KDDIは、先端技術により日本の文化芸術体験を拡張するau Design project「ARTS & CULTURE PROGRAM」の取り組みとして、現代アート作品を、au 5G(エーユー・ファイブジー)と最新のAR技術[*1]を駆使して体験できるアプリ「AR x ART(エーアールアート)」[*2]を、2020年11月24日から提供することを、同日11時に発表しました(KDDIプレスリリース)。
*1.AR: Augmented Reality(拡張現実)の意
*2.アプリ開発:Mawari Inc.(同社 2020年11月24日プレスリリース)
同アプリは、Apple(アップル)社から今秋発売された〈iPhone 12 Pro〉シリーズに搭載されている新機能「LiDARスキャナ」を使用します。さらには「Indoor Mapping」といった先進技術も活用して、実際には何もない空間にアート作品をリアルな表現で再現したり、目の前にある実作品に新たな視覚的情報ないし表現を付加するといった、さまざまなアート体験を提供します。
第1弾として、日本を代表する彫刻家のひとり、名和晃平氏とコラボレーション。名和氏の代表作である〈PixCell〉や〈White Deer〉、マルチプル[*3]などの作品が、このアプリを介在した〈iPhone 12 Pro〉シリーズ端末の画面上に出現します。作品を鑑賞する角度やサイズなどをユーザーが任意で決めることができるなど、従来の彫刻の概念を拡張させる機能により、リアルとバーチャルが交錯した新しいアート体験を提供します。
*3.1点もののオリジナル作品に対して、工業的に複数制作された美術作品
また、今回のアプリ「AR x ART」の発表と同時に、遠山正道氏が代表取締役社長を務めるThe Chain Museum(ザ・チェーンミュージアム)が、KDDIおよび住友商事の2社とそれぞれ業務提携契約を結んだことを発表(同社プレスリリース)[*4])。
*4.KDDI Open Innovation Fund 3号ファンド(KDDI新規事業育成3号投資事業有限責任組合)を引受先とした第三者割当増資を同時発表
今回の3社提携の目的は、「リアルとデジタルを相互に駆使し、アートやアーティストが世界と直接つながることを希求すること」にあります。The Chain MuseumとKDDIは、The Chain Museumが展開する事業の1つ、ArtSticker(アートスティッカー)で培ったノウハウおよび機能を活用し、5GやxR(エックスアール または クロスリアリティ)などの最先端技術を駆使した、新たな文化芸術体験のDX(Digital transformation / デジタルトランスフォーメーション))を推進する「augART(オーグアート)」に共同で取り組んでいくとのこと。
参考リンク:KDDI「augART」ページ
https://adp.au.com/augart/
「AR x ART」のローンチに伴い、au 5Gが体感できるコンセプトショップとして、KDDIが9月26日にオープンした東京・銀座の「GINZA 456 Created by KDDI」にてプレス向けの説明会も行われました。同会場には、遠山氏と名和氏も同席。KDDIによる「AR x ART」の概要説明のあと、アプリにかける期待感、今後の展望などをそれぞれに述べました。
【TECTURE MAG】では、このプレス説明会に出席。「AR x ART」の概要と魅力についてレポートします。
アプリを使って提供されるコンテンツ(アートエクスペリエンス)は以下の3つとなります(11月24日提供開始は2のみ)。
先進の「LiDARスキャナ」により、目の前のオブジェクトや人物が、名和晃平氏の代表シリーズ〈PixCell(ピクセル)〉へとリアルタイムで変貌する。提供開始は2020年12月以降の予定。
名和晃平氏のマルチプル作品をARでコレクションできる、自宅の床の間や玄関に彫刻や置物を飾るという、現代では廃れつつある文化を更新。現代アートのある生活を5Gで実現して楽しむという趣向。サイズや向き、影の細やかな調整も画面上で可能。
「GINZA 456 Created by KDDI」や、名和氏の彫刻作品〈White Deer〉が実際に設置されている場所(上の画・宮城県石巻市萩浜)をはじめ、〈アンテルーム京都〉や〈アンテルーム那覇〉など、名和氏にゆかりのある場所などで、スポット的に〈White Deer〉がARで出現。運良く街中などで遭遇することができれば、「AR x ART COLLECTION」として手元の端末に加え、自宅などでも体験できる。出現スポットは「AR x ART KOHEI NAWA」公式ウェブサイトで公開するほか、都内にシークレットポイントも用意される。au 5Gエリアにある特定の出現スポットでは、同作品のアニメーション版も体験できる見込み (2021年2月提供予定)。
プレス説明会に出席した遠山正道氏(The Chain Museum 代表取締役社長)は、今回の「AR x ART」サービス開始について、「ARという最新技術を使った、新たなメディウム(編集部註.媒体)が生まれたと感じている。空間、モバイル、メディウムという3つの要素で、17世紀のヨーロッパにおいて絵画をモバイルしていたような感覚で、アートを楽しむことができるようになった」と述べ、また、KDDIとの業務提携について、「これからのアートの世界では、チームをまとめるリーダーシップが求められるように思う。チームから、なにかを生み出すちからが生まれる。それらが混在しているのがこれから時代ではないか」との見解を示しました。
続いて登壇した名和晃平氏は、KDDIがかつて展開していたデザインケータイ〈iida〉シリーズ以来10年ぶりとなるコラボレーションへの感慨を述べたあと、作品への満足度と期待度が高いことを自身の言葉で語りました。
AR作品としては、来月12月より提供開始となる作品〈PixCell〉は、名和氏がまだ京都市立芸術大学に在学中、アパート暮らしをしていた頃に創案したもの。情報化社会というものを、何か彫刻で表現できないかとこの頃から考えていたそうです。その方法論が今回のコラボで実現しました。
「このアプリで見ることができるマルチプル作品では、表面のヴェルベット調の質感までもがリアルに表現されている。落ちる影もリアル。かつ、空間も決めることができる。これは新しい鑑賞体験になるでしょう。スキャンした情報を物質に置き換えて展示する。つまり、情報としても彫刻作品が存在することになる。『AR x ART』は、これまでの彫刻の概念を変えるものです」(名和晃平氏談)
名和氏はさらに、彫刻家として大事にしていることは大きく2つあり、1つは物質を使うということ、2つめは作品をどう世の中に伝えるか、インターフェースの部分だと語りました。今回の「AR x ART」では、作品を3Dデータ化したことで初めて可能となったアニメーション表現への期待感を表明。また、すでに国内各地に設置されている既存のパブリックアートにこのアプリの機能を実装すれば、作品の「再発見」につながるだろうと、作家として大きな期待を寄せました。
記者発表会では、出席者に端末が貸し出され、実際にアプリを使ったデモンストレーションも行われました。
プレス発表会で鑑賞した「KDDI AR x ART KOHEI NAWA」は、KDDI関係者が口にした「デジタルツイン時代の彫刻」という表現がまさにあてはまります。
また、「AR x ART COLLECTION」のデフォルト表示は「赤」で、ほかの色の作品は、データにかかっているロックを解除しなければ見ることができません。これには、国内各地に点在する出現スポットをまわるか、名和晃平作品集『METAMORPHOSIS』の購入特典を入手する必要があります。ユーザー自身が行動を拡張することで、鑑賞の幅や奥行きを拡げることができるプロジェクトとなっています。ARならではの鑑賞体験を得るために、〈iPhone 12 Pro〉シリーズに切り替えたり、〈Whitte Deer_AR〉を探し、出会いを求めて旅立つ人もいることでしょう。
デジタル表現の可能性と裾野を拡げる「AR x ART」の今後の展開に注目です。(en)