現在開催中の2025年大阪・関西万博は、10月13日に幕を閉じます。半年間にわたり未来社会の実験場として注目を集めた会場は、閉幕後にいかなる姿で都市に残されていくのでしょうか。
1970年大阪万博会場は万博記念公園へ、愛知万博跡地はジブリパークと、これまでの万博は終了後も都市や地域の資産として新たな姿に生まれ変わってきました。
本記事では、これまでの国内外の万博跡地活用を振り返りながら、大阪・関西万博の会場である「夢洲(ゆめしま)」の今後の構想についてまとめ、これまでの跡地活用とどのように異なるのか紹介します。
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海外の万博における跡地利用まとめ
ここからは、1851年のロンドン万博から始まる、海外で開催されたこれまでの万博の中でも特徴的な跡地の活用方法について紹介します。
1851年 ロンドン万博(イギリス)
敷地全体:もともと市民公園であったハイド・パークにて開催され、万博終了後は元の公園利用へ戻された。
特徴:博覧会の会場となった建物〈水晶宮(クリスタル・パレス)〉は移築され、敷地に残る恒久的施設は無し。
1889年 パリ万博(フランス)
敷地全体:会場総面積は0.96km²であり、シャン・ド・マルス公園、トロカデロ広場、ケ・ドルセー地区にて開催。現在も公園や展示広場として市民に利用されている。
特徴:パリ万博最大のシンボルである〈エッフェル塔〉をランドマークとして残し、公園空間と観光資源を融合。

シャン・ド・マルス公園から見る〈エッフェル塔〉Photo by Boarding1Now / iStock
1958年 ブリュッセル万博(ベルギー)
敷地全体:ブリュッセル都心から7km北西に位置するヘイゼル公園にて開催され、建物の多くは同じ場所で開催された1935年の万博から再利用された。
特徴:高さ102mのシンボルタワー〈アトミウム〉が残されており、公園は現在も見本市や展示会などに使用されている。
1967年 モントリオール万博(カナダ)
敷地全体:新たに建設された人工島を活用し開催され、現在は市民公園「ジャン=ドラポー公園」として使用されている。
特徴:カジノ、博物館、レース場などさまざまな施設からなる「レクリエーション拠点」となっており、2030年に向けた再開発計画も進む。

ジャン=ドラポー公園の鳥瞰写真 Photo by CHENG FENG CHIANG / iStock
1992年 セビリア万博(スペイン)
敷地全体:川の治水対策のためにつくられた人工の中州カルトゥハ島で開催。
特徴:会場の大半は「セビリアテックパーク」に、一部をテーマパーク「イスラ・マヒカ」に転換された、研究開発・観光・商業が混在する複合エリア。
2000年 ハノーヴァー万博(ドイツ)
敷地全体:万博後の機能向上や知名度向上を期待し、既存の見本市会場である世界最大の〈ハノーファー国際見本市会場〉の敷地を利用する形で開催。
特徴:会期後、各国パビリオンの大半は解体され、会場建築の一部は会期後に売却されたが、展示エリアの大部分は現在も見本市会場として使用されている。
2010年 上海万博(中国)
敷地全体:黄浦江の両岸にまたがり、企業パビリオンが建ち並ぶ西岸「浦西エリア」と各国のパビリオンが並ぶ東岸「浦東エリア」の計328ヘクタールという大面積の会場で開催。
特徴:大規模都市開発の一環として計画的に組み込まれた。会場跡地は万博公園として整備され、世界唯一となる公式万博博物館といった文化施設等も建設。

万博跡地に残る構造物を活用した温室〈Expo Cultural Park Greenhouse〉© CreatAR
2015年 ミラノ万博(イタリア)
敷地全体:「ミラノ市郊外に位置する1,100万m²の敷地で開催。敷地の一部を「科学都市」として利用することが事前に決まっていた。
特徴:ミラノを医学、食、アート、ライフスタイルといったQOLを向上させるテクノロジーを追究する「世界的研究ハブ」とする計画
2020年 ドバイ万博(UAE)
敷地全体:敷地の一部は、さまざまなサービスにどこからでも15分以内でアクセスできる「15-minute city」というコンセプトのミニシティ「エキスポ・シティ・ドバイ」として再開発。
特徴:主要な全テーマパビリオンとその他の一部の人気パビリオンは転用され、都市のさまざまな施設として活用。

参加型の教育体験施設へ生まれ代わる〈Terra – サステナビリティパビリオン〉©︎Dany Eid / Expo 2020 Dubai
敷地全体の活用パターン
ここまでで紹介した万博の跡地活用事例を、その特徴に基づき分類すると以下のような傾向が見えてきます。
- 公園・レジャー化
例:1851年ロンドン万博(市民公園に復帰)、1967年モントリオール万博(レクリエーション拠点化) - 観光資源化
例:1889年パリ万博(エッフェル塔+公園)、1992年セビリア万博(テーマパーク併設) - 展示・イベント拠点化
例:1958年ブリュッセル万博、2000年ハノーヴァー万博(見本市会場化) - 研究・学術拠点化
例:1992年セビリア万博(研究開発+観光・商業)、2015年ミラノ万博(科学都市) - 都市再開発エリア化
例:2010年上海万博(大規模都市開発の一環)、2020年ドバイ万博(ミニシティとして再開発)
2010年の上海や2020年のドバイなど、近年の万博はその開催以前から都市の再開発へと計画される傾向があると言えそうですね。
日本の万博における跡地利用まとめ
次に、これまで日本で開催された万博の跡地利用についてまとめ、海外事例の分類から見えてきた傾向と照らし合わせてみます。
1970年 大阪万博(大阪府吹田市)
敷地全体:万博当時に建設された〈万国博美術館〉(閉幕後は国立国際美術館に改称)や〈大阪日本民藝館〉、〈太陽の塔〉などは存続し、複合商業施設 EXPOCITYといったレジャー施設を新たに建設。
特徴:公園・文化施設+商業施設が共存する市民拠点へと整備。

