FEATURE
Special Report "Chairs for All: Musashino Art University and Design VII"
FEATURE2022.09.05

「みんなの椅子 ムサビのデザインVII」会場レポート

武蔵野美術大学 美術館·図書館が誇るコレクション、憧れの名作椅子に座ってきた!

2022年見るべき展覧会の1つ

2022年9月5日初掲、9月7日「10.みんなの椅子」展示室を含む会場写真ほかを追加

東京・小平市にある武蔵野美術大学(通称:ムサビ)の美術館·図書館にて、同大学が長年にわたり収集してきた、400を超える近代椅子のコレクションのうち、250脚を展示する「みんなの椅子 ムサビのデザインVII」が、10月2日まで開催されています。

本展の会期は前期・後期に分かれています。8月15日から9月4日までの夏季休業期間を利用して、2階の一部で展示替えが行われ、いよいよ9月5日より後期の会期がスタートします。

武蔵野美術大学 美術館·図書館(旧美術資料図書館)正面外観

芦原義信建築で250脚の名作椅子を展示

会場は、ムサビの建築学科創設に関わり、初代主任教授も務めた建築家の芦原義信(1918-2003)が、美術資料図書館[*]として設計した建築空間(現在の武蔵野美術大学 美術館棟)。ここに展開させる250脚を、倍近い数のコレクションから選ぶという大役を担ったのが、同大学の造形学部空間演出デザイン学科教授の五十嵐久枝氏。建築家・デザイナーの寺田尚樹氏(インターオフィス代表取締役社長)と共に、本展の監修者を務めています。

*.プロポーザルコンペを経て、藤本壮介建築設計事務所が、旧美術資料図書館の改修と、隣接地での図書館新築を担当(サインデザイン:佐藤 卓)。工事が完了した2010年以降、2棟あわせての名称は〈武蔵野美術大学 美術館·図書館〉と改められた

会場構成はIGARASHI DESIGN STUDIOが担当

『TECTURE MAG』編集部では、前期および後期展示の初日に会場を見学。どちらも五十嵐氏の解説を現地で聞くことができました。

寺田氏とともに、本展の監修者を務めた五十嵐氏は、会場構成も担当しています(自身のデザイン事務所・IGARASHI DESIGN STUDIOとして)。
前後期で展示替えがあるコンテンツも含めて、本展は以下の章立てとなっています。

展示構成
1.近代椅子デザインの源流
2.トーネットとデザイン運動
3.国際様式と家具デザイン
4.ミッドセンチュリーと大衆消費社会
5.スカンジナビアンモダン:手仕事と機能性の共存
6.イタリアンモダン
7.ポストモダンと倉俣史朗
8.日本の椅子 ※前期のみ展示
9.フォールディングとロッキング
10.みんなの椅子 ※後期のみ展示(「8.日本の椅子」展示と入れ替え)

国内有数の近代椅子コレクション

ムサビの椅子コレクションは国内有数の規模を誇り、所蔵数は現在、400脚を超えます。

収集のきっかけは、同大学工芸工業デザイン専攻(当時)の初代主任教授であった豊口克平(1905-1991)をはじめとした教員陣が、1960年代に「プロダクト・デザインを学ぶ者にとって、椅子は格好の教材である」と提言したこと。1967年には、今日の〈武蔵野美術大学 美術館·図書館〉の前身となる、美術資料図書館が開館[*]。以来、近代ポスターと並ぶコレクションの中心として、近代椅子を収集してきました。

殆どの椅子に座れる展覧会!

会場には、美術館でもしも近代デザインの企画展が開催されたなら、展示されていてもおかしくない名作椅子が目白押し。バウハウス、ミッドセンチュリー時代の椅子、ミース・ファンデル・ローエ(1886-1969)、ル・コルビュジエ(1887-1965)、マルセル・ブロイヤー(1902-1981)、チャールズ・イームズ(1907-1978)、エーロ・サーリネン(1910-1961)がデザインしたプロダクトを含みます。いま、都内で展覧会が行われているフィン・ユール(1912-1989)の〈ジャパンチェア〉を含む6脚が、ジャン・プルーヴェの椅子も〈スタンダードチェア〉を含めた5脚が展示されています。

