武蔵野美術大学 美術館·図書館 企画展「甦るポストモダン——倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義(ヒューマニズム)」 - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
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武蔵野美術大学 美術館·図書館 企画展「甦るポストモダン——倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義(ヒューマニズム)」

「甦るポストモダン——倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義(ヒューマニズム)」武蔵野美術大学 美術館·図書館にて12/21まで

クラマタデザイン事務所出身のインテリアデザイナー、五十嵐久枝氏(IGARASHI DESIGN STUDIO)が会場構成を担当

東京・小平市にある武蔵野美術大学(通称:ムサビ)の美術館·図書館にて、「甦るポストモダン——倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義(ヒューマニズム)」が12月21日まで開催されています。

会場構成・展示デザインを、クラマタデザイン事務所出身のインテリアデザイナーで同学造形学部空間演出デザイン学科教授の五十嵐久枝氏が主宰するIGARASHI DESIGN STUDIO(イガラシデザインスタジオ)が手がけています。五十嵐氏は2022年に同館にて開催された企画展「みんなの椅子 ムサビのデザインVII」の会場構成も担当しており(会場レポートはこちら)、このときにも見られた、展覧会終了後に出てしまう廃棄物の量を抑えることに配慮した展示デザインとなっています(詳細は後述)。

本展について

アメリカの建築史家チャールズ・ジェンクスの名著『ポスト・モダニズムの建築言語』(1977)によって、1970年代後半以降、建築やデザインの分野に広まった潮流「ポストモダン」。歴史的様式の引用や折衷、過度な装飾といった特徴で多く語られますが、本展覧会ではそれを「人間主義」=新しい社会と人間の生き方を求めるものづくりとして大きな文化史的見方で捉え、半世紀後の今こそ、その本質を見つめ直します。

見どころ

1.「ポストモダン」のルーツを見出す
本展では、現状に対する「異議申し立て」の精神こそがポストモダンの本質であると仮定し、18世紀アメリカ(米国)のシェーカー教徒による信仰生活のデザインと、19世紀イギリス(英国)において手仕事と中世ギルド(職工組合)への回帰を唱えたウィリアム・モリス(1834–1896)によるアーツ・アンド・クラフツ運動という、時を隔てた2つの運動に着目します。
これらの、都市を中心とした機械による大量生産と経済効率に傾く大衆社会に対して、労働=美=共同体を求めた姿勢の中にポストモダンのルーツを見出だします。米英両国における2つの運動と、その結実としての用品の数々には、信念がものに宿った際の静かな力強さが内包されており、のちのポストモダンの時代へとその態度がつながっていきます。

2.1968年パリ五月革命。世界に派生した「異議申し立て」
1968年にフランス・パリでおこった五月革命をはじめ、主に米国におけるベトナム反戦運動とヒッピー文化、日本の学生たちによる全共闘運動など、1960年代から70年にかけて、世界各地の若者と労働者たちがそれまでの権威や秩序に「異議申し立て」を行いました。前後して、後のポストモダン・デザインにつながるラディカルな表現が出現します。合理的・機能的なものを信じたモダニズムの楽観的な進歩主義への反省から、建築家やデザイナーたちは、個人の物語の広がり、歴史や社会への批評を備えた新たな造形を模索したのです。
本展では、パリ五月革命に大きな影響を与えたギー・ドゥボール(1931-1994)の著作『スペクタクルの社会[原題:La Société du Spectacle]』を基点に制作された映像作品や、若手建築家グループが誌上での建築の解体を志した雑誌『アーキグラム』など、世界で同時多発的に起こった対抗文化の諸相を展示します。また、1968年前後のラディカルな表現をきっかけとして展開した、ポストモダンの多様な表現もあわせて紹介します。

3.ポストモダンの思想を現代に伝える3人の作り手
本展覧会の中心を成す、倉俣史朗(1934–1991)、小松 誠(1943–)、髙﨑正治(1953–)の3名の主要作品が一堂に会します。
造形的には表立った共通項はみられませんが、それぞれがそれぞれの先見性と思想をもとに、造形を通して、自らが身を置く社会を鋭く批評しました。彼らの作品に強度を与えるものとは何かを究明しようとするとき、そこにもやはり「異議申し立て」の精神が滲み出ていることに気付くでしょう。

