クリエイティブディレクター・佐藤可士和の仕事を総覧する大規模展
2021年4月7日初掲
4月12日「スペースブランディング」動画をシェア
4月24日 臨時休館・途中閉幕情報を追記
4月28日 会場写真を31枚追加
7月14日 公式3Dビューィング公開ページへのリンク追記
※本展は、5月10日まで国立新美術館で開催される予定でしたが、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大に伴う政府からの要請を受け、4月25日から会場の国立新美術館が臨時休館に入るのに伴い、展覧会も会期途中で中止となります。
日本を代表するクリエイティブディレクター・佐藤可士和氏(1965-)の過去最大規模となる個展が、東京・六本木の国立新美術館にて5月10日まで開催されています。
佐藤氏は、クリエイティブディレクターとして、ロゴマークを核とする企業や事業のブランディングを手がけ、シンプルで明快、記憶に残るビジュアルアイデンティティを用いたアプローチにより、多方面から高い評価を得ています。
教育施設や医療機関、企業ミュージアム、物流施設、地域産業のトータルプロデュースなど、幅広い領域にデザインの力を発揮する仕事を展開してきました。
本展では、「クリエイティブディレクター」という仕事の定義を自身で拡げることにもなっている、佐藤可士和氏の約30年にわたる活動の中から、50以上のプロジェクトを取り上げ、多彩な展示方法によって紹介。広告代理店在籍時に始まり、独立してクリエイティブスタジオ・SAMURAI(サムライ)を設立してから現在に至るまでに手がけたプロジェクトの幅の広さ、数の多いこと! さらにはそれらのプレゼンテーション(展示手法)で見る者を圧倒します。
佐藤氏による音声ガイダンスは必聴!
本展では、スマートフォンなど手持ちの端末にダウンロードして利用できる、音声ガイダンスが用意されています。その半分以上を佐藤氏自身が吹き込んでおり、開発の裏話などプロジェクト進行時の様子が臨場感をもって伝わってくるので、おススメです。
#佐藤可士和展公式YouTubeチャンネル「佐藤可士和展 音声ガイド収録」(2021/02/19)
会場内には通常の展覧会で見るような解説パネルがなく、展示品リストも入口で配布している両面印刷の会場マップが兼ねています。本展を訪れる際には、聴講用の通信端末とイヤホンを持参し、充電も怠りなきよう。
屋内で目にする屋外広告の大迫力
本展は、展覧会そのものが佐藤氏の最新作でもあります。大小6つの展示室から成る会場構成は、全て佐藤氏自身が手がけました。個々の展示物の見せ方から、ショップに並ぶグッズまで、全て佐藤氏がディレクションしています。
今回の展覧会で直線で最も長い距離がある2つめの展示室では、1990年代後半から2000年代にかけての主なプロジェクトを紹介。街中で展開するビルボード(屋外広告)やポスターを、壁の両側で原寸大で展示。遠くから眺めることを前提につくられた屋外広告を室内で至近で見せるという、この展覧会でしか得られない鑑賞体験を提供しています。
smap(スマップ)の結成10周年のプロモーションは、佐藤氏が2000年に独立して最初に取り組んだプロジェクトでした。
smapをアイドルグループというよりも1つのブランドとして扱い、CDなどのパッケージ、PR、メディア戦略まで一貫してデザイン。さらには、ポスターはもちろん、工事囲いやゴミ箱に至るまで、街中にあるもの全てを「メデイア」として捉え、渋谷の街を赤、青、黄の3色でジャックした際には、テレビなどで大きく報じられ、情報が拡散しました。今のように、SNSがない時代ならではの戦略です。
下のギャラリー表示 4枚の会場風景 / photo: toha
ユニクロのグローバル展開に参画
ユニクロ(UNIQLO)は、本格的にグローバル展開する2006年より、佐藤氏がクリエイティブディレクションを担当しているブランドです。
ユニクロを率いる柳井氏と最初に面会した際のエピソードが、音声ガイダンスに収録されています。このときのビジョンの共有を元に、カタカナと英語の2つの言語表記という、ロゴとしては異色の展開となっています。
圧巻の「THE LOGO」!
