FEATURE
World Cities Growing after the Olympics
The Paris 2024 Olympic Games, as known through architecture #4
FEATURE2024.08.11

オリンピックを経て成長する世界の都市

建築から見るパリオリンピック特集 #4

建築から見るパリオリンピック特集

FEATURE2024.07.08

パリオリンピック会場一覧! ※地図あり

建築から見るパリオリンピック特集 #1
FEATURE2024.07.20

パリオリンピックに向けて振り返るメインスタジアムの歴史

建築から見るパリオリンピック特集 #2
FEATURE2024.08.03

パリオリンピック会場周辺で訪れたい名建築

建築から見るパリオリンピック特集 #3
FEATURE2024.08.11

オリンピックを経て成長する世界の都市

建築から見るパリオリンピック特集 #4

Official Posters of the Paris 2024 Games © Ugo Gattoni – Paris 2024

パリ夏季2024オリンピックが目指す3つの「史上初」

2024年の7月26日から8月11日にかけて開催されるパリ夏季2024オリンピックは、1924年の開催以来ちょうど100年ぶりとなるパリオリンピック。これまでにない新しい形のスポーツの祭典として開催される予定で、次の3つの「史上初」を掲げています。

  • カーボンニュートラルな史上初の競技大会
  • ジェンダー平等の史上初の競技大会
  • すべての人が参加できる競技を開催する史上初の競技大会

このようにさまざまな観点からサステナブルな大会を目指すパリオリンピックですが、「カーボンニュートラルな史上初の競技大会」を実現するため、新たな施設の建築は極力抑えつつ、パリの名建築や歴史的な広場も競技会場として利用して開催されます。

パリオリンピックを建築視点から見る特集の最後、第4弾となる今回は、オリンピックという一大イベントを経て、開催した都市がどのように成長したのか、その特徴的な変化が起きた4つの都市についてまとめ、その上でパリオリンピックが何を目指しているのか考察してみました。

この企画は、IOCオフィシャルフォトエージェンシーを務める「Getty Images*」の膨大なアーカイブ写真から歴代のオリンピックスタジアムをピックアップし、建築視点でオリンピックの歴史を振り返ります。
*「Getty Images」は1896年のアテネオリンピックからオリンピック映像アーカイブを保有し、1992年のバルセロナオリンピック以降、IOCオフィシャルフォトエージェンシーを務める。

Getty Imagesのパリ2024スペシャルサイトはこちら
https://engage.gettyimages.com/paris2024_jpn_lp_home

 

INDEX

◾️大戦後の日本を飛躍させる「1964年東京オリンピック」
◾️戦後の新しいドイツを表す「1972年ミュンヘンオリンピック」
◾️荒廃地区を再生するモデルケース「2012年ロンドンオリンピック」
◾️オリンピックへの投資を地域に還元する「1992年バルセロナオリンピック」
◾️成熟した都市を持続可能な未来に導く「2024年パリオリンピック」


1924年に続く、パリでの3度目の開催となる2024年のパリオリンピックですが、これまでにすでに成長し、成熟している都市での開催だからこそ、持続可能であることに重点が置かれており、先述した通り3つの「史上初」を掲げて計画・運営されています。これまでの大会でもCO2の排出量の低減などは目標にしていましたが、「カーボンニュートラル」や「ジェンダーレス」、「インクルーシブ」といった持続可能性に関わるワードを明言した大会は初と言えるでしょう。

だからこそ、まずはこれまでのオリンピックが都市に与えた影響について知り、それらを踏まえて、パリオリンピックは何を目指しているのか、改めて見ていきます。

© PARIS 2024

大戦後の日本を飛躍させる「1964年東京オリンピック」

1960年、基本的には農業国であり、第二次世界大戦で壊滅的な被害を受けた日本は、近代的な工業国へと舵を切り始めました。しかし、当時の東京はまだ幹線道路すら狭く、地下鉄、空港、公園、下水道などが未整備な開発途上国の都市でした。

