[Report]内藤 廣氏と巡る、島根県芸術文化センター「グラントワ」建築ツアー、竣工20年を経て色褪せない石州瓦など見どころを詳しく解説 - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
[Report]内藤 廣氏と巡る、島根県芸術文化センター「グラントワ」建築ツアー、竣工20年を経て色褪せない石州瓦など見どころを詳しく解説

[Report]内藤 廣氏と巡る、島根県芸術文化センター「グラントワ」建築ツアー、竣工20年を経て色褪せない石州瓦など見どころを詳しく解説

内藤氏と共に「グラントワ」を巡る建築ツアーを取材

建築家の内藤 廣氏の代表作の1つとして知られる、島根県益田市に2005年10月にオープンした島根県芸術文化センター「グラントワ」[*1]は、大小2つのホール(島根県立いわみ芸術劇場)と、4つの展示室を有する美術館(島根県立石見美術館)などで構成される文化複合施設です。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

島根県芸術文化センター「グラントワ」北面外観(パノラマ撮影)

島根県立石見美術館では、2023年に内藤氏として初の大規模個展となる企画展「建築家・内藤廣/BuiltとUnbuilt 赤鬼と青鬼の果てしなき戦い」を3つの展示室で展開。同展を再構築して2025年に東京・渋谷で開催された「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」[*2]を『TECTURE MAG』では取材しています(詳細は「EDITOR’S PICKS」の展覧会レポートを参照)。

「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」展会場風景

2025年「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」展で展示された「グラントワ」を中心とした益田市の縮尺1/200広域模型

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」フロア案内図

「グラントワ」を代表するもう1つの文化施設、島根県芸術文化センター 大ホールにおいて、5月27日に行われたクラシックコンサート[*3]の関連企画[*4]として、内藤氏と共に「グラントワ」を巡る建築ツアーが翌日の28日に開催され、首都圏から約20名が参加しました。
『TECTURE MAG』ではこの建築ツアーを取材。案内役を務めた内藤氏の解説をもとに「グラントワ」の見どころをレポートします(本稿の写真はツアーの順路とは異なる)。


*1.愛称「グラントワ」:島根県の公募に対して寄せられた16,456点の中から選出、フランス語の「グラン(Grand)=大きい」と「トワ(Toit)=屋根」をかけあわせた造語
*2.「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」:「グラントワ」での展示内容を再構築した展覧会、東京・渋谷の渋谷ストリーム ホールにて2025年開催
*3.「ストラディヴァリウス・スーパー・プレミアム・コンサート2026」:ベルリン・フィルハーモニー・ストラディヴァリウス・ソロイスツのメンバー13名がストラディヴァリウスのヴァイオリン、ヴィオラ、チェロあわせて11台を携えて行った来日全国ツアー(6月7日で全日程終了、山口公演の主催は公益財団法人山口市文化振興財団、詳細は日本公演公式ウェブサイト参照)
*4.「美術館と劇場が共存する名建築《グラントワ》極上の音楽体験&建築家と巡る建築ツアー」:羽田空港発着で上記コンサート鑑賞希望者を対象に5月28日に実施、約20名が参加

島根県芸術文化センター「グラントワ」

2026年5月28日に行われた「グラントワ」建築ツアーの様子

内藤廣氏と巡る「グラントワ」建築ツアーレポート INDEX

19連敗中の内藤氏が背水の陣で挑んだ設計コンペ
「グラントワ」から見えてくる石見・益田の歴史と文化
劇場と美術館を等価に並び立たせる
職人技が光る大ホールのコンクリート
世界的音楽家も太鼓判を押す大ホール
演者のためのバックヤード
機能と美を兼ね備えた6色の石州瓦
大きな中庭に水盤の広場をつくる
細部に宿る「グラントワ」の美
平らな敷地にランドスケープを造成
300年先まで残る建物を
島根県芸術文化センター「グラントワ」建築DATE


19連敗中の内藤氏が背水の陣で挑んだ設計コンペ

——内藤 廣
益田を訪れるたびに「ただいま」と言ってしまいますね。2005年10月に「グラントワ」がオープンして以来、建物の見どころを私が解説しながら館の内外を巡る建築ツアーが不定期に開催されています。東京からのアクセスは、羽田空港から萩・ 石見空港まで約90分、空港からはタクシーで15分ほど。島根県人の奥ゆかしさなのでしょうが、首都圏からのアクセスの良さをもっとアピールしたほうがいいと常々思っていたところ、羽田空港離発着で5月27日の大ホールでのコンサート[*3]を聴きにくる方を対象に、あわせて建築ツアーをやりたいと「グラントワ」から打診され、2つ返事で引き受けました。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」北面メインエントランス 向かって左側(美術館 展示室D)

