東京現代美術館にほど近い清澄白河エリアで、特別企画「ガラスの家具展」が開催されています。
会場は、幅広いジャンルの家具・アートを独自の視点でコレクションする、「gallery stoop(ギャラリーストゥープ)」と「gallery topso(ギャラリートプソ)」。展示空間には、本展のために集められた貴重なヴィンテージと現行品の家具が配置され、ガラスという素材が歩んできたデザインの歴史や変化をダイナミックに感じられる空間構成となっています。今回、『TECTURE MAG』ではgallery topsoを取材。stoop / topsoプレスの塩山喜里恵氏へのインタビューを交え、展示についてレポートします。
企画の背景
かつて宮廷装飾などで富の象徴とされ、天板などの補助的な装飾素材だったガラスは、1925年の博覧会を機に工業製品としての新たな役割を担い始めます。戦後、大判ガラスの安定供給を可能にしたフロートガラス製法や透明接着技術の確立といった技術革新を経て、ガラスは家具の構造そのものを支える素材へと転換していきました。本展は、曲げ強化ガラスの量産化を叶えた「FIAM Italia(フィアム)」や、現代の技術で歴史的デザインを再生産する「Glas Italia(グラス・イタリア)」などの名作を通し、ガラスが装飾から構造、そして日常へと変化した軌跡を紐解くために企画されました。
stoop プレスリリース(ガラスの家具展)参照
ーー「ガラスの家具展」における、全体の構成や見どころについて教えてください。
塩山(敬称略):展示名にもありますが、今回はガラス家具にフォーカスを当てた展示をおこなっています。会場では、ガラスが装飾的な素材から、空間を支える工業製品へと発展していった時代の流れをたどれるよう、年代ごとに作品を配置しています。見どころは、普段直接目にする機会の少ないヴィンテージ作品をはじめ、当時の思想や品質、技術を受け継ぎながら現在もイタリアやヨーロッパで生産・販売されている現行品を同じ空間でご覧いただける点です。日本では流通が限られるプロダクトも多く、ガラス家具の歴史と現在を横断して体感していただける展示になっています。
ーー「工業化」において、展示の目玉となっている象徴的なプロダクトがあるそうですね。
塩山:展示の中央に置いているFIAM Italia(フィアム)の「Ghostアームチェア」です。
ガラスという素材の歴史を振り返ると、昔は装飾的なガラス製品が多く、家具というよりはジュエリーのような装飾品として用いられていました。それが現代に近づくにつれて、徐々に工業化へと向かっていくことになります。
ガラスという性質上、人が安全に座るための家具として用いることは非常に難しかったのですが、このGhostアームチェアの登場によって「曲げ強化ガラス」を用いた家具の製造が可能になりました。ガラス家具の量産化を確立した、非常に象徴的な一脚と言えます。私たちも、ここに運ばれてきて初めて実物を見ることができたほど貴重なヴィンテージピースで、開催間際まで探し続けてようやく見つけることができました。

Ghost Armchair by Cini Boeri & Tomu Katayanagi for FIAM in Glass Photo: TEAM TECTURE MAG
ーーGhostアームチェア以降の、ガラス家具の進化はどのように続いていくのでしょうか。
塩山:Ghostアームチェアの登場以降、1970年代に創設された「Glas Italia(グラス・イタリア)」が、継続的な強化ガラスでの家具量産を確立していきました。Glas Italiaは、ピエロ・リッソーニやフィリップ・スタルク、そして倉俣史朗や吉岡徳仁といった非常に著名なデザイナーたちとコラボレーションを重ね、ガラス製品に特化したメーカーとして今も素晴らしいプロダクトを作り続けています。
また、会場に散りばめている「FontanaArte(フォンタナアルテ)」も、ガラスの工業化に向けて実験的なトライをいち早く行ったメーカーです。元ディレクターであり、イタリアデザイン界の巨匠であるジオ・ポンティが手がけた現行品なども展示していますが、この辺りのメーカーの挑戦があったからこそ、現代のガラス家具のデザインが確立されていきました。

0024 Suspension Lamp by Gio Ponti for FontanaArte Photo: TEAM TECTURE MAG
ーー来場者からはどのような反響がありますか。
塩山:店内の家具は、Glas Italiaなどの現行品も含め、座って試していただくことが可能です。ただ、透明なガラスには独特の美しい緊張感があるので、遠慮される方が多く、アートピースとしてご購入いただくケースが多い印象です。
また、この場所は現代美術館が非常に近いこともあり、「美術館にいるような感覚」で足を運んでくださる方が多いです。ガラスの美しさというのは、単に透明であることだけではありません。差し込む自然光をどのように絡めるか、さらに光の屈折がもたらす表情に魅力があります。陽の落ち方や光の当たり方によって、時間ごとにまったく違う見え方になるのは、ガラスという素材ならではの魅力だと感じています。

