3月22日に20回目の命日を迎えた丹下健三と、2022年末に丹下と同じく91歳でこの世を去った磯崎 新。
この“建築界最強の師弟”をイラストと文章で読み解く『丹下健三・磯崎新 建築図鑑』が刊行されました。著者は、建築分野の雑誌や書籍でイラストと文章を目にしたことがあるに違いない“画文家”・宮沢 洋氏。
日本建築界の巨匠2人を師弟関係というくくりで捉え直すことで、すでに大きすぎる存在であり“知っている気になっている”2人の建築作品の共通点や相違点が語れるのではないか、と宮沢氏は発想。丹下と磯崎が手掛けた国内の主要50プロジェクトを実際に巡り歩き、イラストを交えて作品を解きほぐしながら見せてくれます(特記なき本記事の画像提供:宮沢 洋)。

画像提供:総合資格出版


誌面の一部。丹下健三の代表作〈広島平和記念資料館〉をさまざまな角度から読み解く

〈国立屋内総合競技場(現・国立代々木競技場)〉の図解。第一よりも第二体育館のほうが宮沢氏のお気に入りだという

磯崎の「プロセス・プランニング論」についてわかりやすく図解
そして宮沢氏は、師弟が互いに影響し合う熱い設計活動の軌跡について発見を重ね、歴史家ではなしえないであろう建築設計論やストーリーを紡ぎ出していきます。

丹下事務所所属時代に磯崎が担当した〈今治信用金庫(現・愛媛信用金庫今治支店)〉での考察。意図的に“ズレ”を生じさせて調子を転じるという手法を「転調造形」と名付け、現在に至る系譜を描く

丹下設計の〈日南市分化センター〉。磯崎への影響を推論し、磯崎のチラ見のイラストを添える
とはいえ、「この本で書いた僕のイラストや文章は、巻末におさめた磯崎さんから丹下さんへの弔辞に向けての前座のようなもの」とは宮沢氏の談。
本書の解説で知識を深め、2人の物語を把握したうえで弔辞に向かい、師弟であり生涯のライバルでもあった巨匠たちへの思いを馳せてみては。

