CULTURE

新・帝国劇場の設計を小堀哲夫建築設計事務所が担当

谷口吉郎の名建築と演劇精神を受け継ぐ、「未来を見つめた日本らしさ」を表現した劇場に

CULTURE2025.01.24

新たに建て替えられる帝国劇場の設計を、建築家の小堀哲夫氏が担当し、現時点での内外観のデザインイメージ計5点が1月16日に発表されました。
帝国劇場(略称:帝劇)運営を担う東宝が、建物としては2代目となる現・帝国劇場にて発表したもので(東宝 2025年1月16日プレスリリース)、東宝が行なった、複数の建築家を指名したプロポーザルで小堀氏の提案が選出されたとのこと。
記者発表会には、小堀氏と、東宝の常務執⾏役員の池田篤郎氏も出席。3代目となる新・帝国劇場の概要を説明するとともに、集まったメディア記者からの質問にも応じました。
『TECTURE MAG』は1月16日に行われたこの記者発表会を取材、小堀氏にも現地にて聞き取りを行なっています。

谷口吉郎が設計した帝国劇場(2代目)外観

谷口吉郎が設計した現在(2代目)の帝国劇場 外観 Photo: TEAM TECTURE MAG

新・帝劇 記者発表会 風景

2024年1月16日に帝国劇場 1Fロビー・大階段前の空間にて行われた記者発表会の様子 Photo: TEAM TECTURE MAG
新・帝国劇場の外観イメージビジュアを背に立つ出席者(左:常務執⾏役員エンタテインメントユニット演劇本部⻑ 池⽥篤郎氏 / 右:建築家・小堀哲夫氏)。壁面の巨大な仮面は、彫刻家の本郷 新(1905-1980)による作品の一部、その上層に見えるステンドグラスは画家の猪熊弦一郎1902-1993)の作として名高い

帝国劇場 沿革

帝国劇場の開場は1911年(明治44)。伊藤博文、渋沢栄一といった当時の政財界の要人が発起人となり、実業家・大倉喜八郎(1937-1928)の主導で、建築家で横河グループの創業者でもある横河民輔(1864-1945)の設計により、日本初の本格的な西洋劇場として建設されました。1923年(大正12)の関東大震災により内部が焼け落ちたものの、改修して営業。そして現在の劇場は、東宝の演劇担当役員であり、『君の名は』の原作者として名高い劇作家・演出家の菊田一夫(1908-1973)の熱意のもと、現・帝劇ビル内に建てられたもので、建築家の谷口吉郎(1904-1979)が設計を手がけたことでも知られています。


#東宝 YouTube:現帝国劇場 振り返りPV(2025/01/16)
明治期の開館当時、”白亜の殿堂”と呼ばれた初代・帝劇の外観など貴重な写真と過去の上演作品の名場面などで構成

1966年(昭和41)に開館した2代目・帝国劇場は、舞台『風と共に去りぬ』を柿落としに、舞台やミュージカル、そして歌舞伎まで、数々の名作を上演してきましたが、帝劇ビルおよび国際ビルの一体型再開発のため、ミュージカル『レ・ミゼラブル』を最後の演目として2025年2月に休館に入ります(再開発プロジェクトの全体概要は、昨年12月に掲載した『TECTURE MAG』のニュースを参照)。

 

新・帝国劇場 建築デザインコンセプト「THE VEIL(ヴェール)」概要

新・帝国劇場(3代目)外観イメージ

新・帝国劇場 有楽町駅側からの外観イメージ(小堀哲夫建築設計事務所 提供)
※本稿掲載のイメージ画は全て検討段階のもの、今後行政協議などにより変更となる可能性あり

新・帝劇 記者発表会 風景

「海外の演目をもってくる際に、帝劇だからこそ上演が許可されることがある。昔も今も日本のフラッグシップの劇場である帝劇、その名前を継いでいく3代目の劇場としてふさわしいデザイン。土地性・歴史性への読み取りの深度も深く、ロケーションの活かし方も素晴らしかった」と、小堀氏からの建築提案を高評する池田氏(東宝) Photo: TEAM TECTURE MAG

