20世紀を代表する巨匠のひとりであるル・コルビュジエ(Le Corbusier|1887-1965)と、インド人建築家として初めてプリツカー賞を受賞したバルクリシュナ・V・ドーシ(Balkrishna Vithaldas Dosh|1927-2023)。この2人の建築家それぞれにスポットをあてた2本のドキュメンタリーが、『ル・コルビュジエとドーシ インドのモダニズム』と題して5月1日より全国各地の映画館で上映されます。
イントロダクション
イギリス領インド帝国は1947年にイギリスの支配から脱し、インドとパキスタンとしてそれぞれ分離独立を果たす。その際、国境に位置するパンジャーブ州は両国に分割され、州都ラホールはパキスタンに帰属した。このため、インドは早急な州都建設を迫られ、同国初代首相のジャワハルラール・ネルー(1889-1964)は、過去の伝統に縛られない、未来への信条と民主主義を象徴する都市の建設を望んだ。白羽の矢は、スイス出身でフランス・パリを拠点とする建築家のル・コルビュジエにたてられる。1950年のことである。
コルビュジエは、新たな都市・チャンディガール(Chandigarh)において、自然の秩序と近代技術が完全に調和した、人間中心のユートピアを造り出そうとした。今なお圧倒的な存在感を放つ州議会議事堂をはじめ、高等裁判所、合同庁舎があるキャピトル・コンプレックスなど、商業の中心部を人間の心臓と位置付け、緑地帯や公園を肺に、道路を循環器系に見立てるなど、人体をイメージした都市設計を行なった。また、都市をグリッドで区切り、セクターという単位を設け、道路システムを7つの階層に分け、人と自動車の交通を分離したほか、緑地を整備して湖を造るなど、建設の際の規則を細かく定めている。
なお、チャンディガールの実現には、彼の従兄弟であり建築家のピエール・ジャンヌレ(Pierre Jeanneret|1896-1967)が大きな役割を果たしたことは今日ではよく知られている。
チャンディガール建設計画が始まるころ、パリのコルビュジエのもとで、1人のインド人建築家がキャリアを歩み始める。今回の特別上映でスポットをあてるもう1人の建築家、バルクリシュナ・ヴィタルダス・ドーシである。彼はインド西部の都市・アフマダーバード(Ahmedabad)における、コルビュジエによる建築プロジェクト(サラバイ邸、ショーダン邸、繊維業会館など)の設計を担当した後、同市にて独立。米国を代表する巨匠のひとりであるルイス・カーン(Louis Isadore Kahn|1901-1974)ともインド経営大学の設計で協働している(1974年竣工)。
コルビュジエやカーンから薫陶を受けたドーシは、インド学研究所や自身の事務所・サンガトなどの設計で、早くからサステナブルやエコの思想を取り入れている。アランヤ(Aranya)における低コスト住宅プロジェクトで2018年にアガ・カーン建築賞、同年には建築界では最高の栄誉とされるプリツカー賞を贈られている(ハイアット財団による受賞者プロフィール)。設計活動に加え、CEPT大学(アフマダーバード)を創設するなど、インドにおける社会課題の解決や後進の教育にも尽力した建築家である。
時代に適合しなくなった伝統的な都市や建築から脱却し、壮大な実験をチャンディガールで仕掛けたコルビュジエ。西洋のモダニズムを継承しつつ、インドの精神性や生活様式に根ざした建築を目指したドーシ。新しい建築理念によって未来をそれぞれ築こうとした両者は、建築によってどのような対話を行い、後世に何を遺したのか? そして、彼らがいなくなった世界で、その建築物とビジョンはどのように変容し、継承されていくのだろうか? 2つのドキュメンタリーで紐解いていく。
※テキストはプレス資料に依り、一部を『TECTURE MAG』にて追補
原題:THE POWER OF UTOPIA – Living with Le Corbusier in Chandigarh

チャンディーガルを象徴する建築、キャピトル・コンプレックス(1958年)
監督・撮影:カリン・ブッハー、トーマス・カラー
編集:トーマス・カラー、ミリアム・クラーケンベルガー、ファビアン・カイザー
音楽:アトゥール・シャルマ
出演:グルチャラン・シン・チャンニ、ディーピカー・カンディー、シッダールタ・ウィグ、ディワ
ーン・マーンナー
2023年 / スイス / 85分 / カラー / 5.1ch / 英語・ドイツ語 /
ヒマラヤの麓の荒野にゼロから誕生した、ル・コルビュジエの“輝く都市”チャンディガール。コルビュジエが唯一実現できた計画都市は、新生インドを象徴する都市として、人を中心に置き、「より良く、より公正で、より調和のとれた世界」を目指した。70年を経て、このユートピアはどのように変容したのか。建築物と歴史を追いながら、住民である建築家、都市活動家、芸術家などがチャンディガールの直面している課題や揺るがない魅力について語る。




キャピトル・コンプレックス 高等裁判所(1958年)


ジャン・ヌレがチャンディーガルでのプロジェクトのためにデザインしたチェア


コルビュジエ(左)とジャン・ヌレ
原題:THE PROMISE. ARCHITECT BV DOSHI

監督:ヤン・シュミット=ガレ
撮影:ディートハルト・プレンゲル
編集:サラ・J・レヴィン
音楽:バルトーク・ベーラ
出演:バルクリシュナ・ドーシ、スフリド・サラバイ、スーリヤ・カカニ
2023年 / ドイツ / 90分 / カラー / 5.1ch / 英語、グジャラート語、ヒンディー語
2018年にインド人初のプリツカー賞に輝き、2023年に95歳で没した建築家、バルクリシュナ・ドーシが、師であるル・コルビュジエやルイス・カーンと協働した建築物や、自身が手掛けた建築物を訪れ、建築哲学や制作過程、そして70年におよぶキャリアについて語る姿をカメラが追う。モダニズムとインドの伝統、風土、精神性を融合した独自のスタイルを確立し、社会や環境に貢献する建築や、生活に根差した“人々のための建築”を志向した彼の最晩年の内面に迫る。

繊維業会館(設計:ル・コルビュジエ、現場監理:バルクリシュナ・ドーシ 1954年)


インド経営大学(設計:ルイス・カーン 1962~1974年)

インド経営大学院 バンガロール校(1973年)

プレマバイ・ホール(1976年)

ドーシの事務所、サンガト建築設計事務所(1980年)

アランヤ 低コスト住宅(1989年)


企画・配給:トレノバ
公開日:2026年5月1日
上映館:ユーロスペース(東京・渋谷)ほか ※上映の最新情報は下記公式ウェブサイトを参照
特別上映『ル・コルビュジエとドーシ インドのモダニズム』公式ウェブサイト
https://trenova.jp/coranddoshi
特別上映『ル・コルビュジエとドーシ インドのモダニズム』公式X
https://x.com/coranddoshi
#トレノバ YouTube:「ル・コルビュジエとドーシ インドのモダニズム」予告編(2026/03/30)