東京・表参道の〈エスパス ルイ・ヴィトン東京〉にて、米国人アーティストのラシード・ジョンソン(Rashid Johnson)による展覧会が4月27日より開催されています。
展示されている作品は、2014年に制作された〈Plateaus〉。日本では初披露となります。
ラシード・ジョンソンは1977年シカゴ生まれ。シカゴ美術館附属美術大学で写真を学んだあと、2001年に初の写真作品シリーズを発表。このシリーズが「ポスト・ブラック」と呼ばれる、ポスト公民権運動世代の一翼を担うものとして、米国内でたちまち評判を呼びました(ポスト・ブラックは、現代のアフリカ系アメリカ人アーティストによる作品カテゴリーを指し、彼らは単なる「黒人アーティスト」として一括りにされることを拒み、自らのアイデンティティの複雑な再定義を要求している)。その後、ラシード・ジョンソンは、2006年にニューヨークへと移り、写真だけにとどまらず、彫刻、絵画、ドローイング、映画、パフォーマンス、インスタレーションまで活動の幅をひろげています。
〈Plateaus〉は、ジャングルジムのようなスチール製の黒いグリッドの中に、陶製の鉢に植えられた植物、絨毯、焼かれた木材、積み上げれた本、無線機、白い固形物(シアバター)などが配置された作品です。
パリでの〈Plateaus〉展示・制作の様子(2017年)
#Fondation Louis Vuitton YouTube「Art/Afrique: Installation of the work Plateaus by Rashid Johnson at Fondation Louis Vuitton」(2017/04/29)
この作品を読み解くには、ラシード・ジョンソンが育った環境について思いを馳せる必要があります。展示空間の前室に掲示された解説文と、その奥に設置されたラシードへのインタビュー動画で、その一片が語られています。
ラシードの家庭では、アメリカの歴史とアフリカの歴史、政治と哲学が共に重要視されていました。彼の継父は、文学、作家、思想家(ジェイムズ・ボールドウィン、ヘンリー・ミラー、ジェイムズ・ジョイスら)への関心を導き、歴史家の母は、歴史に対する深い敬意をラシードに植え付けたとのこと。
これらを背景に、ラシードの作品は、自身の文化と、ミュージシャンのサン・ラやブーツィー・コリンズから、アーティストのヨーゼフ・ボイスやデイヴィッド・ハモンズまで、大きな影響を受け、多様に反映されています。
この多様性は、彼が用いる素材——ワックス、木、スチール、銅、シアバター[*]、陶器、本やLPレコード、ビデオテープ、植物、トランシーバーといったファウンド・オブジェクト(Found-object)を含むさまざまな構成要素となってあらわれ、今回展示されている〈Plateaus〉(2014)を構成しています。その1つ、無線機は、彼の父親がアマチュア無線家だったという思い出に基づくものです。
*.シアバター:かつて”奴隷海岸”と称されたアフリカ西部の湾岸地域から中央部にかけて生息する、アカテツ科のシアーの木の種子から抽出して得られる天然の植物性脂肪。主に天然の保湿クリームとして使用されている。ラシード・ジョンソンは、〈Plateaus〉について解説するインタビュー動画の中で、アフリカを出自とする米国人の多くがシアバターを身体に塗るという行為が示す潜在的な意味について考察している。
「私が用いる素材にはどれも実用的な用途があります。シアバターは、体に塗ること、そして、それを塗ることでアフリカ人らしさの獲得に失敗することを物語ります。
本は情報を広めるもの。狙いは、すべての素材が『異種混交』して、私を著者とする新たな言語へとなることです。
骨組みは、この異種混交のためのプラットフォームです。それは、コロニー化されるべき未知の空間として存在しています。」(ラシード・ジョンソン)
ジョンソンは、素材と歴史的引用を混ぜ合わせた彼の作品を通して、文化的、個人的、人種的なアイデンティティに疑問を投げかけます。その作品は必ずしも示威的というわけではなく、素材と人を模った彫刻と物が、感情の状態を表現する働きをするパズルとして捉えることができるでしょう。
今回展示される〈Plateaus〉は、ラシード・ジョンソンによる一連のインスタレーションの一環を成すもので、2014年に制作された最初の作品でもあります。
〈Plateaus〉の連作について、ジョンソンは最近、次のように述べています。
「ある意味、あの作品群は常に私と共に生きてきました。その中にあるすべての本、モニターで上映されるすべての映画、すべての有機的な素材…。それらはすべて、私が長い間、関わってきたシニフィアン(記号表現)であり、道具です。そうした本との出逢いは、子供の頃にはじまり大学院の頃、さらにそれ以降もあります。構造がグリッドであるのは、もちろん、消費する方法を民主化する手段です。
(中略)
それは、ヒエラルキーを感じさせません。私はいつも、こうしたインスタレーションを、脳と考えてきました。つまり、シニフィアンが成長・拡大し、他のシニフィアンと対話することを可能にする複雑な構造です。
もちろん、このような作品を読み解くのは容易ではありません。
私の子供時代のシアバターが、ハロルド・W・クルーズの本『The Crises of the Negro Intellectual』(黒人知識人の危機)とどんな関係があるのか? あるいは『アルコホーリクス・アノニマス』(アルコール依存症の自助会)の本と? あるいはヤシの木と?