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」北面メインエントランス

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」北面メインエントランス 向かって右側(レストラン / 開館以来の店舗[Pony]は6月28日で営業終了)

——内藤 廣
「グラントワ」がつくられるきっかけは、島根・出雲の出身で、1987年から5期にわたり島根県知事を務めた澄田信義さんの「石見地方に文化の砦をつくりたい」という強い思いに依るところが非常に大きかったと思います。開館の5年ほど前に実施された設計競技で私たちの提案が最優秀となったのですが、それまで私はコンペに19連敗していました。かつ、それまで美術館や博物館の設計実績はあったものの、1,500人規模の劇場の設計はやったことがなかった。実施設計の途中にあった大幅な予算削減要請に対しては、県の担当者やスタッフと一丸となって乗り切ったことなど、この「グラントワ」には強い思い入れがあります。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」について解説する内藤 廣氏

「グラントワ」から見えてくる石見・益田の歴史と文化

——内藤 廣
みなさんにまず知ってほしいのは、島根・益田は食べ物がおいしいこと。駅前には四つ星クラスのホテルもできました。この辺りは戦国期は毛利氏が、その後は長州藩の代々家老の益田氏が治め、文化的な土壌が培われてきました。さらに前の室町時代には雪舟(1420-1506)がこの地を何度も訪れています。おそらく日本海側における大陸からの文化の受け皿の1つだったのでしょう。この地の特産で、江戸から明治にかけて大阪と北海道を日本海経由で航海していた商船・北前船(きたまえぶね)の船底にも積まれていた赤い石州瓦(せきしゅうがわら)を、この建物全体に採用しました。設計に際して、石見地方の文化や歴史も調べ、石州瓦の性能の素晴らしさに気づいたからです。旅の醍醐味も、その土地の食べ物や名産品を楽しむだけでなく、目には見えない文化を肌で感じ取ることだと思います。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」中庭広場

劇場と美術館を等価に並び立たせる

——内藤 廣
敷地面積は36,000m²、かつては材木を扱う会社の資材置き場だったと聞いています。この規模で、美術館と劇場の2つを内包した文化複合施設は、当時の国内には先例がなかったと思います。「グラントワ」が成功して、今では珍しくなくなりました。
単体でも劇場空間の設計はとても難しいんです。大きな道路に面していると救急車などの緊急車両が必ず通過するため、サイレンの音を遮断しないといけない。鉄骨造では遮音が完全ではないと考え、コンクリートの塊でホールと建物をつくろうと最初から決めていました。そのときに留意したのが、美術館とのバランスです。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」大ホール+ホワイエ

——内藤 廣
美術館の設計では、現代美術作品の展示に対応して天井の高い展示室を1つ用意しましたが、大ホールほどのボリュームはありません。そうすると、どうしても美術館が見劣りしてしまう。私は劇場と美術館のどちらも等価に扱いたかった。そこで、美術館の前室的な空間としてしつらえたのが、大きなヴォールト天井をもつ美術館ロビーです。アートライブラリーと「グラントワ」のインフォメーションとしても機能しています。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」美術館ロビー

——内藤 廣
壁の仕上げの一部には地元産の杉を採用しました。この杉の下見張りが、ロビーを人々が歩いたときの靴音や話し声を吸音する役目も果たしていて、また館内各所で不定期開催されるミニコンサート「いつでもどこでもグラントワ」の会場の1つにもなっています。私のささやかな希望を言い添えると、いつの日かここで声楽家が歌うアリアを聴いてみたい。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

美術館ロビー ヴォールト天井見上げ

——内藤 廣
コンクリート型枠できれいな半円アーチのヴォールト天井をつくる、この極めて難しい仕事を、型枠職人さんたちがやってのけてくれました。構造の話をすると、ヴォールト天井は上からの荷重が外側に広がるようにかかってくるので、その圧をうまく受け止めて逃さないといけない。パリのノートルダム寺院の外周部にフライング・バットレス(飛梁)が付いているのはそのためです。ヴォールトの外側を見上げてもらうとわかりますが、実はこの上にもう1つ天井をつくり、柱と梁で支えています。そのあいだにはトップサイドライトを設けて外光を取り込み、とても開放的な空間になっています。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

ヴォールトとトップサイドライト見上げ

島根県芸術文化センター「グラントワ」

美術館ロビーと展示室Dのあいだには中庭が設けられ、澄川喜一作品が展示されている

島根県芸術文化センター「グラントワ」

美術館側 回廊

島根県芸術文化センター「グラントワ」

中庭広場を囲む回廊(大ホール ホワイエ前)

