CULTURE

横浜美術館が大規模改修を終え、3/15リニューアルオープン

乾久美子建築設計事務所が丹下健三が設計した美術館の空間構築ほかを担当

CULTURE2024.01.12

横浜美術館(神奈川県横浜市)[*1]が約3年をかけた大規模改修工事を終え、3月にリニューアルオープンします。

横浜美術館

横浜美術館 外観(2021年3月1日 大規模改修工事の概要を発表したプレスリリースより) 撮影:笠木靖之

建築家の丹下健三(1913-2005年)の設計で知られる横浜美術館は、1988年(昭和63年)3月竣工、1989年(平成元年)11月の開館。かねてより予定していた大規模改修工事のため、2021年3月1日から全館休館に入っていました。

横浜美術館 リニューアルオープン

「グランドギャラリー」  撮影:新津保建秀

横浜美術館の建築について

横浜美術館[*1]は、日本のモダニズムの巨匠と称される建築家・丹下健三の手による建物です。生涯で民間公共あわせて400ものプロジェクトを手がけた丹下が、国内における初めての美術館[*2]として設計しました。

左右対称に長く伸びるファサードをもつこの建物では、あちこちに丸や四角のモチーフを見つけることができます。外壁の「フォルス・ウィンドウ」(にせ窓)や、広大なエントランスホールである「グランドギャラリー」に配された大階段のほか、展示フロアにもひときわ印象的な円形と正方形の展示室があります。
御影石をふんだんに使った開放的な「グランドギャラリー」は、最頂部約16m、左右約63m、奥行き16mの大空間です。ガラス張りの天井からは開閉式のルーバーを通して自然光が採り込まれ、季節や陽の光のうつろいを感じることができます。

丹下は設計時、市民の交流や文化活動の拠点としての美術館を目指していました。作品を鑑賞する前にたたずんだり、展示室から展示室へと移る間にひと息ついたりするための「目的を明確にもたないスペースこそが大切だ」と語っていたといいます。そのため横浜美術館には、「グランドギャラリー」を筆頭に、ひとびとが自由にときを過ごすための特徴的な空間がいくつも設けられているのです。

丹下は代表作の多くを「都市の中にどのように建築があるべきか」という視点で構想し、建物の内外にしばしば「広場」をしつらえました。横浜美術館もまた、「みる」「つくる」「まなぶ」だけでなく、思い思いの目的を持つ多種多様なひとびとが集い、共に過ごすための「広場」としてつくられているのです。

[*1] 建物は、1989年3月から開催された「横浜博覧会」のパビリオンのひとつとして使用され、博覧会終了後の同年11月に横浜美術館として正式に開館した
[*2] 現・倉敷市立美術館は、丹下が倉敷市庁舎として設計(1960年竣工)し、その後美術館に転用された

横浜美術館 2024年1月10日発表・プレスリリースより引用

横浜美術館 リニューアルオープン

「グランドギャラリー」 撮影:新津保建秀

横浜美術館 リニューアルオープン

「グランドギャラリー」エレベーター 撮影:新津保建秀

横浜美術館 リニューアルオープン

撮影:新津保建秀

丹下都市建築設計が再び設計と施工監理を担当し、大規模改修工事は2021年10月1日に着工、2023年11月に竣工しています。コピーライターの国井美果氏による「みなとが ひらく」というミュージアムメッセージを掲げ、いよいよ今年3月15日にリニューアルオープンを迎えます。「第8回横浜トリエンナーレ」の開幕と同日になります。

横浜美術館 リニューアルオープン

横浜美術館 リニューアルオープン後の公園口側外観 イメージ イラスト:乾久美子建築設計事務所

乾久美子建築設計事務所が空間構築とサイン計画を担当

横浜美術館は、圧倒的なスケール感で来館者を迎える吹き抜け大空間(グランドギャラリー)を有するのが特徴です。建築界の巨匠・丹下健三によるこの空間に対して、空間構築設計とサイン計画を、建築家の乾 久美子氏が率いる乾久美子建築設計事務所が担当。グラフィックデザイナーの菊地敦己氏が率いる菊地敦己事務所も、空間構築およびサイン計画と、リニューアルに際しての新たなロゴデザインも担当しています。
2022年10月には、空間構築のためのインクルーシブワークショップも開催されました。

