FEATURE
Keisuke Toyoda × Tom Kawada
Special dialogue #01
豊田啓介(noiz)× 川田十夢(AR三兄弟)
特別対談 #01
FEATURE2020.10.12

Special Dialogue Series

豊田啓介× 川田十夢 特別対談 #01 常識からどんどん外れよう! 空間の未来を楽しく切り拓く

コンピューテーショナル・デザインを推し進め、建築家の役割を広げる豊田啓介氏と、AR(拡張現実)技術で多岐にわたるジャンルの拡張を手掛ける開発者・川田十夢氏。

互いの関心事が建築というフィールドで交わるとき、どのような化学反応が起こるのか。
2人のアイデアがあふれる対談を通して、建築の現在地が把握できるとともに、空間の未来を切り拓くヒントが手に取るように見えてくる。

FEATUREでは全3回にわたり、豊田氏と川田氏の対談の模様をお伝えします。
(2020.09.04 noizオフィスにてリモート対談)

特別対談
豊田啓介 × 川田十夢
#01 常識からどんどん外れよう! 空間の未来を楽しく切り拓く
#02 ビル大爆破ゲームでサバイブ! 建築と情報をつないで拡張する
#03 街でジェットコースター!? 発想の転換でジャンルを飛び越える

対談動画
Special Dialogue Movie: 豊田啓介×川田十夢【デジタル×建築】

豊田啓介
1972年千葉県生まれ。建築家。東京大学工学部建築学科卒業、安藤忠雄建築研究所を経て、コロンビア大学建築学部修士課程修了。SHoP Architects(ニューヨーク)を経て、2007年より東京と台北をベースに建築デザイン事務所noizを蔡佳萱、酒井康介と共同主宰。建築を軸にデジタル技術を応用したデザイン、インスタレーション、コンサルティングなどを国内外で行う。2017年「建築・都市×テック×ビジネス」をテーマにした領域横断型プラットフォームgluonを金田充弘と共同で設立。コンピューテーショナルデザインを積極的に取り入れた設計・開発・リサーチ・コンサルティングなどの活動を、建築やインテリア、都市、ファッションなど、多分野横断型で展開している。EXPO OSAKA/KANSAI 2025 では、招致会場計画アドバイザーを務める。2020年7月より東京大学生産技術研究所客員教授として、コモングラウンドラボ関連領域のリサーチや基礎技術開発を行う産学連携基盤を開設。
noiz (https://noizarchitects.com/)
gluon (https://gluon.tokyo/)

川田十夢
1976年熊本県生まれ。通りすがりの天才。開発者。1999年にミシンメーカーへ就職、面接時に書いた「未来の履歴書」に従い、全世界で機能する部品発注システムやミシンとネットをつなぐ特許技術発案などをひと通り実現。2009年に独立、やまだかつてない企画開発ユニット「AR三兄弟」の長男として活動を開始。AR(拡張現実)技術を駆使したプロダクツやエンターテイメントの企画・開発・設計を担い、劇場からプラネタリウム、百貨店から芸能に至るまで多岐にわたる拡張を手がける。主なテレビ出演に『笑っていいとも!』『情熱大陸』『課外授業 ようこそ先輩』『タモリ倶楽部』など。現在はJ-WAVE『INNOVATION WORLD』のナビゲーター、文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査員などを務める。「WIRED」では2011年に再刊行されたvol.1から特集や連載で寄稿を続けており、10年続いた「TVBros.」での連載は2020年に書籍『拡張現実的』として発売。また新会社tectureの発起人の1人として、建築分野の拡張を目論んでいる。
川田十夢 Twitter(https://twitter.com/cmrr_xxx

