建築家・丹下健三(1913-2005)が設計したことで知られる、東京都渋谷区にある〈代々木競技場〉が、国指定の重要文化財となることが明らかになりました。
2021年5月21日に開催された文化審議会文化財分科会の審議・議決を経て、全て新規となる7件の建造物を重要文化財に指定することを文部科学大臣に答申したとのこと(報道発表)。
丹下の〈代々木競技場〉のほか、前川國男(1905-1986)が弘前市内で設計した〈木村産業研究所〉や、鈴木禎次(すずき ていじ / 1870-1941)の現存作品として価値が高い〈旧松坂屋大阪店(髙島屋東別館)〉なども指定を受ける見込み。
それぞれの建築物の評価のポイントは以下の通りです(文化庁 2021年5月21日報道発表より)。(en)
戦前の弘前の地に出現した白亜のモダニズム建築
分類:近代 / 商業・業務
対象:1棟
所在地:青森県弘前市
所有者:一般財団法人木村産業研究所
木村産業研究所は、地域の産業振興を目的として弘前市街に昭和7年(1932)に建築された。
設計は、世界的に著名な建築家ル・コルビュジエのアトリエに勤めた前川國男である。白い壁と水平に連続する窓で均整のとれた外観をつくり、バルコニーやピロティ、曲面に張り出した外壁などで変化をつける。内部はガラス窓を多用し、玄関ホールに吹き抜けを設け、天井を赤く塗るなど、明るく開放的で、かつコントラストの強い空間を構成する。ル・コルビュジエが示したモダニズム建築の概念を体現する、我が国最初期の建物として価値が高い。
指定基準:歴史的価値の高いもの
ダイナミックな外観と壮大な内部空間を有する戦後建築の金字塔
分類:近代 / 文化施設
対象:2棟(第1体育館、第2体育館)
所在地:東京都渋谷区
所有者:独立行政法人日本スポーツ振興センター
昭和39年(1964)の東京オリンピックを機に建築された、建築家・丹下健三(1913-2005)の代表作。
吊構造により、屋根および観客席を支える象徴的な外観と、中央が伸び上がる壮大な内部空間を創出する。2つの半円形をずらして組み合わせた 巴形が生む動線計画も明瞭で美しい。当時一流の技術者を結集し、前例のない技法、構法を開発、駆使し、意匠、構造、機能を極めて高い水準で融合させて空前のダイナミックな建築を実現した。意匠的にも技術的にも秀でた、戦後モダニズム建築として価値が高い。
指定基準:意匠的に優秀なもの、技術的に優秀なもの
明治政府が独自に建設を推進した最初期の洋式灯台
分類:近代 / 産業・交通・土木
対象:1基、1棟(灯台、 旧官舎)
所在地:静岡県御前崎市
所有者:国(海上保安庁)
当時の欧米列強の要求に基づく灯台に引き続き、明治政府が推進した灯台建設の最初期に築かれた洋式灯台。駿河湾と遠州灘を隔てる御前崎の突端部に位置する。英国人技師ブラントンの指導により明治7年(1874)に初点灯した。灯台は2重円筒構造および分銅筒を備え、回転式、1等レンズ設置の仕様で築かれた我が国最初期の煉瓦造灯台で、近代海上交通史上、価値が高い。灯台と共に建設された煉瓦造の旧官舎も併せて保存を図る。
指定基準:歴史的価値の高いもの
観音霊場における中世末期の伽藍焼失からの復興を示す
分類:近世以前 / 寺院
対象:2棟(三仏堂、護法権現社拝殿)
所在地:滋賀県近江八幡市
所有者:宗教法人長命寺
長命寺は、琵琶湖に面する長命寺山の中腹に境内を構える天台系寺院である。永正13年(1516)の兵火で伽藍を焼失し、現在の諸堂は、その後に再建されたもの。
三仏堂は天正年間(16世紀後期)の建立と考えられ、釈迦・阿弥陀・薬師の三尊を安置する。入母屋造づくり、檜皮葺の屋根は勾配を強めて棟高を際立たせる。護法権現社拝殿は永禄8年(1565)建立で、三仏堂西に渡り廊下で繋がる。当寺開山とされる武内宿禰を祀る本殿の拝所である。いずれも室町末期の兵火からの復興を示し、観音霊場巡礼寺院の伽藍を構成する建築として貴重。
指定基準:歴史的価値の高いもの
国鉄が技術の粋を集めて建設した我が国初のプレストレスト・コンクリート橋
分類:近代 / 産業・交通・土木
対象:1基
所在地:滋賀県甲賀市
所有者:甲賀市
第一大戸川橋梁は貴生川と信楽を結ぶ旧国鉄信楽線に架かる、橋長31m、単線仕様の単桁橋。国鉄が戦前の鉄道省時代から蓄積したコンクリート技術の粋を集め、昭和29年(1954)に建設した、わが国初の本格的なポストテンション式プレストレスト・コンクリート橋である。今なお高い品質を保つ優れたコンクリート構造物として価値が高い。工事の克明な記録を残すなど、戦後のコンクリート研究の発展にも寄与している。
指定基準:技術的に優秀なもの、学術的価値の高いもの
戦前の商都大阪を代表する百貨店
分類:近代 / 商業・業務
対象:1棟
所在地:大阪府大阪市
所有者:株式会社髙島屋
戦前大阪の中心的な商業地区であった堺筋に面して建つ。鉄骨鉄筋コンクリート造で、戦前の百貨店としては最大級の規模を誇り、荘重な都市景観を創出している。昭和3年(1928)から12年にかけて3期にわたって増築を重ね、商業建築が大規模化していく過程が知られることも重要である。アーケードやエレベーターホールなどに意匠を凝らし、防火対策や設備も充実させた。百貨店建築を数多く手がけた鈴木禎次(1870-1941)の現存作品として価値が高い。
指定基準:歴史的価値の高いもの
昭和初期の木造校舎の典型を維持する希少な現役小学校
分類:近代 / 学校
対象:3棟(第1校舎、第2校舎、第3校舎)
所在地:兵庫県西脇市
所有者:西脇市
旧西脇尋常高等小学校は、西脇市街の北西に所在する現役の小学校校舎である。昭和9年(1934)から12年(1937)に建設された木造二階建ての校舎3棟を並立させる。設計は地元の建築家・内藤克雄(ないとう よしお)。スティック・スタイルを基調とし、正面中央の玄関まわりに意匠を凝らした、簡潔ながら上品な外観を持つ。教室の広さや建具の形式は文部省が制定した設計基準に準拠する。今般、バリアフリー化や耐震補強を実施しつつ、昭和初期の木造学校建築の典型的な姿を良好に維持する現役の校舎として、歴史的価値が高い。
指定基準:歴史的価値の高いもの
国指定文化財等データベース
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