オンライン卒制展のさきがけとなった「#かってに卒制展」レビュー企画のインタビュー3人目は、渡邉康介さん。
「#かってに卒制展」の発足後、#03で紹介した山内 颯さんと同じく、渡邉さんも自分の作品をいち早く投稿。
「#かってに卒制展」が一気に拡散するなかで、多くの人の目に触れることになった。
一連のプロセスのなかで得られた気づきについて、振り返っていただいた。
Review of the “#Katteni Graduation Exhibition”
GW特集「#かってに卒制展」レビュー
#01 オンライン卒業制作展、爆誕。
#02 「みんなの気持ちが流れ込んで広がった」
#03 「SNSのつながり方を実感した」
#04 「感想だけでなく評価もほしい」
#05 「#かってに卒制展」レビュー動画
載せる・載せない情報を練り直した
──自己紹介と、作品を「#かってに卒制展」に投稿された経緯からお願いします。
渡邉:日本大学大学院の理工学研究科の海洋建築工学専攻に所属している、修士1年の渡辺康介です。昨年度は、中村美月さん(#02記事)、山内 颯さん(#03記事)と同じ研究室でした。
「#かってに卒制展」が立ち上がったのは「せんだいデザインリーグ」に向けて、卒業制作のブラッシュアップをしていた時期です。
そのときにコロナの影響で中止になってしまい、みんなその熱量をどこにぶつけていいか分からなくなっていたときに、中村さんや山内くんが先導してSNSに場をつくってくれたので。
自分としては、その熱量をぶつけることができる場所ができたな、ありがたいなと思いながら参加したという感じです。
僕は中止の発表を受けたときに、出展用にポートフォリオとかパネルとか、研究室で全部つくり直している最中で。
「中止かよー!」と思って、僕その場で寝ちゃって。
「中止になるかもしれない」とは薄々思っていたんですけど、それでもやるしかなかったので。ショックでしたね。やっぱり。
で、起きたら、もうなんかオンライン卒制展の動きが始まっていたという。参加するしかない、という感じでした。
言葉だけで作品の雰囲気を伝える
──今、後ろに見えているのは、卒制展のために用意されていたパネルですか?
渡邉:いえ、これは大学内で卒業設計の中間発表が12月にありまして、それに向けてまとめたものです。
自分は卒業設計の対象にしたブラジルに11月の末ぐらいに行ってきたんですけど、その前に作成したもので。
自分のなかでブラジルのリサーチに行くことだけは決まっていたのですが、準備もけっこう時間がかかったりしたので。
海外旅行自体、初めてだったんです。「なんで初心者がブラジルみたいなところに?」と周りからの反対があったり。
ブラジルに渡ったら一切英語が通じず、ブラジルの中で乗り換えでもう1階飛行機に乗ったんですけれど、乗り換えが1番やばかったですね。空港を間違えちゃって、言葉も分からずに。
──話をいったん戻しまして。「#かってに卒制展」には、用意されていたプレゼンボードを投稿されたのでしょうか?
渡邉:Twitterに上げたものは、レイアウトなどをし直しました。
やっぱりTwitterで最初に見てもらうのは、文章です。140字までと指定されているのが制約としては面白いし、そのなかで何をどう伝えるかというのはもちろんですけれど、言葉だけで作品の雰囲気を伝えられるかは意識しました。
載せる画像も、だいたいの人が見てくれる端末はスマートフォンじゃないですか。いかに小さい画面で見やすいかを検討して、文字の大きさとか、図の大きさなどを調整しましたね。
載せる情報、載せない情報の取捨選択をして、練り直しました。
もっと載せたい情報、削りたくなかったなというところもあるんですけど、提案のなかで「ここが1番見てほしい」というものがあったので、その作業はあまり迷わなかったですね。
──いつ頃アップされたんですか?
渡邉:「#かってに卒制展」が始まって、その日の夜にはアップしていたと思います。
もうその頃にはバズるというか初速が早かったので、作業しながら「これは早いほうがいいだろうな」と思って。急いで投稿しました。
地球の裏側まで届く卒制展の作品
──投稿後の反応や、広がっていく過程で感じられたことは?