/*吹き出し*/
.balloon_l,
.balloon_r{
margin: 30px 0;
display:flex;
justify-content: flex-start;
align-items: flex-start; /*縦位置を上揃え*/
/* align-items: center; */ /*縦位置を真ん中揃え*/
}
.balloon_r{
justify-content:flex-end;
}
.faceicon img{
width: 60px; /*任意のサイズ*/
height: auto;
}
.balloon_r .faceicon{
margin-left:25px;
}
.balloon_l .faceicon{
margin-right:25px;
}
.balloon_r .faceicon{
order:2 !important;
}
.says {
max-width:600px; /*最大幅は任意*/
display: flex;
flex-wrap: wrap;
position: relative;
padding: 17px 13px 15px 18px;
border-radius: 12px;
background: #f0f0f0;/*色は任意*/
box-sizing:border-box;
margin:0 !important;
line-height:1.5;
/* align-items: center; */
}

@media screen and (min-width:480px) {
/* for iPhone Landscape (iPhone 横) */
.says {
max-width:200px; /*最大幅は任意*/
display: flex;
flex-wrap: wrap;
position: relative;
padding: 17px 13px 15px 18px;
border-radius: 12px;
background: #f0f0f0;/*色は任意*/
box-sizing:border-box;
margin:0 !important;
line-height:1.5;
/* align-items: center; */
}
}

.says p{
margin:8px 0 0 !important;
}
.says p:first-child{
margin-top:0 !important;
}
.says:after {
content: “”;
position: absolute;
border: 10px solid transparent;
/* margin-top:-3px; */
}
.balloon_l .says:after {
left: -26px;
border-right: 22px solid #f0f0f0;
}
.balloon_r .says:after {
right: -26px;
border-left: 22px solid #f0f0f0;
}

■ TECTUREで次のフェーズの拡張現実を提供する

まずは、TECTURE(テクチャー)の話から始めますね。
TECTUREというウェブサービスつくって、今年6月にローンチしました。今サービスとしては、いろんな建築物の写真のインテリアやエクステリアについて、買えるものはすべてタグづけしてしまおうということをやっています。
それが実サービスとして、サービスの利用者としては建築家の方とか、インテリアを提供している会社とか、業界を取り巻くどちらかというと狭いサービスからスタートしています。
そのサービスを継続していくことで、僕の目論見としては学習データが溜まって、タグ付けのデータといったものをベースとした、次のフェーズの拡張現実を提供するための礎にしたいと思っています。

たぶん豊田さんもいろんなことでデジタル領域と建築の接点を探しておられると思うんですけど、僕の理想は、目に入るものは全部、買いたい人は買えるようにしたいということです。
「デジタライズ」(用語解説 ※1、以下同じ)とか「DX」(※2)とか世の中で言われているんですけど、高解像度、高ポリゴンで現実を残すということだけではちょっと飽き足りなくて。
現実を残すということでは、メタ情報(※3)をいかに細かく持っておくか、そうしたことをルール化するというか、当たり前のようにそれを続けるようにしたい。

TECTUREというサービスを、まずはベータ版くらいで開始して、準備をどんどん進めている状態です。やがてはAR(※4)サービスとかAI(※5)ともつなげて、ということを考えているんですね。

そういうの、どうですか。あまりピンとこないですかね?

いやいや、めちゃくちゃピンときますよ。すごく面白いなと思います。
いちおうTECTUREの話は、以前に谷尻(誠)さんから「こんなことをやるんだ」と聞いていて、そのときに十夢さんの名前が出ていたので、何ができるのだろうと思っていたんです。
実際のインターフェイスや、どういう技術を使っているのか、まだあまり把握できていなくて。画像ベースで認識しているということなんでしょうか?

そうですね、基本的には、タグづけをしてもらった内容をすべてARの言い方でいうと「マーカー化」して、関連付けを全部してしまうということです。
ARは全部、今のところ1対1のサービスでしかなくて、継続的にやるには限界があって。
例えば雑誌と連携してすべてをAR化していっても、持っているデータがある一定量に達したら動かないとか上限があったりして、そういうのを次の段階に引き上げたいなと。
AR三兄弟はうっかり11年ぐらいやっていて、そろそろ進化しないとなと思って(笑)。ずっと目からビームを出して喜んでいる場合じゃないなって。

