
パビリオンDATA
- 総合プロデュース
佐藤オオキ- 建築デザイン
日建設計- エリア
東ゲートゾーン- テーマ
いのちと、いのちの、あいだに
日本館の見どころポイント!
〈日本館〉は日本政府による円環状のパビリオン。Plant Area、Farm Area、Factory Areaの3エリアで構成され、決まった順路はなく、それぞれにある入口のどこから入っても「いのちの循環」について深く知ることができます。
写真提供:経済産業省
写真提供:経済産業省
森のようなパビリオン
木(あるいは木材)は、いのちの循環、サーキュラーエコノミーを象徴する材料である。
なかでもCLTは、小径⽊を薄板のラミナとして切り出し、積層させることによって大判をつくり出す、木材活用の可能性を高める新たな回路であり、さらに、今回使用されるCLTの一部は、貸与元である一般社団法人日本CLT協会に、会期後解体・返却され、新たな建築物としてリユースされることとなっている。
そうした、館全体のコンセプトである「循環」を表現する建物に相応しい材料であるCLTを建物の円周方向に沿って雁行して配置することで、四角い板で円形の建物を構成した。
CLTの板と板のあいだには、視線の通る隙間を設け、「外部と内部」、「展示と建築」とが連続して繋がり、循環とは異なるもう1つの「あいだ」を想起させることを企図した。
Photo: TEAM TECTURE MAG
木で耐える構造 ~CLT外張り架構システム~
後利用の制約を最小化するため、国産CLTの製作限界、最大約3×12mの大判面材をそのまま採用することを基本とした。CLTが立ち上がったシンプルな構成を際立たせるため、CLT以外は鉄骨による架構とし、壁フレームを2枚のCLTで両側から挟み込むことで、内外ともにCLTを象徴的に表した。
写真提供:経済産業省
CLT転用を考慮した活用
使用するCLTは会期後には解体のうえ、返却・リユースなどがなされる計画である。このため、加工を最小化し、部分的なスリット・ルーター・孔空け加工のみで使用できる計画とした。
CLTは解体のしやすさや解体後の再利用に配慮して接着剤などは一切用いず、乾式接合のみで鉄骨架構に緊結するとともに、構造用ビスとワンサイドボルトを活用することで、閉塞部においても接合可能な計画とした。
構造性能の確認試験を実施し、接合部の耐力・剛性の検証を行うとともに、施工性・解体性を確認した。パネルは内壁側を3層3プライ、外壁側は、保護層を加えた3層4プライとし、その保護層部分にスリット加工を行うことで、ガラスを直接嵌め込む、CLTを際立たせるシンプルな外装計画としている。建物全体で、約1600㎥のCLTを活用する。
鉄骨をサンドイッチしたCLT外装ユニット(提供:経済産業省)
円環形状の建物構造
フレキシビリティの高い展⽰空間と、CLTを象徴的に表現することを両立させるため、主架構を鉄骨造、CLTを耐震要素として用いた架構を形成した。
中小断面鉄骨からなる放射方向の1フレームラーメン架構を均等ピッチで配置し、円周方向は各フレーム間を小梁で接続するだけのシンプルな構成で合理的に円形プランを形づくった。
雁行させたCLT耐震壁を、平面計画の外周・中間・内周部分に反転させながら配置することで、円形プランの各ゾーンにおいても、適切なねじれ剛性を合理的に確保し、バランスの良い耐震架構を実現した。
平面図(提供:経済産業省)
写真提供:経済産業省
写真提供:経済産業省
CLTを際立たせるシンプルなディテール ~CLTダイレクトグレージング~
円環状に立ち並ぶ大判のCLTの構成を極力シンプルに表現するため、ガラスをCLTにサッシレスで嵌め込むことに挑戦した。
まず、ガラス枠となる壁ユニットの風による複雑な変形に対し、どのようにガラスがスライドやロッキングしながら変形するのか、精緻な図化による検証を行うことで、変形追従が可能であることを確認した。また、CLTは木材としての特性上、反りや収縮などの変形を免れ得ず、それに伴いCLTにガラスが接した際のガラスの応力集中について、FEM解析を行い、ガラスが破損しないこと、むしろ、ガラスがCLTの変形を抑える役割を果たすことを確認している。
CLTに直接ガラスを嵌め込むために使用するシーリング材の選定に際しては、同様の実例がなかったため、接着力試験と防汚試験を実施しシリル化アクリレート系シーリングを採用した。
木材とガラス取合いの可能性を広げるだけでなく、部材点数が少なく、コストも最小化できる、仮設建築物にふさわしいディテールが実現できたと考えている。
写真提供:経済産業省
海風が抜ける屋外回廊
回廊はパーゴラにより日差しに守られ、立ち並ぶ木の板の合間から、展示室内や外部が垣間見え、心地よい海風が通り抜ける、内外を曖昧につなぐ縁側空間である。展示フロアにおいても隆起する地形のようにさまざまなレベルに展示空間が展開され、大小さまざまな吹き抜けや傾斜路を介し、異なる視点で展示を立体的に体験できる空間構成とした。
写真提供:経済産業省
展示と建築の融合
従来の博覧会で出展されたパビリオンは、展示内容とは無関係の、いわゆるホワイトキューブとしてつくられることが一般的であった。今回は展示計画と建築設計を一体的に進めるプロセスを経ることで展示と建築の融合に挑んだ。
