FEATURE
Study Series : Tsuyoshi Shindo(2/5)
進藤 強「建築家だからこそ、自ら仕掛ける。不動産事業のススメ」(2/5)
FEATURE2021.02.27

Interview with Tsuyoshi Shindo 進藤 強「建築家だからこそ、自ら仕掛ける。不動産事業のススメ」

#02 何本も腕を出しながら“田植え”を続ける

■運営の当事者の身になって設計する

── 建築家が理念を実現するためには設計料以外のマネタイズが必要ということですが、建築家の職能について、どう考えておられますか。

進藤:建築家は、職能を広げるべきだと思っています。
オランダの設計事務所OMAとAMOが書いた本にあったのですが、彼らは2015年に「建築家は建築家のスペシャリストであっていいが、二極化した対立項を社内に置くことで、もっと強くなる」と言っています。
「いろんな仕事が飛び込んでくる中で、全部建築家が考えて、かたちなり、ものにしていくというのは難しいので、内部の組織でリサーチをする。それにどういう方向で、どういう態度でそれを解いていくか。どういうふうに自分たちがつくり出していくか。それをずっと練習問題のようにやっている」というようなことが、その本には書いてありました。建築家の職能を広げるうえで、このことはすごく大事だと思っています。

設計だけでなく、ほかの分野にも展開していかないといけない。開発するうえでは、お金儲けの話も考えないといけない。そのように対立した状況の中で、「じゃあ設計はこうあるべきだ」というところもきちんと示していく。
事務所の中に二極があることで、建築としてもいいものになるし、ちゃんと事業としても成功する。これは大変なことですが、コンペのプレゼンテーションで「そこまで責任取るよ」と言われたら、通りますよね(笑)。

日本の建築家で、公共建築を設計した後に「入館者がすごく少なくなってしまったので、来年から私が館長になってなんとかします!」という人がいるのかというと、ほとんどいないですよね。やっぱりそこは、僕は今後大事だと思っているんですね。

自分が当事者になって、設計ができるか。建築として良いことはもちろん必要ですが、その建築が10年、20年ときちんと残っていくかどうかは、その施設が成功するかにかかっています。
成功しなければ、設計した建築家もダメだと言われてしまいます。設計とその後を両立させること、そこまでちゃんと職能として広げていく。そこはすごく考えていかないといけない部分だと思います。

■田植えをすることで仕事につなげる

── 進藤さんは設計した事例とその後の運営など、どのように両立されているのでしょうか?

進藤:僕の場合、賃貸住宅を設計する仕事が多いので、ダイレクトにお金や事業に携わることができています。また、事務所をスタートしたのは10年以上前ですが、そのころから「そんなセミナーをやって建築の仕事が取れるの?」と言われるような、ゴリゴリの不動産投資セミナーやイベントを開催してきました(笑)。

僕1人で「新築が世の中を変える!」というセミナーをずっとやっていたのです。来場者の9割くらいは、寝ていましたけど(笑)。
当時は共同住宅の投資は中古がほぼ9割という状況で、彼らは中古の住戸が利回り何%で、いくら借りて…、という旧来の単純な仕組みの中で投資をしていたんです。
僕は「新築はそれを超える。10年後、20年後にこんなことが起きるだろう」、そういう仮説をもっていました。

最近になって、「7年前に進藤さんのセミナーを聞きました」というような人たちが、設計の依頼に来てくれます。セミナーをやっても、仕事なんてすぐには絶対来ないんです。少なくとも5年はかかると思います。
僕は常に「これは田植えだ」と思っていました。飲み会に誘われたら、もちろん行きますよ(笑)。田植えをしておかないと、絶対に実らないので。

田植えでセミナーでの話をして、飲み会で仲良くなって。それがつながっていくうちに、何かを建てたいと考える1人に、「そういえば面白いやつがいた」と、思い出してもらえたらいいなと思っています。

■進藤流・クライアントに認知してもらう方法

進藤:誰かが設計や開発を依頼するときに「一級建築士って何人いるの?」というと、膨大な数にのぼります。
その中で、設計者はどのように選ばれていくのか。事務所のホームページをつくったり、紹介サイトに出したり、広告を出したりと、クライアントに見つけてもらう方法はさまざまですよね。
僕の場合は、代々木公園にある事務所に併設したスペースで、日替わりの〈SMI:RE DINER(スマイルダイナー)〉という飲食店やホテル事業を手がけています。

