2021年8月14日初掲、8月29日関連イベント追記
デザイナーで作家の藤原大(ふじわら だい)のこれまでの活動および進行形のプロジェクトを紹介する展覧会が、神奈川県の茅ヶ崎市美術館で開催されています。同氏の個展が国内の公立美術館で開催されるのは今回が初となります。
藤原大(Dai Fujiwara)プロフィール:
1992年中央美術学院国画系山水画科(北京)留学後、1994年多摩美術大学卒業。2008年株式会社DAIFUJIWARAを設立し、湘南に事務所を構える。コーポレイト(企業)、アカデミック(教育)、リージョナル(地域)の3つのエリアをフィールドに、現代社会に向けた多岐にわたる創作活動は世界から高い評価を受けている。また、独自の視点を活かし、Google、資生堂、日立製作所など企業のオープンイノベーションにおける牽引役としても活動し、国内外での講演やプロジェクトなど数多く実施。
東京大学生産技術研究所研究員、多摩美術大学教授、金沢美術工芸大学名誉客員教授ほかを務める。
2021年香港・HKDIギャラリーにて個展「Dai Fujiwara The Road of My Cyber Physical Hands」を開催。
https://www.fujiwaradai.com
藤原大は、アート、サイエンス、デザインの領域をつなぎ、身体空間(フィジカルスペース)と電子空間(サイバースペース)の融合が進む現代社会について、早い段階から思考し、表現を続け、自然界に存在するものを創作の始点とし、先端技術を駆使した創作活動で世界的に高い評価を受けています。
本展では、デザイナーとしての仕事はよく知られている藤原大の新たな側面に光をあてるもので、時代の先を見据え、制作してきた未発表を含むアート作品を総覧します。
主な出展は、掃除機を用いてモンゴルの草原やニューヨークの地下鉄で収集したものを素材にしたテキスタイルでゴミの概念の変換を試みる作品や、描く手段の拡張としてドローンなどの電子機器を使い布にパターンを描いた作品など。そのほか、自然界の色を採取し色見本をつくる独自の手法“カラーハンティング”による「湘南の色」をもとにデザインした江ノ電の車両、無印良品、カンペールなど、国内外の企業とコラボレーションした作品なども紹介されます。
さらに、本展のため茅ヶ崎で集めた素材でつくったセーターや、茅ヶ崎のシンボルともいえる烏帽子岩をカラーハンティングした茅ヶ崎シャツも本展にて初公開。常に自然を意識しながら創作してきた藤原が、人間と自然の関係性について「自然と人が対峙するものではなく、また自然と人が一体となる考えでもない。自然は人の中にしか存在しないものであり、人の周りや外にあるものではない」という彼の考えが、本展を通して明らかになります。
価値観の変換を試みる画期的なアイデアとモノづくりで人の感性を揺り動かしつづける藤原の作品を通し、刻々と変化する社会における人間と自然の関係性を、新たな視点から見つめ、100年先の未来を考える機会とする展覧会です。
なお、本展のポスターのデザインは、グラフィックデザイナーの花原正基が担当。キービジュアルの烏帽子岩の撮影は、写真家で映像作家の瀧本幹也が担当しています。
瀧本幹也コメント:
茅ヶ崎を代表する烏帽子岩の撮影を、藤原大氏から依頼されたのが2020年3月でした。「自然は人の中にしか存在しない対象」という藤原氏の考えを、自分なりに解釈しようと想像をめぐらせていた時に、未曾有のパンデミックが世界中に広がっていきました。それは自分にとっても大きなうねりとなり、今回の作品に影響を及ぼしたと思います。「いわゆる普通の風景写真ではない」、あたかも細胞を顕微鏡で観察するような、または、この地球を俯瞰するような視座で、見慣れた烏帽子岩を撮りたいという考えに行き着きました。これまでに見たことのない、遥か上空の宇宙から地球を観察したようなイメージが湧き上がったのです。