なお、館内は3月15日以降も順次リニューアルされ、2025年2月に全館オープンとなります。

横浜美術館 リニューアルオープン

横浜美術館 リニューアルオープン後の「じゆうエリア」イメージ イラスト:乾久美子建築設計事務所

横浜美術館 リニューアルオープン

横浜美術館 リニューアルオープン後の「じゆうエリア」イメージ イラスト:乾久美子建築設計事務所

横浜美術館 リニューアルオープン

横浜美術館 リニューアルオープン後の「じゆうエリア」イメージ イラスト:乾久美子建築設計事務所

横浜美術館 リニューアルオープン

横浜美術館 リニューアルオープン後の「じゆうエリア」イメージ イラスト:乾久美子建築設計事務所

乾 久美子氏メッセージ

設計者・丹下健三が使った御影石に埋め込まれているさまざまな色を抽出し、オリジナルの什器をつくりました。横浜美術館の特徴である巨大な天窓が修復されたことをいかし、自然光の下で石の色と什器がお互いに引き立てあい、和らいだ雰囲気が漂う場所を目指しました。
入ってすぐ正面の「まるまるラウンジ」にはいろいろなサイズのテーブルと椅子を揃え、ひとりでも、みんなでいても居場所と感じられる場所になればと考えました。また、ユニット化した什器はシーンにあわせて組み合わせが変えられるようになっています。
什器の制作にあたっては、さまざまな障がいのある方たちと共にインクルーシブワークショップを実施しました。原寸大のモックアップを試しながら知見を得るという貴重な機会がなければ生まれなかった家具もありますので、オープンを楽しみにしていてください。

横浜美術館 2024年1月10日発表・プレスリリースより引用

乾 久美子 近影

乾 久美子(いぬい くみこ)プロフィール
1969年大阪府生まれ。2000年乾久美子建築設計事務所を設立。2016年より横浜国立大学都市イノベーション学府・研究室 建築都市デザインコース(Y-GSA)教授。代表作に、みずのき美術館、宮島口旅客ターミナル、釜石市立唐丹小学校・釜石市立唐丹中学校・釜石市唐丹児童館など。
乾久美子建築設計事務所ウェブサイト
https://www.inuiuni.com/

 

横浜美術館 リニューアルオープン

横浜美術館 リニューアルオープン後の「じゆうエリア」イメージ イラスト:乾久美子建築設計事務所

横浜美術館 リニューアルオープン

横浜美術館 リニューアルオープン後の「じゆうエリア」イメージ イラスト:乾久美子建築設計事務所

リニューアルロゴをデザインした菊地敦己氏がサイン計画と空間構築にも参画

横浜美術館 リニューアルオープン

撮影:新津保建秀

菊地敦己氏メッセージ

今回のリニューアルに伴い、サインやポスターなどのグラフィックデザインを手がけています。また乾久美子建築設計事務所と協働して空間のデザインにも取り組みました。
新しい美術館を立ち上げるのとは違い、既存の美術館建築やこれまでの活動を捉えた上で、どのようにアップデートしていくかが課題でした。グランドギャラリーの階段は片側が四角、もう一方は丸をモチーフにした空間が特徴的です。新しいマークは、既存のマークの四角を同じ面積の丸に置き換えたもので、隙間がある風通しの良い組み合わせになっています。もともと存在する形が変化して、ひらいていく。このことは、横浜美術館がリニューアルで目指していることの象徴でもあります。また、「YOKOHAMA MUSEUM OF ART」などのタイポグラフィにも、四角と丸を組み込み、違う形やイメージが同居しながら調和することを目指しました。

横浜美術館 2024年1月10日発表・プレスリリースより引用

菊地敦己(きくち あつき)氏 近影

菊地敦己(きくち あつき)プロフィール
1974年東京生まれ。2000年ブルーマーク設立、2011年より個人事務所。ブランド計画、ロゴデザイン、サイン計画、エディトリアルデザインなどを手掛ける。とくに美術、工芸、建築に関わる仕事が多い。主な仕事に、青森県立美術館やPLAY! MUSEUMのVI・サイン計画、ほか多数。
菊地敦己事務所ウェブサイト
http://atsukikikuchi.com/

ミュージアムメッセージは国井美果氏が制作

横浜美術館 リニューアルオープン

 

ステートメント

美術館は、港のようだと思います。
どんな人も歓迎する。
来るもの、出るもの、多様な文化や価値観が交錯する。
今と過去と未来を中継する。
バリアもボーダーも飛び越えていく。
そして、世界にひらかれた港町の美術館として歩んできた私たちは、さらに思うのです。

ここに訪れるすべてのあなたもまた、港なのだと。
自由な出会い。豊かなまなび。自分らしくいられる時間。
みて、つくって、まなんで。見晴らしのいい気分で、未来へ針路をとるために。
たとえ時代が変わっても、今日という暮らしのそばで
横浜美術館は、あなたという港がひらく場でありたいと思います。

