『TECTURE』(https://www.tecture.jp/)には、日々多くの建築作品が投稿され、さまざまなクリエイターのアイデアや取り組みが共有されています。その膨大なデータの中から、作品の特徴やテーマに焦点を当てながら『TECTURE MAG』編集部視点で紹介していきます。
2023年における、全国で新たに飼われ始めた犬・猫の数は約766,000頭。これは同年の出生数、727,288人を超える数字です。少子化が進む一方、コロナ禍によって人々の暮らしが変化した背景もあるようで、今後、建築家への依頼の中にも「犬のため/猫のため」という要望が増えてくるのかもしれません。
今回は、『TECTURE』の投稿作品の中から、「犬のため/猫のため」が設計の主軸とも言える住宅に絞って、計8件をピックアップ。当然ですが、人にとっての快適と、犬や猫にとっての快適は異なります。空間の大きさや室温、光の度合いや素材の触感など、物言わぬ施主が求める快適さを見付けるヒントになれば幸いです。
INDEX
犬と暮らす
- 和邇のコート・ハウス / design it
- 折り壁の段床 / y+M design office
- Solarium House / YKAA
- M+K邸 / 建築設計事務所SAI工房
猫と暮らす
- A Cat Tree House / Tan Yamanouchi & AWGL
- 耐震補強キャットウォークの家 / ひとともり
- 凹の家 / IMAI HIROYASU
- ハセハウス / 宇治川大園建築設計事務所
犬と暮らす
〈和邇のコート・ハウス〉
設計:design it
所在地:滋賀県大津市
切妻屋根が中庭をぐるりと囲む平屋住宅。軒下の一部は大きな開口部が設けられた外部空間となっており、家のほぼどこからでも琵琶湖を望むことができます。プライバシーを確保しながら、かと言って中庭に向かって閉じこもることなく、犬たちと共に開放的な暮らしを実現しています。
TECTURE:https://www.tecture.jp/projects/1283
TECTURE MAG:https://mag.tecture.jp/project/20220311-courtyard-house-at-wani/
〈折り壁の段床〉
設計:y+M design office
所在地:徳島県鳴門市
夫婦と犬2匹が暮らす住宅で、外観は有機的な折板状の屋根と竹林まで延びる外壁が特徴的です。内部には床高の異なる3つのフロア(車のフロア、犬のフロア、人のフロア)。庭と接する全面土間の犬のフロア、その1m上に位置する人のフロアという断面構成により、お互いがストレスなく暮らすことができます。
TECTURE:https://www.tecture.jp/projects/814
TECTURE MAG:https://mag.tecture.jp/project/20210728-folding-wall-stepped-floor/
〈Solarium House〉
設計:YKAA
所在地:北海道札幌市
吹き抜けのサンルームを中心に据えた小さな住宅。吹き抜けに面した開口部に半透明な素材を用いることで、柔らかな光に溢れています。サンルームは土間コンクリート仕上げで、人にとって快適なだけではなく、犬にとっても足元が滑りにくく、夏場は涼しい快適空間です。
TECTURE:https://www.tecture.jp/projects/4796
TECTURE MAG:https://mag.tecture.jp/project/20241105-solarium-house/
〈M+K邸〉
設計:建築設計事務所SAI工房
所在地:大阪府
散歩道を建物内に引き込むように土間を設けています。この土間は玄関から反対側のテラスへと通り抜けており、さまざまな機能と接することで、人と人、人と犬との関係性を育む起点となっています。施主の「子供と愛犬が安全に、元気に走り回れる住まいを」という要望に応えて設計されました。
TECTURE:https://www.tecture.jp/projects/1169
TECTURE MAG:https://mag.tecture.jp/project/20220201-mk/
猫と暮らす
〈A Cat Tree House〉
設計:Tan Yamanouchi & AWGL
家全体を1つのキャットツリーとして計画した住宅。天窓のある大きな吹き抜け空間を囲む螺旋状の階段は、踏面や蹴上を猫の身体寸法に合わせています。猫も施主の一員と見立て、「好みの温度帯を選べること」「家族との適度な距離感」「複数の安全な居場所」といった要望に応えています。
〈耐震補強キャットウォークの家〉
設計:ひとともり
所在地:兵庫県神戸市
築約40年の住宅の耐震補強を兼ねた改修計画。慣れ親しんだ住まいの様相はなるべく残しつつ、構造体の耐震補強や壁面クラックの補修を行い、次の40年へと繋げます。屋内の上部に設けた補強用の方丈が連続する空間は、猫のための専用スペースです。これらの部材は、猫の動き方も考慮してサイズなど決定しています。
TECTURE:https://www.tecture.jp/projects/1152
TECTURE MAG:https://mag.tecture.jp/project/20220228-catwalk-house/
〈凹の家〉
設計:IMAI HIROYASU
所在地:千葉県松戸市
マンションの一室を、夫婦と猫2匹が快適に共生できるようにフルリノベーションしています。部屋の間仕切りとなる棚やキッチン、洗面台は、猫が行き来できるように床面から350mm浮かせて製作。また、棚の中のステップや覗き穴、梁下のキャットウォークなど、限られた面積の中には猫のための多様な居場所が散りばめられています。
〈ハセハウス〉
設計:宇治川大園建築設計事務所
所在地:京都府
3階建ての住宅を改修し、内部では猫のための立体的な動線が設けられています。猫の水飲み場は人の腰掛けとして利用できたり、キャットウォークやステップは収納やカーテンレールとしても機能したり、人と猫の動線が随所で交わります。また、建築資材やインテリアには、猫にやさしい設えと、傷や汚れに耐えられる素材が選ばれています。
犬と暮らす家では、建物内に土間が採用されることが多いようです。犬にとっては、滑りにくく歩きやすいことや、夏場にひんやりと涼しい快適さが得られるといった利点があります。また、人にとっても、掃除がしやすく、床が傷つきづらいなどの実用的なメリットが挙げられます。
一方、猫と暮らす家では、「猫の居場所を確保すること」が大きなテーマとなるようです。猫の習性を活かした立体的な空間設計や、インテリアによる工夫が多く見られるのも特徴です。
お互いの快適が交差するポイントを探るのか、それともテリトリーを分けて程よい距離感を保つのか。共生のスタイルにも多様なアプローチがありそうです。ぜひ、参考にしてみてください。