撮影では、真俯瞰から狙えるようにヘリコプターの機体を大きく傾け、上空を旋回しながら撮影しました。ファインダー越しに海に浮かぶ烏帽子岩が、回転を繰り返すのを見ていると、あたかも吸い込まれるような感覚になりスケール感を失い、それらが皮膚や細胞のようにも見えてきたのです。まるで身体なのか、自然なのか、生命の源に入って行くような。 大自然が創造する造形は、ミクロやマクロなどを軽々と超えて美しく寛大でした。
花原正基コメント:
藤原大氏より「人の中にしかない自然」というテーマを伺った時、人と自然の関わりを考えていくことに非常に興味をそそられました。しかし、それをどう咀嚼すればその概念を表現するような デザインができるのか、まずは自分の中にある、自分の考える自然と向き合うことが課題でした。
すぐにその答えが見つかるはずもなく考えを巡らせていたところに、瀧本幹也氏が撮影した烏帽子岩の写真が届きました。まさに大自然を切り取ったものでありながら、不思議とミクロの世界 の細胞ようにも見える。この写真を受けて、これまで曖昧だった考えの輪郭が明確になりました。写真をピクセルになるまで拡大し、その中に潜んでいる色を3色抽出することで「人と自然」を想起させる色を取り入れました。赤いタイポグラフィ(HumanとNature)は細胞の間を循環する血の流れのように生き生きと鼓動を打ち、また波と呼応するゆらぎをイメージしながら制作しました。
藤原大コメント:
「私は「ふれる」「さわる」という言葉をよく使う。日本語では「触」の1 文字で使い分けられるが、フィジカルスペース(物質空間)とサイバースペース(電子空間)をつなげる便利な言葉だからだ。「さわる」は、手をつかって理解することで、フィジカルな対象に使う。「ふれる」は、心を使わないとわからないもの。相手の気持ちを読む時にも使うが、その対象はイメージ上にあり、自分のリアルな手ではさわれないサイバーな対象にマッチする感性だ。人は自然に接すると、和む。
それは、人間の本性(human nature) に関係するからだろうと思っている。人の中にしかない自然の風景とはどんなものなのだろう? どうしたらそれに触知できるだろう? 今回背伸びして、今から100 年後の社会を見つめた。私がイメージするのは、色に意味がたくさん付帯されているカラーボ キャブラリーな小宇宙。それは、人の関与が必要な自然そのものと人工物の境界が曖昧で、人にしか見えないトポロジカ ルな意味空間。なんとも不思議な自然だ。そこには、ゴミという言葉が社会に存在しなくなっているだろうか? そして、人々が今の狭い倫理観を覆すほどハツラツと生活できるハッピーな世界なのか? これらのクエスチョンマークを起点 に、人の中にしかない自然を表現したい。
今回、ご来場いただく方が、この展覧会を通じて何かご自身の中にある新しい『?』を感じていただけたら、嬉しい。」
会期:2021年7月17日(土)〜9月5日(日)
開館時間:10:00-17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜(但し、8月9日は開館)、8月10日(火)
会場:茅ヶ崎市美術館 エントランス、展示室1・2・3
所在地:神奈川県茅ヶ崎市東海岸北1丁目4-45(Google Map)
観覧料金:一般 800円、大学生600円、市内在住65歳以上400円
※高校生以下、障がい者およびその介護者は無料
※COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の拡大状況などにより、スケジュールが変更される場合あり
※最新の開館情報は、茅ヶ崎市美術館WebサイトやSNSにて告知
主催:公益財団法人茅ヶ崎市文化・スポーツ振興財団
関連イベント
オンライン・アーティストトーク
展覧会と作品について作家本人がオンラインで語ります。
日時:2021年9月5日(日)11:00 / 14:00〜(計2回、各回45分程)
出演:藤原大
料金:無料
視聴方法:開始10分前に下記・藤原大公式WebサイトにてURLを告知(予約不要)
https://www.fujiwaradai.com
茅ヶ崎市美術館公式Webサイト
https://www.chigasaki-museum.jp/