[Interview]チームでつくる「I INらしさ」とは - TECTURE MAG(テクチャーマガジン) | 空間デザイン・建築メディア
[Interview]チームでつくる「I INらしさ」とは

[Interview]チームでつくる「I INらしさ」とは

BUSINESS

2018年に照井洋平氏と湯山 皓氏が設立したI IN(アイイン)。プロジェクトタイプを問わず、上品で新しさを感じるデザインが国内外で評価の高いインテリアデザイン事務所です。

I INは現在、アトリエ系設計事務所やデザイン事務所に多く見られるワントップのピラミッド型組織ではなく、スタッフが成長し、やがてリーダーとなる「パートナー制度」を目指した事務所運営を行っています。今回、スタッフのみなさんを中心にI INでどのような業務を担当し、入社後成長を感じている点など、リアルな「デザイン事務所の働く環境」をインタビューしました。

I IN

写真左より、倉下美佐子氏、照井洋平氏、佐藤遥香氏、海藤大祐氏、湯山 皓氏、元木伸圭氏、佐藤萌々子氏

照井洋平氏(以下、照井):2018年に湯山と2人で始めたI INですが、今は広報スタッフも加えた7人体制になり、10周年に向けてさらに規模を大きくしていきたいと考えているフェーズです。前職の関連からショップの経験が多かったのですが、それをベースにオフィス、住宅、インスタレーションなどいろいろなジャンルのプロジェクトをやらせてもらっています。どのようなビルディングタイプにおいても「I INのデザイン」が伝わるようにしています。

設立当初から湯山と私のどちらかがプロジェクトの中心となって担当しているので、デザインの決定権、コアが1つではないことがI INの特徴だと思います。2人のデザインの方向性は100%一緒ではないけれど、「I INらしさ」として重なる部分があり、それが軸となっています。今後、その軸は保ちつつ幅を広げていきたいと考えています。

—– スタッフのみなさんがI INに入社された経緯を教えて下さい

倉下美佐子氏(以下、倉下):私は湯山と同じ専門学校を卒業したことからこの事務所を知りました。初めてI INのホームページを見たとき、光や照明の扱いがとても印象的でした。

光の扱い方やディテールについては、この仕事に携わるにあたって意識しています。一方で納まりや細かい寸法など、モックアップを作成して10㎜間隔で何度も調整を重ねることで完成度を高めていく考え方は大きな学びを感じています。

I IN

佐藤遥香氏(以下、佐藤遥):私は素材の使い方に興味があり、I INに入社しました。素材自体や使い方にこだわっているデザイン事務所はたくさんあると思いますが、I INはその世界観に品があると感じています。もともと上質な素材をよりよく使い、さらに新しいことを目指し、常に面白い使い方がないかと考えながらデザインをしている事務所だと思っています。

海藤大祐氏(以下、海藤):僕も専門学校時代にいろいろなデザイン会社を調べたなかで、直感的に「一番新しい」と感じたデザイン事務所がI INでした。デザインの考え方や細かいプロセスが直感的で、自分の感覚をとても大事にする事務所だと思います。

元木伸圭氏(以下、元木):この事務所のホームページを見たとき、素材や光はもちろん、代表が2人いることで生まれるバリエーションの豊かさや色彩の豊かさがとても魅力的で、いろんな色が溢れていると感じました。ビルディングタイプを限定しない事務所でいろいろな案件に携わりたかったこともあり、プロジェクトごとに違う雰囲気のデザインに関われると思い入社しました。

私は照井と組む案件が多いのですが、素材や形、アプローチなど、常に新しい挑戦をプロジェクトごとにしている点は、僕の想像以上でした。

佐藤萌々子氏(以下、佐藤萌):私は照井と同じアメリカの大学でジャーナリズムと写真を学んでいたので、設計業務ではなく広報担当としてI INにジョインしました。まだ入社して間もないのですが、分からないことを聞くとどんなに忙しそうにしていても親身になって教えてくれる、穏やかな事務所です。

I IN

—– ギャラリー、店舗からブースまでさまざまなデザインを手掛けられていますが、どのようにプロジェクトを進めていますか?

