パビリオンDATA
- 設計
STDM architects urbanists、みかんぐみ- エリア
コネクティングゾーン- テーマ
Doki Doki – ときめくルクセンブルク
ルクセンブルクパビリオンの見どころポイント!

GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka – Ondrej Piry
2025年大阪・関西万博の〈ルクセンブルクパビリオン〉は、来場者を温かく迎え入れると同時に、好奇心を掻き立てる空間となっている。賑やかな会場の中で木陰の休息所として機能しながら、ルクセンブルクの多彩な側面に触れる、予想外で活気に満ちた刺激的な旅へと誘う。
〈ルクセンブルクパビリオン〉は、万博のサブテーマの1つである「Connecting Lives(いのちをつなぐ)」に対応したコネクティングゾーンに位置する。パビリオンの建築は、万博の3つのテーマと呼応するように、3つの特徴的な要素を表現している。
万博のテーマである「Designing Future Society for Our Lives(いのち輝く未来社会のデザイン)」、まさに、1つのプロジェクトであること、私たち皆が共有している唯一無二のもの、 つまり私たち皆が同じ地球を共有していることを、パビリオン全体を覆う1つの屋根で表現している。国境を超えて輝き、発信する国であるルクセンブルクらしいプロジェクトである。
万博のサブテーマであり私たちのパビリオンのゾーンのテーマである「Connecting Lives(いのちをつなぐ)」、 大小さまざまな建築物からなる創造的な景観は、多文化的なコミュニティとしてのルクセンブルクを象徴する。
このパビリオンのテーマは「CONNECTIVITY(つながり)」であり、土地を共通の財産と捉え、そこに住む人々を結びつける国土と独自の伝統を表現している。パビリオンの工夫された景観の中を歩きながら、来場者はルクセンブルクの生活がどのようなものであるかを知り、体験することができる。

GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka – Ondrej Piry
パビリオンの前庭には、来場者が木陰のベンチに座って休むことができるように、木が植えられている。混雑時には、この日陰のエリアに列を作ることが可能だ。
パビリオンでの体験は、最初の2つの建築物の間にある通路から始まる。ここは、屋根のある待合スペースであると同時に、パビリオンの特徴とルクセンブルクという国の注目すべきポイントとが明らかにされる、空間演出の最初のステージでもある。
パビリオンは大小さまざまな13個の建造物で構成されている。来場者の経路はすべてワンフロアになっていて、すべての来場者にとって可能な限り快適なアクセシビリティを確保している。パビリオンの建築は、すべての来場者にとっての体験の質を重視して、それを実現するための空間演出と強く融合している。
パビリオンの最後には、中庭で、バー、レストラン、ゲーム、リラクゼーション、特別展示、イベントプログラム、ショップなど、ルクセンブルクの社交的な雰囲気を体験できる交流の場が提供されている。
循環型経済の原則に基づいた設計
ルクセンブルクは、「GREEN-WASHING-FREE」プロジェクトという果敢なスタンスを選んだ。
パビリオンは、資源とエネルギー(空調、照明、設備)をその使用時だけでなく、その資源の内包エネルギーまたは「グレー」エネルギーまで考慮し、消費を最小限に抑えるよう設計されている。輸送を減らし、将来の再利用を確実にするため、地元で生産される標準的な材料が優先されて使用されている。
循環型経済の原則に従い、材料は可能な限り長期間、最高品質レベルで使用・再利用されるべきである。設計者たちは、材料の消費を最小限に抑え、すべての部材が必要な機能を効率的に果たすことを重視した。可能な限り、パビリオンの部材は買い取るのではなく、レンタルすることで、将来の建設に再利用できるようにしている。
再利用を容易にするため、材料は元の状態を保つ必要があり、組み立ては接着や溶接の代わりに機械的接合を使用し、損傷を与えることなく簡単に分解できるようにしている。直接の再利用が不可能な場合でも、材料は最小限の加工でリサイクル可能でなければならない。
循環型経済の究極の目標は、廃棄物を一切出さないことである。
〈ルクセンブルクパビリオン〉は、このような新しい取り組みによって提供され得る数々の可能性を示す、1つのささやかなマニフェストとなることを目指している。(Arnaud De Meyer / STDM architects)

GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka – Ondrej Piry
成功するプロジェクトというのは、3本の柱によって支えられている。すなわち、開かれた精神をもつ施主、有能な設計チーム、そして熟練した施工業者である。プロジェクトは、十分に練られていなければならないのはもちろんだが、すべての関係者によって受け入れられ効果的に実行されるためには、この三要素のいずれもが欠けてはならない。
私たちの施主は、プロジェクトの公募段階から積極的に組織し、最初から明確に定義された仕様に基づいて尽力してくれた。施主がプロジェクトにおける重要な決定を支持し、そのビジョンを擁護してくれたことは、統一感あるアプローチを育む上で大きな原動力となった。一方、施工業者である内藤ハウスは、熱意を持ってこの挑戦に臨み、限界を押し広げ、新たな革新技術を積極的に取り入れた。彼らの品質へのこだわりと新しい技術を探求する意欲は、パビリオンの成功に大きく貢献した。
本プロジェクトを特徴づけたのは、プロジェクトの公募段階からルクセンブルクと日本の国際チームを形成するという決定だった。この協働により、ルクセンブルクがもつ持続可能性および循環型設計の専門知識と、日本の観客の期待に応える感性の両方が結び付けられ、プロジェクトが両国の文化に深く根ざしたものとなった。しかし、これは単なる技術的な連携に留まらず、言葉のみならず、アイディアや価値観、考え方を翻訳し合うという高度な人間的コミュニケーションが求められる取り組みであった。
ルクセンブルクは、長年にわたりヨーロッパ内において多文化・多言語環境を渡り歩く外交能力を培ってきた。この経験は、日本という精密さ、規則、リスク管理に対する独自の姿勢をもつ国との協働において極めて有用であった。
両国の建築技術やエンジニアリング基準は概ね共通している。しかし真の挑戦は、これらの概念を新たな文化的・環境的背景に合わせて解釈し、適応させることにあった。国際チームによって設計・建設されたルクセンブルクパビリオンは、さまざまな違いを調整しつつ、統一感のあるかたちで遂行されなければならなかった。
一方では精密さと検証を重視し、他方では循環型建築の探求的な性質から新材料や新工法を試すことを必要としたので、ときに衝突することもあった。世界博覧会という厳しいスケジュールのもと、信頼と明確なコミュニケーションが不可欠であった。設計チームと施工チームは、それぞれのもつ専門知識とプロ意識を反映して、数々の革新的な解決策をともに実現した。これらの解決策は、1つひとつが深い議論を経て導き出されたものであり、全関係者が期待の足並みを揃え、潜在的リスクを検証し、現地の規制を順守する必要があった。建設的対話を育む能力こそが、最終的に本プロジェクトを成功させた決定的要素であることが証明された。結果として、従来の枠から外へ踏み出した取り組み方が、持続可能な建築と国際協力の模範となるような素晴らしい成果を生んだ。
万博の開幕1カ月前、〈ルクセンブルクパビリオン〉は日本国際博覧会協会によって最初に使用許可を承認された外国のパビリオンとなった。この成果は、ルクセンブルクと大阪の両拠点にまたがるチーム全体にとって誇りである。このパビリオンは、単なる優れた建築物にとどまらず、協働、尊重、そしてより持続可能な未来に向けたビジョンの共有によって何が達成できるかを示す、大きな意味をもつシンボルとなったのである。(Manuel Tardits / みかんぐみ)

GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka – Ondrej Piry
循環型プロジェクトは、設計段階で建造物の将来を考慮して初めて成り立つ。2025年日本国際博覧会の〈ルクセンブルクパビリオン〉は、このようなアプローチから生まれた。万博パビリオンはその性質上、一時的な建築物である。本プロジェクトは、初期段階から循環型経済の原則を取り入れ、イベント終了後の慎重な解体と部材の最大限の再利用に対応する設計となっている。
部材再利用を前提としたパビリオン設計
本パビリオンの建築物は、各部材を容易に分離でき、材料に「第二の命」を与えることができるように構造設計されている。つまり、万博終了後に想定される3つのシナリオ(完全再利用、部分再利用、スペアパーツとしての再利用)を前提とした戦略が根幹となっている。パビリオンは、標準的なモジュール部材を組み合わせる設計となっているので、各部材はその特性を損なうことなく回収し再利用することが可能である。
以下の5つの材料および工法の選択は、この循環型アプローチを反映している。
1.現場打ちコンクリートを使わない革新的基礎構造