© stoop
Ghost Armchair by Cini Boeri & Tomu Katayanagi for FIAM in Glass
イタリアの建築家Cini Boeri(チニ・ボエリ)と片柳トムによりデザインされ、1987年に発表された世界初のガラス製アームチェア 。厚さ12mmの単一の強化ガラスを使用し 、日本の「切り紙」に着想を得た独自の立体アプローチを採用。1枚のガラス板に切り込みを入れ、厳密な温度管理のもとで職人が折り紙のように曲げて成形。FIAM社を象徴する歴史的名作 。

© stoop
Bent Glass Chair in Navy Fabric and Steel
1980年代のイタリアで作られた、異素材の組み合わせが非常に美しいヴィンテージのガラスチェア。背もたれ部分に、緩やかな曲線を描く「曲げガラス(Bent Glass)」が使用され、脚部やフレームにはスチールパイプが使用されており、座面にはネイビーのファブリックを採用。

© stoop
Prism Glass Wardrobe by Tokujin Yoshioka for GLAS ITALIA in Glass , Steel and Mirror
世界的なデザイナーでありアーティストの吉岡徳仁により、2015年にデザインされたガラス製ワードローブ。精密な面取り加工が施され、光を反射・屈折させる透明な12mmの強化ガラスを使用。土台は鏡面になっており、コートハンガーと金具はポリッシュ仕上げのスチール製。扉は透明な8mmの強化ガラスで、ドアがゆっくり閉まるブルーモーション機能を採用。

© stoop
PAROLA Floor Lamp Amber by Gae Aulenti & Piero Castiglioni for FontanaArte
イタリアを代表する女性建築家 Gae Aulenti(ガエ・アウレンティ)と Piero Castiglioni(ピエロ・カスティリオーニ)によって、1980年にデザインされた PAROLA フロアランプ。独自の職人技によって、吹きガラス、ナチュラルガラス、ナチュラルクリスタルガラスという3種の異なるガラス加工技術が施された作品。

© stoop
TESO Glass Table by Renzo Piano for FontanaArte in Glass and Metal
テーブル、ブックシェルフ、コンソールからなる TESO(テソ)シリーズの1つで、イタリアを代表する建築家 Renzo Piano(レンゾ・ピアノ)によって、1985年にデザインされた TESO テーブル。FontanaArte社の生産史を象徴する素材である、ガラスのみを使用した洗練されたデザインが特徴。

Ghostアームチェアの紙製模型 Photo: TEAM TECTURE MAG

会場の様子 Photo: TEAM TECTURE MAG

Crystal Stool by Philippe Starck for GLAS ITALIA in Glass Photo: TEAM TECTURE MAG

会場の様子 Photo: TEAM TECTURE MAG
gallery topsoは、かつて清澄白河の工業を支えていた「鉄工所」をリノベーションした空間です。奥行きのある独特な縦長のフロアには頭上に当時のクレーン跡が残り、床下にはかつて冷却水に使われていた水が今も張られ、微かに響く水音が心地よい情緒を醸し出しています。
内装デザインを手がけたのは、国内外のコンペティションで作品を発表し、空間デザインを軸に活躍しているAtMa inc. 。元鉄工所というインダストリアルな骨組みを活かした、ニュアンスのある美しい白い空間へと仕上げています。
空間の力強い質感と、今回の展示でフォーカスされているガラス家具の透明感の対比は、美しさを伴う相乗効果を生み出し、独特な浮遊感のある展示空間をつくりあげています。さらに、空間にさりげなく配されたル・コルビュジエ(Le Corbusier)デザインのクラシカルな照明が、空間全体の輪郭をグッと引き締め、ガラスの透明感をより一層引き立てています。
2階に希少な椅子のコレクションフロアを持つ「gallery stoop」と、イタリアを中心としたモダンな現行品を揃える「gallery topso」。今後は取扱ブランドの増加に合わせて内装や展示構成をコンスタントにアップデートしていく予定で、ショップ自体が変化し続ける実験室のような役割を担っています。
新緑が輝く季節、緑豊かな清澄白河を散策しながら、光を紡ぐガラスの美学に触れてみてはいかがでしょうか。
会期:2026年 5月16日(土)〜 7月5日(日)
開場時間:12:00–19:00
定休日:月曜
会場:gallery topso(ギャラリートプソ)
所在地:東京都江東区扇橋 1-2-3(Google Map)
お問い合わせ: 03 6783 0189
企画・編集・会場構成:gallery stoop
協力:辻 雅彦、Objet d’ art、Swanky Systems
ガラスの家具展 webページ:https://stoop.jp/whatson/glass-furniture
ガラスの家具展 Instagram:https://www.instagram.com/gallery_stoop/p/DX9JysEFEf0/
トップ画像:Photo: TEAM TECTURE MAG