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[Interview]廃墟から地域資産へ、石と建築の時間軸を再統合する〈大谷グランド・センター〉。建築家・針谷將史氏が語る再生のプロセス

栃木県宇都宮市大谷町。大谷石の採掘跡にめり込むように建てられた1967年竣工の観光施設「山本園大谷グランドセンター」。閉館後、約30年もの間、活用の手を失い「廃墟」と化していたこの建築が、建築家・針谷將史氏(針谷將史建築設計事務所)の手によって、レストランやギャラリーを内包する文化発信拠点〈大谷グランド・センター〉として蘇りました。

半世紀を経て自然へと還りつつあった人工物と自然の境界線を、どのように読み解き、再定義したのか。針谷氏へのインタビューから、その具体的な設計アプローチに迫ります。

■ 建物再生の経緯について

――今回の敷地は1967年に竣工した観光施設で、閉館後は約30年ものあいだ荒廃していたと伺いました。この建物を再生することになったきっかけや経緯について教えてください。

針谷將史氏(以下、針谷):「このプロジェクトが始まった背景から説明すると、今から10年ほど前(2016年頃)に、地元の「井上総合印刷」という印刷会社がこの場所を買い取ったことから始まります。オーナーである井上さんは、地域に貢献しながら新しい事業を展開していきたいと考えられている方でした。当初はいろいろな方向性を考え、すべて解体して新築する案もあったようですが、オーナーさんが「この建物は壊すべきではない」と直感的に思われたことで、残して活かす方向へとプロジェクトが動き出しました。

そこに、街づくりや建築・不動産企画を手掛ける「bonvoyage(ボンボヤージュ)」のプロデューサー、和泉さんが偶然通りかかり、建物に感銘を受けてオーナーさんにご連絡されたそうです。私に話が来たのは約4年前(2022年頃)で、和泉さんと別件で一緒に仕事をしていた縁から「大谷に面白い廃墟があるから見てほしい」と声をかけていただいたのがきっかけになります。

ここは、地元では元々非常に有名な場所で、廃墟マニアの間でもよく知られた「心霊スポット」のような場所でした。2022年に私が初めて現地調査に訪れた時の第一印象は「とんでもないところに足を踏み入れてしまった」というものでした 。雨漏りが酷くスラブに水が染み込み、畳敷きの宴会場には、木やキノコが生えているような状態で、途方に暮れました。

現地調査時の様子 Photo: 針谷將史建築設計事務所

ただ、ボロボロではありながらも、適当に作られた箱物ではなく、斜面の形状を活かして西側から入って階段を上がり、東側に抜けていくような「トンネル状の動線」を見て、その深く考えられた建築の構成に魅力を感じました。

ただ、老朽化していながらも、適当に作られた箱物ではなく、建築の構成自体が非常に深く考えられていると感じました。斜面の形状を活かして西側から入って階段を上がり、東側に抜けていくような「トンネル状の動線」が作られているのを見て、その構造的な魅力が強く印象に残りました。」

■ 敷地の読み込み・解体してわかったこと

――歴史的・文化的・環境的にもハイコンテクストな敷地ですが、どのように解釈して設計へアプローチしたのでしょうか。

針谷:「この場所においては、採掘の産業も歴史も風景も、すべてが一体のものとして繋がっていると解釈しました。採掘が始まる前からの岩の風景があり、大谷石の産業によって街が発展し、それに伴う文化が風景として現れている。周辺の蔵や街並みに大谷石が使われている状況も含めて、すべてが一体になっています。

かつてこの街の石工(いしく)さんたちは、早朝の明るい時間帯に石を切り出し、夕方三時頃には作業を終えてお酒を飲みに行くという生活を送っていたそうです。当時、この街には高級車が並んでいたと言われるほど経済的に潤っていて、飲食店も非常に多かったと聞いています。そうした活気から、次第に、周りの風景が観光地化されていったという歴史があります。」

針谷:「だからこそ、この建物を単体の建築として考えるのではなく、あくまで「街の延長」としてどう再生させるかを意識しました。散歩をしながらふと立ち寄れるような、街の空気感にそのまま乗るような建築を目指すべきだと思いました。」

――リノベーションにおける実際の「解体」のプロセスでは、どのような発見がありましたか。

針谷:「実際の工事は、ほとんどが「発掘作業」でした。今でこそ石の迫力を感じる空間になっていますが、もともとは畳敷きの宴会場や厨房、バックヤードによって石が全部隠されている状態でした。最初から計画的に解体範囲を決めていたわけではなく、まずは内部の間仕切りや天井を解体して、次が見えてきたらまたその次の一手を打つという、「残す」と「解体する」をほぼ同時進行で行うライブなアプローチでした。