新・帝国劇場の建築のコンセプト「THE VEIL(ヴェール)」について

3代目となる新たな帝劇は、2030年度のオープンを目指し、これから本格的にプロジェクトが進行します。
新・帝国劇場の設計者に指名された小堀氏は、今回の提案について、次のように語りました。

「建築を提案する際には、その土地の歴史や場所性、そのまち文化というものを最初に考えます。そこから建築というものが立ち上がってくる。建築の始まりとしてそれが重要だと考えています。
帝国劇場の前には、皇居という巨大なヴォイド、巨大な自然が存在しています。この場所を訪れたとき、お濠の水面のきらめき、美しい光と緑といった豊かな自然が印象として強くありました。新たな帝国劇場は、そのことに人々が気づく場所、建築であるとよい。しかも、そのことが直接的に見えるのではなく、豊かな自然のエッセンス・自然のワンダーといったものが、建築のフィルターを通して感じられる場所としたい。そこで、周囲の自然を纏(まと)い、自然に包み込まれるようなイメージが、新しい劇場にふさわしいのではないかと考え、コンセプト「THE VEIL(ヴェール)」を提案しました。」(記者発表会終了後の小堀氏への取材内容を付加し、編集部でコメントを要約、下の段落に続く)

帝国劇場(2代目)ほか

皇居のお濠(日比谷濠)に面した帝国劇場ほかエリアの街並み Photo: TEAM TECTURE MAG


#東宝 YouTube:新たな帝劇へ(2025/01/16)※小堀氏インタビューを収録

「新たな帝国劇場では、例えば夜の開演を待つあいだ、現在は壁で閉じられている西側から、ヴェールを通して柔らかい夕暮れの光が徐々に差し込んできます。その華やかさや美しさを光の粒として取り入れることで、人々は外の世界の自然の移ろいや、豊かさを想像することができるでしょう。光の粒と高揚感に包まれていた人々は、やがて客席へと向かい、照明も次第に落とされて、舞台だけにスポットがあてられた世界での観劇体験となります。この光の推移、アプローチは、劇場という空間では重要だと考えました。
ホワイエの賑わい、華やかな様子は、ヴェールを通して日比谷のまちからも垣間見ることができます。劇場の華やぎがヴェールを通して建物の外へ、まちへと滲み出ていく。そうしてこの劇場は、まちの舞台にもなるのです。」(小堀氏談)

新・帝国劇場(3代目)外観イメージ

新・帝国劇場 正面エントランスイメージ(小堀哲夫建築設計事務所 提供)

新・帝国劇場(3代目)内観イメージ

新・帝国劇場 客席内部イメージ(小堀哲夫建築設計事務所 提供)
舞台・客席・ホワイエ・カフェなどを含めた劇場は、新築ビル低層部の地上4階から地下2階に配置予定

「未来を見つめた日本らしさ」を表現した劇場に

「正面性をもったエントランス、ホワイエ・客席・舞台へと至る連続性は、新たな帝国劇場の格式をつくります。ヴェールのように幾重にも重なる空間をくぐり、体験が変化していくことで、客席に至るまでのアプローチ全体も含めて、この場所でしかできない豊かな観劇体験をつくり出します。帝国劇場のもつ華やかさを発展させながら、世界に向けて発信できる日本の劇場として、すべての人に高揚を与える、そして心地よい空間となることを目指します。それは「未来を見つめた日本らしさ」でもあります。これらのコンセプトのもと、関係者とともに現在設計を進めているところです。」(東宝プレスリリース記載の小堀哲夫氏コメントより)

新・帝国劇場 設計チーム
・PM / CM:日建設計コンストラクション・マネジメント
・劇場コンサルタント:シアターワークショップ
・設計:小堀哲夫建築設計事務所


