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モダニズム建築の躍進とともにあった万博の歴史

[Interview]大阪・関西万博の意義と建築家の役割を五十嵐太郎が語る(3/5)

議論が深まった「万博と建築」のこれから - 大阪・関西万博を五十嵐太郎が語る

FEATURE2024.06.20

議論が深まった「万博と建築」

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万博は都市の開発と整備の手段とされてきた

[Interview]大阪・関西万博の意義と建築家の役割を五十嵐太郎が語る(4/5)
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新しい才能が見出される場としての万博

[Interview]大阪・関西万博の意義と建築家の役割を五十嵐太郎が語る(5/5)

ゲンロンカフェで開催されたシンポジウム「山本理顕 × 藤本壮介 万博と建築 ──なにをなすべきか」で語られた議論を振り返った1回目と2回目に続く3回目では、建築史家・建築批評家の五十嵐太郎氏に万博の歴史をおさらいしていただき、歴史をふまえた万博建築の意義を伺う。

トップ画像=1851年ロンドン万博〈水晶宮(クリスタル・パレス)〉内観イメージ ©Victoria and Albert Museum, London

INDEX

  • これまでの万博の歴史をおさらい
  • 万博建築は少しでも残せるといい

これまでの万博の歴史をおさらい

── 万博(国際博覧会)の背景と意義を、改めて教えてください。

五十嵐:
現在のシステムによる万博は19世紀の半ばに始まりました。産業が著しく発展した近代にあって、各国から新しいテクノロジーや技術、あるいは珍しいものを一堂に集めて展示する博覧会です。先日のゲンロンの2部でも触れたのですが、イベントはお客さんがいないと成立しないわけで、当時は鉄道で大量輸送が可能になり、マスツーリズムによって、人がとても活発に動くようになった時代です。今ではありえませんが、植民地から連れてきた原住民も展示されていました。また来場者もいろんな国から来るので、お互いが見せ物にもなったといえます。さまざまなところから人が来て同じ場を共有することが、万博では行われてきました。

また、万博ではアート作品も展示されてきました。そうすると、ある同時代性のもとに、各国の美術が並ぶことになります。つまり、万博を繰り返すと、一定期間で刊行される雑誌と同じような効果をもち、表現やアートの同時代性というものが感じられるとともに、次の新しい流行への欲求が促されます。

五十嵐太郎氏。オンラインでの取材より

建築の分野から考えると、産業革命以降の技術が発展しているタイミングと、モダニズムが誕生していく時代がある程度パラレルに進みました。鉄やガラスを大量生産できるようになった技術や材料がモダニズムの建築を導いていくわけで、結果的には従前の様式にとらわれていた建築のデザイン、あるいは壁を中心とする構造の在り方を根本から変えることになりました。

またイベントのための仮設的な建築であれば、実験的なことができます。第1回の1851年ロンドン万博の〈水晶宮(クリスタル・パレス)〉と呼ばれた会場は、光が天井から降り注ぐ巨大な展示空間が必要とされて生まれたものですし、万博はモダニズム建築の推進にとても役立っていました。先の1970年大阪万博でも膜構造が、重々しい建築のイメージを変える当時の新しい技術で、〈富士通グループパビリオン〉や〈アメリカ館〉など膜構造の建物が登場しました。

それぞれの時代に、建築の技術的なトピックはあったと思います。ただ、基本的に鉄とガラスとコンクリートでつくること自体は汎用性があって、ずっと変わらず、革新的な建築は20世紀の半ば以降はつくりにくくなっていると思います。

〈水晶宮(クリスタル・パレス)〉外観。From Wikimedia Commons, the free media repository

万博建築は少しでも残せるといい

── 情報化が進み、万博そのものの在り方や意義も問われていると思います。その中でもメイン会場やパビリオンの役割は、どういうところにあるのでしょうか?

五十嵐:
情報化が進んでも、少なくとも現時点ではリアルな体験は情報とは違う価値をもっています。音楽でいえば、CDが売れなくなってみんなタダ同然で音源を扱うようになりましたが、代わりにライブの動員は増えており、その価値はすごく上がりましたよね。ライブとそれに伴うさまざまな身体の体験は、複製できないものですから。

建築も同じで、小さい画面を見るだけではなく、その場でしか得られない体験には今のところ優位性があるわけです。それすらも凌駕する仮想現実の技術がこれから生まれるのかもしれませんが、今はまだそこまで行ってないと思います。もちろん、多くの人がいるという祝祭感や、海外の人や異文化に触れる体験は、国外への旅行でも味わえますが、1カ所にさまざまな国が集まるというのは他にない機会です。

── 五十嵐さんは、建築を実際に体験する重要性を常々言及されていますね。2025年大阪・関西万博での建築には、どのような可能性があると思われますか?

五十嵐:
万博やオリンピックは、エイヤッと人々の背中を押し、普段はチャレンジできないことを試せる機会だと思います。僕は愛知万博が「失敗することに失敗した」と論じたように、万博は半ば寿命は終わっているところがあるとはいえ、これだけ注目されていますし、本当に何の付加価値もないただのハコをただつくってもな…と思います。

僕はゲンロンでも言いましたが、お金をかけてつくった後、そもそも全部半年で更地に戻すことが前提になっているのが、すごくもったいないと思います。木造のリングもトイレや休憩所も、入場料が高いので、せめて万博が終わった後に半年ぐらいは無料で見られる期間を設けるとか、5年ぐらい残せるのであれば残せるといいのですが。オリンピックは競技のチケットをとれなくても、テレビを見ることで短期集中型のイベントをなんとなく楽しめますが、万博はテレビの中継と相性が悪い。

先の大阪万博だって、しばらくは〈お祭り広場〉の大屋根が残っていたんですよね。太陽の塔も保存することがすぐ決まったわけではないですが、最終的に残ることになりました。多額の税金を投入するのに、入場料を払った人しか体験できないとなると、怒る人がいてもしようがないなと僕も思います。ただ、そこは建築家が決められることでもないので、彼らを責めても、ちょっとかわいそうだなと思っているんですよね。

会場配置計画(2022年7月時点)。提供:2025年日本国際博覧会協会

(4/5に続く)

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