローカルな手法は、現地の素材だけでなく建設スキルをもたない地域の人々、つまり「現地の労働力」を活用できる、という点からも建設による価値をより地域に還元するため用いられることが増えています。

〈マジャラ・レジデンス〉

©︎ ​Soroush Majidi

島の自然を取り込むカラフルなタマゴのような複合施設

〈マジャラ・レジデンス〉
設計:ZAVアーキテクツ

〈プレゼンス・イン・ホルムズ2(マジャラ・レジデンス)〉は、イランのホルムズ島という土地の自然のもつ色や形態、伝統的な建築から着想した、宿泊施設と公共施設を含むカラフルな複合施設。
ローテクな建築であるスーパー・アドビ(Superadobe:土のうを積み上げる工法)を採用することで、高価な輸入資材ではなく、人間の労働力の割合を高めることができる。このプロジェクトでは、合計40人の未熟練労働者が技術を身につけ、力を発揮した。建設された部材には彼らの技の痕跡が残されている。

〈アナンダロイ〉スタジオ・アンナ・ヘリンガー

©Kurt Hoerbst

泥と竹でつくるヴァナキュラーな建築

〈アナンダロイ〉
設計:スタジオ・アンナ・ヘリンガー

バングラデシュのルドラプールに位置する〈アナンダロイ〉は、障がい者センターとフェア・テキスタイル製作の小さなスタジオを備えている。地域経済と生態学的持続性を重視し設計された建物には泥と竹を主に使用しており、地元の資材を活用することで現地の経済に貢献している。
特徴的な曲面壁には「コブ(cob)」と呼ばれる特殊な泥の技法を用いることで、型枠を使用せず、直線的な壁と同じように簡単に曲面を施工することが可能となった。

テクノロジーを組み合わせる「3Dプリント」

ここまで、ローカルな取り組みを中心に紹介してきましたが、最新の建設テクノロジーである3Dプリントを活用した土建築の取り組みも増えています。

建設3Dプリンタやそれらを扱うスキルがまだまだ希少なこともあり、研究機関や企業による実験的な取り組みが多いですが、だからこそより未来の建築像を考えさせられるプロジェクトが誕生しています。

〈TOVA〉カタルーニャ先端建築研究所(IAAC)、WASP

© Mehdi Harrak

現地の土で3Dプリントする自然素材の小屋

〈TOVA〉
設計:カタルーニャ先端建築研究所(IAAC)、WASP

スペイン・バルセロナ近郊に建つ〈TOVA〉は、地元の土を使用して3Dプリントされた建築であり、スペイン初の3Dプリント建築物。
建設現場から半径50m以内で調達した土、アロエ、卵白、酵素の混合物により作成された3Dプリント構造体と、ジオポリマーでつくられた基礎と木造の屋根で構成されており、建築プロセスにおいて一切の廃棄物を発生させない。
未来の建築・都市を構想し、構築することを目指す教育機関「カタルーニャ先端建築研究所(IAAC)」と、3Dプリンタの販売から土などの自然素材を活用した3Dプリントシステムを提供するイタリアの3Dプリント企業「WASP」によるコラボレーションにより実現したプロジェクト。

UVA RESEARCHERS 3D-PRINT SOIL STRUCTURES THAT CAN GROW PLANTS

©︎ University of Virginia

植物が根を張る 土を使った3Dプリント構造物

開発:バージニア大学

バージニア大学の研究チームが開発した、現地の土に植物の種子を埋め込んだ3Dプリント用の素材。この素材を使用してつくられた構造物には植物が根をはり、成長することができる。
建築物の緑化における、構造体と植栽を分けて考えるのではなく、一体として捉えた研究。また、材料を採取、加工、使用し最終的に廃棄するという、建築における現在の直線的なアプローチ(リニアエコノミー)を、サーキュラーエコノミー(循環型社会)によるサステナブルなアプローチへの転換を促す研究でもある。

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