島根県芸術文化センター「グラントワ」

大ホール ホワイエ

職人技が光る大ホールのコンクリート

——内藤 廣
大ホールの壁厚は30cmで、内と外の音をシャットアウトしています。単なる四角い箱ではなく、音響を高音質にするため、コンクリート型枠の角度を変えた複雑な形状となっています。壁だけでなく、ホワイエ空間を貫いている細長い柱も、極めて高度な施工技術によるものです。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

大ホール ホワイエ

島根県芸術文化センター「グラントワ」

大ホール 2階席に続く階段 踊り場付近

島根県芸術文化センター「グラントワ」

大ホール 階段からホワイエ空間見下ろし

島根県芸術文化センター「グラントワ」

大ホール 2階席で音響について解説する内藤氏と聞き入るツアー参加者

世界的音楽家も太鼓判を押す大ホール

——内藤 廣
杉板型枠コンクリートの大ホールの壁は、我々と音響設計と構造設計、3者のせめぎあいの末にこのかたちに収斂しました。繰り返しますが、この壁と壁の繋ぎ目をピッタリと綺麗に合わせる施工がとりわけ難しい。職人さんたちには感謝しかありません。おかげで「グラントワ」大ホールの音響は評判がとても良く、設計者として誇らしく思います。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

大ホール 壁面

島根県芸術文化センター「グラントワ」

大ホール 1階席からの見上げ(2026年5月27日「ストラディヴァリウス・スーパー・プレミアム・コンサート2026」開催時の幕間に許可を得て撮影)

島根県芸術文化センター「グラントワ」

大ホール 1階席から2階席見上げ(2026年5月27日「ストラディヴァリウス・スーパー・プレミアム・コンサート2026」開催時の幕間に許可を得て撮影)

島根県芸術文化センター「グラントワ」

大ホール 1階 壁沿いの階段付近

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「ストラディヴァリウス・スーパー・プレミアム・コンサート2026」公演風景より、アンコールに応えてステージを去るベルリン・フィルハーモニー・ストラディヴァリウス・ソロイスツのメンバー

——内藤 廣
大ホールのこけら落としは、亡き小澤征爾さん(1935-2024)が指揮した『セビリアの理髪師』でした。小澤さんから「音質がとてもよかった」という感想をいただいたものの、このホールの音質の良さを確かめたくて、小澤さん指揮の同じ演目が東京の由緒あるホールで上演されたときに聴き比べに行きました。だんぜん「グラントワ」のほうが良かった! クラシックの楽団やソロ奏者、日本のポップス・ロックシーンを代表するミュージシャンの評価も上々と聞いています。昨日、ここでコンサートをやったベルリン・フィルのメンバーに、ホールの感想を聞いてみたところ、「エクセレント! とてもクリアで柔らかい音だった」と。グラントワ・島根県芸術文化センター⁨長の的野克之さんが「また是非来て下さい」とお願いしたら、「勿論!」と即答でしたので、このホールをとても気に入ってもらえたようです。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

建築ツアーではステージへの入場と撮影も許可された

——内藤 廣
一般的なコンサートホールの形式はシューズボックスという四角い箱が多いのですが、「グラントワ」の大ホールは、あえて左右に開いています。横に長い。その関係で、ステージと客室との距離が近くなっています。この距離感が、演者と聞き手の双方に良い影響を与えているようで、一体感が生まれやすい。
大ホールの設計ではいろいろと苦労しましたが、1階でも2階でも等しく良い音を届けることと並行して、全て席からステージがきちんと見えるように配置すること。ステージを見下ろす2階席の手すりは、検討に検討を重ねて形状と位置を決めています。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

通常は入ることができない、ステージバックヤードについて解説する内藤氏。「照明や大道具、幕などを収納して転換もできる巨大な装置・フライタワーは、重さのある設備機器が各種吊られているのに半分はがらんどうという、構造的にとても厄介な存在。地震発生時の大きな揺れを想定した構造設計となっています」

島根県芸術文化センター「グラントワ」

第ホールのバックヤード(楽屋前)
杉板型枠工法ではないコンクリート施工に、建築ツアー参加者から仕上げに関する質問が出ていた空間

演者のためのバックヤード

——内藤 廣
おそらく他所の劇場にはあまりないであろう、この劇場の特徴の1つが、ゆったりと空間をとった楽屋です。演目のあいだに壁沿いの椅子に座って、緑を眺めて寛いでもらいたいと、中庭をしつらえました。喫煙者のために灰皿も用意しています。全館禁煙の「グラントワ」では貴重な喫煙者のオアシスです(笑)。「グラントワ」には職員の事務室に面した中庭もあります。さきほど説明したステージと客席との距離感も同様ですが、演者に気持ちよく演奏してもらう、職員が気持ちよく仕事をするためには、バックヤードの居心地の良さも大切だと私は考えています。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