そのダイナーで、かれこれ4年くらい「肉会」といって、肉料理を出す飲食事業を毎月開催しています。ワークとホビーで、「ワーホビ」と言っているんですけど。仕事と趣味のどちらも両立しながらやれたら面白いな、と思って始めました。

肉会には1度に10人くらいのお客さんが来るので、すでに10人×4年分のお客さんは僕が設計をしていることを知っています。毎月開く肉会のお客さんの中で1人や2人は僕のことを知っているので、新しく来た人に「この進藤さんって、実は設計事務所やっているんですよ」という話になる。まずは自分のことを覚えてもらうことが重要なんです。

自分が肉料理の飲食店をやりたいから肉会を始めたわけですが、「肉会をやっていない日はこのスペースを誰かに貸そう」という発想で、昼間は設計事務所のミーティングルームに、夜にはマスターが曜日ごとに替わるコンセプトバーにしています。
そのマスターたちには、面白い人を採用するんです。そうすると、面白い客が集まります。僕も客として一緒に飲んで食べていたら、誰かが「あの人、設計をするんですよ」と勝手に紹介してくれる。

そうすると、飲食店は僕の営業の場になるんです。どうやったら面白い人たちと知り合えるか、どうしたら面白いチームがつくれるか、ということが肉会を続けている主な目的です。

〈SMI:RE DINER〉Photo provided by BE-FUN DESIGN

■設計以外の分野に何本も腕を出す

── SNSで情報があふれる時代だからこそ、直接知り合える設計者には安心感も抱くでしょうね。

進藤:先ほどの「どうやってクライアントに選んでもらえるか」という話で、建築設計ができて不動産についても詳しい人が100人くらいいるとすると、設計者全体から考えればぐっと少なくなります。さらに飲食店を自分でやっている人というと、また少なくなる。さらに事業やローンの相談にのってくれる人となると、ずっと狭くなる。

ホテル運営、飲食店経営、不動産管理と、設計以外の分野に何本も腕を出すことで、可能性を広げているというのが、僕の戦略です。

その設計者が何に秀でているかなんて、一般の人には分からないですよね。何本も腕を出し、多くの人に出会うことは「この設計者と1年もしくは2年間、なんだったら完成した10年後まで一緒にお付き合いできるかどうか」を日々プレゼンテーションすることにつながるのです。

他業種に携わることは決して簡単ではありませんし、コロナ禍にあっては「ホテルはどうやって蘇るんだろう」「建築はどこに向かうんだろう」という練習問題を解きながらの経営です。
好きなことを仕事にしながら何でも理念をもって取り組んで、ひたすら進んでいたら、いつか儲かり、それがすべての設計につながってくるんじゃないか、そんなふうに考えています。

〈HOTEL SMI:RE STAY TOKYO〉Photo provided by BE-FUN DESIGN

■来た話は断らない。バントを繰り返しながら進化する

進藤:僕はもう事務所を始めた10年以上前から、どんな話が来ても、仕事は断りません。そしてどんなときも「いつも暇です」って言っています。どんなものでも、つくると得ることがたくさんあるからです。

僕がアトリエ事務所にいたときは、全部手づくりをしていました。アルミサッシがあることすら知らなかった状態で、僕は独立したんです(笑)。
そこからどんな仕事もやることで、いろいろ勉強になるし、「今回はすごくいい階段ができた」というような繰り返しで、設計を続けていたんです。

完璧なホームランは打ちたいけど、ちょっとずつバントをしながら、ときには振り逃げでも、どんな仕事でもやる。共同住宅や長屋の案件では、グレーな部分はどこまで大丈夫かといった課題をこなしていくうちに、法律にもけっこう詳しくなりました。
最近では役所に直接行って、「このルールはおかしいんじゃないか」とか、「こっちのほうがいいんじゃないか」と道筋をつけて話し合うこともあります。

いろんな案件に携わることで、さまざまな業種のことを知り、少しずつ進化してきたと思います。一気にすごいものはつくれないんだけど、常に考えながらいろいろな仕事に取り組むことで、さまざまな知識がついてきたという感じです。

(#03 設計事務所もサブスクで稼げる時代!? に続く)

Study Series
Interview with Tsuyoshi Shindo
進藤 強「建築家だからこそ、自ら仕掛ける。不動産事業のススメ」
#01 Netflixと映画界から建築界が学ぶこと
#02 何本も腕を出しながら“田植え”を続ける
#03 設計事務所もサブスクで稼げる時代!?
#04 事業は住みながらでも興せる!
#05 設計者の強みを活かして楽しくサバイブ

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