でも、世界的にもそういう方向になっていかざるを得ないし、専門家の目をいち早く手に入れたくて。それを、みんなが享受してほしくて。
専門性を帯びた知覚をダウンロードできる、みたいな世界が理想的です。建築家の目は、すごく特殊だなと思うんですよね。建築家の目を手に入れて世界中を見たら、楽しいでしょう。
豊田さん自身が建築家に収まっていなくて特殊ですけれど、僕、豊田さんになりたいですもんね。目を入れ替えたいくらい。

僕、むっちゃ川田さんになってみたいですよ。目からビームも出したいし。

日本ではどうも、人の多様性を否定してしまっているじゃないですか。意見も1色だし、そこから外れると揶揄されたりするし。
もっと人の価値観とか、知覚のカラフルさを容認できるような仕組みがいいんじゃないかなと思うんですけどね。
専門家の目をちゃんと尊敬するというか、敬うというのが大事なのではないかと思います。

でも結局、テクニカルに可能になりつつあっても、実際にやろうとするとたくさんのデータを取らなければいけないし、個々の入り口がなかなか難しいですね。
何かしらのかたちで始めるしか、次に行けないですよね。

そうなんですよね。新たに組んだ開発チームが総力をあげて頑張っているので、TECTUREのほうでも今度、意見交換をいろいろとさせてください。

ぜひぜひ、お願いします!

(用語解説)
※1 デジタライズ:デジタル化を意味する言葉。既存の製品やサービス、ビジネスプロセスについて、IoTやAI、クラウドといったデジタルテクノロジーを活用して機能や効率を高めるなどし、既存の価値を高めること
※2 DX(デジタルトランスフォーメーション):デジタルテクノロジーを駆使して、経営の在り方やビジネスプロセスを再構築すること。経済産業省による「DXレポート」(2018年)では、次のように定義されている。「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ / アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」
※3 メタ情報:付帯する情報や属性が記述されているデータのこと。あるデータが付随して持つそのデータ自身についての付加的なデータを指す
※4 AR、VR、MR、XR:AR(拡張現実)は、現実の世界に仮想の世界を重ねて体験できる技術。スマートフォンやヘッドマウントディスプレイを用い、現実を拡張する。VR(仮想現実)は、仮想の世界を現実のように体験できる技術。CGや全周囲映像をVR用のヘッドマウントディスプレイを使って体験する。MR(複合現実)は、仮想の世界と現実の世界を密接に融合させる技術。XRは、バーチャルとリアルの環境を組み合わせたリアリティ体験全般を指す表現
※5 AI(人工知能):人間にしかできなかったような高度に知的な作業や判断を、コンピュータを中心とする人工的なシステムにより行えるようにしたもの

 

■ ツーリズムにもつながる建築の拡張現実

建築の世界にいると、いちおう3Dデータをみんなつくるんですけど、やっぱりデータがめっちゃ硬い。
BIM(※6)でも、建設のいわゆるメタデータの整理とか階層性といったことに特化していて、現実世界でできた後に使う感覚的なものになっていません。
せっかくつくったデータ、工事とかいう過程を越えて現実世界のほうにトランスファーできないともったいないよな、というのは僕もすごく感じています。
一方でVRチャットに行くと、やっぱりまだ感覚的な、表面的なところを大きくは越えられてないなというのはあるじゃないですか。
あれでもっとマルチチャンネルに、背景のメタデータが意識・無意識織り交ぜて感じられるようなことになって初めて、現実世界とつながってくるんだろうなと感じます。
現実世界とARやVRとかのポリゴンの軽い世界で、メタデータをどう落とし込んでいくかみたいなことは、本当にすごく面白いアプローチなのかなと思います。

そうなんですよね。タイルの質感などが建築データの中にあれば、それを物理演算したときに、ツルッと滑るといった情報も取り込んでいけるんじゃないかと思っているんですけどね。

