今回は、NAP建築設計事務所を率いる建築家・中村拓志氏から経営・組織設計の実践について伺いました。
「固定化・属人化に流れない分担設計」「応答から立ち上がる業務フロー」「姿勢と信頼で広がる受注」「抽象的な社名がもたらすブランドの伸びしろ」という4つの視点を軸に、組織を“密度高く”運営する実践知を抽出しました。
近年の「承継」を見据えた体制づくりにも触れながら、「組織として設計を仕事にし続ける」ための経営のヒントをお届けします。
* この記事は「建築と経営のあいだ研究所(通称:あいだけん)」の動画コンテンツを、TECTURE MAGで編集したものになります。
1. 固定化・属人化しないチーム分担
2. クライアント応答型の業務プロセス
3. 姿勢と信頼が最大の集客
4. 抽象的な社名とブランド構築
5.「承継」まで見据えた 組織化
©︎KEI Tanaka
中村 拓志(NAP建築設計事務所)
1974年東京都生まれ。鎌倉と金沢で少年時代を過ごす。1999年明治大学大学院理工学研究科建築学専攻博士前期課程修了。同年隈研吾建築都市設計事務所入所。2002年NAP建築設計事務所を設立。現在、明治大学理工学部客員教授、NAPコンサルタント、NAP International、NAPデザインワークス、NAP HOUSEの代表も務め、街づくりから家具まで、扱う領域は広い。自然現象や人々のふるまい、心の動きに寄り添う「微視的設計」による、「建築・自然・身体」の有機的関係の構築を信条としている。そしてそれらが地域の歴史や文化、産業、素材等に基づいた「そこにしかない建築」と協奏することを目指している。近年はそのエッセンスを日本の伝統的な建築や庭園文化の中に発見し、それらの再構築にも取り組んでいる。
高橋「さまざまな建築に携わっていらっしゃいますが、現在はどれくらいの数のプロジェクトが動いているのでしょうか?」
中村「停滞中のものも含めて、およそ40プロジェクトほどでしょうか。」
高橋「それは、担当者を置いて複数名で進めていらっしゃるのでしょうか。アトリエ事務所ごとに異なる体制があると思いますので、お聞かせいただけますか?」
中村「基本的には担当制です。ただ、プロジェクトが1人に依存しすぎないほうが良いと考えています。なるべく1人が2〜3件を受け持ち、それを共有する形にしています。状況次第では1人で1案件を担う場合もあります。」
高橋「建築は完成まで1、2年では難しく、企画段階から始めるとさらに長くなりますよね。その場合、基本的には担当者が最後まで見ていくことになるのでしょうか?」
中村「そうですね。担当者が最初から最後まで見ることができる点が、アトリエの良さだと思っています。組織設計と戦うためには、この点をきちんと維持することが大事だと思っています。組織設計では、全て歯車のように役割が分かれ、設計を担当すると施工管理はできないということが起こります。その点が残念に感じています。待遇は良いかもしれませんが、ものづくりの喜びを全身で感じることはできない。クライアントと直接やりとりし、最後の喜びを一緒に祝うこともできない。そうならないように、一気通貫して全てを見ることができるようにする。それが結果的に、スタッフの独立を早めることにも繋がると思います。この点は大事にしたいと思っています。」

渋谷「中村さんは、ご自身の望みを軽やかに実現されているように見受けられるのですが、コツのようなものがあるのでしょうか?」
中村「コツというよりは、自分の志向と市場のトレンドを自然と一致させることが大切で、そこから仕事は生まれると思います。アカデミックな世界では、コルビュジエやミースなど、近代建築を推進した建築家たちは創造性を基点とした作家論で語られます。しかし、実は第二次世界大戦が終わり住宅が供給不足という状況の中で、どのようにして事務所経営戦略を打ち立てたかという視点が、彼らの作家性を形づくっています。
アール・ヌーヴォーもまた、産業革命の後に都市が工業化で酷く汚染されたという状況の中から、「自然に還る」というようなデザインが生まれました。現代の環境問題からデザインが決まっていく流れと同じです。環境問題があって、社会状況との相関でデザインが生まれる。その橋をきちんと繋ぐことは大事なことだと思います。」
渋谷「一方で、ご自身のやりたいこともお持ちでいらっしゃいますよね。」
中村「自分自身のやりたいことが先行するというよりは、基本はお施主さんからの受注仕事、クライアントワークなのでそちらを優先します。皆さんそれぞれ、実現したいことや制限を抱えています。敷地や予算などの条件や課題をお施主さんと共有しながら、どうすれば解決できるかを並走して考えるプロセスの中で、結果としてデザインが生まれてくる。自分のために温めていたものをどのようにして具現化するか、という考え方はあまりしていません。」
渋谷「応答の中から生まれる、ということでしょうか。」
中村「そうですね。不思議なのですが、一緒に並走していく中でクライアントと親しくなり、気づけば、いつの間にかクライアントの課題が自分の目標、やりたいことであると錯覚しているのです。」

