部分リフォームではなく、壁も配管も配線も一度すべて取り払う。MUJI HOUSE(無印良品の家)の中古マンションリノベーション「MUJI INFILL 0(インフィル・ゼロ)」は、住戸をスケルトン状態に戻すことから始まる。既存の間取りに縛られず、可動間仕切り家具と引き戸で何度でも組み替えられる一室空間を、ZEH水準プランの断熱性能で成立させる。スケルトン&インフィルの思想を実装する設計思考を、ここから紐解いていく。
◾️この記事でわかること
①なぜ部分リフォームではなく、一度すべて解体するのか
MUJI INFILL 0は、間仕切り壁や老朽化した設備・配管・配線までをすべて撤去して住戸をスケルトン状態に戻すことで、既存の間取りに縛られず、動線や空間配置をゼロから組み立てられるようにしている。
②マンションリノベーションで「ZEH水準」を目指す理由
マンションは屋根に太陽光発電設備を置けず創エネができない。そのため、ZEH基準から創エネの要素を除いた、外皮の高断熱化と省エネ設備による「ZEH水準」の性能を目指している。
③間仕切りのない一室空間を寒くしない断熱仕様の中身
躯体の内側には熱伝導率0.020W/(m·K)のフェノール樹脂断熱ボードを施工し、既存窓の内側には樹脂製インナーサッシを設置。MUJI INFILL 0 ZEHでは、断熱材の厚みを従来仕様の約1.8倍に高め、Low-E複層ガラスを採用することで、断熱等性能等級5・一次エネルギー消費量等級6を達成し、全棟で温熱計算を行っている。
④工事なしで間取りを変える可動仕切りの仕組み
固定壁ではなく、引き戸と可動シェルフ(間仕切り家具)で空間を区切ることで、結婚や出産、在宅ワークといった暮らしの変化に応じて、一室空間と独立した個室とを、工事を伴わず自在に切り替えられる。

リノベーション事業である「MUJI INFILL 0」において、最も本質的なアプローチとなっているのが、住戸を一度完全にリセットする工程です。一般的な部分リフォームとは異なり、既存の複雑な間取りや老朽化した設備、仕切り壁、古い配管や配線に至るまでをすべて取り払い、住戸内をゼロの状態に戻します。これにより、既存の間取りや構造的な制約に縛られることなく、住む人が今まさに必要としている暮らしの動線や空間配置を、自由自在に「ゼロ」から編集することが可能になります。

仕切りのない大空間を快適に成立させるため、「MUJI INFILL 0」ではインフィルを施工する前段階として、躯体の内側に高性能な断熱材を施工し、既存窓の内側に樹脂製インナーサッシを取り付ける高性能リノベーションを実施します。

マンションリノベーションにおいては、構造上、屋根に太陽光発電設備などを設けて創エネを行うことができません。そのため、ZEH基準から創エネ部分を除いた外皮の高断熱化と省エネ設備による「ZEH水準」の性能を目指すことになります。
「MUJI INFILL 0 ZEH」では、熱伝導率0.020W/(m・k)のフェノール樹脂断熱ボードの厚みを従来の通常仕様から約1.8倍にし、インナーサッシに「Low-E複層ガラス」を採用しています。これにより、断熱等性能等級5、一次エネルギー消費量等級6(最高等級)を獲得。旧省エネ基準のモデルプランにこの水準のリノベーションを実施した場合、光熱費を約38%削減する効果が見込まれています。個人の感覚に頼らず全棟で温熱計算を実施し、日射取得・遮蔽のシミュレーションを行うことで、大きな一室空間でも温度差のない快適な環境づくりを、数値に基づき計画しています。

「MUJI INFILL 0」の意匠における最大の特徴は「可変性」と「可動性」にあります。一度つくると解体が困難な固定壁によって部屋を細かく分断するのではなく、住まい手自身が暮らしの変化に合わせて空間を何度でも再編集できるようになっています。
「MUJI INFILL 0」は、あらかじめ壁で細かく区切られた「完成された間取り」を住まい手に押し付けるのではなく、光と風が奥まで行き渡る大きな一室空間をベースとして計画され、空間は「引き戸」や「間仕切り家具(可動シェルフ)」によって柔軟に配置されます。

空間を区切る際にも、不可逆的な固定壁を立ち上げるのではなく、可動式の収納家具や引き戸を自在に活用します。例えば、結婚や出産、子どもの成長、独立、あるいは趣味のスペースの確保や在宅ワークの必要に応じてなど、暮らし方の変化に合わせて、住まい手自身が仕切りの位置を動かすだけで、「広い一室空間」から「独立した個室」へ、そして将来的に再び「広い大空間」へと、工事を伴うことなく容易に間取りを変更することができます。
暮らす側が主役となって住まいを柔軟に変化させていくためのシンプルなインフィルを提供する。これこそが、MUJI HOUSEが提示するインテリアと建築が境界なくシームレスにつながる意匠の論理です。

スケルトン&インフィルの思想は、単なるデザインやレイアウトの手法にとどまらず、これからの住宅ストック活用時代における、日本の建築のあり方に対するひとつの回答でもあります。
耐久性の高い構造体を大切に維持しながら、生活様式の変化や設備の老朽化に合わせて内部のインフィルだけを適切に更新していく仕組みは、建物の寿命を延ばし、解体や新築に伴う環境負荷を抑えることにつながります。日本に数多く存在する既存のマンション資産を無駄にすることなく、現代の高度な技術によって高い断熱性能と快適なインフィルを与えて再生させるアプローチは、「永く使える、変えられる」というMUJI HOUSEが一貫して掲げてきた思想を具現化したものです。
住まい手が自らの手で暮らしを編集する余白を残し、断熱・構造体の分離といった機能と、可変性や美しい納まりという意匠を結びつける。「MUJI INFILL 0」の設計思想は、住まいを完成された固定物から、時代とともに育まれる流動的な「暮らしの基盤」へと再定義するものといえます。

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