「磯崎新：群島としての建築」水戸芸術館現代美術ギャラリーにて11/1より開催

茨城県水戸市の水戸芸術館にて、2022年末に逝去した建築家・磯崎 新の没後、国内初となる大規模回顧展「磯崎新：群島としての建築」が11月1日より開催されます（本稿では人物名は敬称略とする）。同館は、国内における磯崎の代表作の1つとして知られています。

水戸芸術館 鳥瞰　撮影：田澤 純
設計：磯崎新アトリエ
主体構造：鉄骨造（塔）、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造
建物規模：地下2階＋地上4階
施設：コンサートホール、劇場、展示室（ギャラリー）、会議場、塔ほか

磯崎建築にて開催される大規模個展

企画意図

水戸芸術館設計者でもある磯崎は、20世紀を代表する最も創造的で先駆的な建築家として知られ、国内外で数多くの建築プロジェクトや都市計画に携わりました。2019年に建築界のノーベル賞と称されるプリツカー賞を受賞。高く評価された設計活動のみならず、著作活動、芸術家や知識人とのコラボレーション、さらにはキュレトリアル・ワークなどでも多数の卓越した仕事を残し、60年以上にわたり、建築、美術、思想、文化論や批評の分野で大きな影響力をもっていました。

「群島としての建築」と題した本展では、決して単一の領域にとどまらない磯崎の活動を「群島」のように構成。「都市」「建築」「建築物」「フラックス・ストラクチャー」「テンタティブ・フォーム」「建築外（美術）」をキーワードに、建築模型、図面、スケッチ、大型インスタレーション、映像、版画、水彩画などのさまざまなメディア、アーカイブ資料などを通じて、磯崎の「建築」概念を検証。多岐・長期にわたった活動の軌跡を辿り、包括的・俯瞰的に紹介します。

本展のゲストキュレーターは建築史家の五十嵐太郎が務め、同氏の監修・執筆のもと、水戸芸術館の建築的特徴やデザインについてイラストつきでわかりやすく解説した『水戸芸術館ガイドブック』も刊行されます。
来年1月26日までの会期中、構造設計を担当した金箱温春による講演会や見学ツアーなど、関連プログラムもさまざまに開催されます。

〈孵化過程〉1962年 「Arata Isozaki: PROCESS」2011年 展示風景　Courtesy of MISA SHIN GALLERY, Tokyo, Photo: Keizo Kioku

展示構成

1.国内外の代表作
磯崎が東京大学丹下健三研究室所属時に関わった〈東京計画1960〉（1961年）に始まり、アーバンデザイナーとして提案した〈空中都市―新宿計画〉（1960-61年）、〈空中都市―渋谷計画〉（1960-62年）、〈コンピューター・エイディッド・シティ〉（1972年）などアンビルトの都市計画、〈大分医師会館〉（1959-60年）や〈福岡相互銀行本店〉（1968-71年）、〈旧大分県立図書館（現・アートプラザ）（1962-6年）をはじめとする初期作品から〈群馬県立近代美術館〉（1971-74年）、〈北九州市立美術館〉（1972-74年）、〈つくばセンタービル〉（1979-83年）、〈なら100年会館〉（1992-98年）、〈ラ・コルーニャ人間科学館〉（1993-95年）、〈カタール国立コンベンションセンター〉（2004-11年）など国内外の代表作を紹介。

〈群馬県立近代美術館〉1974年竣工　シルクスクリーン　1983年　H90×W63cm　©Estate of Arata Isozaki

〈つくばセンタービル〉1983年竣工、竣工写真　1983年
©Kochi Prefecture, Ishimoto Yasuhiro Photo Center, Photo: Yasuhiro Ishimoto