万博記念公園から見る〈太陽の塔〉Photo by kuremo / iStock
1975年 沖縄国際海洋博(沖縄県本部町)
敷地全体:海洋博公園として整備。〈美ら海水族館〉(2002年開館)を核とし、ビーチ、植物園、郷土村施設などによる観光拠点化。
特徴:大規模観光資源として成功した一例。

海洋博公園と〈美ら海水族館〉Photo by ben-bryant / iStock
1985年 国際科学技術博覧会(茨城県つくば市)通称「つくば万博」
敷地全体:筑波研究学園都市をメイン会場として、「人間・居住・環境と科学技術」コンセプトに開催。万博開催により、研究機関の立地が加速したと言われる。
特徴:万博跡地を恒久都市計画(筑波研究学園都市)に組み込んだ先進事例。
1990年 国際花と緑の博覧会(大阪市鶴見区)通称「花の万博」
敷地全体:会場跡地は、市民の憩いの場となっている花博記念公園鶴見緑地として再整備。万博閉幕と同時に多くのパビリオン・乗り物等は撤去されたが、一部の施設は現在も存在。
特徴:都市部に大規模な緑地資源を恒久的に残した。
2005年 愛知万博(愛知県長久手市)通称「愛・地球博」
敷地全体:愛・地球博記念公園(モリコロパーク)として整備。万博当初から人気パビリオンであった〈サツキとメイの家〉を含む「ジブリパーク」を核に観光拠点化。
特徴:万博跡地をパビリオンを含めて観光産業へと転換。

モリコロパークの全景風景 Photo by zheng qiang / Adobe Stock
日本における敷地全体活用の傾向
- 公園・レジャー化
例:1970年大阪万博(万博記念公園)、1990年花の万博(鶴見緑地) - 観光資源化
例:1975年沖縄国際海洋博(美ら海水族館等)、2005年愛・地球博(ジブリパーク) - 研究・学術拠点化
例:1985年つくば万博(研究学園都市の一部へ統合)
国内外の比較まとめ
こうしてみると、国内の事例では1985年のつくば万博のように既存の都市に統合する、といった計画はあれど、海外における近年の事例に見られた、都市の再開発に積極的に組み込む計画がなされる傾向はまだないと言えます。
その中で、2025年大阪・関西万博の跡地利用は、日本としては初めて「都市再開発型」に本格的に舵を切る事例と位置づけることができそうです。
ここからは、大阪・関西万博が開催されている夢洲(ゆめしま)における会期後の計画について見ていきます。
大阪・関西万博の跡地利用計画
大阪府と大阪市は、夢と創造に出会える未来都市というコンセプトのもと、「夢洲まちづくり構想」を策定しています。
特徴
- 国際観光拠点機能の強化を図り、「リゾート」と「シティ」の要素を融合させた空間を形成
- 万博開催を踏まえ、その意義や理念を活かしたまちづくりをめざす

夢洲全体の土地利用は大きく3つに分けられる 出典:大阪市「夢洲まちづくり基本方針」
全体方針:夢洲全体を「第1期区域」、「第2期区域(万博会場)」、「第3期区域」に分けて整備
第1期区域:統合型リゾート(IR)
日本最大級のオールインワン型MICE施設(国際会議場施設及び展示等施設)、大阪・関西・日本の魅力を発信する魅力増進施設、バス・フェリーターミナルを含む送客施設、宿泊施設、カジノ施設等から成る統合型リゾート第2期区域:万博の理念を継承したまちづくり
・エンターテイメント機能やレクリエーション機能の導入による国際観光拠点の強化及び更なる集客
・大阪が強みを有する健康・医療産業や研究機関の研究成果などに来訪者が気軽に接することができるショーケースや最先端技術の実践
・さまざまな都市データの収集・構造化・オープン化・分析を行い、そのデータを活用したプロジェクトを創出する「スマートシティプラットフォームの構築」など、万博理念を継承する取組を展開
・整備にあたっては、万博計画と跡地計画の整合を図り、相互に効率的な整備第3期区域:第1期、第2期の取り組みを活かした長期滞在型のまちづくり
第1期、第2期で創出・醸成されたエンターテイメントや最先端技術等により、健康や長寿につながる長期滞在型の上質なリゾート空間を形成。
このように、先ほどの分類における「都市再開発エリア化」というだけでなく、「展示・イベント拠点化」といった要素も含んだ跡地利用となりそうです。そして、万博が開催されている第2期区域におけるまちづくりには、さまざまな最先端技術を組み込むなど、万博跡地だからこその計画がなされています。
現在公開されている「夢洲第2期区域マスタープラン」はVer.1.0(2025年10月現在)であり、既存施設の再利用については確定されてはいませんが、〈大屋根リング〉は200mを保存する方向で関係機関が合意した、というニュースや、万博会場の中心部に位置する「静けさの森」を残地するというリリースも出ています。
これまで開催された日本の万博と比べても特異な大阪・関西万博の跡地利用について、その閉幕後も引き続き注目していきたいですね!
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