パビリオンは、従来型のコンクリート基礎を用いず、鉄骨構造上に設置されたコンクリート「メガブロック」の上に建てられている。この選択は、恒久的かつエネルギー消費の大きいソリューションの必要性を回避するだけでなく、メガブロックや構造物を迅速に回収して将来のプロジェクトに即時再利用できることを保証する。再利用の原則が建物の最も構造的な部材にも適用可能であることを証明する事例である。
2.型枠パネルを外装材として活用:
通常はコンクリート打設用に使用される型枠パネルを、今回はパビリオンの外壁を覆う素材として使用している。標準的な日本規格サイズのため、切断や加工を行うことなく使用でき、そのままの状態を維持できる。展示終了後、これらのパネルは回収され、従来の現場において新たな型枠材として再利用される予定である。これは、一時的な用途を終えた材料がリサイクル工程を経ずに即座に別用途で使用され得ることを示す例である。
3.軽量な日本製の鉄骨構造で、新しい設計や建設に再統合しやすいよう、同一部材を大量に生産するように最適化されている。
4.標準的な設備を用いた技術設計では、設備はパビリオンのニーズに合わせて容易に解体・組立が可能で、かつ速やかに中古市場に流通させることができる。
5.膜材: 製品の大半は細かく裁断され、日本の繊維会社によってバッグや小物の製作に活用され得る。
高い循環性と解体指標
こういった部材の循環性は「製品循環データシート(PCDS)」として記録されている。データシートは使用された部材の情報を明示するものであり、その経済的価値を維持するために不可欠なものである。
本パビリオンの循環型アプローチは単なる理念にとどまらず、具体的な数値指標によって測定されている。材料の詳細分析によると、主要部材の循環性指標は88%を超えることが明らかとなっており、極めて高い再利用可能性が保証されている。
さらに、主要部材の解体指数も平均87%と評価され、パビリオンが資材品質を損なうことなく完全に解体可能であることが確認された。この最適化された解体性は、機械的組み立ておよび慎重に選択された技術仕様に基づいており、各部材を形を変えることなく回収することを可能にする。
再利用による炭素影響の削減
これらの選択により、本パビリオンの環境負担は大幅に削減されている。従来の一時的建築物では、建設と解体において大量の廃棄物と二酸化炭素排出が生じるが、本パビリオンは材料の再利用により、実質的に環境への影響は設置と解体時のみに限定されることを意味する。
これらの製品は再利用により、製造時の環境への初期負荷が二度の使用サイクルに分散され、全体的な資源消費とそれに伴うカーボンフットプリントも削減される。また、このアプローチは、パビリオンの部材の回収を最大化することで、新たな原材料の需要を制限し、資源節約に大きく寄与している。
持続可能な仮設展示モデル
結論として、〈ルクセンブルクパビリオン〉は、一時的な建築物であっても循環型の論理に基づいて設計され得ることを示す。本プロジェクトの主要部材は、2025年大阪・関西万博終了後に最大限再利用されることを前提として選択・組立が行われた。設計段階から具体的な再利用ソリューションを組み込み、循環性と解体指標を用いてその有効性を正確に測定することで、ルクセンブルクは国際博覧会の未来に模範的なモデルを提案している。(Jeannot Schroeder / +Impakt)

GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka – Ondrej Piry
本パビリオンは、異なるプログラムをもつ13個の箱型建築物(ボックス)で構成されている。循環型設計の目標を達成するため、主要な構造部材に優先順位を定め、建材の再利用やリサイクルの可能性を検討した。その中でも、重量の比率に基づいて、基礎と主要鉄骨造の循環性を重要視した。現場打ちコンクリートは、再利用やリサイクルが困難であるため、その使用を最小限に抑えた。
基礎:
万博会場は大阪の人工島に位置しており、会期終了後の原状回復が求められた。杭基礎は撤去が困難であるため、現実的でないと判断した。加えて、地盤の支持力が低いため、構造全体の軽量化が必須であった。結果として、浮き上がりに対する支持力が基礎設計における最大の課題となった。マイクロパイルの使用も検討したが、該当する地盤において規制上の認可が得られていなかったため、採用には至らなかった。さらに、工期の制約上、試験の実施も困難であったため、最終的には基礎形式は浮き基礎とした。現場打ちコンクリートの代わりに、国内の生産工場の残余コンクリートを用いて製造するプレキャストコンクリート「メガブロック」を採用した。これにより、基礎の浮き上がりに抵抗するのに十分な重量を確保すると同時に、会期終了後の解体と再利用が可能となった。
