文化庁が管轄する登録有形文化財の建造物として、菊竹清訓作品として知られる〈島根県立図書館〉を含む132件が新たに登録される予定であることが、2021年(令和3)3月19日に発表されています。
文化審議会の答申(登録有形文化財 建造物 の登録)について(2021年3月19日付)
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/92882201.html
一覧表
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/92882201_03.pdf
本稿では、このうち3件を外観画像とあわせて取り上げます(テキストは答申内容を元に、編集部にてURLの追記や取材内容などの補足を行っています)。
所在地:島根県松江市内中原町52(Google Map)
竣工年:1968年(昭和43)
http://www.library.pref.shimane.lg.jp/
旧松江藩の薬草園跡地に位置。鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)の2階建ての図書館。隣接する〈島根県立武道館〉ともに、島根県内に多数の公共建築を設計した菊竹清訓(1928-2011)の作品。L字形の閲覧室を敷地形状にあわせて配置し、中央ロビーに鉄骨屋根を架け、ロビーに面してすべての室を展開させた明快かつ合理的な平面構成。外部の壁柱は松江城山公園に向けて揃え、眺望を確保している。
なお、菊竹作品では、図書館に隣接する〈島根県立武道館〉も今回の答申一覧に記載され、2019年には〈旧島根県立博物館新館(島根県庁第三分庁舎)〉も登録有形文化財となっています。
所在地:鹿児島県熊毛郡屋久島町永田(Google Map)
建設年:1897年(明治30)
http://www.town.yakushima.kagoshima.jp/cust-facility/1451/
現存する明治期灯台では最南部の、屋久島北西の永田岬に位置する。台湾の開発のため陸軍省が設置した台湾航路8灯台のうちの1基で、設計は臨時台湾燈標建設部。煉瓦造の灯塔上部にバルコニーを廻(めぐ)らし、下部に扇形平面の附属舎を有する。出入口付近にはペディメントと柱形をあらわし、附属舎とも軒に歯飾(はかざり)をもつ。峻険(しゅんけん)な要衝の景観にも寄与している。
所在地:兵庫県神戸市
建設年:1930年(昭和5)
ホテルとして建設された。摩耶山南麓中腹に建つ。L字形平面を持つ地下2階、地上2階建ての鉄筋コンクリート造で、4層の外観各階に水平の連続庇(れんぞくびさし)をまわして曲面を強調し、大きな開口を有する。内部の大ホールや大食堂は、コンクリートの大梁をあらわして大空間を分節。舞台などの内装にはアールデコ調の意匠がみられる。かつての山上リゾート施設の有様を示している。
上の内観写真からもわかるように、1993年(平成5)に営業を終了している旧摩耶観光ホテルは現在、廃墟となっています。その朽ちた佇まいから「廃墟の女王」と呼ばれているとのこと。
マヤカンこと旧摩耶観光ホテルの保存・再生の道をさぐるプロジェクトとして、全国の近代化遺産を記録・見学する活動を行っているNPO法人J-heritage(代表:前畑洋平)と、歴史的建造物の保存・活用を図るヘリテージマネージャーのネットワーク組織である、NPO法人ひょうごヘリテージ機構H2O神戸(理事:松原永季)およびマヤカンの所有者である日本サービス(代表取締役:三宮正裕)の3団体により、登録文化財申請のための支援を求めたクラウドファンディング(下記)が2017年に実施され、終了前に目標金額に達しています。
旧摩耶観光ホテルの歴史などについては、このクラファンプロジェクトの概要ページが詳しいので、そちらを参照してください。内外観の現状写真も複数枚掲載されています。
「近代化遺産を未来へ、旧摩耶観光ホテルをみんなの力で守りたい!」
https://readyfor.jp/projects/mayakankohotel
今回の登録申請は、地域に眠る歴史的文化遺産を発見し、保存し、活用し、まちづくりに活かす能力を持った人材=ヘリテージマネージャーの育成を目指す団体、ひょうごヘリテージ機構(Hyogo Heritage Organization: H2O)が主体となっています。
NPO法人ひょうごヘリテージ機構H2O
http://hyogoheritage.org/
同機構・NPOひょうごヘリテージ機構H2O神戸の松原理事に取材したところ、登録文化財を目指した理由は大きく2つあり、1つは、近代遺産であるマヤカンの魅力や価値を伝え、周知させるため(登録されることで [本稿が取り上げたように] メディアに露出する機会が増えます)。2つめの理由として、建物を再生する場合の活用事業において、文化財であることが条件となっている場合があり、登録により選択肢が増えるとのこと。
文化財として登録された場合、指定か登録かによって、改修できる条件が異なります。登録有形文化財の場合は規定が緩やかで、場合によってはリノベーションなどによる建物再生の道も開かれています。
この「現状変更」については、下記の章で触れます。
近年の国土開発や都市計画の進展、生活様式の変化などにより、社会的評価を受けないまま解体され、消滅する危機に晒されている、多種多様かつ大量の、近代などの文化財建造物を後世に継承していくために、一部を改正し、1996年(平成8)10月1日に施行された文化財保護法に基づく登録制度です。
登録までの流れは、原則として建設後50年を経過した建造物で、文化財としての価値があり、保存および活用についての措置が特に必要とされるものとして、調査などを経て申請があったものについて、文部科学大臣の諮問機関である文化審議会が審査し、議決されたものが大臣に答申され、文化財登録原簿に登録されます。
登録有形文化財(建造物)は、従来の指定制度(重要なものを厳選し、許可制等の強い規制と手厚い保護を行うもの)を補完する制度で、文化庁は、届出に基づく指導・助言などを基本とし、緩やかな保護措置を講じ、補助事業なども行っています。指定の文化財に比べ、規定が緩やかなのが特徴で、登録後の現状変更も、規定の範囲内で可能となっています[*1]。
*1.文化庁ウェブサイト『登録有形文化財建造物制度の御案内』より
文化庁ウェブサイト「有形文化財(建造物)」ページ
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/
今回の答申により、上記の3件のほか、新潟の高田家住宅、旧石川県庁舎本館、大阪の狹間ハウスなど、合計132件が登録される予定です。建設年での内訳は、江戸期で27件、明治期42、大正期22件、昭和期で41件。登録有形文化財の建造物の総数は、13,097件となります。(en)