そういった状況の中で開催された1964年の東京オリンピックは、東京都心を近代化に向けて大きく飛躍させるための跳躍台となったと言われています。

千代田線工事が進む表参道 Photo by gyro / iStock

世界中のアスリートとスポーツファンを受け入れるために羽田空港が整備され、東海道新幹線が開通、首都高速道路や主要道路の一部が拡幅、開通し、戦前から計画されていた地下鉄5路線の都心8km圏や、モノレールなどもオリンピックに合わせて開通しました。

また、1964年東京オリンピックの本村である代々木選手村は、全面返還されたアメリカ軍の軍用地「ワシントンハイツ」を整備して開村し、オリンピック終了後、代々木選手村は再整備されて代々木公園として開園しました。

インフラ等の都市的な整備だけでなく、オリンピックを自宅で観戦するためのテレビなどの個人消費の高まりも、好景気に拍車をかけたと言われています。インフラが整備され、好景気をもたらした1964年東京オリンピックが示すように、オリンピックは開催国に大きな経済効果をもたらす一大イベントと言えるのではないでしょうか。

1970年代の代々木公園上空 Photo by gyro / iStock

出典:
https://www.10plus1.jp/monthly/2013/12/issue04.php
https://olympics.com/ja/news/東京オリンヒックかこれからの日本にもたらす4つのフラス要素

戦後の新しいドイツを表す「1972年ミュンヘンオリンピック」

建築から見るパリオリンピック特集の第2弾、「パリオリンピックに向けて振り返るメインスタジアムの歴史」でも触れた通り、ミュンヘンの〈オリンピアパーク〉は、オリンピックの敷地を地域の都市再開発の足がかりの一部として利用した、最初のオリンピック開発の1つとされています。

1936年のベルリン大会以来、ナチス解散後初となるドイツでの開催である本大会について、IOCのトーマス・バッハ会長は「1972年のミュンヘンオリンピックは、戦後の新しいドイツを表している」と表現しました。

1970年4月〈オリンピアパーク〉建設中の風景 674389923,Rolls Press_Popperfoto,GettyImages

ミュンヘンの北中心部、第二次世界大戦の瓦礫の山のある地形に建てられた〈オリンピアパーク〉は、289ヘクタールの面積をカバーしており、スポーツ施設等を覆うテント屋根構造が、建築と公園による特徴的な風景をつくり出しています。また、都市が車を中心に構成されていた時代に、歩行者を中心として整備された選手村は、都市計画に大きな影響を与えました。

〈オリンピアパーク〉は、スポーツ、レクリエーション、レジャーを統合し、建築とランドスケープの中に形成された新しいタイプの公園です。オープンに接続された建築とランドスケープは、内部空間から外部空間へのスムーズな移行を促し、公園内に空間的な境界をなくしています。

1972年の大会から50年以上経った現在でも、多少の変化はあるもののオリジナルの外観を維持しており、スポーツだけでなくレジャーの面でも市民に人気のある場所となっています。

本大会の影響について、地域所得と雇用効果の面から調査した論文によると、オリンピック開催地域の所得はドイツの他の地域よりも著しく高い成長を示した、とされています。

1136111066,Hannes Magerstaedt,GettyImages

出典:
https://whc.unesco.org/en/tentativelists/6725/
https://olympics.com/ioc/news/munich-1972-era-defining-games-of-joy-and-tragedy
https://college.holycross.edu/hcs/RePEc/spe/JasmandMaennig_Munich.pdf

オリンピックへの投資を地域に還元する「1992年バルセロナオリンピック」

1992年のバルセロナオリンピックにおける選手村の敷地には、放棄された工場や長屋のある工業団地が選定されました。その目的は、オリンピック選手のための宿泊施設やレクリエーションエリア、緑地をつくるとともに、海岸を再生することにあります。選手村に整備された豊富なレクリエーション施設は選手同士のコミュニケーションを促すとともに、大会期間後には地域の住民や観光客のための施設となり、再生した海岸とともに地域を活性化させています。

1371869590,VW Pics,GettyImages

この他にもバルセロナではビーチの清掃や新しい公園の建設が行われ、市内のすべての地域への公共交通機関が著しく改善し、通信ネットワークも整備されるなど、人を中心にした都市部へと変化していきました。

このように1992年のバルセロナオリンピックは、オリンピックというイベントに投資された資本を使用して住民の生活や地域全体を改善する、という方法を確立した大会と言えるのではないでしょうか。