今度出る、マリオカートの話をしていいですか(註:2020.09.04に発表された「マリオカート ライブ ホームサーキット」※7)。あれ、けっこう画期的で。
いちおう読者の方に説明すると、新しく発表されたSwitch専用のゲームソフトで、小さいカメラ付きのミニカーが付属して、コントローラーで操作できるんですよね。
自分の家で走れるんですよ。ということは、次の段階としては例えば自分の街をデジタライズさえしておけば、世界中の人々がマリオカート越しに街を走ってくれる。
そして「あのコースの街に行きたい」となって、コロナが落ち着いたら遊びに来るとか、そういう提案の仕方ができるなと思いますよね。
ゲームが開く未来って、大きいですよね。

だいたい新しい技術の入り口って、エンタメですよね。ゲームにしても映画にしても。僕もそう思います。

デジタルで建築物を残そうということも豊田さんはされていますけど、じゃあ何に使えるの? というときに、1つ誘致できる材料ができましたよね。

僕らはいちおう学術的な名目で、建物の解体前の保存活動としてスキャンの活動は始めたんです。
都城のプロジェクト(旧都城市民会館「3Dデジタルアーカイブプロジェクト」※8)では、点群(※9)の正確なデータだけでもいいところを、あえてフォトグラメトリ(※10)や複数データのそれぞれの特性を生かした統合、ゲームエンジン(※11)への変換などを試していて。


Images provided by gluon

まずはそのあたりの技術的な知見獲得を目的にしていたんですが、やっているうちにどんどん楽しくなってきて、徐々にVRワールドとして開放したり、メディア芸術祭に応募したり。
それこそ目論んでいるのは、あそこを会場にして、紅白歌合戦のAI美空ひばりに歌ってほしいと思っています。もう存在しない、けれどいろんな人の想いが詰まった実在した建物に、いろんな人のアイドルだった人が現れて、世代を超えて世界中から人が集まる、まさに今年やるべき企画だと思うんですけど。

さらに言えばバーチャルな建物は、別にいくらでもロボット化してもいいわけじゃないですか。ハイパー化してもよくて。建物が動いてもいいし、どんどん増殖させたりいろんな人が自分バージョンにカスタマイズしてもいい。
常識をどんどん外れて、みんなが楽しめる可能性とか、もっと持ってもらえばいいのになと思っています。

いいですね、建築物はツーリズムと隣り合っているし、文化にも隣り合っているし、あらゆるものの背景だし、そこにあるものだし。
星野リゾートの星野佳路さんが、マイクロツーリズム(※12)とかをすごく推しているじゃないですか。特に今、遠くに出かけられないので。近隣というか、自分の地域の近くで楽しめる旅行とか。
デジタライズでデータを地域ごとにちゃんと持っておいてメタデータを整理するというのは、マイクロツーリズムになりますよね。
だって、ゲームなどでそういうところに訪れるのも、次の時代のマイクロツーリズムですからね。そうしたことを、各自治体に説明して歩きたいくらいですもん。

ほんと、そうですよ。やるべきだと思うし、実在の強さとメタな情報的な強さを掛け合わせて、そこならではの増幅されたエンハンスドエクスペリエンスをデザインする。そういうのをやっているところが生き残ると思うんです。

政府が変なことに税金を使うから…。1つ1つデジタライズすることに、お金を使ったほうがいいですもんね。

中途半端なことで全部できそうな雰囲気で、でも全体像が見えてないところにドバっと税金を使っているのがありすぎて、すごくもったいないなと思うんです。
もうちょっとちゃんと全体像を描くところにお金を使うか、個別にちゃんと実験できるところを見極めて回してよ、と思いますよね。

ドイツも今、コロナ以降「ベーシックインカム」(※13)みたいなことを実験的にやったりしてますけど、やっぱり僕、日本人の気質として、お金だけ配ってもダメだと思うんです。
「ベーシックワーク」を提供しなくてはいけないだろうと。そのときに、地域ごとに自分たちでデジタライズして、再開発してほしいんですよね。