展示されている椅子のオリジナルは、年代・地域・素材もさまざまですが、現在も生産されているものも多く、プロダクトデザインの名作ばかりです。それが250脚という圧倒的な物量で展開されます。近代椅子の企画展としては、過去最大級の規模でしょう。

さらに、この「みんなの椅子 ムサビのデザインVII」では、展示品の約8割に座ることができる! 貴重な鑑賞体験を提供しているのが大きな特徴です。

この「実際に座れる」ことの背景について、五十嵐氏は、次のように説明してくれました。

「ムサビの近代椅子コレクションは、私が教えている空間演出デザイン学科をはじめ、学内の授業で毎年使っています。故・豊口克平先生たちが提唱した、『椅子はプロダクト・デザインを学ぶ者にとって格好の教材である』ことを、継続して実践しているのです。椅子のすがたかたちをスケッチするだけでは見えてこない、腰を下ろし、背を預けるなど、実際に触れてみることで、デザインとその背景についても学びとることができます。」

近代以前の中国の椅子とウェグナーの椅子との関係性

会場は、展示された椅子が誕生した地域や時代の特徴によって、10の章立てに分類されています(但し、展示替えあり)。
場内の動線は特に決められていません。来場者はどこから見始めてもよく、目についた、あるいは目当ての椅子へと真っ直ぐに向かい、許可されているものであれば腰を下ろすなど、自由に鑑賞することができます。

とはいえ、展示された椅子には「通番」が振られています。250脚のうち、どれが最初の「No.01」となったかを確認しましょう。

五十嵐氏によれば、章立てと通番でいうところの、1-01、1-02、1-03の椅子には、3つの並び順に意図がありました。

武蔵野美術大学 美術館·図書館「みんなの椅子 ムサビのデザインVII」

“スチールトンネル”内の椅子、左端から、通番1-01 四出頭官帽椅(High Back Arm Chair)2002年製造[1600年代初号]、1-02 圏椅(Horseshoe Arm Chair)2002年製造[1500年代初号]、1-03 チャイニーズチェア(No.4283)1992年製造[1943年初号]

上の画の手前に見える大型の椅子が、本展における”最初”の椅子です(通番1-01)。1600年代の中国・明朝時代につくられた椅子で、四出頭官帽椅(High Back Arm Chair)の復刻版(2002年、中国明式家具学会製造)。その右側が、通番1-02の圏椅(Horseshoe Arm Chair)となっています。

どちらも2002年の復刻版ですが、1-02の場合、初号の製造年代は、1-01の四出頭官帽椅よりも古く、100年ほど下ります。
展示のセオリーに倣えば、1-02が最初に置かれてもおかしくありません。なぜ、会場で最も古い圏椅が2番目なのか?

五十嵐氏に、この2脚の並びの”謎解き”をお願いしました。

トンネル内・画面左端から、通番1-01〈四出頭官帽椅〉、1-02:〈圏椅〉、1-03〈チャイニーズチェア〉、1-04〈ザ・チェア〉、1-05〈Yチェア〉、1-06〈PP201〉(ウェグナーがデザインした4点) ※展示品の製造・初号年は特設サイト 出品目録(ハンドアウト)を参照

「1-02の圏椅に続く、1-03以降の椅子に注目してください。デンマークおよび北欧デザインを代表するデザイナーの1人、ハンス・ウェグナーが、1940年代、50年代、60年代にデザインした、代表的なチェアを展示しています。そのうちの1-03は、フリッツ・ハンセンから1943年に発表された〈チャイニーズチェア(No.4283)〉です。1-02の圏椅と比べてみてください。かたちが似ているでしょう? ウェグナーはこの1500年代の明代の椅子に着想を得て〈チャイニーズチェア〉をデザインしています。そして、以降の〈ザ・チェア(JH503)〉、名作椅子〈Yチェア〉などが世に送り出されていく、という流れになります。」(五十嵐氏談)

1-02:〈圏椅〉製作者不詳 / 2002年製造[初号 1500年代] 武蔵野美術大学 美術館・図書館所蔵

1つの椅子から、いろいろなことが見えてくる!

見た目にもどっしりと重量感がある、1-02の明代の椅子。家具というよりは、権威を象徴するための装置でもあるようです。

そして、座ってみると、五十嵐氏の指摘もあり、あることに気づくことができました。
座ったときに、自分の踵(かかと)が、足元で左右にわたされた部材に当たるのです。補強財の貫(ぬき)かと思いましたが、それならもっと上の位置のほうが踵がぶつかりません。意図的にこの位置、床面ぎりぎりの高さで取り付けられているようです(上の画:1-02圏椅の単独画像と下の会場風景画像を参照)。
いったいなんのために?