石の壁を後から発見したり、仕上げとして使うか下地として使うかによって石積みの目地が異なり、その対比に気づくこともありました。発掘していく中での気づきは、そのまま設計に落とし込んでいきました。解体していく中で、一番の発見だったのは、コンクリートの構造体が、きれいにグリッドの上に乗っていることが分かった点です。接合部自体に鉄筋やアンカーが入っているかといった技術的な裏付けまでは調べていませんが、この発見により、新築当時この建物は、きちんと設計されていたということが読み取れました。

また、よく見ると上の階のRCスラブが、西側の岩壁に溝を掘って直接突き刺さるようにして乗せられている状態も見つかりました。構造としてはキャンチレバーで出ている状態だったので、直接的な荷重はかかっていなかったと思いますが、防水を施して20年〜30年間実際に使われていたかと思うと驚きです。

想像でしかありませんが、新築当時は、採掘でできた窪地のような地形に対して、不要な岩の面を切りながらコンクリートを乗せていったのではないかと思います。当時の施工自体にも、今回のリノベーションと同じような現場でのライブ感があったのではないでしょうか。」

■ 設計提案について

――今回のプランや、具体的な設計アプローチの意図について教えてください。

針谷:「さきほどお話しした「街の延長」や「街歩き」という視点から、動きながら「その場所に奥がある」というようなシークエンスを作っていきたいと思いました。

全体のプランの構成としては、まず下から登ってくる外階段のアプローチがあります。その階段を上って建物の中に入ってくると、光が当たった大谷石の壁が見える。さらに進んで振り返ると別の石が見え、また折り返すとさらに上の階へ続く階段があるという構成にしています。必ず今いる場所のその奥に次の空間があるという、空間の連続性をどこにいても感じられるようにしました。」

針谷:「エントランスから入っていくこの一連の流れは、なるべく半屋外の、風が抜けるような屋外空間を感じながら展開していく建築を目指しました。」

針谷:「そのため、上の階のスラブを大胆に「減築」して、あえて床を抜くことで光と風が上下に通るようにしました。こうすることで、建物に入ったのに再び外の空気や光を感じるという半屋外的なシークエンスが生まれます。意識的にも「一階から二階に来て、二階のワンルームで終わり」という単純な状態から、「奥にまた階段があって上へと続いていく」という変化を与え、空間図式そのものを書き換えました。」

針谷:「新たな物理的エレメントを外部から追加しないというスタンスをとったのも、解体によって現れた「石そのもの」が、再発見された新たなエレメントであると考えたからです。減築によって物理的には床を減らしているのですが、同時に石が現れてきているので、「減らすこと」と「足すこと」が同時に起こるような感覚でした。

ただし、窓などの開口部だけは全面的に整理し直しました。もともとは東西南北をぐるっと横連窓が囲む構成になっていましたが、それは違う気がして、東西面はトンネル状に風が抜ける大開口にし、南北面は逆に光を絞りつつ、柱の中央に「ぽつ窓」を作って場が生まれるようにしました。このぽつ窓が、向こう側の岩肌を切り取るピクチャーウィンドウとしても機能しています。」

針谷:「新たに加える仕上げに関しても新建材は一切使わず、左官や黒皮鉄板、染色を施したOSB板など、あえて経年変化していっても良いようなテクスチャーのある素材を選定しています。

また、ランドスケープは溝口達也さん(ランドスキップ)にお願いしましたが、新しく植栽するのではなく、生い茂っていた草木を「間引く作業」がほとんどでした。岩の上に落ち葉が堆積してできた大谷特有の細い幹の植生を、美しく引き立たせるように整理しています。」

――人工物であるコンクリートの建物と、自然物である大谷石の境界線・距離感については、どのように考えて構成しましたか。

針谷:「空間を構成する上で意識したのは、建物と大谷石の「付かず離れず」の関係性です。

例えば、スラブを開けて作ったスリットも、デザインの選択肢としてはもっと大きな吹き抜けを作ったり、ワンスパン全部の床を抜いてもっと明るい光を入れるなどもできたと思います。しかし、あえて「付かず離れずの距離」に留めることで、空間には、ある種の心地よい緊張感が生み出されると思いました。窓を開けると石の距離がぐっと近づきフレンドリーさがある一方で、その距離が持つ緊張感によって、空間に静けさや静謐さが現れてくるのです。」

針谷:「この距離感によって一階と二階のインテリアも変えていて、エントランスを入った一階の奥の空間は、少し静謐さが残る空間にしています。そこから外を感じる動線を経て二階に上がってくると、今度は食事をしたくなるような、求心力があってフレンドリーな空間が広がっています。」

