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土浦亀城邸が青山に復原・移築、予約制ガイドツアーの受付を開始

F.L.ライトの薫陶を受けた建築家による戦前日本のモダニズム住宅の傑作

昭和を代表するモダニズム建築家・土浦亀城氏(1897-1996年)が1935年(昭和10)に東京・大崎に建てた自邸(土浦家住宅、以下「土浦亀城邸」と略)が、青山の地に復原・移築されています。
長年にわたり建物を守ってきた居住者と、綿密な建物調査と歴史考証などにより、実現したものです。

建物は青山通りから南側に入った公道沿いにあり、移築後の外観はすでに眺めることができる状態でしたが、このほど、一般社団法人住宅遺産トラストおよび土浦亀城アーカイブズの学識経験者らの協力を得て、建物の内部を一般に公開するイベント(ガイドツアー)が2024年9月下旬より日時を限定して実施されます。

土浦亀城邸(復元・移築後)

青山に移築された「土浦亀城邸」外観 ©土浦亀城アーカイブズ

「土浦亀城邸」とは

移築された場所に用意された建物の解説文によれば、土浦亀城の自邸は地上2階+地下1階の規模を木造乾式構法を採用して建てられました。5つの床レベルで有機的に各部屋を結びつけた空間構成、天井パネルヒーティングを含めたセントラル空調システムなど、現代にも通じる住宅の先駆けとなった、当時の建築潮流であったモダニズムの思想を色濃く反映した住まいでした。日本の大正期の洋風住宅から、昭和初期の都市型小住宅へ転換していく住宅史の流れを知る上でも欠かすことのできない住宅として価値が高く、1995年(平成7)に東京都指定有形文化財の指定を受けているほか、1999年にはDOCOMOMO JAPAN(documentation and conservation of buildings, sites and neighbourhoods of the modern movement Japan)による最初の20選にもリストアップされています。

土浦亀城(つちうらかめき)

土浦亀城(つちうら かめき)プロフィール
1897年水戸生まれ、1996年没。20世紀前半に日本で数多くのモダニズム建築を設計した建築家の1人。旧東京帝国大学(現・東京大学)工学部建築学科在学中に帝国ホテルの現場の図面作成に携わり、卒業後に妻の信子と共に渡米、タリアセンにあったフランク・ロイド・ライトの事務所に勤務。このときの同僚から欧州・バウハウスのデザイン思想を学びとる。帰国後は大倉土木(現・大成建設)に勤務。主な作品に、強羅ホテル、銀座シネパトスなどがある(ともに現存せず)。 肖像写真 ©土浦亀城アーカイブズ

土浦亀城邸(竣工当時)

往時の内観 ©土浦亀城アーカイブズ

参考リンク / 住宅遺産トラスト
https://hhtrust.jp/hh/tutiura.html

復原・移築までの経緯

1996年に土浦亀城が、1998年に妻の土浦信子が逝去した後、同居していた元秘書の中村常子氏が建物を相続し、居住していました。中村氏はそれから約20年にわたり、居住空間を含めて建物に手を触れずに暮らし、オリジナルの意匠がほぼ維持されていましたが、建物の老朽化は避けられず、近年では住み続けることは困難な状況に。具体的には、モルタル防水の陸屋根や木製建具の窓枠からの漏水、シロアリによる被害が著しく、基礎まわりの躯体の腐敗も進行していたとのこと。

旧土浦邸が建てられた品川・上大崎の敷地は道が入り組んだ住宅街に位置し、この地での復原・改修工事に加え、完成後の一般公開も難しい環境にありました。建物の保存を目的とした調査が2018年に開始され、2020年に東京都が青山への移築を認可。2021年に解体調査開始、2023年に解体完了。2024年4月に現在の〈ポーラ青山ビルディング〉敷地内への移築が完了しています。

〈ポーラ青山ビルディング〉の敷地・西側道路は、青山通りから南へ下るサイトで、前面道路との敷地高低差が大崎の旧敷地とほぼ一致していたことも、今回の「土浦亀城邸」移築には幸いしました。安定した最新の新築ビルの地下躯体に建物をのせることが可能なため、耐震性能の面で有利となりました。

土浦亀城邸(復元・移築後)

