EXPO2025 大阪・関西万博 テーマ事業「いのちを知る」のシグネチャーパビリオン〈いのち動的平衡館〉は、生物学者の福岡伸一氏がプロデュース、NHAの橋本尚樹氏がデザインを担当しています。膜屋根が見る角度によってさまざまな表情を見せるパビリオンです。
〈いのち動的平衡館〉はローラーコースターのような緩やかな曲線に淡いペールピンク色の膜屋根が印象的なパビリオン。長辺40m、短辺でおよそ25mの内部空間に柱はなく「直径400mm、周囲全長136mの一本の鋼管とそれらを繋ぐケーブル張力のみで自立する構造」(NHAホームページより)です。
Photo: TEAM TECTURE MAG
建築は「エンブリオ」と名づけられています。エンブリオとは生命発生の初期段階のこと。いのちがその形を表す瞬間です。パビリオンは、生命を包む一枚の薄い膜のように、ふわりと大地に降り立っています。内部には一本も柱がなく、生命が絶えずかたちを変えるように、エンブリオも常にかたちを変えながらバランスを取って自立しています。まるで生命を宿したような“うつろう建築”です。
Photo: TEAM TECTURE MAG
わたしたちのいのちはどこから来てどこへ行くのでしょう。あらゆるものは壊れ崩れていくというエントロピー増大の法則に抗うかのように、生命は絶え間なく自らを壊しながら作り直すことでバランスを保っています。これを「動的平衡」と呼びます。いのちは、破壊と生成のはざまにあります。わたしたちのいのちは、漂う流れの中にいる一時的な存在です。生命の本質は「動的平衡」にあるのです。
Photo: TEAM TECTURE MAG
パビリオン内部の中⼼にある立体的なシアターシステムは直径10m、全周30m、⾼さ2.5mにもなり、32万球のLEDを使用した「クラスラ」と名付けられた光のインスタレーションを体感できます。
パビリオンの中にあるのは、32万球の繊細な光の粒子が自由自在に明滅する、立体的なシアターシステム「クラスラ」です。「クラスラ」とは、細胞の中の骨組みを構成するタンパク質、クラスリンの名前に由来しています。絶えずうつろいゆく光の粒子たちが、利己ではなく利他によって紡がれてきた38億年の生命のドラマを描きます。
Photo: TEAM TECTURE MAG
プロデューサーが語る「パビリオンの推しポイント」
私はプロデューサーのなかで唯一の生物学者として、「生命とはなにか? いのちとは何か?」という問題に真正面から取り組みました。その答えが「いのち動的平衡館」です。
「動的平衡」というのは、いのちは流れの中にある、ということです。環境から絶えず物質、エネルギー、情報を取り込みながら一瞬自分の命をつくりつつ、絶えずそれを他の命に手渡す流れのことを動的平衡と言います。
この生命の基本原理をパビリオンのなかで世界初の立体シアターで体験できます。これは私たちの「いのちがどこから来て、どこへ行くか」という気づきにもつながると考えております。
「なぜいのちは輝くのか」という問いに対して、生物学者の私は「いのちが有限だから、いのちが輝く。生は必ず死を迎えるからこそ、いのちが輝く」と考えています。つまり、いのちの問題を問うときには、死の問題を必ず問い返さなければいけない。しかも死の意味というのはどこにあるのかということが問われなければいけない。
私のパビリオンでは、死の意味を肯定的に捉える答えを提案しています。それはみなさん見てのお楽しみなので、ぜひ一緒に死の意味を考えていきたいと思います。(完成披露・合同内覧会 会見より)
トップ写真:TEAM TECTURE MAG
※ 特記なきグレー囲み内のテキストは、EXPO2025 大阪・関西万博 シグネチャーパビリオン〈いのち動的平衡館〉公式ホームページより