針谷:「普段から、事務所で設計する新築の住宅などでも、あえて構造体を部屋のど真ん中に置くことで、見え隠れが起こり、人間同士の距離感や関係性が変わるという試みをしています。今回のプロジェクトでも、新築でおこなっていることと本質的には変わらず、柱と窓と石の関係、そして人の関係という「人工物と自然の境界線」をうまく再構築していくことを目指しました。」

針谷:「ガラスと大谷石の直接の取り合いについても、岩にサッシ枠が張り付いているというよりは、石の中に直接ガラスがはまっているような、物質同士のせめぎ合いを感じるディテールにしています。これがもし枠によって縁を切ってしまうと、石であることが迷惑のような距離感ができてしまいます。直接石とガラスが接している見え方にすることで、石の物質感がより引き立ち、建物と仲良くなる。そうした意図を持って、石との接点は開口部などの最小限に留め、「付かず離れず」の境界線をデザインしました。」

■ 廃墟建築を地域資産へ

――今年1月に公開して3、4ヶ月が経ちますが、評判はいかがでしょうか。また、こうした近現代の遺構を「地域の遺産」にする可能性についての気づきを教えてください。

針谷:「多くのお客様がいらっしゃっています。印象的なのは、廃墟になる前の温泉施設だった時代に来たことがあり、懐かしくて訪れてくる高齢の方がいることです。そういった思い出のある方がフラッと立ち寄られたり、何度もリピーターとして来てくれたりしています。

更地にして格好いい建物を新築したら人は来ると思いますが、このような方々の来場にはつながらないですよね。地域の記憶と新しい空間が結びつく、リノベーションならではの現象だなと面白く感じています。また、街を俯瞰できる高い場所がこれまで無かったので、2階にテラス席を設け、屋上をシンプルな「展望テラス」として開放したことも、自分たちの街を再発見できる新しい眺望体験として地元の方に非常に喜ばれています。

この場所には、地質学的、文化的、そして、建築的という複数の時間軸が混在しています。設計にあたっては、これらを、境目なくごちゃ混ぜな状態にすることが面白いのかなと思いました。ただ、そのままでは混沌としてしまうので、開口部のリズムや、東西をトンネル状に抜いて風を通すといった「空間形式としての秩序」を与えることで、一つの建築として感じられるよう結び直しました。

プロジェクトを通して思ったのは、リノベーションは、建築単体で考えるものではなく、街づくりや「街の固有性と継続性」に直結しているということです。今、多くの街が均質化していく中で、いくら新築の建物を投入しても、それは建築の個性であってすぐには街の固有性にはつながりません。しかし、元々あったものであれば、それをうまくリノベーションして活用することで、そのまま街の固有性としてつながってくれます。

今の公共建築は、新しい施設を次々と建てるような「個性の競い合い」になりがちですが 、そうではなく、各地域に手つかずで眠っている産業遺産や文化遺産をリノベーションした方が、その街にしかない個別性や魅力を発信できるのではないかと思います。そのためにも、そこにある価値を「再発見」していくプロセスが何よりも重要だと実感しています。」

(2026年4月15日、大谷グランド・センターにて収録)


針谷將史(はりがい まさふみ)
1980年栃木県生まれ。2004年横浜国立大学卒業。2007年横浜国立大学大学院(Y-GSA)修了。2007-2014年隈研吾建築都市設計事務所勤務を経て、2014年に針谷將史建築設計事務所を設立、同代表を務める。2021年よりM.A.R.K.S.共同代表。
2014-2016年横浜国立大学Y-GSA設計助手、2016-2019年横浜国立大学非常勤講師を務める。現在、日本女子大学、武蔵野美術大学、静岡理工科大学非常勤講師。

 

〈大谷グランド・センター〉施設概要

所在地:栃木県宇都宮市大谷町1396-29(Google Maps
竣工:2025年(リノベーション)
構造:鉄筋コンクリート造
主要用途:飲食店・ギャラリー

施主:プロジェクトi
トータルマネージメント
:井上総合印刷
総合プロデュース
:bonvoyage
設計
:針谷將史建築設計事務所
アートプロデュース
:ArtSticker(The Chaim Museum)
アート
:YOSHIROTTEN
ランドスケープ
:Landscipe
ロゴ・サイン
:清水彩香
施工
:ニチビルデザイン+東栄設備工業+五十二電気工業
内装施工
:DDD

改修プロセスの特徴:設計と解体の同時進行(発掘的解体)、スラブの減築、開口部の再整理、石とガラスの直接取り合い

特記なき画像:TEAM TECTURE MAG

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