「明代のこの椅子が、どのような場所でどのように使われていたのかを想像してみてください。」というのが、五十嵐氏からのヒントでした。

"プロダクト・デザインを学ぶ者にとって、椅子は格好の教材である"

「この椅子が使われていた、当時の中国の室内空間は、床が石張りでした。冬ともなれば、椅子に座っていても底冷えがしたでしょう。その寒さを軽減するために、この足元の横材の上にちょこんと足を乗せて座っていたのです。でも、ウェグナーの時代では、インテリアなども変わり、そんな必要もなくなったため、この横材は〈チャイニーズチェア〉には踏襲されませんでした。」と五十嵐氏。

「圏椅と、ウェグナーの〈チャイニーズチェア(No.4283)〉は、製造年では400年以上の開きがあります。この2脚を並べることで、洋の東西を横断して受け継がれたデザインの系譜があることと、椅子のデザインが洗練・進化していった実例の1つが見てとれます。」(五十嵐氏談)

このように、濃厚なるストーリーが、のっけから浮かび上がってくる本展。椅子に実際に座ってみないと、これはわからないでしょう。
この体験こそが、本展「みんなの椅子 ムサビのデザインVII」の醍醐味です。

スマートフォンなどの端末は必携! 手元にあるとないとで大違い

椅子、椅子、椅子が250脚、これでもかと並ぶ会場では、展示品の周りに、いわゆる解説文のプレートなどは見あたりません。各章の概要が記されたハンドアウトは受付に置かれていますが、プロダクトの詳細がわかる出品目録は、本展特設サイトにて収録されています。

デザイナーや製造元などもわかる特設サイトは、かねてよりムサビがウェブサイト上で公開しているデーターベースをブラッシュアップしたものです。デザイナーや製造者の名前、初号の製造年、椅子を構成する材料と技法など記された充実の内容です。会場では必携のガイドとなります。

なお、会場内の撮影と、SNSなどへの投稿も許可されています(但し、プロジェクションは撮影不可)。

「ハンドガイド」にアクセスできるQRコードの案内スタンド(会場の要所に設置)

椅子を学ぶことで、見えてくるもの

「椅子を学ぶことは、デザイナーにとって、重要な意味があります」とは、実感がこもった五十嵐氏の言葉です。

「まず、人の重量を支えるプロダクトとしての機能を有していなければいけません。そして、先ほどの明代の椅子のように、どのような環境に置かれ、使われていたのかも調べればわかってくる。たった1脚から、構造と空間の両方を学ぶことができる、それが椅子です。
さらには、1つの椅子が生み出される背景には、どのような経緯でデザインされたのかというストーリーが必ず存在します、新たなデザインを可能とした当時の新技術や素材もあるでしょう。かつて、豊口先生が説いたように、”プロダクト・デザインを学ぶ者にとって、椅子は格好の教材”なのです。」(五十嵐氏談)

時代背景を学ぶ手助けとなるのが、各章の壁や特設スクリーンに投影された、椅子が製造された当時の広告などの映像資料です。

壁のスライド:パーツに分解できる=輸送性が高いことがわかるトーネットの椅子のスライド

例えば、1階「2.トーネットとデザイン運動」の展示では、トーネットの曲げ木椅子は分解して組み立てられるようになっていることがわかる1枚のスライドが壁に投影されます。
この画が意味するのは、パーツにバラして梱包すれば、海外にも輸送できたことを示しています。これは、当時の販売方法として画期的なことでした。
五十嵐氏の解説によれば、軽量でもあったトーネットの椅子は、爆発的な勢いで欧州をはじめアメリカ大陸にも送られ、人気を博したとのこと。

「このように、機能や空間のこと以外にも、流通のことや、つくったメーカーなどにもそれぞれのストーリーがあります。何度か座ってみることで、新たな発見があるかと思います。ぜひ、会場には何度も足を運んでもらって、1つ1つの椅子と向き合ってみてほしいです。」(五十嵐氏談)

収集の基準は「人々が買える椅子」であること

繰り返しになりますが、本展に展示されているのは、公共の美術館や博物館ではなく、私立大学の付帯施設が、半世紀以上にわたり、地道に収集してきたコレクションです。

五十嵐氏によれば、武蔵野美術大学 美術館·図書館では、コレクション収集と研究のための予算が毎年きちんと組まれているとのこと。
購入の際の基準となるのは、原則として、値段のついた製品であること。ヴィンテージや美術品として価値があるかどうかではなく、人々が購入して、生活の道具として使われるものが選ばれています。

2階の展示室5は必見!

