京都競馬場が2023年4月に「センテニアル・パーク京都競馬場」としてリニューアルオープンしました[*]。
2025年に開設100周年を迎える記念行事の一環として、スタンド改築、パドックや馬場改修、厩舎改築を含めた施設全体の大規模整備が進められています。
*. 英語で100年間を意味する”centennial”から愛称として「センテニアル・パーク京都競馬場」と名付けられた。現在もステーションサイドの改修などの整備が進行中
今回改築されたメインスタンド「ゴールサイド」の館内に、アイカ工業の塗り壁材〈クライマテリア イタリアート〉、〈ジョリパット爽土 版築仕上げ〉、メラミン不燃化粧板〈セラールセレント〉、トイレブース〈メラフロントブース〉などが採用されました。
どのような経緯で採用に至ったのか、安井建築設計事務所の関係者にプロジェクトのコンセプトや背景についてインタビューしました。
今回のリニューアルのコンセプトを、橋本氏と中村氏は以下のように語ります(両氏のコメントを要約)。
「パークテラスをコンセプトとし、公園のように誰でも気軽に訪れることができる競馬場を目指しました。京阪淀駅や車窓からでも競馬場の風景が見えるように大きく開かれた空間とし、柔らかい雰囲気を感じられるよう緑や木を積極的に取り入れています。何だろう? 面白そうだなと、競馬に興味がない人にも興味を持ってもらえる場所になるよう、透明感のある開かれた空間を意識して設計をしました。改修前は少し閉じた空間だったので、随分と印象が変わったかなと感じています。」
安井建築設計事務所も2024年4月に創業100周年を迎えます。今回の設計にあたっての特別な想いをうかがいました。
「解体された前のスタンドの建設時にも、プロポーザルから設計、監理まで携わっていました」と語るのは、橋本氏。「長年の集大成ということで、強い思い入れがあります。安井建築設計事務所としても、創業者から歴代の担当者へ受け継がれ、今回携われたことがありがたいですし、次の代に引き継ぐことができたと今はほっとしています。」(橋本氏談)
事務所エントランスには、アイカ工業の塗り壁〈ジョリパット爽土 版築仕上げ〉が採用されました。
「おもてなし」の空間となる事務所のエントランスでは、京都らしい雰囲気を感じてもらえるように、〈ジョリパット爽土〉による版築仕上げを採用しました。自然の質感が「パークテラス」のコンセプトとも合致します。誰でも気軽に訪れることができる空間を目指しました。」と中村氏は語っています。
〈ジョリパット爽土 版築仕上げ〉は、土の種類と、仕上げパターンを選ぶことができます。土の種類は、なるべく京都やその周辺地域の土を選定し、複数ある仕上げパターンは骨材や土の配合を細かく調整したとのこと。
「大判サンプルやイメージパースで何度も完成をイメージしていましたが、実際に完成した空間は圧巻で、想像していた以上に自然素材の質感が伝わってきました。一度見たら忘れない、メインエントランスとしてふさわしい特別な空間になったと思います。」(中村氏談)
国内外からのゲストを迎える6階 特別室・特別来賓室は、「京都らしいおもてなしの場」として日本の素材、工芸をデザインに取り入れ、伝統美、洗練された美しさを表現しています。
京都の寺社の屛風や仏像に用いられた“光”を象徴する金(GOLD)をデザインに取り入れ、天井と壁面には、木格子をしつらえました。
中央のモダンなシャンデリアは「京都」の文字がアナグラム的にデザインされ、遊び心ある特別な空間が演出されています。
6階ホールは明るい木目を基調とし、由緒ある寺の参道にみられる石畳をイメージしたカーペットが京都らしさを感じさせます。
5階の馬主役員専用ロビーの壁面は、京都御所や寺院などにみられる筋塀(すじべい)をイメージし、アイカ工業の塗り壁材〈クライマテリア イタリアート〉が採用されました。
「漆喰のテクスチャーが表現されていることに加えて、金色のパールが入っていることも採用につながりました。このエリアは、京都の神社仏閣に昔から使用されている“金”を1つのモチーフにしています。コンセプトと合致する面白い素材であり、照明のあたり方によりさりげないきらめきを感じられるので、金色の目地とあわせて馬主役員室にふさわしいラグジュアリー感を演出しています。
筋塀には格式があります。定規線という横線があり、寺格の最高位とされる5本線を表現しました。」(高野氏談)
カーペットは京都らしい雅な紫色のカラーが選ばれ、江戸小紋の大きな三角形が流れるように配置されています。
馬主役員専用のレストランの壁面には、アイカ工業のメラミン不燃化粧板〈セラール セレント〉が採用されました。
「大判タイルに遜色ない高級感がありながら、大判タイルよりも安価で、なおかつメンテナンス性に優れている点が採用の決め手になりました。加工も自由にできるため、良い材料だと改めて認識しています。改修中のステーションサイドにも大量に採用する予定で、不特定多数の方が利用する膨大な面積の清掃についてもお施主様が気にされていたので、非常に適した材料だと思います。」と橋本氏は語っています。
京都競馬場を含む一帯には、かつて「巨椋池(おぐらいけ)」と呼ばれる広大な湖沼といくつかの池が存在しました。京都競馬場の馬場に、唯一、その一部が現在も残されています。巨椋池の水面や馬場に広がる青空を表現したデザインのカーペットが使用されています。
また、スタンドのトイレ空間にも、アイカ工業のトイレブース〈メラフロントブース〉が400ブース以上の数で採用されました。メンテナンス性、耐久性に優れている点が評価され、メラミン化粧板のトイレブースが選ばれています。
加えて、壁面にも〈ジョリパット〉が採用されました。
最後に、橋本氏に京都競馬場の今後についてうかがいました。
「今回の施設づくりにより、競馬場の先入観が取り払われていって、博打場的な昭和の印象から、馬と一緒に楽しめるパークのような役割になることを望んでいます。馬券を買う人に限らず、馬を見ているだけの人も来てもいいし、多様性を持たせられるような空間にしたいです。いろんな人が自分の好きな場所で、馬と一緒に楽しめる施設になれば一番良いと感じています。」(橋本氏談)
施設名称(愛称):センテニアル・パーク京都競馬場
設計:安井建築設計事務所
施工:大林組
今回使用されたアイカ工業のプロダクト詳細はこちら
TECTURE〈センテニアル・パーク京都競馬場〉
https://www.tecture.jp/lists/16502
〈クライマテリア イタリアート〉や〈セラール セレント〉が採用された今回のような施工事例も、現在開催中の「AICA施工例コンテスト2023」 に応募できる対象作品となります。
応募の受付は9月15日まで。詳細は下記の「AICA施工例コンテスト2023」応募バナーをクリックのうえ、特設サイトの記載をご確認ください。