〈東京都新都庁舎計画設計競技〉1985-86年、シルクスクリーン　1986年　H80×W120cm　©Estate of Arata Isozaki

〈東京都新都庁舎計画設計競技〉1985-86年　シルクスクリーン、1986年　H80×W120cm　©Estate of Arata Isozaki

〈奈義町現代美術館〉1994年竣工　1994年　水彩　H18×W17.1cm
©Estate of Arata Isozaki

〈カタール国立コンベンションセンター〉2011年竣工　竣工写真　Photo: Hisao Suzuki

2.建築界における功績
磯崎は建築のキュレーションともいえる仕事を通じ、ひとりの建築家という枠を超えて建築のプロジェクトを構想した。本展では、多くの建築家を起用した〈くまもとアートポリス〉（1988-98年）、国際的に活躍する国内外の建築家6名に集合住宅を競作させた〈ネクサスワールド〉（福岡、1989-91年）のコミッショナーといったプロジェクトを通じて、磯崎の建築界における功績を紹介する。

3.戦後日本美術や現代美術との関わり
〈奈義町現代美術館〉（岡山、1994年）、〈ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ〉（2011-13年、アニッシュ・カプーアと協働）のようなアーティストとコラボレーションした建築プロジェクトや、パリ装飾美術館で開催された「間展」（1978-79年、79年に米国クーパー・ヒューイット美術館巡回後、海外4都市で開催）のキュレーションなどにみられる戦後日本美術や現代美術との関わりを紹介。

4.スケッチブック
磯崎は建築模型や図面以外の様々なメディアで自身の作品を発表したことでも知られる。本展では群馬県立近代美術館などの70年代の主要建築をシルクスクリーンとして遺した「還元」シリーズ（1983年）、そして1980年代後半から1990年代前半に手がけた建築をモチーフにした24点の水彩画（1994年）が披露される。
また磯崎は、欧州、アメリカ、アジアなど海外を旅した際、古典建築やモダニズム建築などを訪れ、その姿を70冊以上にもおよぶスケッチブックに記している。これらスケッチブックには、旅の記録だけではなく、当時手掛けていた建築や展覧会、そして執筆活動などの構想も残されている貴重な資料。磯崎のインスピレーションの源泉となったこれら膨大な数のスケッチから、その一部を紹介する。

スケッチ・ブックより〈パルテノン神殿、アクロポリス〉2000年12月　水彩　H14×W19.5×D3cm
©Estate of Arata Isozaki

5.磯崎建築としての水戸芸術館
1990年3月に開館した水戸芸術館は、画一的な近代建築を批判し、建築の根源的価値を再考するポストモダン建築の理念と実践を結実させた磯崎の代表作のひとつ。本展では、この水戸芸術館を出品作品のひとつとして“展示”する。あわせて刊行する『水戸芸術館ガイドブック』（監修・執筆：五十嵐太郎｜デザイン：イスナデザイン）を手に館内外を巡れば、磯崎建築をリアル体験できる。

〈水戸芸術館〉1990年竣工　「Arata Isozaki: In Formation」2023年 展示風景　Courtesy of Power Station of Art, Shanghai

磯崎 新（いそざき あらた）プロフィール

Courtesy of Arata Isozaki & Associates

1931年大分市生まれ。1954年東京大学工学部建築学科卒業。1963年磯崎新アトリエを設立。以後、国際的な建築家として、旧大分県立図書館（現アートプラザ）、群馬県立近代美術館、ロサンゼルス現代美術館、バルセロナオリンピック競技場などを設計。近年では、カタール国立コンベンションセンター、ミラノアリアンツタワー、上海シンフォニーホール、湖南省博物館、中央アジア大学、中国河南省鄭州市の都市計画などを手がけた。
世界各地の建築展、美術展のキュレーションや設計競技の審査員、シンポジウムの議長を務めた。代表的な企画・キュレーションに「間－日本の時空間」展（1978-81）、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館コミッショナー（第6～8回）、同展日本館展示「亀裂」で金獅子賞受賞（1996）など。建築思想の国際会議「ANY会議」を10年にわたり企画（1991-2000）。著書に『建築における「日本的なもの」』( 新潮社、MIT Press) 、過去50年間にわたり書いてきた文章を編集した『磯崎新建築論集』（全8巻、岩波書店）など多数。建築のみならず、思想、美術、デザイン、文化論、批評など多岐にわたる領域で活躍。2019年「プリツカ―賞」受賞。