展示内容に応じて、膜屋根により自然光を取り入れる明るく開放的な吹き抜け空間、トップライトからCLTを照らす柔らかい光の空間、暗く低い天井高により展示に集中できる空間、外部の様子が見える空間、時間とともに表情を変えるCLTを映し出す中央水景による象徴的な外部空間、さらには建物を支えるプラントをはじめとする可視化された設備類など、この場、この時でなければ味わうことのできない、変化のある“展示環境”を単純な建物構成の中につくり出すことで、展示のストーリーを情報として得るのではなく、五感で体験することができるパビリオンを目指した。
展示との融合のため、展示計画の調整役として建物設計の担当者が日本館プロジェクトを牽引する役割を担い、実施設計ではフルBIM化により、建築設計のみならず展示設計者や施工現場など多くの関係者と視覚的に意思疎通が可能となるよう設計体制を整えた。
写真提供:経済産業省
写真提供:経済産業省
写真提供:経済産業省
写真提供:経済産業省
写真提供:経済産業省
仮設建築にふさわしいシンプルなデザイン
一切の装飾を排し、国産、地場産の自然素材を中心に素材を最小化し、解体時の壊しやすさに配慮した工法を用いて、建物機能に即した構成美を目指した。型としての和風ではなく、簡素な構成美の中に、日本らしさの表現を求めた。
写真提供:経済産業省
ごみを食べるパビリオン
「いのちの循環」を象徴的に表す展示の1つとして、バイオガスプラントが実装されている。万博会場で出る生ごみを回収し、微生物の働きで発酵分解することで発生するバイオガスを用いてパビリオン敷地内で発電している。
展⽰鑑賞空間を2階レベルに上げ、1階を設備やプラントヤードとして計画。断面的に明確な分離を図りつつ、稼働している設備機器を、吹き抜けを介して展示の一環として鑑賞できる立体的な展示空間とした。
写真提供:経済産業省
断面図(提供:経済産業省)
仮設建築物という時限性を踏まえたチャレンジ
本計画では、仮設建築物としての供用期間を考慮のうえで、CLTを外部・内部に露出させ、特徴的な建築表現を実現している。その際、構造耐力上の納まり・屋外対応のための設えに配慮し、CLTの構成は、3層3プライ(内壁側)および3層4プライ(外壁側)を基本とした。
軟弱な埋立地盤に配慮した建物重量の軽量化、施工の早期化、および解体の容易化のため、展示空間の床には、コンクリートを使用せず、構造用合板とデッキプレートをビスで一体化させた乾式合成床を用いた。デッキプレートと鉄骨梁の接合も解体の容易化に配慮し、溶接接合ではなくタッピングドリルねじを用いた乾式接合とした。デッキプレートの、構造用合板を一体化させることで期待される歩行感については、実大試験により確認した。
また、デッキと合板との間に生じるスペースを空調用ダクトとして、床吹き出し居住域空調に活用している。
床吹き出し空調ダクトとしても機能する乾式合成床(提供:経済産業省)
地盤沈下に柔軟に対応できる基礎計画(基礎トラス+排土バランス)
本敷地は広大な埋立地に位置しており、主として粘性土層の圧密沈下への対応が必要となった。そこで、地盤面より約2.5mを掘削し、排土重量と建物重量とのバランスを確保した直接基礎(排土バランス基礎)を採用した。さらに、柱軸力が不均⼀になった場合の局所沈下へも対応できるよう、剛強で変形追従性能が高い鉄骨トラス基礎梁により柱軸力を分散させることで、沈下差の平準化を図る計画とした。
また、敷地東側と西側で埋立時期が異なる敷地特性をもつため、両者の沈下差が大きく発生する懸念があった。このため、基礎部分にジャッキスペースを設け、レベル調整を行うことが可能な計画とした。施工中も、沈下計測に基づき解析などを行いながら工事を進めた。
写真提供:経済産業省
写真提供:経済産業省
写真提供:経済産業省
建築DATA
プロジェクト名:大阪・関西万博 日本館(Osaka-Kansai Expo 2025 Japan Pavilion)
用途:展示場
所在地:大阪市夢洲
敷地面積:約12,950㎡
延べ面積:約11,000㎡
階数:地上2階
軒高 / 最高部高:約13.2m
主体構造:鉄骨造(CLTと鉄骨が複合された構造)
CLTユニット数(枚数):280組 560枚(うち貸与:熊本県産)
屋外回廊羽目板パネル:233組 鹿児島県産杉材 約170㎥
竣工年月:2025年2月【建築主】
事業主体:公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
クライアント:経済産業省(展示・バイオガスプラント工事)、国土交通省近畿地方整備局(建築本体工事)【デザイン】
総合プロデューサー、総合デザイナー:佐藤オオキ
建築デザイン・建築設計および展示内装設計(基本設計・実施設計):日建設計(高橋秀通、高橋恵多、横井丈晃、今埜 歩)施工:清水建設
トップ写真提供:経済産業省
テキスト提供:日建設計
『SPECIAL FEATURE EXPO2025 建築からみた万博』
https://mag.tecture.jp/expo2025/