出典:
https://www.barcelonasiempre.com/en/olympic-village
https://www.barcelonabusturistic.cat/en/olympic-village

荒廃地区を再生するモデルケース「2012年ロンドンオリンピック」

2012年ロンドンオリンピックの開催は、単なるスポーツイベントにとどまらず、ロンドンの荒廃地区を再生する重要な契機となり、都市再生計画を成功させた事例としてイギリス内外から高く評価されています。

かつて工業地帯として栄えたが、衰退し移民や失業者が多く住む貧困エリアとなっていたロンドン東部のストラトフォード地域では、オリンピックを契機に経済的、社会的、環境的に持続可能な再開発が行われました。

2007年6月22日に撮影されたストラトフォード周辺の風景 976633958,Construction Photography_Avalon,GettyImages

まず、土壌や河川の汚染問題が解決され、インフラ整備が進み、交通アクセスも向上しました。地下鉄やドックランズ・ライト・レイルウェイ、ユーロスターの高速シャトルなどの交通網の整備により、中心部へのアクセスが改善されました。

オリンピック後の再利用を見込んだ施設の建設も行われ、新たなスタジアムや市民プール、デジタルビジネス拠点などが誕生しました。特に、選手村は「East Village」という住宅地に生まれ変わり、低価格の家賃で住める住宅を提供し、多くの人々にとって重要な住居となりました。

産業革命で大きく発展したイギリスには、古い産業建造物が残され、産業廃棄物や汚染土がそのまま打ち捨てられた「ブラウンフィールド」と呼ばれる荒廃地・低利用地が多く残っており、これらの土地の再開発は「グリーンフィールド」と呼ばれる何もない更地に比べてコストがかかるため敬遠される傾向にあります。2012年ロンドンオリンピックは、このブラウンフィールドの1つであったストラトフォード地域をオリンピックという世界的なイベントを契機に再開発する、というモデルケースと言えるでしょう。

しかし、再開発による不動産価格の急騰とジェントリフィケーションの問題も発生しました。再開発により不動産価格が上昇し、移民や低所得者層が住む場所が減少するという問題が生じたため、ロンドンオリンピックは地域再生の成功例とされる一方で、貧困層への影響という課題も浮き彫りにした大会ともいえます。

148502393,Jason Hawkes,GettyImages

出典:https://globalpea.com/1806/

成熟した都市を持続可能な未来に導く「2024年パリオリンピック」

パリでの3度目の開催となる2024年のパリオリンピックを都市の視点から見てみると、すでに成長し、成熟した都市だからこそ、パリを持続可能な都市にしていくための大きなアクションとして捉えることができます。

2007年8月29日に撮影されたパリ北部の航空写真(写真右下周辺が選手村敷地)1224731844,Etsuo Hara,GettyImages

パリで最も貧しい地域の1つであるセーヌ・サン・ドニには、オリンピックとパラリンピックの選手村が建設されました。これらは大会中の重要な場所として機能しますが、オリンピックが閉会すると、2,500軒の住宅、学生寮、ホテル、約3ヘクタールの景観公園と約7ヘクタールの庭園と公園、120,000m²のオフィスと都市サービス、3,200m²の店舗となるとされており、地域社会のための施設に変身する予定です。

また、パリは2年間の研究と協議を経て、新しい生物気候都市マスタープランを通じて、CO2削減目標を達成し、気候と住宅の課題に対処するための都市計画規制を再定義しました。建物の改修、低炭素な建設、生物多様性の保全を優先することで、パリを環境に優しいものにすることを目指したものであり、2050年までのカーボンニュートラルを達成するために、2030年までにパリ北部に15ヘクタールの都市公園を設立し、2040年までに300ヘクタールの新しい緑地が創造される予定です。

出典:https://olympics.com/ja/paris-2024/

© PARIS 2024

COP26が終了した2021年11月時点で、154カ国・1地域が2050年等の年限を区切ったカーボンニュートラルの実現を表明しており、各国がさまざまな取り組みを進めています。こういった状況の中でパリオリンピックは、カーボンニュートラルの実現に向けた大事な契機として捉え、計画、運営されたと言えるのではないでしょうか。

建築から見るパリオリンピック特集

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