「座れる、みんなの椅子」をコンセプトとして掲げている本展において、例外となる展示が2階にあります。倉俣史朗(1934-1991)がデザインした椅子を中心に構成された、展示室5の「7.ポストモダンと倉俣史朗」です。

この展示室にある椅子は、初号を含む貴重なプロダクトばかり。座ることはできませんが、かの名作〈Miss Blanche〉には、前後期を通じてこの部屋で会うことができます。

〈Miss Blanche〉は、1988年に56脚限定で制作され、今ではオークションで高値がつけられる、コレクター垂涎の逸品。本展で展示されている〈Miss Blanche〉は、倉俣没後の2004年頃、クラマタデザインが特別に製造した数脚のうち、最後まで事務所に残されていた1脚とのこと。

そして、この部屋だけ照明が落とされているのは、部屋の奥に、電飾が施された倉俣の椅子〈ヨセフ・ホフマンへのオマージュ Vol.2〉が展示されているからです。

倉俣史朗〈ヨセフ・ホフマンへのオマージュ Vol.2〉1986年製造[展示も同年の初号品]

こちらの椅子〈ヨセフ・ホフマンへのオマージュ Vol.2〉は、ムサビで所蔵はしていたものの、数年前まで電飾部分が壊れた状態で、倉俣の意図どおりに光らせることができませんでした。
ところが、本展を企画中に、美術家で彫刻学科教員の牛島達治氏が、この椅子の制作に関わっていたことが偶然にも判明。同氏の協力により、念願の修復が叶ったとのこと。
修復完了後、本展が初の披露となります。

「テラダセンセイのISU Less is More」

展示室5を出ると、本展のために用意された解説動画の上映コーナーがあります。
モニターで上映されているのは「テラダセンセイのISU is More」動画(表記はテラダセンセイのISU Less is More)。出演は、本展監修者の1人である寺田尚樹氏です。

ヴィトラ(Vitra)をはじめとするヨーロッパの高品質なオフィスファニチャーの輸入販売を主な事業とする企業、インターオフィスの代表取締役社長を2017年より務める寺田氏は、その家具に関する豊富な知識を惜しみなく、解説動画の中で披露しています。近代椅子の源流や、アメリカ・ミッドセンチュリー、前衛的なデザインが目立つイタリアンファニチャーの歴史など、さまざまな角度から、時には”体を張って”、近代椅子を解説。本展および近代椅子への理解が深まる、貴重なレクチャーとなっています。

解説動画収録にあたり、寺田氏が用意したレジュメは計20枚。同じ数の動画が会期中に公開されます。これらの動画は、本展開催にあわせてオープンしている展覧会特設サイトでも公開されています。

特設サイト「ムービー」ページ
・監修者メッセージ
・テラダセンセイのISU is More
https://chairs-for-all.musabi.ac.jp/archives/movie_posts

中国・西洋とは文化的背景が異なる「日本の椅子」

前期のみの展示となる、2階の「日本の椅子」の展示室では、剣持 勇(1912-1971)、柳 宗理(1915-2011)、そして、ムサビが近代椅子のコレクションを始めるきっかけをつくった豊口克平といった、日本人デザイナーや日本の家具メーカーが手がけた椅子がまとめて展示されました(8月14日で終了)。

渡辺 力(1911-2013)の〈ひも椅子〉、長 大作(1921-2014)による〈低座椅子〉などは、座面が低く、畳の上での生活に慣れ親しんできた日本人が使いやすいようにデザインされていることがわかります。畳を傷めないための工夫「畳摺り」が施されている椅子もあり、この展示室に着くまでに見てきた、中国・欧米圏の椅子とは、文化的背景が異なることを実感として理解できます。