楽屋空間にしつらえた中庭について解説する内藤氏

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」バックヤード(楽屋)

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「ストラディヴァリウス・スーパー・プレミアム・コンサート2026」開場前の館内の様子

島根県芸術文化センター「グラントワ」

羽田空港から萩・石見空港を利用して「グラントワ」を訪れるともらえる(対象のコンサートや展覧会の鑑賞時)グラントワ オリジナルフライトタグと、「ストラディヴァリウス・スーパー・プレミアム・コンサート2026」公式パンフレット

機能と美を兼ね備えた6色の石州瓦

「グラントワ」の特徴は、なんといっても屋根だけでなく壁にも石州瓦をふんだんに使っていることです。その数、屋根と壁面を合わせておよそ28万枚! 内藤氏によれば、壁材としてはほぼ初の施工例とのこと。天気や時間帯、日照の光の強さや角度によって、東西南北どの壁も一度として同じ景色はなく、見飽きることがありません。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」南エントランス(大ホール ホワイエ側)

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」南エントランス 壁面

——内藤 廣
石州瓦は、県内の都野津町(つのづちょう)一帯で採れる、鉄分を含んだ赤い粘土を材料とし、松江地方で採れる来待石(きまちいし)を含んだ釉薬をかけて、1200度の高温で焼かれることで、耐久性の高い瓦になります。
「グラントワ」の瓦は、6パターンの配合の釉薬を特別につくって6種類の色味の瓦を焼き、東西南北の壁と屋根にランダムに配置しています。これは、昔ながらの登り窯では、温度のムラがそのまま色ムラにあらわれるところ、現代のガス窯ではすべて同じ色になるからです。現代のプロダクトとしては正しいのですが、この一帯や石見の集落で目にするような、味わいある屋根瓦の景観に近づけようと、あえて6種類つくりました。
高温で焼成される石州瓦は耐久性が高いことで古くから知られています。潮や雪にも強いため、石見地方だけでなく、北前船が立ち寄る先々で使われてきました。「グラントワ」も竣工から約20年が経ちましたが、この特注瓦は一切のメンテナンスをしていません。空模様や陽の傾きによって刻々と色が変わっていく外観は、おそらく300年先も変わらないでしょう。私のおススメは、南側の駐車場のとある場所からの夕刻の眺め(大ホールの壁面)です。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」東側壁面

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」東側壁面

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」北東コーナー
コンペでは外壁は打ち込み石州瓦タイルで提案していたが、メンテナンスフリーの石州瓦をオープンジョイントで施工している

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」北側壁面

大きな中庭に水盤の広場をつくる

——内藤 廣
「グラントワ」の設計で私がとくにこだわったのが、大きな中庭に水盤のある広場をつくることでした。提案当初は、水盤に対する行政側の反応は芳しくありませんでした。それまでの公共施設では使いこなせていなかったようで、メンテナンスや衛生面への懸念が強かったのです。「グラントワ」の中庭広場では、日中は水盤の下から水を循環させることで水質を維持し、かつ水深を浅くしました。夏場に「グラントワ」を訪れた子どもたちはまっさきに水盤に突進していきます(笑)。イベント開催時には水を抜いてフラットにして、多目的に使えるようにしています。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」中庭広場

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」中庭広場

島根県芸術文化センター「グラントワ」

中庭広場 水盤

細部に宿る「グラントワ」の美

——内藤 廣
建築の見どころでなかなか気づきにくいところは、中庭を囲む開口部(ガラス面)です。太い柱を立てずにできるだけ開放的に軽やかに見せたかったので、回廊には特別な柱を立てています。東京の〈ちひろ美術館・東京〉などでも採用していますが、ところてんを押し出すような要領で成形したごく細い十字形の鉄骨柱(熱押形鋼)をガラスの手前に立て、回廊の屋根と、その先の庇を支えています。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

中庭に面した回廊の十字柱

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」回廊からの中庭広場の眺め

島根県芸術文化センター「グラントワ」

美術館内部(展示前室)から中庭広場の眺め

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」のキーカラーで壁と床を仕上げている展示室A(展示室Bは黒、展示室Cは白が基調)
※地元の高校の団体見学と重なり、今回の建築ツアーのコースからは除外

