パリ夏季2024オリンピックが目指す3つの「史上初」
2024年の7月26日から8月11日にかけて開催されるパリ夏季2024オリンピックは、1924年の開催以来ちょうど100年ぶりとなるパリオリンピック。これまでにない新しい形のスポーツの祭典として開催される予定で、次の3つの「史上初」を掲げています。
- カーボンニュートラルな史上初の競技大会
- ジェンダー平等の史上初の競技大会
- すべての人が参加できる競技を開催する史上初の競技大会
このようにさまざまな観点からサステナブルな大会を目指すパリオリンピックですが、「カーボンニュートラルな史上初の競技大会」を実現するため、新たな施設の建築は極力抑えつつ、パリの名建築や歴史的な広場も競技会場として利用して開催されます。
パリオリンピックを建築視点から見る特集の第3弾となる今回は、開催地であるパリや、オリンピック競技会場のあるフランスのその他の都市に建つ名建築、特に近代・現代建築に注目してまとめました。オリンピックの応援に訪れた際や、観光のためのスポット探しにもご活用ください。
また、各建築の場所をまとめた地図を以下に表記しています。赤いピンはオリンピック会場周辺の名建築を、青いピンは特集第1弾で紹介したオリンピックの競技会場を記しています。
INDEX
パリ近郊
〈ポンピドゥー・センター〉
建築家:リチャード・ロジャース&レンゾ・ピアノ
建設年:1977年
ともに単独でプリツカー賞を受賞したリチャード・ロジャースとレンゾ・ピアノによる総合文化施設。構造や設備、動線が外部にむき出しとなった外観が特徴的な建築であり、これにより展示スペースなどのある内部空間を広く確保している。2030年に向けた改修計画「ポンピドゥー・センター2030」のため、各施設を2025年より順次閉鎖予定となっている。
モロークスノキ建築設計2030年に向けた〈ポンピドゥー・センター〉の改修プロジェクト「ポンピドゥー・センター2030」、フランス
〈フィルハーモニー・ド・パリ〉
建築家:ジャン・ヌーヴェル
建設年:2015年
飛ぶ鳥をイメージしたアルミパネルに包まれた、迫力のある外観が特徴的な建築。パリ市内で最も大きな公園であるラ・ヴィレット公園内にジャン・ヌーヴェルが設計したコンサートホールであり、このラ・ヴィレット公園には以下で紹介する〈シテ科学産業博物館〉や〈パリ国立高等音楽・舞踏学校〉といった特徴的な建築が建っている。
〈シテ科学産業博物館〉
建築家:アドリアン・ファンシルベール
建設年:1986年
科学に特化した現代文化センターであり、ラ・ヴィレット公園の「科学と商工業の都市」と呼ばれる北側エリアの中核をなす施設。近代における建築材料の革命的な発明である「コンクリート」「鉄骨」「ガラス」で構成された外観や、磨かれたステンレス鋼板で覆われた、内部にシネマルームを有する球体が特徴的な建築。
〈パリ国立高等音楽・舞踏学校〉
建築家:クリスチャン・ド・ポルザンパルク
建設年:1990年
ラ・ヴィレット公園南側の「音楽都市」と呼ばれるエリアに建つ建築。フランス人として初めてプリツカー賞を受賞したクリスチャン・ド・ポルザンパルクによる、うねる大きな屋根に覆われた連続したボリュームで構成された建築。
〈アラブ世界研究所〉
建築家:ジャン・ヌーヴェル
建設年:1987年
セーヌ川のほとりに建つ、ジャン・ヌーヴェルの初期の代表作として広く知られる建築。ファサードを埋め尽くす大小さまざまな大きさの正方形の窓は、それぞれに回転しながら開閉する羽根が仕込まれており、光の強さに応じて開き具合を調節することができる。
〈カルティエ現代美術財団〉
建築家:ジャン・ヌーヴェル
建設年:1994年
企画展、ライブパフォーマンス、講演会といったプログラムを通して、あらゆる分野の現代美術を世界に向けて広めることをミッションとする施設。平行に配置された3つのガラス張りの平面が、透明感のあるファサードをつくり出している。
〈ケ・ブランリ美術館〉
建築家:ジャン・ヌーヴェル
建設年:2006年
