PRODUCT

りんごの搾りかすを利活用したアップサイクル材

SOZAI CENTERが開発、2023年秋発売予定の新素材〈Adam(アダム)〉

PRODUCT2023.01.13

実用化に向けて開発が進められている塗布用仕上げ材〈Adam(アダム)〉をピックアップして紹介します。

「Adam」は、青森県五所川原市を拠点に旅館業を営むKOMORU(代表:香田遼平)と、プロダクトデザインを手掛けるM&T(共同代表:池田美祐、倉島拓人)の2社をベースに、津軽の持つ風土と素材の中に可能性を見出すスタートアップ・SOZAI CENTER(所長:大島頌太郎)が、2021年夏から開発中のアップサイクル素材です。

SOZAI CENTER 津軽〈Adam(アダム)〉

〈Adam(アダム)〉を取り巻く環境相関図

大きな特徴は、アップルジュースやシードルの製作工程などから出る、廃棄予定の林檎(りんご)の残渣(ざんさ)を活用していること(協力:JAアオレン、弘前大学)。
りんごの搾りかすに膠(にかわ)や珪藻土などを混合してペースト状に。量を変えたり、ヘラやクシなどの道具を使うことで 手の動きそのものが表情となって塗布面にあらわれます。

SOZAI CENTER 津軽〈Adam(アダム)〉

Adam(アダム)開発風景(撮影:SOZAI CENTER)

用途としては、基布(きふ)に塗ってソファーなどの椅子の座面に巻いたり、珪藻土と混ぜて壁の左官・仕上げ材として用いることを想定し、開発を進めているとのこと。現時点で、布やハードボード(木材)に塗布が可能です。

SOZAI CENTER〈Adam(アダム)〉施工イメージ

〈Adam〉施工イメージ(提供:SOZAI CENTER)

 

ステートメント

〈Adam〉の制作に先立って、私たちの視点は青森県津軽地方の大地に深く潜り、現地から採取したりんごの残渣 (搾りかす)に手で触れるところからスタートしました。りんごを育てることは他の果物と比べて多くの手間と時間が必要と言われ、りんご農家のみならず、津軽に生きる人々の多くがこの赤い果実に大きな愛情を注いでいることを知りました。それは、りんごを大切にいただくということだけではなく、りんごの魅力を余すことなく見出し、広げていこうという探究心が秘められているのです。
私たちの取り組みは、そのような風土の意思に感化され、使用目的が限られるりんごの残渣に新たな生命をデザインの力によって宿すこと、そして、りんごから始まる新しいものづくりの喜びを津軽の人々と分かち合いたいと思い、活動を続けています。

SOZAI CENTER 津軽〈Adam(アダム)〉

SOZAI CENTERでは、2022年8月に青森県弘前市内で「風土と素材の試行展」を開催して試作プロダクトを披露。続く10月下旬には、東京都内各所で開催された「DESIGNART TOKYO 2022」にSOZAI CENTER 津軽研究室として出展し、「新素材 Adam の可能性」をテーマに、渋谷のグループ展会場で展示を行っています(下の写真)。

DESIGNART TOKYO 2022

「DESIGNART TOKYO 2022」展示風景

展示したオブジェクトは、変幻自在な素材である〈Adam〉が将来的に多様な可能性を秘めていることを前提に、ハードボードや木材による造形物の表面に、プロジェクトメンバー(後述)が手作業で塗布したものです。

SOZAI CENTER 津軽〈Adam(アダム)〉

SOZAI CENTER 津軽〈Adam(アダム)〉

SOZAI CENTER 津軽〈Adam(アダム)〉

SOZAI CENTER 津軽〈Adam(アダム)〉

SOZAI CENTER 津軽〈Adam(アダム)〉

SOZAI CENTER 津軽〈Adam(アダム)〉

SOZAI CENTER 津軽〈Adam(アダム)〉

SOZAI CENTER 津軽〈Adam(アダム)〉

Photo: Tomohiko Ogihara(2022年10月下旬撮影)


津軽の息吹をまとった素材〈Adam〉

「DESIGNART TOKYO 2022」で発表された〈Adam〉を使用したオブジェクトは、Pentagon(ペンタゴン:五角形)がテーマとなっています。これは、りんごはバラ科の5心皮性で、5枚の花びらで咲くこと。つまり、りんごのかたち自体がが五角形に由来していることに由来しています。また、手作業を重んじるSOZAI CENTERのプロジェクトとして、手の指の本数である「5」にも着目したテーマであるとのこと。

今後の展望

〈Adam〉は、津軽の持つ風土と素材の中にデザインの可能性を見出すことをミッションとするSOZAI CENTERが世に送り出す最初のプロダクトとなる予定です。製品としての発売は、2023年秋を予定しています。

SOZAI CENTERでは、今後の利活用材として、青森県の林檎(りんご)だけでなく、ホタテの貝殻や、収穫後の畑に残される藁(わら)、海辺に打ち上げられる廃魚網などにも着目しており、〈Adam〉に続くアップサイクル素材の開発を進める方針です。さらに、研究拠点も、津軽のほか、信州やロンドンなどの国内外にも展開していく計画とのこと。

プロジェクトメンバー プロフィール

大島頌太郎(おおしま しょうたろう)
SOZAI CENTER所長、KOMORUクリエイティブ ディレクター、多摩美術大学非常勤講師
1990年東京都生まれ。
英国 Glasgow School of Art に大学院留学し建築を学ぶ。2016年Jamie Fobert Architects入社。英国立美術館の増改築計画の設計を担当。
時代の波に惑わされ ない存在意義のある空間と素材について考えている。

SOZAI CENTER インスタグラム
https://www.instagram.com/tsugarusozaicenter/

香田遼平(こうだ りょうへい)
津軽研究室 室長
1989年青森県生まれ。
2014年に面白法人カヤックに入社。2019年「うんこミュージアム」を企画・プロデュース。2021年KOMORU創業。
旅館業を進める合間に畑を開墾し、野菜の成長を見届けながら地域に根づく会社を育てている。

KOMORU Webサイト
https://komoru.co.jp/

池田美祐(いけだ みゆう)&
倉島拓人(くらしま たくと)
デザインユニット・M&T(エム アンド ティー)共同代表、共にSOZAI CENTERリードデザイナーを務める。
プロダクトデザインを軸に、家具、生活用品、インスタレーションなど、さまざまなプロジェクトを手掛ける。入念なリサーチと素材に縛られない幅広いデザインの提案により、美しい佇まいと新たな機能の関係を探求している。

M&T Webサイト
https://mandt.design/

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