建築家の丹下健三(1913-2005)が設計した公共建築の1つとして名高い、香川県庁舎旧本館および東館(以下「県庁舎東館)が、先ごろ、国の重要文化財に指定されました。
2021年11月19日に開催された、文化審議会文化財分科会において、建造物1件(新規1件)を国宝に、10件の建造物(新規10件)を重要文化財に指定する旨の文部科学大臣への答申があり、2022年2月9日に正式に指定されたとのこと。
戦後に建てられた庁舎が、国の重要文化財に指定されるのは全国で初となります。
庁舎の竣工当時、知事室の執務机は、デザイナーの剣持 勇率いる剣持デザイン研究所がデザインを担当したほか、地元・香川出身の画家・猪熊弦一郎(1902-1992)が、壁のタイル画〈和敬清寂〉を制作するなど、建築家・丹下のこだわりはインテリアにも深く及んでいたことが窺えます。
今回の指定では、建築だけではなく、庁舎とともに製作された南庭の石灯籠、庵治石の受付カウンターといった什器、椅子などの家具、合わせて57点も、建築空間を構成するものとして、重要文化財の一部に指定されているのが大きなポイントです(公益社団法人香川県観光協会プレスリリース / 香川県公式ウェブサイト「Kagawaトピックス」より)。
以下・重文の選定理由のテキストは、文化庁の報道発表資料より(「文化審議会の答申(国宝・重要文化財[建造物]の指定)について」概要(2021年11月19日)。
指定基準=意匠的に優秀なもの、歴史的価値の高いもの
高松市の中心地に位置する、昭和33年(1958)の建築で、建築家丹下健三が模索した、鉄筋コンクリート造による日本の伝統建築の表現を、柱や梁、庇からなる軽やかな意匠で達成した。
低層の東館と高層の本館を組み合わせ、一階を階高の高いピロティとロビーとして県民に開かれた庁舎とし、本館中央にエレベータや設備を集中させたコアをつくって他をフリープランとするなど、その後に全国で建築された庁舎建築の模範となった。
芸術家との協働による壁画や家具等もよく残る。戦後の庁舎建築の到達点のひとつとして、歴史的価値が高い。
丹下は、県庁舎東館1階に執務室をつくらず、ピロティとしました。ロビー空間は、県民のためのオープン・スペースで、平日は誰でも出入りが可能となっています。
配置されている家具類の多くは、丹下健三氏によって設計され、同県高松市牟礼町に本社と工場を構える、桜製作所が製作に携わっています。
香川県では、建物を保存するため、2018年(令和元年)に、建物と地盤との間に免震装置を追加する工事を完了し、防災拠点となる施設として十分な耐震安全性を確保しています。
なお、この改修工事は、「2020年度国土交通大臣賞耐震改修優秀建築賞」を受賞しています(大林組2021年5月27日プレスリリース)。
香川県公式ウェブサイト
香川県庁舎東館の文化的価値について(パンフレットデータ公開)
https://www.pref.kagawa.lg.jp/zaisankeiei/higashikan/kfvn.html#a5
今回の国宝・重要文化財指定を受けた建造物
国宝:霧島神宮本殿・幣殿・拝殿 1棟
重要文化財:
旧三井銀行小樽支店 2棟(本館、附属家)/ ニッカウヰスキー余市蒸留所施設 10棟(事務所棟、蒸留棟、貯蔵棟、リキュール工場、第一乾燥、第二乾燥塔、研究室・旧宅、旧事務所、第一貯蔵庫、第二貯蔵庫)/ 上野家住宅 5棟(主屋、文庫蔵、質蔵、穀倉、表門)/ 京都ハリストス正教会生神女福音聖堂 1棟 / 江埼灯台 1基 / 美保関灯台 3棟(灯台、旧吏員退息所、旧第一物置)/ 出雲日御碕灯台 1基 / 香川県庁舎旧本館及び東館 1棟 / 若戸大橋 / 鹿児島神宮 3棟(本殿及び拝殿、勅使殿、摂社四所神社本殿)
文化庁発表資料
「文化審議会の答申(国宝・重要文化財(建造物)の指定)について」
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/93557901.html