約3年をかけた大規模改修工事を経て、昨年11月に先行して一部がリニューアルオープンしていた横浜美術館(神奈川県横浜市)が、いよいよ2月8日に全館オープンを迎えます。
横浜美術館 外観(撮影:新津保建秀)
オープニング記念展は「おかえり、ヨコハマ」展。同美術館の館長に2020年に就任した蔵屋美香氏が、同館にて初めて企画から立ち上げた展覧会となります。
本展は、「多様性」という観点のもと、「横浜」をキーワードに本展のために集められた絵画、写真、工芸、映像などの作品や資料を通して、新たな視点で横浜の歴史を総覧します。これらに加えて、セザンヌ、ピカソ、マグリットや奈良美智など、横浜美術館が誇る近現代絵画・アートのコレクションが一堂に会するのも見どころです。
メッセージ
本展では、新しい船出となるこの機会に、当館コレクションの名作の数々を新たな視点で紹介します。加えて、横浜市歴史博物館、横浜開港資料館、横浜都市発展記念館、横浜市民ギャラリーなど、主に市内の施設が所蔵する、コレクションへのまなざしを豊かにしてくれる作品や資料も展示します。また、本展のためにアーティストに委嘱した新作をグランドギャラリー他で披露します。
作品を読み解くための鍵は「横浜」、そしてリニューアル後の当館の活動理念の柱である「多様性」です。
今回は「多様性」という観点のもと、横浜にまつわる作品の中でこれまであまり注目されることのなかった存在 ―開港以前の横浜に暮らした人びと、女性、子ども、さまざまなルーツを持つ人びとなど― にあらためて光をあてます。これにより、おなじみの作品や横浜の歴史にたくさんの新しい発見をもたらします。こうしてローカルの歴史を深掘りすると、世界の歴史もきっと違って見えてきます。会場内には、子どもも一緒に楽しめる「子どもの目でみるギャラリー」を設けます。また、当館の活動の柱のひとつである教育普及事業も開催します。
タイトルには、「久しぶりに横浜美術館が帰ってきた」という意味と、「異なる時代にいろいろな地域からやってきて横浜に暮らした(あるいは現在暮らす)さまざまな人たちを、あらためて『おかえり』と言って迎え入れたい」という希望が込められています。横浜美術館館長 蔵屋美香
撮影:加藤 甫
蔵屋美香氏 プロフィール:千葉大学大学院修了。東京国立近代美術館勤務を経て、2020年より横浜美術館館長。これまでに企画した展覧会に、「ぬぐ絵画:日本のヌード1880-1945」(2011-2012年、東京国立近代美術館、第24回倫雅美術奨励賞)、「すみっこCRASH☆」(2022年、無人島プロダクション)などがある。第55回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館(2013、アーティスト:田中功起)キュレーターを務め、特別表彰。著書に『もっと知りたい 岸田劉生』(東京美術、2019年)などがある。
第1章 みなとが、ひらく前
第2章 みなとを、ひらけ
第3章 ひらけた、みなと
第4章 こわれた、みなと
第5章 また、こわれたみなと
第6章 あぶない、みなと
第7章 美術館が、ひらく
第8章 いよいよ、みなとが、ひらく
本展の章立ては8つ。横浜一帯の歴史を縄文時代まで遡り、紐解いていきます。ペリー来航を機とする江戸末期の開港、海を渡った日本の美術・工芸品の名品、関東大震災による被害とその後の復興の動きまでを第1章から第4章までの展示で辿ります。華やかな発展の側面に存在する、横浜開港直後に始まる遊廓の歴史、日本初の臨海都市公園として1930年(昭和5)にオープンした山下公園の敷地の埋め立てに関東大震災で出た大量の瓦礫が使われたこと、1958年(昭和33)の売春防止法完全施行まで続いた赤線区域といった、都市の陰の歴史についても触れるとのこと。
第1章「みなとが、ひらく前」展示の1例:〈人面付土器)(鶴見区上台遺跡) 弥生時代後期 H32cm 横浜市歴史博物館蔵(神奈川県指定重要文化財)
第2章「みなとを、ひらけ」展示の1例:昇斎一景〈汐留より蒸気車通行の図〉 1872年 多色木版(三枚続) 36.8×73.5cm 横浜美術館蔵(齋藤龍氏寄贈)
第3章「ひらけた、みなと」展示の1例:五姓田芳柳(伝)〈外国人女性和装像〉 制作年不詳 絹本着色、軸 99.0 x 38.8cm 横浜美術館蔵
第4章「こわれた、みなと」展示の1例:中島清之〈関東大震災画巻〉(部分)1923年 紙本淡彩、巻子 27.8×770.5cm 横浜美術館蔵(中島清之氏寄贈)
