東京・銀座5丁目に、成瀬・猪熊建築設計事務所が内装デザインを手がけた店舗〈meet tree GINZA(ミートトゥリー ギンザ)〉が12月8日にオープンしました。
『TECTURE MAG』では、オープンに先行して開催されたメディア内覧会を取材。店舗の概要と、桧(ヒノキ)を用いたデザインの見どころについてレポートします(特記なき画像はすべてTEAM TECTURE MAG撮影)。
meet tree(ミートトゥリー)は、岐阜県中津川市で100年以上続く老舗木材会社(丸山木材工業)を基とする、丸山木材ホールディングスのグループ会社として2018年4月に設立。社名は「木(tree)」に「会う(meet)」と書くと「桧」となる漢字に由来します。
同グループは、伊勢神宮をはじめとする国内のさまざまな木造建築に古来から用いられている桧(ひのき)の素晴らしさを多角・複合的に伝えるとともに、日本の森林保全と林業の隆盛を長期的なミッションとして掲げ、さらに地域の活性化を目指して、meet treeのほかにもさまざまな事業を展開しています。
meet treeは、「木に出会い、木を感じ、木と生きる」をコンセプトに、木と人々との豊かな関係を創造するサステナブル・ライフスタイルブランドです。主な商品は、伐採された桧の葉から抽出した成分を活用して開発した化粧品で、1号店〈meet tree NAKATSUGAWA〉を2021年3月に中津川市内にオープン(下の画。オープン後に「meet tree Café NAKATSUGAWA」に改称)。コスメ商品のほか、併設のカフェにて中津川の名産である栗(くり)を使ったスイーツメニューを提供しています。
この中津川の店舗の設計を、成瀬・猪熊建築設計事務所が担当しました。
成瀬・猪熊建築設計事務所が店舗を設計、木曽ヒノキから生まれた化粧品ブランドの直営店〈meet tree NAKATSUGAWA〉が岐阜・中津川にデビュー
中津川の〈meet tree Café NAKATSUGAWA〉では、CLT(Cross Laminated Timber / クロス・ラミネイティド・ティンバー)を用いて店舗が設計されましたが、東京初進出となる〈meet tree GINZA〉では、より中津川の木材にフィーチャーし、105mm角の桧を用いて2つのヴォールト天井がつくられ、銀座店のシンボルとなっています。
デザインコンセプト
木材会社が手がけるスイーツとコスメのショップということで、「材木屋らしさ」を大切にしながら、スイーツとコスメそれぞれが引き立つような空間をつくりたいと考えました。
105角の檜材で作った2つのヴォールトにより、材木の力強さ・迫力がありながら、独特の浮遊感のある空間をつくりました。それぞれのアーチがスイーツとコスメのエリアを緩やかに規定し、檜の森をイメージした深い緑色が店舗全体を包みます。
銀座に生まれた森の中で、 木の恵みから丁寧につくられたスイーツとコスメに出会うことのできる店舗です。(成瀬・猪熊建築設計事務所)
「丸山大知さん率いる丸山木材さんとは、拠点である中津川にオープンしたmeet tree(ミートトゥリー)ブランドの直営店と、昨年10月に開業したホテル〈お宿 Onn 中津川〉の2つのプロジェクトでお仕事をご一緒しました。日本の地方都市では今、若者の流出と住民の高齢化が問題となっていて、中津川も例外ではありません。丸山さんは、林業はもちろんのこと、まちを魅力的なものにしていくことでその問題に歯止めをかけ、地域を元気にしていくんだという強い思いを持って事業を展開され、私たちはそこにとても共感しています。
より多くの人々に「meet tree」の事業を知ってもらうには、地元だけでなく、やはり東京で、それも銀座に店を出すことが重要だという思いを受けて、今回の店舗デザインに取り組みました。
テーマとしては、材木屋がルーツであることをデザインで表現すること。そしてスイーツと化粧品という異なる2つの物販を、1フロアの中でどのように分けるかでした。エリアを緩やかに分けつつ、一体感ある空間となる2つのヴォールド天井を提案して、採用されました。かなり精度の高いものができたと思っています。」(成瀬友梨氏談)
「ブランドのルーツである中津川の桧を採用し、汎用材の105mm角の桧材で組んだ2つのヴォールト天井は、正方形の角材の両側をミリコンマ単位で削っています。スイーツ側は1.5mmずつ、コスメ側は2.5mmずつ削って台形とすることで、並べて連結すると、弧を描くように計算されています。約300mmピッチで入れたロングビスで木材同士を連結させ、1つの大きな梁のようになったヴォールトを、後ろの壁に入れた補強と、空間に馴染む茶系で塗装した鉄骨柱で支えています。浮遊感を出すために、柱は動線的に邪魔にならないのはもちろんのこと、さりげなく見えるように什器と組み合わせ、位置も調整しています。柱の細さなどにもこだわっていて、かなり構造的に難しいことを、オーノJAPANさんにやってもらい、実現した内装になります。」(成瀬氏談)
「銀座の店舗においては、ビル側の制約として排煙設備を設置しない代わりに、告示対応として内装不燃とする必要がありました。中津川産の採用にこだわった今回のデザインでは、角材に薬剤を注入して不燃処理をしこれに準拠しています。」(成瀬氏談)
「銀座の一等地の商業店舗として、2つのヴォールト天井の内装というインパクトのほかに、カラー選定も重要でした。店内の壁の色は、桧の緑、森の緑をイメージしたグリーンです。あざやかな森のような空間の中で、木の恵みから生まれた上質なお菓子と化粧品に出会う、そんな体験を提供する空間としてデザインしました。」(成瀬氏談)
「なぜ、クリの菓子を提供しているかというと、クリは栗の木の果実です。一般的に、木材は建築で使われるイメージが強いと思いますが、紙の原料や燃料などにも使われています。切り出す前は、山で水を蓄え、地盤を守る大事な役目を果たしてくれます。CO2を取り込み酸素を吐き出して、切っても植えれば再生できる。先達は長い年月をかけて山を守ってきました。ですが近年、海外から廉価な木材がどんどん入ってきて、日本の林業がダメになってしまっています。私たちはそれをなんとかしたいし、先達から受け取ったバトンを次の世代にもきちんと渡さなくてはいけない。国産木材がもつ無限の可能性について、私たちはさまざまな事業を展開し、追求しています。中津川に地元の木材を使ったホテルを成瀬・猪熊のお二人に設計してもらって開業したのも、たとえば客室の床をなぐり加工にして、素足で木の良さを体感してほしいと思ったからです。meet tree(ミートトゥリー)の店舗も体験型のブランドショップです。栗(クリ)のスイーツを召し上がって、桧の葉からとれる化粧品を使っていただくというかたちで、皆さんが木と出会い、今の日本の林業について少しでも目を向けてもらえたらと、meet treeの事業を始めました。(meet tree社長・丸山木材ホールディングス代表取締役 丸山大知氏談)
所在地:東京都中央区銀座5丁目11番12号 日総第26ビル1階(Google Map)
営業時間:10:30-20:30
定休日:なし(年末年始を除く)
グランドオープン:2023年12月8日(金)
延床面積:87.92m²
内装設計:成瀬・猪熊建築設計事務所(猪熊 純、成瀬友梨、丸伊紫仍、並木雅人)
構造設計:オーノJAPAN(大野博史 小出 孟)
電気設備:成田青波
空調・衛生設備:増川建築設備設計(増川智聡)
施工:乃村工藝社(菊地野原、戸田圭亮、岩佐圭介)
meet tree ウェブサイト
https://www.meettree.net/