SUPPOSE DESIGN OFFICEを主宰する谷尻 誠氏が新たにローンチしたサービス「Mietell(ミエテル)」。不動産と建築デザインを繋ぐというサービスの背景と今後の展望について語っていただきました。
谷尻 誠
建築家・起業家 / MIETELL 代表取締役 , SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd. 代表取締役
1974年 広島県生まれ。2000年建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICE設立。2014年より吉田愛と共同主宰。広島・東京の2カ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設まで国内外合わせ多数のプロジェクトを手がける傍ら、近年「絶景不動産」「tecture」「DAICHI」「yado」「Mietell」をはじめとする多分野で開業、事業と設計をブリッジさせて活動している。2023年、広島本社の移転を機に商業施設「猫屋町ビルヂング」の運営もスタートするなど事業の幅を広げている。
主な著書に『美しいノイズ』(主婦の友社)、『谷尻誠の建築的思考法』(日経アーキテクチュア)、『CHANGE-未来を変える、これからの働き方-』(エクスナレッジ)、『1000%の建築~僕は勘違いしながら生きてきた』(エクスナレッジ)、『談談妄想』(ハースト婦人画報社)。
作品集に「SUPPOSE DESIGN OFFICE -Building in a Social Context」(FRAME社)SUPPOSE DESIGN OFFICE Website
https://suppose.jp/MIETELL Website
https://mietell.com/
建築家・谷尻誠が手掛ける新サービス「Mietell(ミエテル)」とは? 不動産の未来を可視化、不動産業界に革命を起こす!
Contents
■ 不動産と建築のデザインを繋ぐ「Mietell」
■ 自分のアクションでプロジェクトが動き出す
■ Mietellのサービスが当たり前の世界をつくりたい
── サービスを始めようと思われた理由は?
谷尻 誠(以下、谷尻):そもそもは自邸をつくるときに、自分で土地を探して買った経験が関係しています。僕の場合は、土地を見たときにいい場所かどうかに加えて、そこにどんなものが建つかも判断できます。でも、一般の人の多くはそれが分からないんだろうなと。分かるとしたら「駅から近い」とか「近くに学校がやスーパーがある」とか、値段が自分のお財布事情と合っているかとか。そういう限られた条件の中で不動産を買っているなら、決定するための要素がとても少ないなと思って。
不動産業者は建物がないのに土地を売ろうとしているし、買う側はどんなものが建つか分からないのに決断しないといけない。両者の間には、とても大きな谷間があります。でも、僕ら設計者がイメージを可視化できれば溝を埋めることができるのではないかと思ったんです。みんなの買う時の不安要素を取り除くには、ビジュアルがあったほうが、その場所のリアリティを理解してから買えるようになるんじゃないかなと。
Mietellでは独自の不動産ポータルサイトを運営し、CGパースでビジュアル化した土地の物件を紹介して検索できるようにしています。また、不動産会社や仲介業者向けに、CGパースを作成してサブスクで利用していただくサービスを提供しています。イメージの可視化のお手伝いをすることで、不動産の流動性はもっと良くなるだろうと考えています。
── ビジュアルは、フォトリアルなものをつくられていますよね。その意図は?
谷尻:これからの時代、リアルなビジュアルによって売っていくようにどんどんなっていくでしょう。建築にまつわるビジネスでも、すでにありますし。テクノロジーによって、リアルじゃないけどリアルかのように想像力が及ぶ体験をすることで、実際になくても買う状況が起きているわけで。
Mietellは、不動産の情報を入力すると「マイソク」をすぐ出力できるのも大きな特徴です。不動産業者でA4サイズの紙に印刷された不動産情報を見たことがあると思うんですけど、マイソクってつくるのが大変なんですよ。でも、Mietellを使えば写真と情報を入れるだけで完成するので、業者の負担を減らせると思います。
あとは、ある種不動産の投資としての側面で「敷地の未来が見えている」という点も考えています。その土地でどういうふうにどういうものをつくったらどれぐらいの利回りが出るのかといった不動産投資としてのジャッジだったり、相続的対策としてどうしたらいいかとか、不動産を活用した「見えていないものを見える化する状況」をつくっていきたいと思っています。
Mietellには、お金のプロフェッショナルの泉 正人さんに参画してもらっています。不動産の相続や売却など、多くの方が抱える問題に対してアドバイスしながら解決したり、土地活用のサポートなどの相談もできます。
── SUPPOSE DESIGN OFFICEにも設計の相談がある中で、新サービスとして立ち上げたのはなぜでしょう?
