群馬県前橋市にあるアーツ前橋にて、『MUJI for Public Space in Maebashi「うすい店」展 —無印良品とDDAA LABが考える、建築プロセスのハッカビリティ—』が3月23日まで開催されています。
展覧会開催の背景
本展のタイトルにある「MUJI for Public Space」とは、無印良品と、建築家の元木大輔氏が率いるDDAA LABが、「公共を享受する視座」をテーマに取り組むデザインリサーチ・プロジェクトを指します。2022年12月から翌年にかけて、東京・銀座の公共空間を舞台にした元木氏のアイデアをまとめた 「MUJI for Public Space展 ―街をもっと楽しむための100のアイデア―」が[ATELIER MUJI GINZA]にて開催されました。
元木大輔(DDAA/DDAA LAB)×MUJI 企画展「MUJI for Public Space展 -街をもっと楽しむための100のアイデア-」
アーツ前橋は、前橋市中心市街地のにぎわい創出を目指し、無印良品を運営する良品計画との協働を2023年から開始。同年11月には、県内の若手デザイナーや学生を対象に、元木大輔氏によるデザインリサーチのワークショップ「MUJI for Public Space in Maebashi」を実施しています。
本展は、この2023年のワークショップと、2024年11月に前橋中央通り商店街で実施された「うすい店」の試験設置(11月19日〜24日)を経て、これからの前橋のまちづくりに極薄建築「うすい店」を提案するという展覧会です。元木氏率いるDDAA LABは、建築的な思考を軸に、リサーチやプロトタイピングを通して実験的なデザインを行うプラットフォームであり、彼らのテーマのひとつに、既存の素材を最大限に活用し、最小限の手付きで機能やシステムを拡張、または違う意味につくり変えるる「ハック」という手法があります。前橋中央通り商店街での「うすい店」は、シャッター街や工事中の仮囲いなどに着目し、店舗・施設の完成というピークにのみ焦点をあてられがちな建築プロセスを「ハック」し、街をおもしろくするアクティビティを生み出す〈ハッカビリティ= 改変可能性〉を提示することを試みます。
「うすい店」が行われた前橋市中心市街地では今後、大規模な再開発工事が開始される計画です。本展は、低予算かつ短期間で実装できる戦術的まちづくり(=タクティカル・アーバニズム)のひとつとして、「うすい店」を通した社会実験をおこない、このトライアルを通して、市民が主体となり、自らの場所を生まれ変わらせるには、いったい何が有効で、何が課題なのかを、地域の人々とともに考えていくことを目的としています。(本展プレスリリースより)
Photo: Shinya Kigure
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Photo: Shinya Kigure
「うすい店」とは?
典型的な再開発や建築のプロセスでは、まず計画があります。次に工事がはじまり、工事が終わると竣工(完成のことをこう呼びます)し、人々によって使われるようになります。
特に大規模な計画であればあるほど、「作る」と「使う」に隔たりが起こりやすく、もちろん様々な検証やデータ収集による裏付けが事前に行われるものの、オープンしてみないとその実証性を保証することはできません。巨大な規模での検証は現実的ではないからです。つまり、蓋を開けてみなければ分からない側面がどうしても発生してしまいます。しかし、本来「作る」と「使う」は循環構造であるべきです。使ったことで得られる知見を、計画にフィードバックすることができれば、案の質の向上につながるからです。生き物の場合、幼少期の成長過程であってもその意味はゼロではなく、成人するまでのプロセスでトライアンドエラーがあります。また、成人して以降の老い方についても、今までの知見や経験を活かした多様な楽しみ方があります。
再開発や建築の場合、その多くは竣工するまでのプロセスが街に対して閉ざされていて、周辺環境との関係性がほとんどゼロの状態で進行します。そして、竣工してから時が経ち、竣工直後の繁栄が失われた時、たとえば商店街がシャッター街化して活動が停止し、不動産価値が下がってしまうということが起こるのです。それぞれのフェーズに街や建物の多様な楽しみ方があるはずなのに、従来のあり方には〈旬の時期〉が発生してしまいます。これは、今までの建築計画では成長と衰退を考慮せず〈旬の時期〉のみにフォーカスをあてていたからでしょう。工事期間中の仮囲いとシャッター街を敷地に、建物にとっての幼少期と老年期を含む長いタイムラインをデザインの問題として考えようというのが、今回の展示「うすい店」のプロジェクトです。
プロジェクトの幼少期にあたる「再開発のうすい店」は、大規模な再開発を今後に控える前橋中心市街地の仮囲いに、少しだけ奥行きを持たせ、商店の機能を挿入することで、工事中も街や商店街に対して開き続ける、というアイデアです。通常の計画では閉ざされてしまう期間にアクティビティを生み出すだけでなく、再開発へのフィードバックの機会としても機能します。