私の作品を見る人は、これらのものを組み合わせ、それに行為主体性を与えはじめます。
こうしたインスタレーションは、時間を必要とします。それに空間と時間を与えた後で、アーカイヴという概念への言及、私の子供時代の個人的なアーカイヴについて知ることができるのです・・・。」(ラシード・ジョンソン)
本展は、フォンダシオン ルイ・ヴィトンが所蔵するアートコレクションを世界へ向けて紹介するプログラム、「Hors-les-murs(壁を越えて)」として企画されたものです(東京のほか、大阪、ミュンヘン、ヴェネツィア、北京、ソウルのエスパス ルイ・ヴィトンでも展開)。
ラシード・ジョンソンの活動において象徴的な位置を占める作品〈Plateaus〉が、建築家の青木淳氏が2011年にデザインを手掛けたことでも知られる、〈エスパス ルイ・ヴィトン東京〉の7階、3方ガラス張りの圧倒的な開放感を有する展示空間にて披露されます。
日没後はライトアップも行われ、昼夜の時間帯、さらには天候による差し込む光の加減で異なる表情をみせる作品の姿を鑑賞す
ることができます。
ラシード・ジョンソン(Rashid Johnson)プロフィール
1977年、シカゴ生まれ。コロンビア・カレッジ・シカゴとシカゴ美術館付属美術大学(米国)で学ぶ。2001年に最初の写真作品が米国で評判を呼ぶ。その後、ニューヨークに活動拠点を移し、写真のほか、彫刻、絵画、ドローイング、映画、パフォーマンス、インスタレーションなどの作品を発表。近年では、メトロポリタン・オペラの依頼による大作や、ニューヨークのストーム・キング・アートセンターで展示される野外彫刻を完成させている。カナダ国立美術館(オタワ)(2021年)、タマヨ美術館(メキシコ、メキシコシティ)(2019年)、アスペン美術館(米国コロラド州)(2019年)、ケンパー現代美術館(米国カンザスシティ)(2017年)、ガレージ現代美術館(ロシア、モスクワ)(2016年)にて個展を開催。グループ展も、第54回ヴェネツィア・ビエンナーレ(イタリア、2011年)、「The Forever Now: Contemporary Painting in an AtemporalWorld」(MoMA、米国、2014年)、「Grief and Grievance: Art and Mourning in America」(ニュー・ミュージアム、米国、2021年)など多数。
作品は、米国内のホイットニー美術館、グッゲンハイム美術館、シカゴ現代美術館をはじめ、フォンダシオン ルイ・ヴィトンを含め、多くの民間コレクションに収蔵されている。
映画作品として、リチャード・ライト著『Native Son』を映像化した長編デビュー作『Native Son』(邦題『ネイティブ・サン ~アメリカの息子~』)がある。
会期:2022年4月27日(水)〜9月25日(日)
会場:エスパス ルイ・ヴィトン東京
所在地:東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン表参道ビル 7階
開館時間:11:00-19:00
休館日:ルイ・ヴィトン 表参道店に準じる
入場料:無料
※会場内の混雑防止のため、入場を制限する場合あり
ハッシュタグ:
#EspaceLV
#CollectionFLV
#FondationLouisVuitton
Espace Louis Vuitton Tokyo WebSite
https://www.espacelouisvuittontokyo.com/ja/