〈狭山の森礼拝堂〉Photo: Ben Richards

〈狭山の森礼拝堂〉Photo: Ben Richards
高橋「建築設計事務所の営業については、どのようにお考えでしょうか?」
中村「お施主さんのために最大級の情熱を注いで建築をつくることが、最高の営業だと思います。独立前に在籍した隈研吾建築都市設計事務所は、3年で退所する予定でした。その間にすべてを吸収すべく、面白そうな仕事が来たと聞けば「このプロジェクトぜひやりたいです」と積極的に手を挙げていました。そういう自分の仕事の取り組み方を見てくださっていた方々が「独立するなら、仕事を取ってくるよ」と、いろいろと仕事を紹介してくれました。そのときの作品の中には、NAPのポートフォリオに掲載しているものもあります。努力する姿を見てくださる方がいれば、必ず仕事に繋がると実感しています。」
渋谷「つまり、自分の好きな建築を全身全力でクライアントに向き合い、提供することが最大の営業になるということですね。」
中村 「そうですね。他には、紹介の連鎖のようなものもあります。これもやはり信頼感の中で拡大していった関係性です。自分から「仕事をください」と手を揉みながら回るということは一切なく、仕事ぶりや姿勢を見てくださる方からご依頼をいただいてます。」
渋谷「shintoの大野さんもおっしゃってましたが、”見ている人はいる”ということなのですね。」
中村「そうですね。必ず見ている方がいる。そして、「本当にいい」と心底惚れ込んでくださる方と出会えれば、その方が必ず仕事を引き合わせてくださると思います。」

〈ZOZO本社屋〉

〈ZOZO本社屋〉
高橋「20年もアトリエを経営されている中で、なにか変化は感じていますか?以前はこう考えていたけれど、最近変化があったというようなお話があればお聞かせください。」
中村「自分本位という感覚はなくなりました。学会賞をいただき、ようやく肩の荷がおりたというか。もう自分の名前が前に出る必要はないと感じています。むしろ、組織が持続的であるためには、スタッフがもっと脚光を浴びるべきだと考えるようになりました。」
高橋「面白いですね。他に変化はありますか?」
中村「現在、5つの会社を経営していますが、それぞれの承継者が現れてくれるのが理想だと思っています。社名も当初より自分の名前”中村拓志”はつけず、抽象的な名称とする方針を決めていました。自分の名前が立つのではなく、みんなが自分事として仕事に燃えるために、自分の名前はあえてつけないという方針を設定しています。」
高橋「”あいだけん”のレクチャーの中に、社名の命名に関する試聴数No1のレクチャーがあります。その中で興味深かったのが、会社規模に関わらず、考え方はだいたい2派に分かれるという点で。半数は自分の名前プラス建築設計事務所、もう半数は、もう少しアノニマスのような組織を目指している。中村さんは当初から後者の考えでいらっしゃったんですね。」
中村「僕は自分の名前を付けるということには絶対反対です。建築は自分が働けなくなった後も、きちんと管理をしていかなければならないので、そういう意味では名前を付けることはリスクでしかないと思います。自分の名前を入れてしまうと、万が一、M&Aで会社を売却するという選択肢が減ってしまうので、将来の選択肢を狭めることにもなります。僕の身に何かアクシデントが起こり、「設計活動ができない中、仲間の生活をどう守ろう?」という状況になった場合に、苦渋の選択としてM&Aということもあるかもしれない。さまざまな可能性を担保できるのは、やはりアノニマスな名前だと思います。」
渋谷「なるほど、アトリエ設計事務所のM&Aという可能性も今後はあるのでしょうか?」
中村「先鋭化すれば十分あり得ると思います。そのためには、これからは一層ブランド力を高めていく必要があると感じています。」

高橋「2人から始まり42名に至る間に、組織に対するご自身の意識に変化はありましたか?」
中村「最近になり「承継」を考えるようになりました。建築は自分の死後も存続していくものなので、自分の後を継いでくれる人材を育て、きちんと引き継いでいける体制をつくらねばと考えています。これからは、自分がどれだけ下がっていくか、もっと任せていくかを考える必要があると感じています。」
渋谷「下がっていくというのは、前面に立つのではなく後方から支えるということでしょうか?」
中村「はい。デザインの判断などでもそうしたいと考えています。」
渋谷「中村さんが考える”承継”は、具体的にはどのような行為あるいは状態を指しているのでしょうか?」
中村「自分の名前抜きで作品やデザインを決定・発表して、次の集客に繋げていくということです。」
渋谷「集客という点については、”中村イズム”の承継ではないのでしょうか?」
中村「変化はかまわないと思います。ただ、まずは、自分が培った哲学を文章化して、より広く共有できる仕組みを整える必要があります。それをさらに発展させてくれる人材が承継者になると考えています。」
高橋「それは考え方が変わってきたということでしょうか?」
中村「そうですね。その方が楽しいだろうと思い始めています。今も何人か芽が出てきてますが、自分の想像を超える方向へ発展させる人材が現れて、デザインを開発していく姿を見られることは、非作家性の大きな喜びだと考えています。」
高橋「素晴らしいですね。中村さんの作風や建築家としてのあり方、存在感は大きいので、それを受け継いでいかれるのだと思います。」

〈界ポロト〉Photo: Ben Richards

〈界ポロト〉Photo: Ben Richards
トップ画像〈狭山湖畔霊園管理休憩棟〉Photo: Ben Richards

©︎建築と経営のあいだ研究所
「建築と経営のあいだ研究所(通称:あいだけん)」は、建築士に特化した会員制の動画メディアで、設計力だけでは足りない時代に必要な「経営思考」や「マネジメント」といった知識の学び場です。経営学の論理(建築設計事務所経営論)と、実践的なインタビュー・ショートレクチャーを組み合わせ、インプットとアウトプットのサイクルで習慣化を目指しています。
ウェブサイト https://www.aidaken.com/
YouTube https://www.youtube.com/建築と経営のあいだ研究所
Instagram https://instagram.com/aidaken_institute
X https://twitter.com/aidaken_tw