谷尻:サポーズとMietellの設計には範囲や細かさに違いがあります。サポーズでは間取りまで細かくきちんと設計しますが、Mietellでは、不動産業者から土地情報をあずかり法的条件をチェックして、そこに建つであろうボリュームの建物を生成するまでが基本的なサービスとなっています。
もちろん、「こういう雰囲気で建てたい」と具体的に要望をもらえば設計できますし、ほかの設計者を紹介することもできます。そうすれば、建築家に頼む人もきっと増えるでしょうし。
── リリースして1カ月ほど経ちますが反応はいかがでしょうか?
谷尻:Mietellのポータルサイトに掲載した物件への問い合わせは早速いただき、実際に売れています。また、たくさんの不動産業者から掲載依頼を受けているので、さらに掲載のペースを上げたいと思います。
そして不動産業者以外に、一般の方やデベロッパーのような企業からも声がかかるようになりました。「Mietellでビジュアルをつくって自分の所有する土地を売ってほしい」と連絡が来たり、「この土地にどんな建物が建つかビジュアルをつくってほしい」といった相談をいただいています。それで、売りたい土地または買いたい土地に対してCG建築パースをつくる「ミエテルONE」というサービスも派生して始め、不動産の売却や購入のお手伝いをしています。
── 運営はどのようにしていますか?
谷尻:先ほどの泉さんに加えて、もともとデベロッパーで働いていた不動産に詳しいスタッフがいます。 僕が主催する「CHANGER」という建築のサロンでMietellの構想を話していたら、いろいろ指摘や意見をくれる人がいて。いいなと思っていたら、後日「すごく興味あります」と連絡があってスタッフになることが決まり、会社を立ち上げるきっかけにもなりました。遊び場としてのコミュニティをつくっていたら、事業が生まれた感じなんですよ。
コロナの時にすごく感じたんですけど、建築家って誰かから頼まれないと生きられないなと思って。そのころから「自分で仕事をつくる」という意識が強くなりました。
運営は以前からやっていましたが、より強化して。〈社食堂〉をつくると、そこに共感して「こういう働き方いいよね」ってオフィスの依頼が来たり、別荘をつくって運用していると、同じようなことをしたいという方から依頼されるようになったり。自分で住宅をつくってお金のことも勉強してそれを発信すると、そこに共感して「こういう建物いいよね」と頼まれることが増えたり。
自分でアクションしたことによってプロジェクトが動き出すことを何度も体験していて。僕は、仕事をつくるうえで、自分の理想を自分で先につくる生き方っていいなと思っています。不動産もそうですけど、知識をつけると圧倒的に仕事が来る確率も上がるし、設計の幅も広がる。
以前はデザインで勝負していましたが、冷静に考えるとデザインがいいというのは当たり前で、依頼する側の趣味に左右されます。投資的なこと、未来の相続などお金のことも踏まえて総合的に建築や不動産のアドバイスができれば、もっと具体的な提案ができる。そうしていると、あまり人と比べられなくなりました。
── 地方も含めて、どの設計事務所もMitellのような提案ができそうですね。
谷尻:できると思います。もっと景色のいいところに住みたいと思っている方は多いと思うんです。自動運転なら寝ていても目的地に着けるから、無理に高価で景色の悪い東京に住まなくてもよくなる。そんなことが起きうる時代なので、よりいろんな土地を価値化させることはMietellの重要な側面である気がしますね。
── 今後計画されていることはありますか?
谷尻:土地の購入者と設計者のマッチングもできたらいいですね。基本は外観の依頼が多いですが、今後は賃貸や区分所有のような物件をリノベーションしたバージョンとか、内観のビジュアル化も検討しています。
あとは、ビジュアルの中で置いてある家具などを紐付けして買えることもできると思います。家具をコーディネートして、ビジュアル化して、こんな家に住みたいと思ったらそのまま買えるようなオンラインストアの仕組みです。
外観でもインテリアでも、パースが付いている不動産情報が当たり前の世界をつくりたい。インフラの面でも、水がなくても水をつくることができるサービスがあったり、電気がなくても太陽光で蓄電できたりしていくと、今まで不動産として載らなかった土地にも建てられると思うんですよね。それもやはりある程度ビジュアルをつくってあげれば、そこに建つイメージができるので。どんな土地でも不動産になれば、豊かな暮らしをするきっかけづくりになると思っています。
(2024.10.18 SUPPOSE DESIGN OFFICEにて。記載内容はインタビュー時点のもの)
Interview & photo: Jun Kato
Text: Kanako Koriyama