うんうん、フォーマットは共通だけれども、地域ごとにどういう属性を付けて何をデータ化するかは特色があってよくて。
それが体験の質の違いとなって、出てくるわけですからね。そういう目や技術を地域ごとに育てるところにちゃんと機会をつくっていってほしいですよね。

そうですよね。今までは、人を呼ぶために自分たちの地域を見ていたと思うんですよ。
これからは例えば「マリオカートを走らせたらどういうふうに見えるんだろう?」「池があったら面白いな」と考えるようになります。
「沼地は旅行者を呼べなかったけれど、コースとしては魅力的だな」とか。
あと「変なお化けが出る」とか、そういうのもデジタライズしてゲームに接続するという前提だったらすごく魅力的な街になるし、そこから街のファンが増えるし、悪いことはないんですけどね。

そう、だから2025年の大阪・関西万博(※14)はまさに、そうしたことを最初にいろんなプレイヤーが一緒に実証実験できる最高なタイミングで開催されるわけで、それをするための環境をしっかり用意しましょうとずっと言っているんですよね。
もう2025年の万博とかなら、リアルな身体が通る入場ゲート数で2800万人を目指すというのもいいんですけど、それだけでKPI測るのをやめましょうよと。
もちろん、バーチャル会場にFortnite(※15)的に行くのも当然ありで、たぶん280億人とか行くでしょう。
あとは物理会場にデジタル記述が精度高く重なっている状況、僕が「コモングラウンド」(※16)と言っているようなものが事前にできていれば、さっき十夢さんが言ったようなマリオカート来場でそこにいる人とリモート来場の人が対戦するのもあるし、遠隔でロボットに乗り移ってハックするのもあるし、普通のチケットより2000円安いけどその代わり2時間だけ身体を提供するチケットとかあって、リモート来場者に体を提供して一緒に移動しながら自動翻訳で一緒に2人羽織的に体験するとか、もうほんといろいろできますもんね。
そういう実証実験を万博を触媒に重ねていくことが、まさに新しいツーリズムなどにつながります。そういう知見や必要なデータを、ノウハウとして万博で貯めたいなと思うんです。

(用語解説)
※6 BIM:ビムは「ビルディング インフォメーション モデリング」の略称。コンピュータ上に作成した建築物の3次元のデジタルモデルに、素材や建材、組み立てる工程(時間)、コスト、管理情報などの属性データを追加したデータベース。また、企画から設計、施工、維持管理までのあらゆる工程でBIMモデルの活用を行うソリューションを指す
※7 マリオカート ライブ ホームサーキット:Nintendo Switch用ゲームソフトおよび対応するラジコンカーセット。カメラが内蔵されたカートとNintendo Switchが連動し、リアルの部屋とゲームが複合現実で融合して融合したマリオカートのサーキットになる

 

※8 旧都城市民会館「3Dデジタルアーカイブプロジェクト」:建築家・菊竹清訓が設計した1966年竣工の〈旧都城市民会館〉(宮崎県都城市)解体に伴いgluonを中心に行われた、3Dデジタルアーカイブプロジェクト
※9 点群:コンピュータで扱う点の集合のこと。3次元レーザースキャナなどで物体や地形の表面を計測した多数の点を集合体として表現したもの
※10 フォトグラメトリ:建築物や物体などをさまざまな方向から撮影した多数の写真をコンピュータで解析し、3Dモデルを作成する技術
※11 ゲームエンジン:コンピュータゲームのソフトウェアにおいて、共通して用いられる主要な処理を代行し効率化するソフトウェアの総称。映画製作などのほか、建築では特にビジュアライゼーションに活用され、UnityやUnreal Engineなどが有名
※12 マイクロツーリズム:遠方や海外への旅行に対して、自宅から1時間から2時間ほどの距離内の地元または近隣への宿泊観光や日帰り観光のこと
※13 ベーシックインカム:政府がすべての国民に一定の額の現金を定期的に支給する制度
※14 大阪・関西万博(EXPO OSAKA/KANSAI 2025):2025年に開催される日本国際博覧会。豊田氏は、会場計画アドバイザーなどとして万博に関わる
https://www.expo2025.or.jp
※15 Fortnite(フォートナイト):Epic Gamesが販売・配信する、2017年に公開されたオンライン型バトルロイヤルゲームで、ユーザー登録者数は全世界で3億5000万人を超える。「建築」をつくることがプレイの重要な要素となっている。戦闘要素のない「パーティーロイヤル」モードもあり、ゲーム内に設けられた特設ステージではDJライブや映画の上映会などのイベントも開催される。後にも出てくるが、2020年4月に行われたラッパーのトラヴィス・スコットのバーチャルイベントでは、同時接続数1230万人を記録。8月には、日本人アーティストとして初めて米津玄師がイベントを開催したことで話題になった
※16 コモングラウンド:現実の「物理世界」と情報が行き交う「デジタル世界」をリアルタイムでつなぐフォーマットのこと。デジタル3D記述の汎用仕様を環境側が提供することを前提とした物体と情報の認識の共通基盤、およびその付随システムの総称