「ポストモダン」は終わらない。造形活動を通して社会の現状を痛烈に批判することは、グローバルな共同性・寛容を求めて混迷する現代にこそ最重要の思想とテーマだと言えるのではないでしょうか。

 

展示風景

武蔵野美術大学 美術館・図書館企画展「よみがえるポストモダン 倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義」展 会場写真

撮影:稲口俊太

武蔵野美術大学 美術館・図書館企画展「よみがえるポストモダン 倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義」展 会場写真

撮影:稲口俊太

武蔵野美術大学 美術館・図書館企画展「よみがえるポストモダン 倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義」展 会場写真

撮影:稲口俊太

武蔵野美術大学 美術館・図書館企画展「よみがえるポストモダン 倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義」展 会場写真

撮影:稲口俊太

武蔵野美術大学 美術館・図書館企画展「よみがえるポストモダン 倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義」展 会場写真

撮影:稲口俊太

武蔵野美術大学 美術館・図書館企画展「よみがえるポストモダン 倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義」展 会場写真

撮影:稲口俊太

武蔵野美術大学 美術館・図書館企画展「よみがえるポストモダン 倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義」展 会場写真

撮影:稲口俊太

武蔵野美術大学 美術館・図書館企画展「よみがえるポストモダン 倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義」展 会場写真

撮影:稲口俊太

武蔵野美術大学 美術館・図書館企画展「よみがえるポストモダン 倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義」展 会場写真

撮影:稲口俊太

武蔵野美術大学 美術館・図書館企画展「よみがえるポストモダン 倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義」展 会場写真

撮影:稲口俊太

 

会場構成について

本展では、スクラップ&ビルドとならない展示を心がけています。
美術館が所持している「展示台」「展示用パネル」や大学内で使用されている「ダンボールパネル」「製図板」を有効活用しました。
作品に直接触れる面には、配慮した素材を選びました。梱包用ラップやミラーシート、工事現場用メッシュ、シュレッダー紙がそれにあたり、それぞれ特徴ある表層を作品とマッチングさせ、やや意外性のある展示となるよう期待しています。
スクラップ&ビルドは、戦後の再建・復興の希望、高度成長期~バブル期の効率主義・更新重視、といった文脈から生まれ定着していった概念ですが、現代では環境負荷への批判対象となっています。そこにあるものを活用する。美術大学は価値あるものが点在し眠っている環境と捉えています。

展示作品を貸し出しいただいた作家の皆さま、また所蔵作品であることから普段とは違った見せ方にご理解をいただいた美術館関係者、展示空間制作・照明計画に携わっていただいた皆さまに感謝します。(五十嵐久枝)

 

※本稿に掲載した五十嵐氏によるテキストおよび展示風景写真は、会場にて販売されている展覧会図録に同封されている

「甦るポストモダン——倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義」

展覧会図録

 

「甦るポストモダン——倉俣史朗、小松誠、髙﨑正治、デザインの人間主義」開催概要

会期:2025年11月24日(月・振休)〜12月21日(日)
開館時間:11:00–19:00(土・日曜は10:00–17:00)
休館日:水曜
入館料:無料
会場:武蔵野美術大学美術館 展示室3
所在地:東京都小平市小川町1丁目736(Google Map
主催:武蔵野美術大学 美術館・図書館
特別協力:小松 誠、髙﨑正治、内田デザイン研究所
企画監修:新見 隆(武蔵野美術大学造形学部教養文化・学芸員課程研究室教授、美術館・図書館長)
会場構成:IGARASHI DESIGN STUDIO(五十嵐久枝、藤田 学)
ライティングデザイン:山下裕子(Y2 LIGHTING DESIGN)
会場グラフィック・図録デザイン 漆原悠一(tento)
会場施工:square4、武藤結実(武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科助手)

武蔵野美術大学「よみがえるポストモダン」展 フライヤー

関連イベント

ドキュメンタリー『共同性の地平を求めて』(1975年)トーク付き上映会
日時:2025年12⽉13⽇(⼟)16:30–18:45(16:00開場)
会場:美術館ホール
登壇:能勢伊勢雄(映像作家、美術展企画、Live House PEPPERLAND主宰)
観覧料:無料
参加方法:当日会場にて先着順に受付(予約不要)

武蔵野美術大学 美術館・図書館ウェブサイト 本展案内ページ
https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/22465/

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