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EXPO 2025 | null²
Architecture that moves and changes
Interview with Keisuke Toyoda / NOIZ
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【Movie】音・光・風・映像で動き変化する建築〈null²〉

[大阪・関西万博 Interview]〈null²〉をNOIZ 豊田啓介が語る

大阪・関西万博 シグネチャーパビリオンのなかでも、特に大きな注目を集めている〈null²(ヌルヌル)〉。

メディアアーティストの落合陽一氏がプロデュースし、NOIZが建築デザインを担当したこのパビリオン。メタリックな大小の立方体が集まり、音を出して動くその姿は、まるで異世界の生き物が動いているかのよう。

NOIZの説明によると、「変形しながら風景をゆがめる彫刻建築」、またリアルとデジタルをつなぐ「接空間としての建築」を目指した、とのこと。

このパビリオン建築はどのように考えられ、実現したのか。NOIZの豊田啓介氏に、TECTURE MAGでは現地で詳しく聞いた。

※ シグネチャーパビリオンのプレスビュー時の取材内容を含む

豊田啓介|Keisuke Toyoda

1972年千葉県出身。安藤忠雄建築研究所、SHoP Architects(ニューヨーク)を経て、2007年より東京と台北をベースに建築デザイン事務所 NOIZ を蔡佳萱と設立、2016年に酒井康介が加わる。2020年、ワルシャワ(ヨーロッパ)事務所設立。2017年「建築・都市×テック×ビジネス」をテーマにした領域横断型プラットフォーム gluonを金田充弘と設立。コンピューテーショナルデザインを積極的に取り入れた設計・開発・リサーチ・コンサルティングなどの活動を、建築やインテリア、都市、ファッションなど、多分野横断型で展開している。2025年大阪・関西国際博覧会 誘致会場計画アドバイザー(2017-2018年)。建築情報学会副会長(2020年-)。大阪コモングラウンド・リビングラボ(2020年-)。一般社団法人Metaverse Japan 設立理事(2022年-)。2021年より東京大学生産技術研究所特任教授。

NOIZ
https://noizarchitects.com/

 

情報と物理の境界を曖昧にして繋ぐ構築物

〈null²〉は、大阪・関西万博のシグネチャーパビリオンの1つであり、「いのちを磨く」をテーマとしたもの。全体が鏡面に覆われた大小のキューブが積み重なった、大きな彫刻のようなパビリオンである。

「万物が溶け合い物化し変遷する共感覚的な風景の構築と体験の提供」というテーマのもと、「風景とともにトランスフォーメーションする外観」を落合氏が構想した。落合氏と交流が長く、協働の経験もある豊田氏は、次のように全体の構成を説明する。

「デジタルだけでもフィジカルだけでもない、境界が曖昧になっていく現実や社会を、どのように中の展示としても建物としても見せるかが課題となりました。建物は、デジタルの1つの単位であるボクセル(Voxel)というキューブ型の空間単位を用い、それを2m・4m・8mの要素として構成をし、その組み合わせとしてつくっています」

Plan 1F, 2F

Elevation, Section

万博ならではの鏡面膜によるパビリオン

外観の大きな特徴となっているのが、外装の鏡である。

「表面が全部鏡になっていて実際の物理世界を映し込むのですが、その鏡が立体的に入り組んでいるので、違う場所の空を切り取ってきて再構成する。それが天気によっても、朝・昼・晩の時間によっても、季節によってもすべて違う。世界を切り取るパラレルワールドやミラーワールドと、現実世界自体の現状を体現しています」

この鏡面は「膜」でできており、このパビリオンのためにゼロから開発した素材だ。豊田氏はパビリオンを構想するにあたってすぐに膜の製造・膜構造建築物の施工を手掛ける太陽工業に声をかけたといい、鏡面膜ありきのパビリオンであったことを振り返る。

ホルン状に凹みをもたせた鏡面膜

「98%を反射する柔らかい膜が初めてできて、それを使うことで初めて構成できる3次元曲面をつくっています。そのテクニカルな調整や設計も、見せ場となっています」

鉄のフレームに取り付けられた鏡面膜による外壁は、仮設建築物のパビリオンであるからできる形態。単に平面で張るのではなく、所々で鞍型やホルン型の凹みをもたせた曲面とし、しかも膜にシワができないように張っている。

鞍型に凹みを付けた鏡面膜

自然の要素と装置で実現した動的な建築

鏡面膜とすることで、これまでは難しかった「動く建築・変化する建築」を〈null²〉では実現している。

「デジタルが動的であることに対して、建築は静的であるという二項対立になりがちなものを、その境界自体も曖昧にする。膜のちょっとした変化が映像の歪みをものすごく大きく見せてくれる効果があるので、それで現実世界が歪むというイリュージョンを効果的につくることにしました」(豊田氏)

共振し動き震える鏡面膜

鏡面膜は膜自体の重さと大きさに共振する風速によって、呼吸をするように振動し、映り込む空や周囲の景観を歪ませる。また、いくつかのキューブ内部には、4種類のアクチュエータ(装置)が入っている。

そのうちの1つは、ロボットアーム。産業用ロボットの開発・製造を行うFANUC(ファナック)製のもので、押す・引く・ねじるといった複数の動きをプログラムして鏡面膜に対して行い、変化を与える。またもう1つは、重低音を発するウーファーだ。

「異なる周波数に応じて、太鼓膜のように張られている膜が定常波として独特の波形をつくります。その波形を周波数でデザインできる。常に変化して、文字通りヌルヌル動いている。音で建築の形をデザインする意味でもすごく珍しく、たぶん初めての試みだと思う。『動く建築・変化する建築』ということが1つのチャレンジで、それが物理と情報、物理とデジタルの境界を体験させてくれる」と豊田氏は説明する。

ホルン型に凹んだ部分には、円形のLEDパネルが仕込まれ、映し出される色や図像が常に変化する。その映像は鏡面膜に映り込み、構造物にさらに動きを与えている。

ホルン状の凹み部分に仕込まれた円形のLEDパネル。図像が刻々と変化する

人間とAI、自然とデジタルの融合する世界を全体で表現

風や音に応じて揺れて震え、絶えずヌルヌルと動く〈null²〉。このネーミングには、プログラミング用語の「何もない(null:ヌル)」の意味もかけられている。内部に広がる漆黒の展示空間は一見すると何もないように見えて、LEDが上下に配置された展示室となっている。

LEDが上下に配置された展示室

デジタルで可能となったバーチャル空間に対して、リアルでフィジカルな空間を体験することの意義を実感させられるパビリオン。それとともに、人間とAI、自然とデジタルの融合する世界を内部でも外観でも見せてくれる〈null²〉。ぜひ実際に万博会場に足を運んで、体感していただきたい。

 

【概要】
所有者:公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
建築主:公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
プロデューサー:落合陽一
設計者:NOIZ(基本設計) / フジタ・大和リース特定建設工事共同企業体(実施設計)
施工者:フジタ・大和リース特定建設工事共同企業体
延べ面積:655.46m²
構造:鉄骨造
用途:展示場
階数:地上2階(棟1)/ 地上1階(棟2・3・4)
高さ:12.250m(棟1)/ 8.250m(棟2・3・4)

Interview, text, photo, movie: Jun Kato


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