5つの願い

1.誰もが尊重され、自分らしくいられる場でありますように
2.人、もの、考えとの新たな出会いの場でありますように
3.今日を生きるよろこびを感じる場でありますように
4.このよろこびが、美術館から街へと広がりますように
5.ひとりと、地域と、世界がつながる場となりますように

横浜美術館 2024年1月10日発表・プレスリリースより引用

国井美果(くにい みか)近影

国井美果(くにい みか)プロフィール
コピーライター。コーポレートメッセージや企業広告、ブランドをつくる・磨くなど、社内外をつなぐさまざまな言葉やアイデアで企業や社会の活動に関わっている。主な仕事に、資生堂「一瞬も一生も美しく」、伊藤忠商事「ひとりの商人、無数の使命」、絵本『ミッフィーとほくさいさん/美術出版社』など多数。
MIKA KUNII Website
http://kuniimika.com/

横浜美術館 リニューアルオープン

横浜美術館 夜間外観 撮影:新津保建秀

横浜美術館 蔵屋美香館長 メッセージ

横浜美術館は、2021年3月より2024年3月まで、開館以来初となるお休みをいただき、大規模改修工事を行いました。
リニューアル後の横浜美術館は、どんなところがどのように新しくなるのでしょう。

3年にわたる休館中、わたしたちは検討プロジェクトを立ち上げ、これからの美術館の姿について考えました。
たどり着いたのは、いまやどの美術館、博物館にも求められる「多様性」という課題に、横浜らしいやり方で応える、という結論です。
世界に開かれた貿易港である横浜には、さまざまな人が訪れ、新しい文化や情報が次々ともたらされます。
新しいものに出会うと、わたしたちは不安や驚きを覚えます。しかし、こころとからだをやわらかくして自分とは異なる声に耳を傾けるとき、自分の世界がぐっと広がるのを感じます。相手の世界もまた、こちらに向かって大きく広がります。そこには、互いに異なる存在であることを認めながら、それでも共にいるための空間が生まれるのです。
アート作品は、異なる時代や地域に生きるひとびとが、いろいろな考えに基づいてつくったものです。また、ひとつの作品の中にも多種多様なメッセージが込められています。たくさんのものの見方に触れるための手がかりとして、アート作品ほどふさわしいものはないのです。

こんな理想を実現するため、今回具体的に力を入れたのが、広大なエントランスホールである「グランドギャラリー」と、美術館の前に広がる「美術の広場」に面した諸施設により構成される「じゆうエリア」の整備です。
たとえば、広場からも中のようすを見ることのできるガラス張りのギャラリーを新設しました。また、これまで3階にあった美術図書室を地上階に移し、広場から気軽にアクセスできるようにしました。。グランドギャラリー内にエレベーターを1基増設したことで、ベビーカーや車いすでの館内移動もいっそう快適になります。グランドギャラリーは、誰もが思い思いにくつろぐことのできる空間となるよう、什器等を新たにしつらえました。カフェやショップも生まれ変わります。こうしたハード面の整備は、「新たなものに出会い、それを受け入れる場」となる第一歩として、まずは多様な方々に美術館へ足を運ぼうと思っていただくための、いわば土台の部分です。
この土台の上に、わたしたち一人ひとりがどのような態度でお客さまをお迎えするか、というソフトの面が加わって、美術館ははじめて理想に近づきます。この態度に基づき、どんな作品や書籍を収集するか、どんな展覧会を企画するか、どんなワークショップやトークを行うかといった、美術館のすべての活動が組み立てられます。
高い理想を掲げましたが、その実現は一朝一夕に成るものではありません。これから長い航海に出るわたしたち、横浜美術館の新しい船出を、どうぞ見守ってください。

横浜美術館 2024年1月10日発表・プレスリリースより引用

蔵屋美香氏 近影

蔵屋美香氏(横浜美術館ᅠ館長)

 

リニューアルオープン以降の予定

2024年3月15日
横浜美術館リニューアルオープン
「第8回横浜トリエンナーレ」開幕

2024年6月9日
「第8回横浜トリエンナーレ」閉幕
以降、約13,000点の横浜美術館コレクションを外部倉庫より収蔵庫へ格納

2024年11月
ギャラリー8 / ギャラリー9 / 市民のアトリエ / 子どものアトリエ / 美術図書室 / レクチャーホール / ミュージアムショップ / カフェをリニューアルオープン

2025年2月
全館始動
「おかえり、ヨコハマ。」展など開催
「じゆうエリア」オープン

横浜美術館 公式ウェブサイト
https://yokohama.art.museum/

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