湯山:倉下と一緒に取り組んだ〈A LIGHTHOUSE CALLED KANATA〉は表参道にある、主に国内作家の作品を扱うギャラリーです。作品がもつ素材の力強さ、魅力の奥深さを感じられるものにしたいと思い、ホワイトボックスのようなギャラリーではない、そのような作品が置かれるべき空間はどんなものかを思考しました。

〈A LIGHTHOUSE CALLED KANATA〉Photo: Tomooki Kengaku

湯山:そこで石に注目しました。地球由来の素材である石は作品や作品を構成する素材そのものにある力強さの背景になれると考えたからです。床も壁も全面同じトラバーチンで仕上げています。空間としてもかなり力強いのですが、作品を置いたときに空間が勝ってしまうかというと、そうでもない。空間にも力があるけれど作品の風景に徹する、そんなギャラリーが完成しました。

倉下:デザインパースを見たときのインパクトが今までのギャラリーとまったく違いました。私自身、石材を扱うことが初めてでしたし、ギャラリーは通常の居住空間や商業空間とも照明の考え方が異なります。クオリティの高い納まりや照明など、細かく実現させることが難しく、何度も湯山とコミュニケーションを取りながら進めていきました。

—– 海外のプロジェクトとして、韓国ではHUMAN MADEの店舗を手掛けられていますね

〈HUMAN MADE JAMSIL〉Photo: Yongjoon Choi

佐藤遥:私が担当した〈HUMAN MADE JAMSIL(チャムシル)〉は、HUMAN MADEの店舗としては韓国国内で3店舗目で、ロッテワールドモールの中にあります。これまでHUMAN MADEは別のデザイン事務所さんが設計され、国内外で何店舗も出店されていますが、今回、新しい試みとしてI INにお声がけいただいたものです。

デザイン監修やプロジェクトの大きな流れは湯山と相談しながら進め、主に私はクライアントやHUMAN MADEのパートナー会社で韓国での販売、在庫管理を担いながら施工も行う韓国の企業との窓口を担当しました。海藤はサポートとして、デザインに関する資料作り、データ作りを担ってくれました。

湯山:HUMAN MADEのこれまでの店づくりは、歴史ある建物の雰囲気を残したまま、新しい要素を融合させるというスタンスで設計されています。今回は一転、ロッテワールドモール内の出店で、建物にいわゆる歴史が感じられないシチュエーションでした。

そのなかで、彼らがいつも掲げている「過去と未来の融合」というコンセプトをどのように表現するか考えたとき、韓国の人たちに親しみのある青磁器のもつ青色の美しさにインスピレーションを受け、その中へ入ってくようなお店がつくれたらと思ったのが始まりです。シチュエーションにヒントを委ねるというよりは、そこへインストールする素材にインスピレーションを受けてデザインをしていきました。

海藤:〈HUMAN MADE JAMSIL〉では、タイル素材の発注などマテリアル関係も担当させてもらいました。仕上げの細部にこだわるのは当たり前ですが、焼き物である青磁のタイルは調色が難しく、自分で考えながら現場と調整する作業は想像以上に大変でした。

佐藤遥:進行管理の面でいうと、かなりタイトなスケジュールでしたので、ひっきりなしにクライアントや施工会社と連絡を取り続ける日々がありました。デザインに関する作業で、もう少し検討を重ねたいと思うこともありましたが、タイルメーカーとの交渉もとにかく時間が足らず、それでもこだわって決めた青磁のタイルが壁一面を埋め尽くすデザインは圧巻です。韓国では施工会社の働き方の特徴として、夜遅くまで作業される方が多いので、私たちもそれに合わせて日付が変わるまで稼働することもありましたが、ギリギリまで注力してよかったと思える仕上がりになりましたね。

—– 今年6月に開かれたオルガテック東京2026では、オカムラのブースがORGATEC TOKYO Awardsでグランプリと出展者が選ぶベストブース賞の二冠を獲得されました

〈ORGATEC TOKYO 2026 OKAMURA〉Photo: Tomooki Kengaku

照井:オルガテック東京は年を重ねるごとに各社がブースに力を入れている展示会で、昨年、一来場者として行ったときにどの企業もそれぞれの色を強く出し始めていて、いい意味で成熟しきったと感じました。

ただ、オフィス家具の展示会というと展示が製品に寄り、販売促進や商談が最終目的になりがちです。私たちはいわゆる展示ブースとしては見たことがないような形状で、人と領域が「まざりつながる」体験ができることを目指しました。今回、このようなインスタレーション的なことに振り切ったことが実現できたのは成果だと思っています。