第5章「また、こわれたみなと」展示の1例:松本竣介〈Y市の橋〉 1943年 油彩、カンヴァス 61.0×73.0cm 東京国立近代美術館蔵
第6章「あぶない、みなと」展示の1例:常盤とよ子〈路上〉 1954 (1988年のプリント) ゼラチン・シルバー・プリント 49.8×35.8cm 横浜美術館蔵
第7章「美術館が、ひらく」展示の1例:ルネ・マグリット〈王様の美術館〉 1966年 油彩、カンヴァス 130.0×89.0cm 横浜美術館蔵
第8章「いよいよ、みなとが、ひらく」展示の1例:奈良美智〈春少女〉 2012年 アクリル絵具、カンヴァス 227.0×182.0cm 横浜美術館蔵 ©YoshitomoNara
第7章「美術館が、ひらく」は建築関係者必見の展示です。
1983年(昭和58)に「みなとみらい21」地区の開発がスタート。再開発の槌音が周囲で響くなか、1989年(平成元)に行われた「横浜博覧会(YES’89)」にあわせ、丹下健三が設計を手がけて横浜美術館が開館。この第7章では、この美術館の設立過程が紐解かれるほか、ポール・セザンヌ作〈縞模様の服を着たセザンヌ夫人の肖像〉(1883-85年)やパブロ・ピカソ作〈ひじかけ椅子で眠る女〉(1927年)でモデルとなった女性にスポットをあてて紹介するなど、開館の前後で収蔵されたコレクションの名品を新たな視点で読みといていきます。
最終章「いよいよ、みなとが、ひらく」では、横浜美術館の新しい船出を祝し、2010年代以降の作品と、アーティストの檜皮一彦に制作を委嘱した新作が披露されます。また、そのほか、子どものために作品を選び、見やすいよう工夫して展示する「子どもの目でみるギャラリー」も新設されます。
檜皮一彦〈walkingpractice feat.HIWADROME〉2023年 サイズ可変 車いす、カーブミラー、LED照明、プロジェクター、LCD、メディアプレイヤー、3Dプリンター、マネキン、インシュロック 発表場所:東京都美術館(参考写真)
ギャラリー9 展示風景
スタニスラフ・リベンスキー / ヤロスラヴァ・ブリフトヴァ〈アーチ雲〉 1991年 ガラス、鋳造 76.0×100.0x10.0cm 横浜美術館蔵
今回の美術館リニューアルの特筆点は、横浜美術館を象徴する大空間「グランドギャラリー」を中心に、訪れた人々が思い思いに過ごせる、入場無料の「じゆうエリア」が用意されること。オープニング記念展のテーマでもある「多様性」を掲げる、新たな横浜美術館を象徴する場所となります。
「じゆうエリア」(乾久美子建築設計事務所によるイメージ画)
「じゆうエリア」(乾久美子建築設計事務所によるイメージ画)
「じゆうエリア」(乾久美子建築設計事務所によるイメージ画)
「じゆうエリア」(乾久美子建築設計事務所によるイメージ画)
「じゆうエリア」(乾久美子建築設計事務所によるイメージ画)
「じゆうエリア」(乾久美子建築設計事務所によるイメージ画)
横浜美術館リニューアルオープンを伝える『TECTURE MAG』ニュース(2024年3月掲載)
横浜美術館が大規模改修を終え、3/15リニューアルオープン! 丹下健三が設計した美術館の空間構築ほかを乾久美子建築設計事務所が担当
館内 天窓ルーバー 見上げ(撮影:新津保建秀)
グランドギャラリー(撮影:新津保建秀)
グランドギャラリー 大階段(撮影:新津保建秀)
グランドギャラリーに新設されたエレベーター(撮影:新津保建秀)
横浜美術館 館内「市民のアトリエ」
撮影:新津保建秀
会期:2025年2月8日(土)〜6月2日(月)
開館時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)
休館日:木曜(ただし、3月20日[木・祝]は開館)、3月21日(金)
会場:横浜美術館
所在地:神奈川県横浜市西区みなとみらい3丁目4-1(Google Map)
観覧料(当日):一般1,800円、大学生1,500円、高校・中学生900円、小学生以下無料
※観覧当日に限り、同時開催する「横浜美術館コレクション展」も本展チケットで入場可
主催:横浜美術館、神奈川新聞社、tvk(テレビ神奈川)
協力:みなとみらい線、国立映画アーカイブ
特別協力:横浜市歴史博物館、神奈川県立歴史博物館
横浜美術館ウェブサイト
https://yokohama.art.museum/
本展に関する関連企画・イベントは、詳細が決まり次第、横浜美術館ウェブサイトにて発表予定。