内容紹介
建築界最強の師弟をイラストと文章で読み解く!
今日の日本の建築界を形づくった丹下健三と磯崎新。その建築を楽しむポイントは、2人を師弟関係という括りで見ること。師匠・丹下を超えようとポストモダン、アバンギャルドの道を歩む磯崎。一方、磯崎から影響を受け作風を広げていく丹下。その軌跡となる国内主要50プロジェクトを、雑誌『日経アーキテクチュア』の人気連載「建築巡礼」の著者・宮沢洋が画文(イラストとテキスト)でリポートします。
巨匠2人に興味のある方には入門書として、2人の建築をよく知っている方は新たな視点で楽しむ建築ガイドとしておすすめの1冊。
目次
【CONTENTS】
Chapter.1 丹下健三
丹下建築を味わうための5つのキーワード
01 広島平和会館原爆記念陳列館 世界を驚かせた“消える軸線”
02 津田塾大学図書館 70年間守られる続ける開放感
03 図書印刷原町工場 モダニズムの花形は70年現役
04 倉吉市庁舎 師・岸田日出刀が与えた模索の場
05 墨会館 中庭側は別世界の白い要塞
06 香川県庁舎 丹下モデュロールが生むリズム
07 今治市庁舎・公会堂 折板が出発点の丹下ワールド
08 旧倉敷市庁舎 第二の生を導いた精緻な目地
09 立教大学図書館 レンガ壁の上の新旧対比
10 今治信用金庫 端正さに隠された転調のデザイン
11 日南市文化センター 最南端に残る鼓形平面の遺跡
12 旧香川県立体育館 別メンバーで代々木の吊りと競う
13 国立屋内総合競技場 金字塔となった「二重の吊り」
14 東京カテドラル聖マリア大聖堂 8枚のHP シェルが描く十字架
15 山梨文化会館 成長を実現させた“縄文” 的円柱
16 静岡新聞・静岡放送東京支社ビル コア1本で都市の成長を可視化
17 戦没学徒記念館 外観を消した幻の丹下建築
18 ゆかり文化幼稚園 園児を包み込むプレキャストの城
19 日本万国博覧会お祭り広場大屋根 「太陽」の陰に佇む祭りの残像
20 駐日クウェイト大使館 2本のコアにまといつく立体庭園
21 草月会館 唯一残るミラーガラスの鉱石
22 兵庫県立歴史博物館 モダニストらしい天守閣への敬意
23 横浜美術館 半円柱の丹下流ポストモダン
24 東京都新庁舎 「転向」との声も出たIC模様
25 フジテレビ本社ビル “丹下好み” を詰め込んだ湾岸の華
深掘り対談 丹下健三編(堀越英嗣氏×豊川斎赫氏)前川國男や坂倉準三を飛び越え“世界のTANGE” になれた理由Chapter. 2 磯崎新
磯崎建築を味わうための5つのキーワード
01 新宿ホワイトハウス 幻の第1 作はアートの拠点に
02 岩田学園 静かに挑発する教室棟と体育館
03 大分県立大分図書館 「切断」を主張する中空梁の列
04 群馬県立近代美術館 立方体づくしで2度目の学会賞
05 北九州市立美術館 丘の上に突き出す直方体の筒
06 北九州市立中央図書館 異質な外観と内部の心地よさ
07 西日本総合展示場 波に向かう吊り屋根の帆船
08 神岡町役場 「未知との遭遇」の異質さ
09 つくばセンタービル 見る者の歴史知識を試す問題集
10 西脇市岡之山美術館 白い箱をつなぐ前衛的前室
11 お茶の水スクエアA 館 名建築を復元しつつも「断絶
12 ハラ ミュージアム アーク 心をほぐす緑と黒の風景
13 水戸芸術館 ねじれる塔は“次”への宣言
14 由布院駅舎 ふわりと浮かぶクロスボールト
15 富山県立山博物館 展示館・遙望館 階段と映像で登拝を疑似体験
16 東京造形大学 造成なしの奇策でコンペ当選
17 兵庫県立先端科学技術センター 世界的造園建築家とのコラボ
18 奈義町現代美術館/奈義町立図書館 作品と一体化した第3世代美術館
19 ビーコンプラザ 水戸超えのタワーは巨大球面
20 豊の国情報ライブラリー 来館者の姿勢を正す荘厳な入り口
21 なら100 年会館 施工=デザインの瓦の黒船
22 秋吉台国際芸術村 “群島” の中に立つ幻の住宅
23 セラミックパークMINO 谷地をまたぎ、展示室を吊る
24 山口情報芸術センター 波打つ屋根が市民をかき立てる
25 北方町生涯学習センターきらり・岐阜県建築情報センター リベンジからの「流れ」の屋根深掘り対談 磯崎新編 渡辺真理氏×五十嵐太郎氏 師・丹下を乗り越えるための「アバンギャルド」という戦略
磯崎新による丹下健三への弔辞
付録:丹下健三・磯崎新 統合年表 / 国内主要作品MAP

著者:宮沢 洋
判型:A5判
総頁数:200頁
定価:本体2,200円+税
発行日:2025年3月1日
ISBN:978-4-86417-573-9
出版元:総合資格学院
詳細
https://www.shikaku-books.jp/view/item/000000000415
著者プロフィール
宮沢 洋|Hiroshi Miyazawa
1967年東京都生まれ。2016-19年『日経アーキテクチュア』編集長を務める。20年よりOffice Bungaを共同主宰。21年ブンガネット設立。近著に『画文でわかる建築超入門[歴史と創造]』(彰国社)、『イラストで読む 湯けむり建築五十三次』(青幻舎)など。23年より「みんなの建築大賞」推薦委員および事務局長、「東京建築祭」実行委員。
Text: Jun Kato