I IN

元木:オカムラのブースデザインでは、照井がアイデアの立案から平面計画を行い、僕が制作したCGで検討するという方法でしたが、始めにはデザインアイデアを出させてもらいました。照井と自分が考える「大事なことは何か」を照らし合わせ、コアとなる要素を理解したうえでプロジェクトをやり通した経験は大きかったです。積極的にレイアウトやデザインにも関わる機会をもらえ、入社前に想像していた以上の経験ができていると感じています。

—– チームごとにさまざまなプロジェクトを進めていくうえで、「 I INらしさ」はどのように担保されていますか

〈BLUE BOTTLE COFFEE TAKANAWA CAFE〉Photo: Tomooki Kengaku

照井:組織の大小に関係なく、どんなデザイナーも本来自分のデザインがしたいんです。それは尊重したいと思っています。例えば新卒で入ってすぐの子に「好き勝手やっていいよ」とは言えませんが、I INの雰囲気やデザインのエッセンスを吸収してもらいながら経験を積み、エッセンスを吸収してもらったあとは、それぞれのデザインをどんどん出せる環境をつくりたいと思っています。

倉下:現在、プレゼン段階のプロジェクトをメインで担当し、デザインコンセプトの立案から検討を行っています。照井からのアドバイスは「I INっぽくないものをつくってほしい」でした。この言葉はすごく印象に残っています。

I IN

照井:スタッフには僕らにないものを目指してほしいんです。いろんなデザインがあったほうが事務所として面白いかなって。かといって、めちゃくちゃにならないよう、どうコントロールするかは自分たちの課題です。

僕らがもともといた事務所でも、ボスにどんどん意見をいう同僚がいました。それができる事務所は未来につながるし、べストな環境だなと。そのためには風通しをよくすることだと思います。そして実際、すごく風通しのいい事務所です(笑)。言いたいことがあれば言い合えるし、話し合える空気があります。

湯山:ゼロイチの段階からスタッフに関わってもらうこともあるし、部分的にデザインをお願いするときも、あまり具体的なことを言わないようにしています。イメージだけ伝え、そこから実際にどういう形にするかなというところを見たいですね。自分たちになかったアイデアはいつでも誰からでもウエルカムなスタンスでいるので、どんどんアイデアが出てくるといいなと思います。

I IN

湯山:さきほどの〈HUMAN MADE JAMSIL〉は佐藤(遥)が図面を描き、クライアントとも施工会社ともコミュニケーション取っていて、期待通り、事務所で誰よりもこのプロジェクトを理解しているというポジションをやりきってくれました。

ただ線を引くだけとか、パースを描くだけといった、代表が指示した作業のみをやらせることはありません。それでは現場がどう進んでいるか、なぜこのような納まりなのかといったことが自分ごととして実感がわかないですし、やる気も出ませんよね。どんなかたちでも現場に出て、リアルな関わり方をしてほしいと思っています。

—– プロジェクトで役割を担い、指導を受けるなかで自分自身が成長したと感じる部分はありますか?

I IN

佐藤遥:I INでは毎年お世話になっている方々にノベルティをお渡ししているのですが、ノベルティはその1年の間に印象に残った素材を使ってオリジナルで制作しています。私がノベルティ担当になったときは、照井と湯山に都度確認を取り、制作会社にも確認して…となかなか苦労はしましたが、2人の意見や視点を取り入れつつ、自分の色もちゃんと出せた、いい苦労だったと思います。最終的に制作したノベルティは2人に評価され、受け取った方からもお手紙をいただき、自分の意見を形にできたという実感がありました。プロジェクトについても、案件ごとに任せてもらう比重を重く示してくださってステップアップできていると感じることができます。

照井:デザインや業者との調整など、普段の担当をこなしながらノベルティを企画、制作管理していくのは大変だとは思うんです。単純に業務が増えますから(苦笑)。でもアトリエ事務所の価値はデザインの経験がすべてだと思うので、今のスタッフはみんな20代ですが、20代の間にいかにさまざまな経験できるかが、その人の糧というか、財産になるから思い切りやってほしいなと。

実際、「うちは残業する日はありません」とは言えませんし、現場でも困難な状況になることもあります。それでもデザイナーになりたいという思いがあれば、I INは多くの経験が積める環境だと思います。