小堀哲夫氏プロフィール
小堀哲夫氏 近影

1971年岐阜県生まれ。建築家、法政大学(デザイン工学部建築学科)教授、小堀哲夫建築設計事務所主宰
その場所の歴史や自然環境と人間のつながりを生む、新しい建築や場の創出に取り組む。
日本建築学会賞、JIA日本建築大賞、Dedalo Minosse国際建築賞特別賞、Architecture Master prizeなど、国内外において受賞多数。これまでの主な作品に〈ROKI Global Innovation Center –ROGIC〉、〈NICCA INNOVATION CENTER〉、〈梅光学院大学 The Learning Station CROSSLIGHT〉〈光風湯圃べにや〉などがある。

小堀哲夫建築設計事務所 / Tetsuo Kobori Architects(TKA) Website
https://tk-a.jp/

 

新・帝国劇場(3代目)外観イメージ

新・帝国劇場 皇居外堀(日比谷濠)を挟んで外観イメージ(小堀哲夫建築設計事務所 提供)
新たな帝国劇場の正面エントランスも現在と同じく南側(画面向かって右の側面)に配置される

新・帝国劇場(3代目)外観イメージ

新・帝国劇場 皇居・日比谷濠を挟んで南西側からの外観イメージ(小堀哲夫建築設計事務所 提供)

新・帝国劇場の特徴

1.正面性をもたせた格式高いアプローチ
新たな帝国劇場は、劇場の配置を90度回転。現在と同じ5th通り(南側)に面して設けるメインエントランスの正面に客席が配置される。開演・終演時に発生する入退場者の混雑緩和に配慮した動線計画に。

2.ゆとりと一体感ある観劇空間
現在の劇場と同等数程度の客席数を設けつつ、より見やすいサイトラインを備えた、ゆとりのある座席に。これまで以上に快適な観劇環境を提供し、この帝劇でしか体験できない、より一体感が感じられる客席空間を目指す。

3.演出の可能性を最大限に引き出す最新の舞台設備
舞台空間も現在の劇場と同規模とし、世界レベルの最先端の舞台技術を導入。演出の自由度を確保し、舞台面はフレキシブルに開口を設けられるユニット機構を採用。舞台袖上部には十分な作業性・安全性を確保したテクニカルギャラリーなどを設ける。演者やスタッフのための楽屋やバックヤードのスペースの快適性にも配慮し、誰にとっても心地良い劇場に。

4.劇場と日比谷の街をつなげる、ロビー・ホワイエ空間・カフェの拡充
ロビー・ホワイエ空間が広がり、より心地よく過ごせるとともに、カフェやバーなどの充実を図ることで多様な過ごし方ができる空間となります。またトイレ等のユーティリティ機能を拡充し、幕間も含めた総合的な観劇体験の充実を図ります。さらに、有楽町駅側の南東の一角には、一般の方も利用できるカフェ等を劇場に併設し、観劇前後や公演以外の時間も楽しめる劇場となります。劇場と日比谷の街がより一体となって地域に親しまれる劇場を目指す。

5.劇場全体でのアクセシビリティ強化
新たな劇場もこれまでと同様に、都内の複合施設では数少ない、1階に客席がある劇場となる。屋外から客席まで段差なくアクセスでき、地下にはエレベーター・エスカレーターを設けた劇場ロビーを新設。施設内の商業スペースへのアクセスも向上させ、公演の前後の体験も含めて、誰もが心から楽しめる劇場に。

※東宝プレスリリースをもとに、1月16日記者発表会時の内容を付加して要約

新・帝劇 記者発表会 風景

フォトセッションでは、新・帝国劇場の模型も披露された Photo: TEAM TECTURE MAG

本件に関する東宝プレスリリース(2025年1月16日)
https://teigeki.tohostage.com/closing/news20250116.html

注.本稿のテキストおよび画像は、2025年1月16日時点のものであり、今後は一部が変更される場合あり
注.現・帝国劇場の内部のデザイン・仕様については、帝劇ウェブサイトの「フォトギャラリー」を参照した
https://teigeki.tohostage.com/photo_gallery/


Photographs and texted by Naoko Endo / TEAM TECTURE MAG
※但し、東宝からの広報素材(小堀哲夫建築設計事務所提供の画像など)を除く

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