鉄骨造:
主構造は、コスト、材料の流通度、および資源循環性の可能性の観点から、軽量な鉄骨構造とした。構造システムは、梁、柱、筋交いを組み合わせたラーメン構造とし、接合部は解体を容易にするために簡素化した。会期終了後の完全な再利用の可能性については引き続き検討が行われたが、既存の鉄鋼リサイクルプロセスを通じた再資源化により、持続可能な代替策を確保した。入札段階と施工者との協議を経て、施工者が再利用可能な部材断面に適合するよう、標準断面の調整を行った。
設計上の大きな課題は、屋根膜の支持点から生じる水平および鉛直方向の集中荷重であった。この水平反力は全体でみると釣り合っているものの、上部工のボックス構造はそれぞれ独立しているため、実際には基礎レベルのみ打ち消し合う。ファサードは、開口部が少なく全面がブレースで補剛されているため、剛な要素としてはたらき、基礎へと力を伝達する。この屋根からの集中荷重のため、梁の断面や接合部を一律に標準化した設計は困難であった。設計上は、軽量な構造であること・膜屋根が柔軟であることから、地震時の慣性力は限定的であると判断した。その代わり、大阪の沿岸地域という立地条件から強風時の風荷重を考慮して設計を進めた。
膜の反力を地盤に固定するために、カウンターウエイトを地下に埋設した。このウエイトは剛な鉄骨部材により固定された最大8つのメガブロックから成り、ボックス外周の4カ所に配置した。
膜構造:
膜構造は、膜全体が均等に緊張することで構造として成立する。設計プロセスの最初の段階では、形状探索(「フォームファインディング」)を行い、支持条件に沿って適切な初期張力と形状を定める。本パビリオンは、下部構造のボックス群と、それらを覆う約1000㎡の膜屋根から成る。限られた敷地面積や、複数の上下支持点からなる不規則な膜形状など、複雑な設計条件に対応するため、新しい形状探索手法を開発した。結果として、最小限のケーブルと鉄骨部材で膜構造を支持しつつ、全体の建築コンセプトに沿ったシンプルな構造を実現できた。
膜材の選定においても、材料の環境負荷を考慮した。採用した材料は、海岸の強風にも耐えうる高強度のPVC膜である。通常、日本国内では高強度の膜材はPTFEガラス繊維系が主流であり、PVC系は使用されない。今回はPVC膜が、加工性の良さに加え、製造時の環境負荷が大幅に小さいという利点があった。また資源循環性という観点でも、メーカーのリサイクルプログラムが存在すること、PTFE膜に比べて柔らかく移設が簡易であること、あるいは別の用途への再加工が容易であることなど、可能性が多岐にわたることから、PVC膜を選定した。(高橋謙良、Mathieu Jacques de Dixmude / Ney & Partners LUX)

GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka – Ondrej Piry
大阪は高温多湿で亜熱帯気候のように暑い。この夏、エネルギー消費の多い空調システムを使わずに、快適な〈ルクセンブルクパビリオン〉を来場者に提供することは可能だろうか。専門技術者たちは、通常の解決策とはかけ離れた、心地良い温度環境のためのシンプルさを追求したシステムを提案し、この難題に挑んだ。
建築家によって見事に考案された、「大きなパラソル」は、直射日光の影響を大幅に軽減しているのは事実だが、それでも来場者とパビリオン内の空間演出から発せられる熱と湿度の負荷も考慮する必要があった。
革新的だったのは、従来の空気冷却ではなく、除湿に重点を置くことだった。この大阪特有の気候では、「湿球」温度を下げることで湿気による不快感を軽減するのを目指した。これにより、発汗による体熱の放出を促進し、過度に冷たい空気を送風するシステムと比較して、より高い快適性を提供できる。
基本原理
このシステムでは、金属管(ステンレス鋼管)を通じて、万博協会から支給される冷水(9〜16℃)を循環させる。金属管をパビリオンの建築に組み込むことで、システムの運用効率が向上する。暖かく湿った空気は凝縮し、わずかに乾燥した後、金属管に沿い、展示パネルの背面に沿って人のいる空間へと流れ込む。非常に冷たい空気を供給する従来の解決策とは異なり、室内温度は24〜26℃に保たれ、これにより温度差によるヒートショックや肩こりのリスクを回避できる。
運営モデル
パビリオン館内の各エリアは30人を収容し、毎時約800㎥の新鮮な空気が供給される。垂直に設置された金属管は、冷たい接触面となって水蒸気を凝縮する役目を担う。こうやって集められた凝縮水(ドレン)は雨水貯留タンクに送られる。さらに、各配管モジュールに直上に設置した送風機によって継続的な除湿を実現している。