老年期の「アーケードのうすい店」は、ロードサイド商業への移行と人口減少を経て、少しずつ賑わいを取り戻しつつあるアーケード商店街で、シャッターを降ろしたままになっている店舗のファサードに、極薄の店舗什器を挿入します。昭和30年代に整備された全蓋式アーケードの利点を最大限に活用し、軒先1mほどの奥行きのみの最小限の面積と予算で、ローカロリーに街と関わりを持ち続け、薄く狭いことがむしろおもしろくなるような提案をするプロジェクトです。
再開発だけでなく、延々と開発工事を続ける横浜駅や渋谷駅、計画から竣工まで数十年の月日がかかる都市計画道路など、巨視的な視点で見るとゆっくり動いているけれど、微視的な視点で見ると封鎖や遮断によって街のアクティビティを衰退させしまっている状況が、日本各地で見られます。「うすい店」は、そんな従来の”紋切り型”の開発や都市計画に介入し、街を変えていくデザインの手法であり、戦術なのです。
2024年11月 / 元木大輔
元木大輔(もとぎ だいすけ)プロフィール
DDAA / DDAA LAB代表。CEKAI所属。Mistletoe Community。シェアスペースhappa運営。
1981年埼玉県生まれ。2004年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、スキーマ建築計画勤務を経て、2010年にDDAA設立。2019年にコレクティブ・インパクト・コミュニティーを標榜し、スタートアップの支援を行うMistletoe(ミスルトウ)と共に、実験的なデザインとリサーチのための組織DDAA LABを設立。
2021年第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展参加。2021~2023年東京藝術大学非常勤講師を務める。
DDAA LAB
https://dskmtg.com/著書 刊行時のニュース
元木大輔著 / 新刊『Hackabiity of the Stool スツールの改変可能性』 アアルトの名作椅子〈Stool 60〉”改造 プロジェクト”の全貌が明らかに
Photo: Shinya Kigure
Photo: Shinya Kigure
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Photo: Shinya Kigure
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会期中、会場では3つのトークイベントをあわせて開催(第3回は3月9日に予定)。さらに、本展をアーツ前橋と共に開催している良品計画の東京の拠点・無印良品 銀座 6Fにあるギャラリー&イベントスペース[ATELIER MUJI GINZA]でも、3月12日に関連プログラムの開催が追加発表されています。
会期:2025年1月25日(土)〜3月23日(日)
会場:アーツ前橋 1階ギャラリー
所在地:群馬県前橋市千代田町5丁目1-16(Google Map)
開館時間:10:00-18:00(入場17:30まで)
休館日:水曜
入場料:無料
共催:アーツ前橋、株式会社良品計画
企画協力:DDAA LAB
協力:前橋中心商店街協同組合、ヤマト、マチスタント
DDAA LAB担当:元木大輔、村井陸、安西将也、滝実彩喜、辻そよか
良品計画担当:宮尾弘子、永田貴大、猪子大地、工藤浩樹
アーツ前橋担当:宮本武典、高橋由佳
グラフィックデザイン:UMEKI DESIGN STUDIO、Company2
什器制作:TANK
展覧会詳細
https://www.artsmaebashi.jp/?p=21077
日時:2025年3月9日(日)14:00-16:00
登壇者:中村和義、永田貴大、猪子大地、工藤浩樹(左記の4名はいずれも良品計画)、高橋由佳(アーツ前橋学芸員)
会場:アーツ前橋 スタジオ
定員:40名
参加料金:無料
参加方法:要申し込み / 以下URLにて受付(定員に達し次第、締め切り)
https://www.muji.com/jp/ja/event/event_detail/?selectEventId=14085
日時:2025年3月12日(水)19:00-20:30(受付開始18:30)
登壇者:平田晃久(建築家・京都大学教授)、元木大輔(本展企画協力・建築家)、中村和義、高須賀大索(良品計画)
ファシリテーター:工藤浩樹
会場:ATELIER MUJI
所在地:東京都中央区銀座3丁目3−5 無印良品 銀座 6F(Google Map)
参加費:2,000円(税込、ワンドリンク付)
定員:50名
参加方法:要申し込み / 以下URLにて受付(定員に達し次第、締め切り)
https://ateliermujiginza20250312.peatix.com