■ 野暮なことは全部AIにおまかせ

まだまだお金になっていないということ、サービスになっていないことってありますからね。だから、別に地域の担当者でも何でもないんですけど、すごく思いますよね。
あと飲食店の方とか、なかなかお店を開けられないし、人が来ないしという中で、料理人の経験をメタ情報としてちゃんと持っておけばいいと思います。
「ゴーストレストラン」って、あるじゃないですか。Uber Eatsとかで、店内の席はないけれどキッチンと受け渡しのブースだけがあるみたいな。
例えば、万博のパビリオンにロボットコックがいて、レシピをダウンロードすれば料理をつくれちゃうようにする。そのレシピを提供するための料理人の経験を、いっぱい宿しておくというか。
今はお客さんが来ないけど、料理人としての腕をちゃんとデジタライズして持っておいて、自分をAPI化してそうしたものに流せてしまう。そういうことに、税金を使ってほしいですけどね。

クックパッドさんとか、あれだけレシピを集めているんだから、そういう技術を開発すればいいんですよね。

そうですよね。最近、ふりかけメーカーってすごいと思っていて。彼らは何でも味を再現するじゃないですか。
ああいう人たちが「味デジタライズ学会」をつくって、味プリンタをつくってほしいです。

確かに。そう考えると、うまい棒とかガリガリ君も、そういうのをできる立ち位置にいるのかも。現実空間の情報をどう細分化してリモートに再現可能にするか、という要素分解をしているので、本当に情報化と物質への翻訳という過程ですよね、あれは。

味とか、ぜんぜんメタ情報になっていないですからね。宮下芳明さんという方(註:明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科教授)は、舌に電極を流して味覚を再現する「味ディスプレイ」という装置を最近つくられていました。
もしこれが世界中で普通に売られたら、情報があればまさに「味見」できるわけですから、デジタライズ化しておいたほうがいいんですよね。
色覚のRGBみたいな感じで、味覚も。味のスキャナもありますしね。

ある程度、要素分解はできているはずですもんね。再現できるかどうかは別にして。

あと豊田さんに聞きたかったのは、BIMのことです。自分はあまり詳しくないので。
CADは僕、メーカーで扱っていたんですけど、BIMはCADのように正確なフォルムを持ちながら、メタ情報として材質とかがちゃんとある感じですよね。

BIMはあとそれに、時間軸としての工程も加わっている感じですね。
時間軸の整理と、それにお金もちゃんと整理できるとか、法律とか、容積率だとか天空率だとかそういったものがすべて連携したかたちで、メタデータとして処理できると。
時間軸を基軸にして、高次情報を処理するためのプラットフォームです。

面白いですね。じゃあ、建築基準法を違反していそうな構造的に変な物件を設計したら、テキストの書き間違いみたいな感じで「ちょっと構造的に成立していないよ」と言われるんですか。