「磯崎新：群島としての建築　Arata Isozaki: Archipelagos of Architecture」開催概要

会期：2025年11月1日(土) ～2026年1月25日(日)
開場時間：10:00-18:00（入場は17:30まで）
会場：水戸芸術館現代美術ギャラリー
休館日：月曜（ただし11月3日、11月24日、1月12日は開館）、11月4日(火)、11月25日(火)、年末年始（2025年12月27日[土]～2026年1月3日[土]）、1月13日(火)
入場料：一般900円、高校生以下・70歳以上、障害者手帳の提示で付き添い1名まで無料　※学生・70歳以上は年齢のわかる身分証明書などの提示が必要
※1年間有効フリーパス（年間パス）や特別割引デーなど各種入館割引設定はウェブサイトを参照

水戸芸術館 ウェブサイト
https://www.arttowermito.or.jp/

地上100mの高さを有する水戸芸術館の塔（シンボルタワー） Photo: TEAM TECTURE MAG

主催：公益財団法人水戸市芸術振興財団
協賛：一般社団法人茨城県建築士会、一般社団法人茨城県建築士事務所協会、柴建築設計事務所、横須賀満夫建築設計事務所、アビック、暁飯島工業、パル綜合設計、国際警備保障、三上建築事務所、根本建築設計事務所、清水建設、andHAND建築設計事務所、田村工務店
後援：アンドエスティHD
協力：磯崎新アトリエ、MISA SHIN GALLERY、大分市美術館、アートプラザ、公益財団法人西日本シティ財団、公益財団法人山口きらめき財団、秋吉台国際芸術村、高知県立美術館 石元泰博フォトセンター、The Estate of Jiro Takamatsu、Yumiko Chiba Associates、TANGE建築都市設計、日本図書輸送、アダストリア・ロジスティクス、伊東豊雄建築設計事務所、金箱構造設計事務所、くまもとアートポリス事務局、慶應義塾大学アート・センター、AAarchitects、MORF建築設計事務所、葵建設工業、加藤木工、サントリーホールディングス
ゲストキュレーター：ケン・タダシ・オオシマ、五十嵐太郎、松井 茂
会場設計：日埜建築設計事務所
企画：井関 悠（水戸芸術館現代美術センター主任学芸員）

水戸芸術館ガイドブック

建築史家で本展ゲストキュレーターを務める五十嵐太郎監修・執筆のもと、水戸芸術館の建築的特徴やデザインについてイラストつきでわかりやすく解説する『水戸芸術館ガイドブック』を刊行。水戸芸術館の内側から外側まで楽しめる1冊です（監修・執筆：五十嵐太郎｜ブックデザイン：イスナデザイン）

関連プログラム

ゲストキュレーター・レクチャー 01：五十嵐太郎

講師：五十嵐太郎
日時：2025年11月2日（日）14:00-15:30
会場：水戸芸術館 会議場
定員：80名（予約不要、先着順に受付）
参加費：無料
詳細：
https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5402.html

ゲストキュレーター・レクチャー 02：ケン・タダシ・オオシマ

講師：ケン・タダシ・オオシマ
日時：2025年12月20日（土）14:00-15:30
会場：水戸芸術館 会議場
定員：80名（予約不要、先着順に受付）
参加費：無料
詳細：
https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5403.html

ゲストキュレーター・レクチャー 03：松井 茂

講師：松井 茂
日時：2026年1月17日（土）14:00-15:30
会場：水戸芸術館 会議場
定員：80名（予約不要、先着順に受付）
参加費：無料
詳細：
https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5404.html