展示室3は、本展最大・約400m²の展示空間です。佐藤氏がこれまで手がけてきた企業や団体のロゴに特化して紹介しています。
佐藤氏はこの大空間で、計15のロゴを巨大な絵画やオブジェへと物質化し、壮大なインスタレーションを展開しました。
日常的にこのような巨大なサイズでロゴを見ることはないので、このインスタレーションも本展ならでは。さらに、これらのロゴは、その企業ないし組織を象徴する素材で製作されています。
例えば、2007年に手がけた「今治タオル」のロゴはパイル生地の染色、床置きの三井物産のロゴは木材、UR都市機構との「団地の未来プロジェクト」のロゴはコンクリートです。会場ではぜひ、これらのロゴ作品に近づいてみましょう。
下のギャラリー表示 4枚(ロゴ展示のアップ)の写真 / photo: toha
漢字1文字で表現した「国立新美術館」のロゴ
上のギャラリー表示 2枚の図面展示 / photo: toha
本展会場でもある国立新美術館のロゴのデザインは、2006年に実施された指名コンペで佐藤氏が勝ち取った仕事でした。「絶対に勝ちたいという思いで」臨み、どのような考察を経て誕生したのか、佐藤氏自身が音声ガイダンスにて語っています。
セブン-イレブンのプライベートブランドの全面リニューアル
2010年に手がけたセブン-イレブンのさらなるブランド向上のためのプロジェクトでは、プライベートブランドの商品デザインを全面リニューアル。佐藤氏は、1,000点以上ある商品をカテゴリー別に再分類、それぞれにデザインガイドラインとマニュアルを作成しました(音声ガイダンスより)。
下のギャラリー表示 2枚の会場風景 / photo: toha
建築の領域におけるブランディングとディレクション
本展では、スペースブランディングや、建築家とのコラボレーションについても、大きなスペースをとって紹介しています。
#佐藤可士和展公式YouTubeチャンネル「スペースブランディング」ムービー(2021/04/03)
東京・立川の幼稚園舎を建て替えるという〈ふじようちえん〉でのプロジェクトは、園長のいろいろな思いを佐藤氏が組みあげ、「園舎自体が巨大な遊具」というグランドコンセプトに昇華させたリニューアルプロジェクトでした。
手塚建築研究所(手塚貴晴+手塚由比)が建築として具現化し、2007年に竣工。世界環境建築賞や日本建築学会賞作品賞を受賞するなど、国内外から顕彰されています。
#佐藤可士和展公式YouTubeチャンネル「佐藤可士和×ふじようちえん」(2021/01/26)
〈ふじようちえん〉は、佐藤氏がSAMURAIを立ち上げて3年ほどの時期に依頼があったもの。その後の増築プロジェクトなどにも関わっているロングランのプロジェクトで、今では代表作の1つとなっています。
直径約90mの「リング」を有する共用施設を含む、新しい物流施設を神奈川県相模原市に建設する大型プロジェクト「ALFALINK(アルファリンク)」が、日本GLPとの間で2019年にスタートしています(計画概要:2019年11月25日 日本GLPプレスリリース)。陸・海・空の連なりと「創造連鎖」を表現したプロジェクトのロゴも、佐藤氏がデザインしました。
本展会場では、展示台に備え付けられたiPadを模型にかざすと、プロジェクトのイメージを画面上に見ることができます。
昨年オープンした〈UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店〉や〈i.i.imabari! cycle station(アイアイ今治サイクルステーション)〉については、本誌でもオープン時に速報しています(本稿下部に関連リンクを設定)。
飲食店〈くら寿司〉の事例は、佐藤氏がクリエイティブディレクションを担当。意匠法の改正で登録が申請できるようになった建築物の「内装の意匠」に登録されているプロジェクトです。なお、意匠登録は、ユニクロによって、横浜ベイサイド店と原宿店におけるデザインでも行われています(本稿下部に関連リンクを設定)。
また、会期中の3月2日には、会場にて、UR都市機構の主催による「団地の未来プロジェクト」の成果を報告するトークイベントが開催されました。本誌編集部で取材していますので、別紙レポートでお伝えします(本稿下部にページへのリンク設定あり)。