海藤:僕も元木と同じように3Dパースをつくることが多いのですが、余白を自分で想像して、自分の個性を入れて提案できることは「この事務所に受け入れられている」という実感がもてます。トップダウンで代表がデザインしたものをただつくるような事務所体制ではなく、自分たちの提案を取り入れ、認めてくれることがうれしいですね。

—– リアルなデザイン事務所の働き方として感じていることや、今後こんな人と働きたいというイメージがあれば教えてください

I IN

〈THE GINZA LOUNGE〉Photo: Tomooki Kengaku

佐藤萌:私はデザイン業務をしていないので毎日定時で帰りますが、みなさん残っていて私より早く帰る人はいません(苦笑)。大変そうだなと思うことはありますが、みなさん疲れ切った顔を次の日に見せることはなくて尊敬しています。

佐藤遥:締め切り前など、やらなければならないときは遅くまでやって、体力勝負になることは実際にあります。それでも申請すればお休みもできますし、午前中に用事を済ませてから出社するといった柔軟な働き方ができています。

倉下:いろんなことに気が付いて、興味をもってくれる人と働きたいと思います。この仕事で重要なのはコミュニケーションだと思っています。デザインに行き詰まったり、現場でトラブルがあったりして「できない」と思ったときに、社内や施工会社さんとのふとした会話のなかで気付くことがあります。それに気付ける人ほどいいものをつくっていけると思うんです。いろんな人にいろんな意見を聞き、相談し、ほかのプロジェクトがどんなふうに進んでいるかに関心をもてるコミュニケーション力はデザイナーに必要だと思います。

元木:私は倉下と組んで仕事をすることが多いのですが、普通なら流されてしまうような些細な質問もちゃんと教えてくれますし、自分で感じて納得して進めていくことができます。先輩だからと臆せず、どんどん聞いてどんどん吸収しようとする人だとなじみやすいかなと思います。

海藤:僕はまだ入社して1年経ってないので、報・連・相から学んでいるところです(笑)。特に報告や相談の点では、設計は緻密なことが重なっていくので、細かいところを自分だけの判断にしないように気を付けています。元木が言うように、分からないことは常に聞いて確認しますし、聞くことをためらわなくていい雰囲気があるのがI INのよさだと思います。

照井:スタッフ同士の雰囲気づくりは、少し入社の早い女性2人がリードしてくれて感謝しています。下を向いてずっと図面と睨み合っているような先輩だと話しかけづらいですよね。いつも明るい空気感をつくってくれているのでとても助かっています。

—– これからどのような事務所にしていきたいですか?

I IN

照井:大規模な組織事務所とアトリエでの3年間を比べてみると、経験の量、スピード感や責任感が全然違います。デザイナーとして多くの経験を積みたい人には、ワントップじゃない小規模のデザイン事務所はいい環境だと思うんです。ここで経験したらどこへでも、海外でも活躍できるデザイナーに育ってもらえる自信があります。そうして育った仲間と世界に通用する会社をつくりたいと思っています。そのために個々が力を付け、個性を発揮できる環境をつくることが代表の役割です。いろんなデザイナーがいてもI INのデザインに帰結することで、強いチームにしていきたいですね。

湯山:AIの進化でデザイナーと名乗ってなくても空間デザインを考えられ、あるレベルまで誰でも到達できる手段もシチュエーションもある時代です。そうなったときに僕たちのようなデザインを1つの武器として戦う事務所がどうあるべきか、いつも考えています。やはりI IN設立時と変わらないけれど、1人の人格じゃなくて、いろんな人格が出せる事務所であるのがいいのではないでしょうか。

代表が中心となって全プロジェクトに全員で関わるのではなく、誰かがメインとなって担当する体制にしているのは、事務所でコンセンサスをとったものだけを表に出すと、いろんな人に丸められた人格のないデザインになってしまうからです。デザインにはいろんな人格が残ったまま完成させていきたいと思っています。

照井:近い将来、パートナーが増えていき、デザインの強さとバリエーションを強化できればと思っています。海外からオファーのある建築家は多いですが、インテリアデザイナーはまだまだ少ないと感じます。アトリエならではの強さをもって、いろんなデザイナーが関わり「日本のI INにお願いしたい」と言われるレベルになることを目指していきたいと思います。

 

Interview:2026年7月9日 I INオフィスにて
Photograph:Shun Fukuda


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