渡邉:投稿したときは、これほど見られるとは思っていませんでした。
僕が使っているTwitterのアカウントは、建築専用のアカウントでもなければ、自分の作品を載せるものでもなかったんですね。
建築以外の友だちとつながっているツールだったので、建築のことを投稿してもそんなに反応はもらえないんじゃないかと思っていたんですけど。
そっちの人たちにも「今こんなことやっているよ」という発表も兼ねて、見てもらえたらいいなと思って、このアカウントで投稿して。
結果的に、建築のコミュニティ以外の人にも多く見てもらえたし、もちろん建築の人にもたくさん見てもらって、それだけでもこの「#かってに卒制展」はすごく意味があったなと思います。
Twitter上で、建築の情報を発信し合ってつながっている人たちって、自分から見たら「意識高いな、すごいなぁ」という人たちなんですけど、そういう人たちが僕の作品を見て意見をくれたり、フォローしてくれたり。
そこでつながりができるのも「すごくラッキーだな、いいきっかけになったな」という印象を受けました。
拡散されたということでは、海外の方にも届いているみたいです。ポルトガル語で何かリツイートしてくれたり、ブラジルにいる日本人の方なんかにもすぐ見てもらえて、そこは嬉しかったですね。
SNSならではというか、そこまで届く卒制展はないだろうと思って。SNSのよいところだな、と振り返って思いますね。
評価コメントに期待
──具体的なコメントで覚えていることはありますか?
渡邉:作品の雰囲気を見て、「既存の建築事例のこういうことをブラジルでやっているんだな」というような意見をけっこういただきました。
コメントをもらえること自体すごく嬉しかったのですが、作品に対しての評価というよりは感想が多かったですね。
1人だけ、すごく褒めてくれつつ、ちゃんとダメ出しまでしてくれた人がいたんですけど。評価するのは難しいと思います。
Twitterでリプライではなくて、引用リツイートでのコメントで感想を完結させている人もいて。だから、自分に届いていないけれど何かを言ってくれている人がいるかもしれません。
相手に届く感想と、届かない感想を選べるのも、Twitterのよいところかなと思います。
──今後もオンライン卒制展が続くとしたら、どんなことがあるといいでしょうか?
渡邉:自分は意見をもらえて嬉しかったので、来年以降もあれば、気になった作品には自分からどんどん意見をしたいです。
中間の状態を上げて「どうですか?」と意見を求めるのがあってもいいと思います。
自分自身、研究室のなかでもいろんな人に話を聞いてもらって、悩みに悩んだんですね。
アドバイスしてもらえる人は多いに越したことはない、と自分は思っていて。
意見を聞く、聞かないの選択を本人ができるようになれば、ちゃんといろんな人に聞いてもらうべきだと思うので。
作品の提案や面白いポイントを途中でSNSに上げてしまうのはちょっと危険かもしれないけど、そういう機会があっても面白いんじゃないかと思いました。
──これからしてみたいことは何でしょう?
渡邉:設計事務所を志望しているので実際の就職活動はまだ先なんですけれど、当面は卒業設計のブラッシュアップをしています。
あとは今ずっとコンペもやっていて、まだ先輩もいますし同期もけっこういるので、いろんなものを吸収しながら作品をつくり続けたいなと思っています。
もちろんそれと並行して、卒業設計はずっと見返し続けなければいけないものかなということは自分のなかであって。常に振り返りながら、進んでいきたいなと考えています。【】
(2020.04.30、オンラインにて)
Review of the “#Katteni Graduation Exhibition”
GW特集「#かってに卒制展」レビュー
#01 オンライン卒業制作展、爆誕。
#02 「みんなの気持ちが流れ込んで広がった」
#03 「SNSのつながり方を実感した」
#04 「感想だけでなく評価もほしい」
#05 「#かってに卒制展」レビュー動画
渡邉康介さんの作品〈裏側の共謀 -スラム文化による団地の侵蝕-〉
■Twitterアカウント名
rabbitsargeant
■作品の概要
ファベーラとは『テクノロジーが普及していない』『国の管理や制度が行き届いていない』『建築基準法が適用されていない』場所である。一見ネガティブに捉えられるものだが、セキュリティや空調といったテクノロジーがないことで室内における活動が可視化され、近隣住民とのコミュニケーションが活発である。また、そこにある建築たちは自由な形態で増改築が行われ、思い立った時に実行に移せる環境にあった。これらはファベーラの最大の特徴であり、ファベーラのなかだからこそ生まれたご近所関係と生活に根差した建築文化だと言える。
ホシーニャには、中心地にスラムクリアランスの一貫で国が建てた団地が存在する。画一的で拡張性のない住戸は、生活形態に合わせて変化のできない住戸形態であり、ファベーラ住民にとっては不自由な形態である。このように国がファベーラに対して行うスラムクリアランスは、治安や景観の問題解決を図った開発による上書きだが、これはホシーニャの建築文化の否定であり、住民たちのコミュニティや生活を考慮しない方法だと言える。そこで私は、ホシーニャ中心地に国が建てた団地に対して首謀者として手を加え、住民たちと共謀していくことで上書きされてしまったファベーラの建築文化を団地に再構築していく。