「佐藤可士和展」の"最後"の展示とは
展示を締めくくるのは、佐藤氏の最新作。近年にスタートした2つのアートワークシリーズ「LINES / FLOW」は、どちらも、油彩画、陶板、映像など、ありとあらゆるメディアに展開できる可能性を秘めたもので、そのうち「LINE」は、本展のフライヤーにも使用されています。
購買体験までを1つの作品として提示
「LINES」も「FLOW」も、デザインが及ぶ領域を絶えず拡張し、既存のさまざまな枠組みを塗り替えてきた、佐藤氏の活動そのものを表現したアイコンと言えます(上のギャラリー表示2枚の撮影: toha)。
展示室に直結した本展のミュージアムショップも、あたかも展示空間のよう。「佐藤可士和展」の開催を記念して、ユニクロのTシャツ〈UT〉とコラボレーション。販売も、「UT STORE」の国立新美術館バージョンとして、佐藤氏が「UT STORE @ THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO」をプロデュースしています。Tシャツのデザインからストア(ミュージアムショップ)での購買体験までを1つの作品として提示するという、新しい試みです。
展覧会カタログの積み方にも、展覧会の会場構成と全く同じセンスを感じます。
#ユニクロ YouTube公式チャンネル「国立新美術館 佐藤可士和展 UT 2021Spring/Summer」(2021/02/25)
佐藤可士和監修、これまでの仕事の数々が収められた展覧会カタログはズシリと重い。村上隆氏との対談や、本展では見られない写真なども多数収録。
※3回目の緊急事態宣言発令に基づく政府要請により、4月25日より会場が臨時休館となり、本展は会期途中で閉幕しました。【TECTURE MAG】では、本稿初掲時に割愛した会場写真を以下に追加掲載します(撮影:toha)。
社会と密接な関係にあるアートディレクション
なお、展覧会場に直結したミュージアムショップを出た先にも展示があります。ホンダ(HONDA)の〈N-BOX〉です。
佐藤氏はのNシリーズのブランディングを担当しており、本展のための特別仕様(クロームメッキ仕上げ)となっています。
美術館の外に出た後も、佐藤可士和氏が手がけたロゴやデザインはそこかしこにあります。もしもセブン-イレブンに入れば、プライベートブランドのパッケージは可士和デザイン。財布の中にはTSUTAYAのカードが入っている人も少なくないでしょう。これまではそうと意識していなかった人も、アートディレクターという職能は、私たちの生活や社会に密接に関わっているのだと強く認識させられる展覧会です。(en)
「佐藤可士和展」
会期:2021年2月3日(水)〜4月24日(土)5月10日(月)
開館時間:10:00-18:00(4月2日より毎週金・土曜は20:00まで。入場は各日とも閉館の30分前まで。)
※COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大防止対策などに伴い、開館時間などが変更になる場合あり
※政府要請により、4月25日より臨時休館
※最新の情報、入館規制については、会場または展覧会公式ウェブサイトを参照
休館日:毎週火曜(但し、5月4日[火・祝]は開館)
会場:国立新美術館 企画展示室1E(東京都港区六本木7-22-2 / Google Map)
問い合わせ先:03-5777-8600(ハローダイヤル)
主催:国立新美術館、SAMURAI、TBSグロウディア、BS-TBS、朝日新聞社、TBSラジオ、TBS
「佐藤可士和展」ホームページ
https://kashiwasato2020.com/
「佐藤可士和展」会場風景
#TECTURE YouTube公式チャンネル「佐藤可士和展」会場風景(2021/06/09)
展覧会総括と本展3D VIEWING(2021年7月12日公開)
3D VIEWING ディレクター:ARCHI HATCH(徳永雄太)
http://kashiwasato.com/project/12684