今はまだ、そこまではできていないですど。原理としては、そうなるべきですね。
現状ではBIMはまだ個別の案件しか扱えないですけど、同時に場所ごとの法律とか地盤の状況とか、環境側の情報もデータ化されてるのが理想的なBIM環境です。
ただ、建築の法律は本当はロジカルなはずなのに、論理回路で記述できるようなロジカルさではないんですよね。
法律のデジタル化ができていないので、適合判定がデジタルではできないんです。

それができたらいいですよね。TECTUREでやっていることと同じように、法律もメタ情報じゃないですか。

建築法規の3Dデータ化はGoogleが1回やろうとしてるんです。ニューヨークやカリフォルニアの建築法規を全部入れて、計画できる建物のデータが出てくるようにしようとしたんですけれど、法律はタラレバが多すぎて一義に記述できなくて、結果撤退してしまいましたね。
GoogleがいちどSketchUp(スケッチアップ ※17)を買収したのは、Fluxでそういうことをやろうとしていたからなんですよね。
それが失敗したので、Sketchupはその後、売却しちゃいましたけど。

人工知能を理解できないような書き方をしているのは、「含み」があるということですかね。
判例も一緒に学習しないといけないんでしょうね。法律はこう、実例としてはこうなっていると。

そうなんですよね。意外にクリアじゃないという。

でも、すべてはそういうことなんですよね。文章をちょっと校正してくれるみたいな感じで、ちゃんと守らなければいけないルールは建てる前にちゃんと正してくれるというか。
そういうのがあると経験が生きるから、ピックアップしてくれる法律家や建築家の融合した経験は、本人たちに帰ってくるというかね。
なんかそういう経験の持ち方とか、仕事の仕方が次のフェーズですけどね。

今言われている経験とか、さじ加減とかを記述する第1歩になるのが、そういう文体を開発する視点と、「とりあえずやってみる」ということですよね。

そうなんですよ。僕、インテリアやイベント会場を写真を撮れば、建築基準法や消防法に照らして大丈夫なのか、ということを注釈してくれるサービスをつくろうと思ったんですよね。
人間の油断しているところを、「これは大丈夫なのか」と校正みたいなことができるようにしたい。そういうことに、テクノロジーを使わなければいけないんですよね。
やっぱり、人間の好奇心とか尊厳とかを大切にして、野暮なことは全部、AIにやってほしいんです。
建築ってやっぱり、1度つくったら長くもつし、命を預かっているから、こうしたテクノロジーと接続して整えていきたいですよね。

建築はやっぱり責任が重いし、つくるための金額も大きいから、そう簡単に変わらないぶん、ちょっとでも変わると影響もとても大きいし、そういう設計のコツみたいなことも共有が難しい。そこをなんとか変えたいなと思うんですよね。

僕はメッセージをそのまま伝えるのが苦手で、たまにふざけたことを言いますけど(笑)。根本は、わりと考えているんですよ。

(用語解説)
※17 SketchUp(スケッチアップ):3次元モデリング・ソフトウェア。アメリカのベンチャー企業@Last Softwareが「3D for Everyone」を掲げ、汎用3D作成ツールとして開発。Googleが同社を2006年に買収したが、2012年にTrimbleが買収し開発・提供を行う

(#02 ビル大爆破ゲームでサバイブ! 建築と情報をつないで拡張する に続く)

特記以外の写真:toha

特別対談
豊田啓介 × 川田十夢
#01 常識からどんどん外れよう! 空間の未来を楽しく切り拓く
#02 ビル大爆破ゲームでサバイブ! 建築と情報をつないで拡張する
#03 街でジェットコースター!? 発想の転換でジャンルを飛び越える
対談動画
Special Dialogue Movie: 豊田啓介×川田十夢【デジタル×建築】

【購読無料】空間デザインの今がわかるメールマガジン TECTURE NEWS LETTER

今すぐ登録!▶

RECOMMENDED ARTICLE

  • TOP
  • FEATURE
  • DIALOGUE
  • 豊田啓介×川田十夢 特別対談 #01 / Keisuke Toyoda×Tom Kawada #01
【購読無料】空間デザインの今がわかるメールマガジン
お問い合わせ