後期展示から「10.みんなの椅子」がスタート

2階の第10講義室では、9月5日から「10.みんなの椅子」の展示が始まります。
ムサビの卒業生や教員をはじめとする学校関係者が、国内の家具メーカーらと協力して世に送り出してきた椅子の展示です。

本展監修者の五十嵐久枝氏(1964-)をはじめ、工芸工業デザイン学科で准教授を務める熊野 亘氏(1980-)や、天童木工のデザイナー・松橋孝之氏(1985-)らがデザインした椅子が並ぶほか、卒業生がデザインを手がけたラウンジチェア・ダイニングチェア・スツールも展示。さらには、椅子づくりには欠かせない、製造者・メーカーについてもスポットがあてられています。

左手前:木製ラウンジチェア:三沢厚彦〈SHINRA〉飛驒産業製造 2021年

ラウンジチェア〈SHINRA〉は、武蔵野美術大学彫刻学科の教授を務める、彫刻家の三沢厚彦氏がデザインしたものです。広葉樹に比べて柔らかいため、椅子製造にが不向きとされた針葉樹・杉の集積材を用いています。重量は見た目のボリュームほどではなく、人力で持ち運ぶことができるとのこと(「広葉樹を材としていたなら簡単には動かせない重さになる」と五十嵐氏談)。

武蔵野美術大学 美術館·図書館「みんなの椅子 ムサビのデザインVII」

画面奥:三沢厚彦〈SHINRA ラウンジチェア〉と、製造した飛驒産業 上條憲一郎氏(同社デザイン室)へのインタビュー映像(壁面)/ 手前の椅子:天童木工(松橋孝之)〈バンビ〉2018年
※熊野 亘デザイン〈プライプライ〉(天童木工 2021年)に着座して撮影

〈SHINRA〉を製造したのは飛驒産業。同社のデザイン室に勤務する、ムサビの卒業生である上條憲一郎氏へのインタビュー動画が、展示室内にて上映されています(展覧会特設サイトおよびYouTubeチャンネルにて9月5日より公開中)。
動画での解説によれば、〈SHINRA〉の製造では、5軸NCルーターでパーツを削り出すといった最新の3D加工技術が用いられており、かつ、最後は職人の手で仕上げているとのこと。

インタビュー動画では、原 研哉氏がデザインし、飛驒産業から今年発表されたチェア〈SUWARI〉に関するエピソードなども披露されています(ローンチ時の概要『TECTURE MAG』プロダクトニュース 2022年2月発表)。

「9.フォールディングとロッキング」の展示をお見逃しなく!

本展の展示「9.フォールディングとロッキング」を見るには、いったん建物の外に出る必要がありますので、ご注意を(2階の「5.スカンジナビアンモダン:手仕事と機能性の共存」展示室の手前、「サモトラケのニケ」の下にも3脚あり)。

武蔵野美術大学 美術館·図書館 外観(エントランスに向かって左側に「9.フォールディングとロッキング」の展示室がある)

1階 展示室1での「9.フォールディングとロッキング」は、折り畳める椅子・フォールディングチェアのコレクションが展示されています。どちらも、「人が座る」という基本的な条件に、複合的な機能が付加されたもの。複数の与件をクリアし、かつ美しいという、デザインの見本のようなチェアが並びます。

前期まで学生+教員の企画展示も ※終了

このほかにも、学生と教員による企画展示も行われました(8月14日で展示終了)。
空間演出デザイン学科と工芸工業デザイン学科の授業課題において、学生が制作した椅子の中から、特に優れたものが選出されているとのこと。

隣接する図書館棟は、藤本壮介建築設計事務所の設計作品として知られる

在校生であれば、会期中、毎日・何度でも会場に通えるというその幸福を改めて噛み締め、卒業生ないし学外の者であれば、ムサビでイチからデザインを学びたくなる、2022年必見の企画展の1つです。

Photo by TEAM TECTURE MAG(特記のある写真を除く)Reported by Naoko Endo


#武蔵野美術大学 美術館・図書館「みんなの椅子 ムサビのデザインⅦ」 監修者メッセージ」(2022/07/24)
※8月14日で終了した、2階 第10講義室での展示「8.日本の椅子」の映像もあり