性能とテスト
ルクセンブルグで実施された原寸大のモックアップテストでは、湿度の大幅の低下(空気1kgあたり1gまで)と、モジュールあたり1.7〜1.8kWの冷却能力が証明された。テストでは、システムの安定性、騒音の低減、従来の設備よりも均一な快適性が確認された。
再利用と循環型経済
解体して再利用できるように設計されたこのシステムは、パビリオンの持続可能な取り組みと合致している:
金属管(ステンレス鋼管)は、ほかのHVAC(空調システム)プロジェクトのために容易に回収可能である。
コンパクトで標準規格の換気ユニットは、市場での再販が容易である。
凝縮水(ドレン)は雨水貯留タンクに加えられる。
主な利点
・相対湿度の低減による温熱快適性の向上
・過度の冷却リスクの制限
・エネルギー消費の最適化と資源の再利用を通じて、環境への影響を低減
・パビリオン全体の構造設計に組み込まれており、解体と材料の再利用が考慮されている
施工段階の調整
ルクセンブルクで得られたテスト結果をもとに、日本の技術者たちが詳細設計を行った。主な変更点としては、ルクセンブルクでの実験時に用いた銅製の配管の代わりにステンレス鋼管の使用が挙げられる。銅製配管と比べて熱伝導率が低いものの、日本ではステンレス鋼製配管の方が一般的である。
万博協会から課された制約のひとつに、冷却水の戻り温度を19℃に保つ、ということがあった。パネルでの凝縮を最適化できるようにと、冷却水は当初想定されていたようなエアハンドリングユニットを経由せず、パネルに直接送る設計に変更した。
また、設計段階では以下の点も考慮された。
・解体後に他の設備に再利用できる標準寸法で、騒音を発生させずに配管に沿って送風する送風機を選ぶ。
・空気の流れは、空間演出の一部である布地を動かすことなく、パネルの下まで届くように調整する。
・パネルと布の間に仕切り壁を追加し、来場者がパネルに接触するのを防ぐとともに、結露による布地の濡れを防止した。
新しいモデルが試作された。送風機の風量を調整することで、望ましい効果を得ることができた。高さ4mのステンレス鋼管が壁一面に均等に並んでいる光景は、見事であった。日本人であれルクセンブルク人であれ、技術者としては「自分たちの」配管をそのまま展示して来場者に見せたいところではあるが、実際は展示用の黒いカーテンの背後に隠れている。この配管が除湿・冷房の効果を発揮してくれると確信している。
結び
設計者が開発した空調システムは、技術革新、エネルギー効率、循環型理念の間の卓越した相乗効果を例証している。過度な冷房の代わりに除湿を主な目的としたことで、大阪の高温多湿な気候に適した温熱快適性を提供すると同時に、エネルギー消費を削減し、部材の再利用を促進する。
この目には見えないが技術的に先進的な装置のおかげで、来場者は温度が適度に保たれた、湿気の少ない空間を体験でき、暑さや発汗による不快感が軽減される。
本プロジェクトの実施にあたり、施主の私たちに対する信頼と、施工会社である内藤ハウスの果敢な挑戦に深く感謝する。このようなシステムと、それに関連する建設方法が日本で採用されたのは今回が初めてである。さらに、モジュール式という建設戦略と標準的な材料を選択することで、このパビリオンは、解体と再利用の観点から特に優れた考え方に基づいたものとなっている。
ルクセンブルクパビリオンを訪れるすべての方々に、魅力的な展示を体験される中で、このプロジェクトにおける技術設備に対する私たちのビジョンや考察を感じとり、共感していただけることを願っている。(伊藤教子 / ZO設計室、Gilles Christnach / BETIC Engineering)

GIE Luxembourg @Expo 2025 Osaka_Vincent Hecht
建築DATA
名称:ルクセンブルクパビリオン
施主:GIE Luxembourg @ Expo 2025 Osaka建築事務所:STDM architects urbanists(ルクセンブルク)、みかんぐみ(日本)
空間デザイン+メディア制作:jangled nerves(ドイツ)
構造設計事務所:NEY+Partners Luxembourg、ネイアンドパートナーズ(日本)
設備設計事務所:BETIC Engineering (ルクセンブルク)、ZO設計室(日本)
循環型経済:+ImpaKT (ルクセンブルク)
施工業者:内藤ハウス(総合建設事業)、大日本印刷株式会社(内装工事)、BeWunder(AVLイベント事業、ドイツ)
写真:ルクセンブルクパビリオン公式メディアハブより(すべて)
テキスト:みかんぐみ 提供
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