ドキュメンタリー映画『だれも知らない建築家のはなし』上映

日時：2025年12月21日（日）13:00-14:13（14:15-14:45ポストトーク）
会場：水戸芸術館 ACM劇場
定員：150名（予約不要、先着順に受付）
料金：無料（ただし、本展入場券もしくは半券の提示が必要）
映画情報：監督：石山友美｜撮影：佛願広樹｜出演：安藤忠雄、磯崎 新、伊東豊雄、レム・コールハース、ピーター・アイゼンマン、チャールズ・ジェンクス、中村敏男、二川由夫ほか
上映時間：73分
ポストトーク：石山友美（映画監督）×伊東豊雄（建築家）
詳細：
https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5405.html

トークイベント「だれも知らない構造のはなし」

水戸芸術館の構造設計を担当した構造家が同館タワーの構造について解説
講師：金箱温春（構造家 ※水戸芸術館の構造設計を担当）
日時：2026年1月11日（日）14:00-15:30
会場：水戸芸術館 会議場
定員：80名（予約不要、先着順に受付）
参加費：無料
詳細：
https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5406.html

磯崎新研究会：群島のアルケオロジー

磯崎自身が用いた言葉、「建築外的思考」を結節点に拡がる芸術の諸問題を、美学、芸術学、メディア論、アーカイブ論の実践者と共に議論し、その射程を拡張する研究会。本展を媒介に、戦後日本美術の持ち得た想像力を未来へと継承することを狙いとする。
登壇者：石本華江（慶應義塾大学アート・センター土方巽アーカイヴ学芸員）、伊村靖子（国立新美術館主任研究員）、木原天彦（渋谷区立松濤美術館学芸員）、鯉沼晴悠（金沢工業大学五十嵐威暢アーカイブ学芸スタッフ）、服部真吏（編集者）
モデレーター：松井 茂（本展ゲストキュレーター）
日時：2026年1月18日（日）11:00-17:00
会場：水戸芸術館 現代美術ギャラリー ワークショップ室
参加費：無料（※本展入場料は別途必要）
詳細：
https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5407.html

水戸芸術館見学ツアー

水戸芸術館の”顔”として来館者を迎えるスタッフ・ATMフェイスによるガイドツアー。通常は見ることのできない施設も特別に公開される（ただし、公演・リハーサル・天候などにより見学できない施設あり）
日時（時間は開始時間、所要約45分）：平日 14:00 / 16:00｜土・日曜、祝日 11:00 / 14:00 / 16:00〜
料金：大人600円（サザコーヒー水戸芸術館店での1ドリンク付[当日限り有効]、本展入場には別途料金が必要）
こども（小中学生）500円（サザコーヒー水戸芸術館店での1ドリンク付[当日限り有効]）
申込方法：水戸芸術館案内ページを参照

ウィークエンド・ギャラリートーク

日時：2025年11月15日（土）より毎週土曜（ただし、他のプログラムとの関連で中止となる場合あり）、各日14:30開始（所要約40分）
会場：現代美術ギャラリー
ガイド：市民ボランティアCAC ギャラリートーカー
料金：無料（ただし、展覧会入場券が必要）
詳細：
https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5409.html

関連教育プログラム

赤ちゃんと一緒に美術館散歩
日時：2025年11月21日（金）、22日（土） 各日10:30-12:00
会場：水戸芸術館現代美術ギャラリー
定員：5組程度
参加方法：要申込（先着順に受付）
料金：保護者のみ1,500円（入場料無料の保護者の場合：1,000円）※保護者2人目からは通常入場料
申込開始日：10月21日（火） ※詳細は水戸芸術館ウェブサイトを参照
協賛：ピジョンマニュファクチャリング茨城

※上記のほか、幼稚園・保育園年長向けの鑑賞ツアー＋工作ワークショップ、日比野克彦「明後日朝顔プロジェクト2025水戸」収穫祭、造形実験室など実施

「磯崎新：群島としての建築」展 詳細
https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5359.html