本展の展示デザインについて

前半の章(1〜6)までは、壁の仕切りを設けずに、どの章からも全体が見通せる会場構成とした。
微細だが長さ17mにおよぶワイヤートンネルが、最初の展示「1.椅子の源流」となる。トンネルは、会場中央を一直線に貫いており、これに引き込まれるようにして、最初に通ってもらうとよい。先ずは、このトンネルの最初にある、近代椅子デザインの源流となる”3つの椅子”を頭に入れてから、会場を巡ってほしいと考えている。

章の1〜9の共通として、要素を抑え、まとまり感を出して各章を構成している。
導入として、章の始まりの位置に小さな白いスタンドサイン(章タイトルとQRコード)を立て、展示の文字情報は作品個々の番号のみとし、文字情報は極力減らすことを意識的に行なっている。本展の特徴である「座る椅子展」として、より多くの椅子に座ってもらうことを狙いとしているためである。

各章ごとにカーペットを敷き、エリアを分けを行なっているが、カーペットを選択した理由は、着座椅子(授業教材)の保護を兼ねるためでもある。着座不可な椅子には、過去の展示で使った什器をリサイクルして、既存物を活用したステージを設けて展示している。

1階の総延長17mのトンネルの制作では、少ない材料で自立する構造を試みた。学内で試作を繰り返し、透け感と存在感のプロポーションを何度も検討した。学生が針金を1本1本を組み重ねて固定し、数日をかけて制作している。身の回りにある材料と工具で、空間が立ち上がっていくという体験は、彼らの今後の制作にも活かされるだろう。

このほかにも、今回の広い展示会場内では、学生たちのサポートを得ている。展示品の破損などの危険性を回避したうえで、学生が本展に関われる機会をつくり、会期終了後は、展示什器の解体にも学生が参加する予定だ。解体された素材は、学生たちの作品制作に活用される。
本展における制作物は、全体で余剰の発生を抑え、既存資源を活用、廃棄削減のためのリユースと長期利用を鑑みた、美術大学の学内にある美術館としての環境をフルに活用したプロジェクトとしての試みである。

9月5日から始まる後期展示では、前期の展示「08.日本の椅子」を全て入れ替え、新たな展示「10.みんなの椅子」となる。
ムサビのOBとその関係者は、国内のメーカーで数多くの家具の企画・開発・製造に関わっている。この展示替えには、学生や受験生にとって、美術大学卒業後の姿として参考になればという考えも含まれている。

ぜひ、前期と後期の両方に足を運んでいただきたい。(IGARASHI DESIGN STUDIO 五十嵐久枝)

「みんなの椅子 ムサビのデザイン」開催概要

英語タイトル:Chairs for All: Musashino Art University and Design VII
会期:以下の前・後期に分かれる(展示替えあり)
前期:2022年7月11日(月)〜8月14日(日)※終了
後期:2022年9月5日(月)〜10月2日(日)
※休場期間:8月15日(月)〜9月4日(日)
開館時間:12:00-20:00(土・日曜、祝日は10:00-17:00)
休館日:水曜
会場:武蔵野美術大学 美術館展示室1・2・4・5、アトリウム1・2、ほか
所在地:東京都小平市小川町1-736(Google Map
TEL:042-342-6003
入館料:無料

「みんなの椅子 ムサビのデザインVII」会期は10月2日まで

主催:武蔵野美術大学 美術館·図書館
監修:五十嵐久枝(武蔵野美術大学 造形学部空間演出デザイン学科教授)、寺田尚樹(建築家・デザイナー、インターオフィス代表取締役社長)
企画協力:インターオフィス
会場構成:IGARASHI DESIGN STUDIO
協力:武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科研究室、武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科研究室
協賛:アサダメッシュ、モデュレックス
特別協力:島崎 信(武蔵野美術大学 名誉教授)

※新型コロナウイルス感染症拡大状況により、会期・時間を変更、あるいは予約制を導入する場合あり

「みんなの椅子 ムサビのデザインVII」詳細
https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/19954/

特設サイト
https://chairs-for-all.musabi.ac.jp/

武蔵野美術大学 美術館·図書館(MAU M&L)公式ウェブサイト
https://mauml.musabi.ac.jp/museum


※同時開催
「原弘と造型:1920年代の新興美術運動から」
武蔵野美術大学 美術館·図書館
会期:2022年7月11日~8月14日、 9月5日~10月2日
会場:武蔵野美術大学 美術館展示室3
展覧会詳細
https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/19953/

会場 美術館棟 エントランス 見上げ

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