PROJECT
PROJECT2023.12.22

こもる五所川原 / Shotaro Oshima Design Studio

外観と内部構造の対比が与える特別な宿泊空間

この建物は、自分の時間と向き合う宿「こもる五所川原」として民家から改修された。
静寂を謳歌し、自然と共に流れる時間を慈しみ、一晩を過ごす。特別なものは何もないかもしれないが、急がず、ゆっくりと心を通わせることができる場所。日常から、仕事から、ルーティーンからそっと離れてみると自分の鼓動が聞こえ始める。そんな瞬間と向き合える空間を目指した。本州最北端の地で提供するホスピタリティはささやかだけど母のように心あたたかく、人間の営みと風土を大切にする。「こもる五所川原」は全5部屋の小さな宿である。

既存建物は林檎畑や水田が広がる津軽平野の中、五所川原市の中心街から南に車で15分ほどの集落の一角にある築50年の木造2階建て民家である。建築主の祖父母がかつて暮らしていたが5年ほど空き家の状態となっていた。建築主の祖父は林檎農家でもあったことから既存建物の西側には林檎倉庫が隣接していた。住居として利用されていた空間には数えきれない暮らしの痕跡が残っており、それらの記憶を引き継ぎながら、新しく生まれ変わる宿泊施設としてどう魅力を伝えていけるかを意識した。

既存建物は周辺の建物と比較しても日本の地方都市における戦後の”典型的な民家”である。ここでは典型的という概念についての詳細説明は避けるが、このありふれた、もしかすると昨今もっとも空き家となりがちとなっている世代の民家と言える既存建物をどう操作し、編集するかが設計の重要なテーマであった。

建物の外観とそれから想定しうる建物内部の構成の不一致を狙う、”ズレ”を起こすことでより記憶に残る空間体験をつくれるのではないかと思案した。南側立面を見ると1階居室部分の窓は新設したU字壁面によって隠れているため、開口部の存在を視認することはできない。玄関を通り、居室に入ってはじめて開口部の大きさと外部との独特な繋がりを知ることとなる。また、既存の木造2階建てのフォルムを改修後も維持していることから、外観からすると1階と2階に上下綺麗に別れて居室があるように見えるが、内部に入ると2階の窓は実は1階にある居室の頂側窓であったりとする。

既存の建物の内部はすべて床が張られていたが、改修において建物西側の玄関、ダイニング、浴室、キッチンはすべて既存の床を撤去し、コンクリート土間で墨入りモルタル仕上げとした。床を下げることで玄関・ダイニング部分など公共性の高い空間の天井高を確保し開放感を演出した。玄関からひと繋がりとなっているキッチンは2mの暖簾3本により緩やかに仕切られている。

建物内に設置した10点の造作家具はすべてオリジナルのデザインであり、機能する彫刻のような風格を纏い、この空間に独自の旋律を生んでいる。(大島頌太郎)

Special accommodation space given by the contrast between the exterior and interior structure

KOMORU Goshogawara stands as a quaint hotel on the outskirts of Goshogawara in Aomori, Japan. Surrounded by the scenic Mount Bonjyu and the Iwaki River, the hotel embraces the vast Tsugaru Plain. The building, originally a 1950s farmhouse left vacant for five years, undergoes a sustainable transformation while preserving the existing timber structure. The renovation alters significantly the interior, arranging four guest rooms, a dining room, a kitchen, and ground-floor bathrooms, complemented by an additional guest room and staff space on the upper level.

Retaining a mindful connection to history, the refurbishment maintains iconic architectural elements like the traditional Japanese alcove, ‘Tokonoma’, enriching the space with a narrative of the original building’s cultural heritage. The interventions extend to various facets, including the creation of U-shaped inner gardens, known as ‘Tsuboniwa’, providing serene outdoor experiences for each guest room.

 

The design concept expresses intimacy and sensitivity, intricately manifested in the small courtyard of ‘Tsuboniwa’. For KOMORU Goshogawara, Shotaro Oshima engages in a new front garden design, incorporating local trees and stones to craft a welcoming ambiance for arriving guests. Guests are invited to embark on a spiritual journey, resonating with the harmonious blend of history, culture, and nature. (Shotaro Oshima)

【こもる五所川原】

所在地:青森県五所川原市梅田福浦40-1
用途:ホテル
クライアント:KOMORU
竣工:2023年

設計:Shotaro Oshima Design Studio
担当:大島頌太郎
設計・監理:蟻塚学建築設計事務所
施工:西村組

撮影:Yuki Motegi

工事種別:リノベーション
構造:木造
規模:地上2階
敷地面積:1,113.57m²
建築面積:165.83m²
延床面積:198.00m²
設計期間:2020.12-2022.04
施工期間:2022.05-2023.06

【KOMORU Goshogawara】

Location: 40-1, Umetafukuura, Goshogawara-shi, Aomori, Japan
Principal use: Hotel
Client: KOMORU
Completion: 2023

Architects: Shotaro Oshima Design Studio
Design team: Shotaro Oshima
Designer / Supervisor: Manabu Aritsuka Architect Atelier
Constructor: Nishimuragumi

Photographs: Yuki Motegi

Construction type: Renovation
Main structure: Wood
Building scale: 2 stories
Site area: 1113.57m²
Building area: 165.83m²
Total floor area: 198.00m²
Design term: 2020.12-2022.4
Construction term: 2022.05-2023.06

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