エッフェル塔からほど近いセーヌ川沿いに、「風景の中に溶け込み、訪れる人に発見されるような建物」をイメージして設計された美術館。セーヌ川に面するファサードに施された壁面を覆う苔やシダが密生する植栽が、隣接する石造りのアパートメントから美術館にいたるまでの景観の変化を和らげ、自然なつながりを生み出す。また、黒を基調とした美術館の北側ファサードの壁面からは、赤・橙・紫色に彩色された大きさの異なるカラーボックスが突出し、印象的なファサードをつくり出している。
〈フォンダシオン・ルイ・ヴィトン〉
建築家:フランク・ゲーリー
建設年:2014年
パリ16区にある森林公園「ブローニュの森」に建つ、近現代アート作品を展示する博物館。建物をヨットや船に見立て、池に配置された建築であり、湾曲するガラスの膜が建物を覆う独特のデザインが特徴となっている。
〈ラ・セーヌ・ミュージカル〉
建築家:坂茂建築設計
建設年:2017年
パリ西部のセーヴル橋付近、セーヌ川の中洲であるセガン島に位置する音楽総合施設。ドーム型の建物の周りに船の帆の形をイメージした巨大な太陽光パネルが設置されており、太陽の動きにあわせて太陽光パネルが建物の周りを移動するという仕組みを備えた建築。
〈ラ・サマリテーヌ〉
建築家:妹島和世+西沢立衛 / SANAA
建設(改修)年:2021年
パリ中心部に建つ1870年創業の百貨店〈ラ・サマリテーヌ〉の改修プロジェクト。百貨店だけでなく、ホテル、公営住宅、保育園などが入る〈ラ・サマリテーヌ〉は、2005年に安全確保のため閉店した後、改修を経て2021年にオープンした。歴史的建造物であるポンヌフ棟と新築のリヴォリ棟からなり、SANAAはポンヌフ棟改修の監修とリヴォリ棟の設計を担当。リヴォリ棟のファサードは解体した旧館の窓のリズムを取り入れた波型のガラスとなっており、リヴォリ通りの対面の街並みを映し出す。
〈ルーブル美術館〉
建築家:I.M.ペイ
改修年:1989年
王宮として使われてきた歴史的文化財の建物群を転用した世界最大級の美術館。宮殿全体を美術館とするにあたり、多数の来館者で行列が絶えないという課題を、広場中央にガラスピラミッドのエントランスを挿入し地下空間で結ぶことにより、バラバラであった各棟を1つに集約し解決した。
〈ブルス・ドゥ・コメルス〉
建築家:安藤忠雄建築研究所
改修年:2021年
18世紀から建つ、穀物取引所として使われた後、1889年のパリ万博の際にガラスのドームが加えられ、19世紀には建物の一部残して商品取引所に建て替えられた建物を改修した、安藤忠雄氏と長年協働してきたフランソワ・ピノー氏のコレクションを展示する現代美術館。
〈シネマテーク・フランセーズ〉
建築家:フランク・ゲーリー
建設年:2005年
映画作品の保存・修復・配給を目的とする、映画館・映画博物館・図書館などで構成されたパリ・ベルシーの文化施設。フランク・ゲーリー氏の作品に多く見られる躍動感ある曲線や不規則で有機的なラインで構成されつつ、素材として石を使用することによりパリの街並みに適合させている。
〈フランス国立図書館〉
建築家:ドミニク・ペロー
建設年:1995年
パリ南東部のセーヌ川のほとりに位置する敷地において、各コーナーに4棟のタワーを配置することで都市に巨大なヴォイドをつくり出す図書館。パリを象徴するコンコルド広場、シャン・ド・マルス、アンヴァリッド広場といった、セーヌ川に沿った大きなヴォイドスペースの連続性を保証する。
〈アントルポ・マクドナルド〉
建築家:隈研吾建築都市設計事務所
建設年:2014年
パリの北端に建つ、1970年代に竣工した全長616mの大物流拠点を地域密着の交流、教育の拠点へと転換する、OMAがマスタープランナーを担当した複合プロジェクト。物流倉庫を分割し活用する計画の中で、隈研吾建築都市設計事務所が担当した西端部には、小学校、中学校、スポーツ施設のプログラムが設けられている。
〈アルベール・カーン美術館〉
建築家:隈研吾建築都市設計事務所
建設年:2022年
世界を旅した貿易商である設立者アルベール・カーン(1860-1940)が旅先を記録した、カラー写真やフィルムといったアーカイブを中心とした、パリ西郊、ブローニュの森の南側に位置する美術館。庭園には世界の五大陸の庭園を再現しており、この園路の延長として展示空間はデザインされている。水平にも上下にも蛇行しながら連続する経路と外部環境の間に、アルミと木でできたスクリーンを挿入することで、庭園と展示との融合させている。
