神奈川県鎌倉市に、〈英国アンティーク博物館 BAM鎌倉〉が9月にオープン。建物の設計を、建築家の隈 研吾氏が担当。ファサードのビジュアルなどが8月4日に発表されました。
施設の立地は鶴岡八幡宮の参道・若宮大路沿い。鶴岡八幡宮の三の鳥居にも近い、鎌倉のメインストリートに面しています。
〈BAM鎌倉〉のコンセプトは「OLD&NEW」。次の世代にアンティークの魅力を伝え、モノや人の手仕事を引き継ぐ素晴らしさと大切さについて、より多くの人に感じ取ってもらいたいという、館長を務める土橋正臣氏(鎌倉アンティークス代表)の思いから誕生した私設博物館です。
英国文化に強い思い入れと情熱をもつ土橋氏は、建物の設計を、英国・ロンドンのヴィクトリア・アルバート・ミュージアムの分館〈V&A at Dundee〉(2018年)を手がけた隈氏に依頼。隈氏は、古都・鎌倉の参道にふさわしい建物として、この地の名を関する伝統工芸・鎌倉彫(かまくらぼり)から着想を得た木造のファサードをデザインしました。
YouTubeで公開されている、隈氏と土橋館長の対談動画によれば、当初の計画ではあった開口部(窓)を若宮大路側からは取り払い、檜(ヒノキ)による木造ルーバーで覆っています。このクローズドは、歴史あるアンティークを閉じた空間において純粋にみせたいという、隈氏の設計意図によるものとのこと。
#英国アンティーク博物館 BAM鎌倉 YouTube「隈 研吾スペシャルインタビュー『英国アンティーク博物館BAM鎌倉』を語る! Interviewer:館長 土橋正臣」(2022/07/07)
公開されたイメージパースでは、壁一面に名栗加工を施したファサードのようにも見えますが、巾42mmのヒノキのルーバーを、33mmの隙間をあけて垂直方向に並べ、その表面に、大きな彫刻刀で削ったような跡をつけています。”刀痕”のサイズは、上層にいくほど小さくなり、遠近(パース)の視覚効果を狙ったとのこと。
ファサードは、縦方向に4分割されたルーバーをつなぎあわせて1枚のパネルとし、つなぎあわせて壁一面を構成しています。
檜のルーバーパネル全体に”鎌倉彫り”を施す際に、間にスギの角材を挟んだ状態でパネルごとに削り出し、杉材を抜くという工程を経ており、いわば”用なし”となった杉材は、エントランスから奥へと続く、1階フロアの天井の全面に用いられ、外と内とをゆるやかにつないでいます。
ファサードの木材加工と施工については、BAM鎌倉のYouTubeチャンネルで公開されている、加工会社・翠豊の社長と土橋館長の動画などで詳しく説明されています。
#英国アンティーク博物館 BAM鎌倉 YouTube「隈研吾デザインBAM鎌倉のファサード木材加工を語る!!翠豊 今井社長×土橋館長」(2022/07/17)
対談動画によれば、建設工事の段階で、約800年前の参道の段葛(だんかずら)の遺構、北条氏の旧邸宅と段葛を隔てていた土留(どどめ)とみられる木材が出土したとのこと。泥に埋まっていたため腐食を免れたこの遺構は、土地の歴史性を後世にも伝えたいと、館の最上階・4階に用意されるティールーム(茶室)にて、インテリアの一部として再生されます。
古材を用いたこのデザインは、隈氏が〈V&A at Dundee〉で行っている、チャールズ・レニー・マッキントッシュがデザインしたティールーム(the Oak Room)へのオマージュでもあるようです。
また、4階のティールームでは、古材が出たまわりの土を含ませて特注で漉いた和紙が、インテリアのマテリアルとして用いられます。茶室の床には、英国で12世紀創業というホテルの改修の際に出た、200年以上前の木材が張られているとのこと。館のコンセプト「OLD&NEW」の具現化の事例です。
隈 研吾氏コメント
「英国と日本のつながりは深く、例えばスコットランド出身の建築家、チャールズ・レニー・マッキントッシュは、日本の建築・デザインに影響を受け、旧V&Aのティールームをつくった。そのデザインは、まさに日本そのものであり、私が2018年に設計デザインした〈V&A at Dundee〉にて再現されている。館内には、英国アンティークと近代的な電気自動車が展示されており、まさに「OLD&NEW」という、時代を超えた融合ともいえます。今回、鎌倉の歴史ある段葛の参道に建つ、英国アンティーク博物館〈BAM鎌倉〉には、土橋氏の集めた100年以上の歳月を吸い込んだ、純粋なアンティークが並びます。その意味で、建物のデザインは、どこまでも純粋でなければならないと考えました。幾度となく熟考を重ねた結果、すべての窓を無くし、シンプルに整え、鎌倉の伝統文化を象徴する鎌倉彫にインスピレーションを受けたファサードを採用しました。
かつて、英国ナショナルトラストの理念をもとにした、大佛次郎を中心とした文化人らによる自然保存活動で守られた、鶴岡八幡宮の裏山から連なる里に根差した〈BAM鎌倉〉の建築は、鎌倉で大切に引き継がれる文化施設として愛されることになることでしょう。」
また、英国アンティーク博物館〈BAM鎌倉〉のYouTubeチャンネルでは、檜のファサードのモックアップ確認の様子や、隈研吾建築都市設計事務所で長年にわたりパートナーを務めている、大庭 晋氏へのインタビュー動画なども公開されています。
大庭晋氏インタビュー(インタビュア:土橋館長)
https://www.youtube.com/watch?v=pwnJBiy3dJE
英国アンティーク博物館〈BAM鎌倉〉の館内で展示されるのは、100年以上の歴史をもつアンティーク。各フロアには「ヴィクトリア時代」、「シルバーウェア」、「シャーロック・ホームズ」といったテーマごとの空間展示を展開。
1階・グランドフロアには、ロンドン名物のタクシー・ブラックキャブのビンテージカーの展示を眺められるカフェが用意されます。
土橋正臣氏プロフィール
長崎大学薬学部大学院修了。ファイザー製薬中央研究所の研究員を経て、2007年にファーマブリッジを設立。大学院卒業後に初めて訪れたたイギリスの文化に衝撃を受け、2012年に鎌倉アンティークスを設立。大船と横浜笠間にそれぞれ店舗・ギャラリーを構えるほか、英国アンティーク輸入やイギリス関連イベントのコーディネートなども手掛ける。本物のブラックキャブを年代別に所有する、日本一のロンドンタクシーコレクター。古き良きものを継承する啓蒙活動の一環「No Antique No Life」として、長年の夢であった、英国アンティーク博物館〈BAM鎌倉〉を鎌倉に建設、2022年に館長に就任。
英語表記:BRITISH ANTIQUE MUSEUM KAMAKURA
所在地:神奈川県鎌倉市雪ノ下1-11-4-1(Google Map)
営業時間:10:00-17:00(変更になる場合あり)
休館日:月曜(祝日の場合は開館)
開業日:2022年9月23日(金・祝)
施主:鎌倉アンティークス(代表 土橋正臣)
設計:隈研吾建築都市設計事務所
施工: キクシマ
相談役:北原照久(ブリキのおもちゃ博物館 / トーイズ代表取締役)
〈BAM鎌倉〉公式ウェブサイト
https://www.bam-kamakura.com/