復原・移築後の「土浦亀城邸」内観 ©土浦亀城アーカイブズ

土浦亀城邸(土浦家住宅)建築概要
原設計:土浦亀城・土浦信子(東京都品川区上大崎にて1935年竣工)
復原・移築設計(2024年 港区南青山へ移築)
所在地:東京都港区南青山2‐5‐13(ポーラ青山ビルディング敷地内・南側)
歴史考証:東京工業大学 大山﨑鯛介研究室、居住技術研究所、東京工業大学 安田幸一研究室(担当:長沼 徹ほか)
軸組解体記録(3D測量):東京工業大学 藤田康仁研究室
木軸組調査・軸組図・伏図製図:後藤工務店
歴史考証協力:田中厚子、前田鉄工所
実測・図面・模型制作協力:東京工業大学 安田幸一研究室
建築:安田アトリエ(代表:安田幸一)
構造:金箱構造設計事務所
設備:ZO設計室
ランドスケープデザイン:ランドスケープ・プラス
監理:安田アトリエ、東京工業大学 山﨑鯛介研究室、居住技術研究所、東京工業大学 安田幸一研究室(長沼 徹)
施工:鹿島建設

 

復原改修の見どころ

「土浦亀城邸」の移築・復元では、建物に構造補強を施しつつ、竣工当時の姿に戻すさまざまな取り組みが行われています(以下、ポーラ・オルビスグループの不動産事業 / ピーオーリアルエステートの2024年8月30日プレスリリースより)。

1.文化財としての価値の保持と現代の建築設備へのアップデート

外内装ともに、1935年の当初部材を選定、現在では流通していない竣工当時の部材は可能な限り質感の近いものを採用。工法とディティールも可能な限り維持に努めるなど、オリジナルの意匠を最大限に保持しつつ、一般公開時の安全、快適さに配慮した復原が行われた。長期的な使用に耐えうる建築性能を確保すべく、耐震・防水などの建築性能や空調などの設備性能面では、オリジナルの意匠性を損なわい範囲で、現代の技術を採用、施工した。例えば、「白い箱」である邸は、防水や雨じまいの面で当時から多くの懸念があったとされる。1930年当時、工業材料のパネルを柱に貼り付けるなどして建設された「土浦亀城邸」では、屋根はモルタル防水が施されていたが、降雨量が多く多湿の日本の気候風土を鑑み、FRP防水を採用して建物の長寿命化を図っている。

色彩の再現とオリジナル家具の復刻

近代のモダニズム建築に多くみられ、「土浦亀城邸」を特徴づけている「白」の再現では、戦前当時のモノクロ写真からは「色彩」を読み取ることが不可能なため、移築する建物の内外装や建具に施された塗装色を削る「こすり出し」による調査が行われた。過去の塗装履歴を調査し、文献上の記述なども参照しながら、竣工時の色彩を再現している。
建具や建築金物はオリジナルの部材を可能な限り再利用。建築金物は分解して錆を落とし、金属の塊から削り出しての再製作も行なった。家具やカーテン、カーペットなどのインテリアでも再現を試み、家具は過去の写真から図面を起こし、当時の技術を理解・再現できる工房や職人に制作を依頼。破損ないし欠損した箇所は新たな部材を付け足し、見た目には判別できないレベルに表面を仕上げている。

土浦夫妻の生活の記憶も継承

一般公開にあたり、生前の土浦夫妻が使用していた家具などさまざまな生活用品は、生前の配置に準じている。竣工から約90年を経ておな、「土浦亀城邸」は現代にも通じるモダンな住宅であり、土浦夫妻の生活の痕跡が随所に残された、歳月と人々の想いが蓄積された空間となっている。

土浦亀城邸(復元・移築後)

©土浦亀城アーカイブズ

土浦亀城邸(復元・移築後)

©土浦亀城アーカイブズ

※本稿の写真(全点):©︎土浦亀城アーカイブズ

「土浦亀城邸」一般公開

定員:各回15名
観覧料:1,500円
参加方法:完全予約制、Peatix特設ページにて受付
予約受付開始:2024年9月2日(月)10:00 ※10月は1日に実施

2024年9月公開日程
9月25日(水)14:00 / 16:00 ※各回満員、受付終了
9月28日(土)11:00 / 14:00 / 16:00 ※各回満員、受付終了

2024年10月公開日程 ※10月1日 A.M10:00より受付開始予定
10月23日(水)14:00 / 16:00
10月26日(土)11:00 / 14:00 / 16:00

ガイドツアー詳細
https://www.po-realestate.co.jp/business/aoyama-tsuchiurakameki.html

peatix予約ページ
https://tsuchiurakamekihouse.peatix.com/

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