マルセイユ
〈ユニテ・ダビタシオン〉
建築家:ル・コルビュジェ
建設年:1952年
ル・コルビュジェの代表作である、ヨーロッパ各地に建てられた集合住宅〈ユニテ・ダビタシオン〉の中で最初に建てられた作品。メゾネットの住戸と中廊下を組み合わせることにより各住戸に両面採光を実現し、店舗や保育園などさまざまな共用施設を含んでいる。1961年には一部の住戸を使用してホテルが開業しており、現在でも宿泊することができる。
〈ヨーロッパ・地中海文明博物館(MuCEM)〉
建築家:ルディ・リチョッティ
建設年:2013年
海を見渡す桟橋に建つ博物館であり、大規模な展覧会だけでなく芸術的・文化的なイベントを開催することができる建築。1辺72mの正方形の建物であり、コンクリートを用いた印象的なレースのような外皮が特徴となっている。
マルセイユ ヴュー=ポール
建築家:フォスター アンド パートナーズ
建設年:2013年
地中海に面した港であるヴュー=ポールを再生するため、フォスター アンド パートナーズがマスタープランを担当したプロジェクト。岸壁を取り戻し市民空間とし、パフォーマンスやイベントのための会場を作成、安全な歩行空間を確保した。東端に位置する、細い柱が支える反射ステンレスの46×22mのキャノピーによるオープンなイベントパビリオン〈Quai des Belges〉が特徴的。
〈マルセイユ現代美術センター〉
建築家:隈研吾建築都市設計事務所
建設年:2013年
マルセイユのウォーターフロント地区に位置する、2つの道路に囲まれた三角形の敷地において、マルセイユ特有の狭い路地をそのまま立体化し展示空間とする、というコンセプトのもと設計された。エナメルガラスを用いたやわらかなファサードが特徴的であり、エナメルガラスのパネルはそれぞれが微妙に異なる角度で取り付けられ、地中海の強い光を細かい粒子へと分解する。
ナント
ナント=レゼの〈ユニテ・ダビタシオン〉
建築家:ル・コルビュジェ
建設年:1955年
マルセイユの欄で紹介した最初に建てられたマルセイユに続き、ナント=レゼに建てられた集合住宅。のちに1958年にはドイツのベルリンに、1960年にフランスのブリエ、1965年にフランスのフィルミニーに建設された。
ボルドー
〈MÉCA(Maison de l’Économie Créative et de la Culture en Nouvelle- Aquitaine)〉
建築家:BIG
建設年:2019年
現代アート、映画、パフォーマンスのための空間を含む創造文化施設であり、ボルドーのウォーターフロントから都市センターに向けて、アートに満ちたパブリックスペースを提供する建築。中央の吹き抜けがプロムナードの連続性を生み出し、ルーフテラスからは市街地を見渡せる、都市とつながる文化拠点。
リヨン
〈ロンシャンの礼拝堂〉
建築家:ル・コルビュジェ
建設年:1955年
ル・コルビュジェによる晩年の代表作の1つであり、〈サヴォア邸〉が象徴する「近代建築の五原則」を用いた作品とは異なり、カニの甲羅をモチーフとした屋根など、曲線を多用した彫刻的な造形の建築。(距離はあるものの、あくまでも最寄りとしてリヨンの欄にて掲載)
〈ラ・トゥーレット修道院〉
建築家:ル・コルビュジェ
建設年:1960年
〈ロンシャンの礼拝堂〉とならび、ル・コルビュジェの後期の代表作といわれる建築。ロンシャンの自由な曲線を用いた造形とは対比的に、丘の斜面に沿うように建つ外観は、垂直と水平の直線でデザインされている。
〈モノリス〉
建築家:MVRDV
建設年:2010年
リヨンの開発地域コンフルアンスに位置する、社会住宅、賃貸住宅、障害者用住宅、オフィス、小売店を組み合わせた総面積32,500m²の建物からなる複合都市ブロック。MVRDVのマスタープランのもと、それぞれ異なる建築家によって設計された5つのセクションで構成されている。
以下に各建築の場所をまとめた地図を表記しています。赤いピンがオリンピック会場周辺の名建築を、青いピンには特集第1弾で紹介したオリンピックの競技会場を記しています。各会場を訪れる際などご活用ください。