島根県芸術文化センター「グラントワ」

天井高7mの展示室C 天井見上げ(トップサイドライトからの自然光は展示作品にあわせて遮光できる)
※今回の建築ツアーのコースからは除外

島根県芸術文化センター「グラントワ」

中庭広場を囲む回廊の床はカリン材。今では入手困難な材料だが、スタッフにより磨かれ、美しく経年変化している

島根県芸術文化センター「グラントワ」

中庭広場を囲む回廊(メインエントランス付近)

平らな敷地にランドスケープを造成

——内藤 廣
子どもたちの遊び場にもなっている、メインエントランス前の小さな丘は、地下の掘削などで出た土で造成しています。元は平らな土地だったので、南側の駐車場や外周部なども同様に土を盛り、桜や樹木を植え、ランドスケープをつくっています。敷地をぐるっと1周すると、あちらこちらに起伏があることがわかると思います。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」を象徴する正面メインエントランス前のモニュメント〈OROCHI〉

——内藤 廣
正面エントランス前にあるモニュメントは、島根県出身の彫刻家、澄川喜一さん(1931-2023)の作品〈OROCHI(オロチ)〉です。澄川さんはグラントワの初代センター長で、東京スカイツリーのデザインを手がけたことでも知られています。代表作には抽象彫刻が多いのですが、ここでは子供たちに親しんでもらいたいという思いから、石見神楽に登場する「大蛇(おろち)」を題材に、ユーモラスな具象の造形となっています。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」北 メインエントランス付近

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」西エントランス
設計者選定コンペの審査委員長だった建築家の大高正人氏(1923-2010)から「益田のまちの人々が日頃よく利用している通りの軸線を建物の中まで通してほしい」という要望を反映した構成となっている

300年先まで残る建物を

本稿の最後に、館内に掲示されている1枚の図面について紹介します。額装されたその図面は、美術館ロビーの一角、ミュージアムショップの前の壁で見ることができます。

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」寄贈図について解説する内藤氏

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」寄贈図(部分)
内藤廣建築設計事務所の近年に竣工した主な建物には、この「寄贈図」を作成し、紫外線でも劣化しいくい紙に出力して建物に贈っている

——内藤 廣
この図面は「グラントワ」の完成後に私の事務所でつくって寄贈したものです。もちろん図面図書は納品しているのですが、公式書類というものは、法が定める保存期間を過ぎると処分されてしまうこともありますし、データ保存の場合でも記憶媒体というのは将来的にあてになりません。さきほど「300年経っても変わらずこの地にあるだろう」と予想しましたが、仮に100年後でも、図面は残っていないかもしれない。そして「グラントワ」の工事に関わった人間はひとりもいない。そんなときにメンテナンスをしようと思っても困らないよう、必要となる基本的な情報がこの1枚にほぼ入っています。
100年後、雲の上からでも、この景観が保たれているかどうか、確かめてみたいですね(笑)。[了]

 

取材日:2026年5月27-28日(Text and photos by Naoko Endo / TEAM TECTURE MAG)

島根県芸術文化センター「グラントワ」

大ホール 2階席出入口ドア前の窓から見渡せる石見・益田のまちなみと「グラントワ」の関係性について解説する内藤氏

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」中庭広場 夕景

島根県芸術文化センター「グラントワ」

「グラントワ」中庭広場 夜景

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島根県芸術文化センター「グラントワ」建築DATE

所在地:島根県益田市有明町5番15号(Google Map
用途:美術館・劇場
規模:地上2階+地下1階
最高高さ:32.240m
構造:RC造、一部PC、S造
敷地面積:36,564.16m²
建築面積:14.068.15m²
延床面積:19.252.45m²
建蔽率:38.4%(許容:60%)
容積率:52.6%(許容:200%)
設計:內藤廣建築設計事務所
構造設計:空間工学研究所
建築施工:大成建設・大畑建設・日興建設特別共同企業体
設計協力: 江角彰宣・みずほ設計
舞台機構・照明:シアターワークショップ
舞台音響:唐澤誠建築音響設計事務所
特殊照明:ヤマギワ(現YAMAGIWA)
サイン:矢萩喜從郎
モニュメント:澄川喜一
設計期間:2001年4月〜2002年7月
施工期間:2002年11月~2005年3月
開館日:2005年10月8日

「グラントワ」ウェブサイト
https://www.grandtoit.jp/


萩・石見空港

萩・石見空港(羽田空港からは第2ターミナル発のANA便が朝と夜にそれぞれ運行中)

益田駅前の観光案内図

JR西日本 山陰本線 益田駅前の観光案内図
駅と空港を結ぶ路線バスは、駅前ロータリーの停留所を発着

 

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