CULTURE

周防貴之氏デザイン、河瀨直美氏プロデュースのパビリオン〈 Dialogue Theater - いのちのあかし - 〉

[大阪・関西万博]シグネチャーパビリオン紹介

CULTURE2025.04.08

EXPO2025 大阪・関西万博テーマ事業「いのちを守る」のシグネチャーパビリオン〈 Dialogue Theater – いのちのあかし – 〉は、映画作家の河瀨直美氏(注.河瀬氏の「瀬」は旧字体が正)がプロデューサーを務め、建築設計を周防貴之氏(SUO)、植栽・環境デザインを齊藤太一氏(DAISHIZEN)が担当しています。

2つの廃校舎の記憶を移築したパビリオン

奈良県十津川村と京都府福知山市から、廃校となった2つの木造校舎を移築、活用したパビリオン会場は、シンボルツリーのイチョウの木を囲むようにエントランス棟(ホワイエ)、対話シアター棟、記憶の庭、森の集会所で構成されています。

シンボルツリーのイチョウは伐採されるはずだった校舎脇のイチョウの木を養生・移植したもので、廃校舎の壁に茂っていたツタも建物とともに移植されました。

エントランス棟(左)、対話シアター棟(中央奥)、森の集会所(写真右)、手前が記憶の庭 ©Naomi Kawase / SUO, All Rights Reserved.

パビリオンには、廃校となった奈良県十津川村立 旧折立中学校と京都府福知山市立 旧細見小学校中出分校の校舎を活用しています。3棟はいずれも昭和前半に建てられた、歴史ある木造校舎です。校舎の残す部分と大胆に変える部分を混在させ、単に古さをノスタルジーとして味わうのではなく、建築に刻まれた時間を少しずつ丁寧に分解した上で、新しい建築に生まれ変わらせることを目指しています。

校舎に寄り添い育ってきた推定樹齢100年のシンボルツリーのイチョウ(アテンダントスタッフ後方) Photo: TEAM TECTURE MAG

一つ一つ丁寧に解体した校舎の部材を会場に運び、再度パビリオンとして新しい形に組み立て直しています。エントランス棟と対話シアター棟は校舎の木造躯体だけでなく、瓦屋根や板張りの壁もできる限り利用し、古い木材や瓦と、真新しいコンクリートやガラスが交じり合った建物になります。柱や梁に残るこの学校に通った子供たちの落書きなど、建物に刻まれた時間や記憶を大事にし、新たないのちを吹き込みます。

©Naomi Kawase / SUO, All Rights Reserved.

©Naomi Kawase / SUO, All Rights Reserved.

建築設計 周防貴之氏(株式会社SUO)コメント

この建築は、廃棄物の埋立地である夢洲に立つ、古くて新しい建築です。社会の変化によって役割を失い、解体が決まっていた建築、もしかしたらこの土地の一部として埋まっていたかもしれない建築。夢洲という場で、この廃建築にパビリオンという役割を与えることは、意味のあることだと思いました。代々、大切に使われてきた建物を丁寧に解体し、一つ一つ部材をチェックし、また一つ一つ部材を組み立て、パビリオンとして新しい形に作り上げていく。気の遠くなるような作業の積み上げでしか作ることのできないこの建築は、効率を重視することに慣れた私たちには異様に映るかもしれません。一見、古くて、ボロボロの建築だけれど、世界中から人々が集まる万博という場で生き生きとした姿を見せて欲しいと思っています。私たちの世代が、こうした建築や物事のあり方を美しいと感じられる世代でありたいという願いを込めて。

©Naomi Kawase / SUO, All Rights Reserved.

©Naomi Kawase / SUO, All Rights Reserved.

植栽・環境デザイン 齋藤太一氏(株式会社DAISHIZEN)コメント

かつて十津川や福知山の里山には、子どもたちが学び、遊んだ校舎と校庭がありました。そこに佇み、静かに見守ってきた草木は、子どもたちがいなくなった今もなお、その記憶とともに息づいています。校舎の壁を覆っていたツタ、雑草と呼ばれる小さな命、そして大きなイチョウの木。それらは校舎の取り壊しに伴う伐採の危機を乗り越え、万博会場へと移されました。新たな地、華やかな万博の地で草木たちは、かつての賑わいが戻ったように喜び、輝きを取り戻しています。枝葉を広げ、世界中から訪れる人々をあたたかく迎え入れ、静かに見守りながら、そっと受け止めるでしょう。

©Naomi Kawase / SUO, All Rights Reserved.

©Naomi Kawase / SUO, All Rights Reserved.

対話シアター内観 © Naomi Kawase, All Rights Reserved.

プロデューサーが語る「パビリオンの推しポイント」

このパビリオンは150名の来場されたみなさんでシアターに入り、そこで対話を繰り広げていただきます。一期一会のシナリオのない、筋書きのない対話。それは人生にも似ていて、どこに行くか分からないけれども、まず一歩踏み出す先に未来の何かにつながっている。そういう意識をもってシアターを出ていくときには、手水鉢があって、移植したイチョウの木が芽吹いている。森の集会所で今得てきた対話、見てきた対話をアウトプットしていただきます。

廃校になった校舎を移築したパビリオンは、これまでの万博史上でも初めてなんじゃないかと言われています。これからの未来、先を、先を見て、そして発展、発展といった先に何があるのか、何か頭打ちしてしまうことがあるのではないかということを、この古いものと新しいものの融合でできたパビリオンでは考えます。

古い時代にかつて私たちを育んでくれたものたちにまずはフォーカスをして、そしてその記憶のようなものを一緒に移築しながら、新しい未来に向かって対話を重ねていく。そんなパビリオンになりました。(完成披露・合同内覧会 会見より)

 

トップ写真:TEAM TECTURE MAG
※ 特記なきグレー囲み内のテキストおよびコメントは「シグネチャーパビリオン8館完成披露・合同内覧会」オフィシャル素材より

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