大阪・中之島に〈大阪中之島美術館〉が2月2日に開館します(館長 菅谷富夫)。
大阪市の公開資料「大阪中之島美術館整備計画」によれば、同美術館の構想は、1983年(昭和58)まで遡ります。
同年8月に、大阪の実業家・山本發次郎氏の遺族より、画家の佐伯祐三(1898-1928)の代表作〈郵便配達夫〉を含む、約580点の美術品が大阪市に一括寄贈されました。これを契機に、大阪市制100周年記念事業基本構想の1つとして、大阪新美術館を仮称として近代美術館構想が立ち上げられ、30億円の美術品等取得基金を用意。約40年におよぶ準備期間中に、6,000点を超えるコレクションを有するまでになっています。
建物の設計者は、公募プロポーザルで選出されています。
大阪市では、2016年(平成28)8月より公募型設計競技(設計コンペ)を実施、68の応募案の中から、RUR ARCHITECTURE DPC共同企業体、遠藤克彦建築研究所、佐藤総合計画、日建設計大阪オフィス、槇総合計画事務所の5者が最終の2次審査に進み、2017年(平成29)2月に行われた公開プレゼンテーション・ヒアリングなどを経て、遠藤克彦建築研究所(代表取締役:遠藤克彦氏)の設計案が最優秀を獲得しました。
遠藤克彦氏プロフィール
Katsuhiko Endo
遠藤克彦建築研究所 代表取締役
1970年横浜市生まれ。1992年武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部建築学科卒業。1995年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。同大学院博士課程進学。1997年遠藤建築研究所設立。2007年株式会社遠藤克彦建築研究所に組織変更。2017年大阪オフィス開設。2019年大子オフィス開設。2017年「大阪新美術館公募型設計競技 最優秀」受賞(*新美術館の呼称は2018年に「大阪中之島美術館」と決定)、そのほか、主な受賞に「佐々町庁舎建設工事基本設計・実施設計業務委託に係る公募型プロポーザル 最優秀」(2020年)、「本山町新庁舎基本計画・基本設計業務プロポーザル 最優秀」(2019年)、「茨城県大子町新庁舎建築設計業務公募型プロポーザル 最優秀」(2018年)、「第15回公共建築賞 優秀賞(豊田市自然観察の森ネイチャーセンター)」(2016年)などがある。
審査講評より:
「シンプルで存在感のある外観や、黒い直方体を切り欠くように立体的に配置され、自然光が降り注ぐデザイン性の高いパッサージュ空間が、新しい美術館の独自性につながるとともに、建物周囲に巡らされたデッキや、道路に面して配置されたカフェ・レストランが、まちの回遊性や賑わいの向上に貢献するとして高く評価。また、次点案については、敷地北側と南側の双方に広場を設けるなど、まちに開くことを強く意識している点が評価」されている。
コンセプトは「さまざまな人と活動が交錯する都市のような美術館」
大阪中之島美術館の建築の核となる思想は「パッサージュ」です。「パッサージュ passage」とは、フランス語で歩行者専用のアーケードで囲われた通路や自由に歩ける小径のこと。大阪市が実施した公募型設計競技では、美術館の核となる場所「パッサージュ」を「展覧会入場者だけでなく幅広い世代の人が誰でも気軽に自由に訪れることのできる賑わいのあるオープンな屋内空間」として提案を求めました。
この設計コンペには海外からを含む多くの参加者からの設計提案がありましたが、その中から3度にわたる審査を経て選ばれたのが遠藤克彦氏による提案でした。その提案の核となる「さまざまな人と活動が交錯する都市のような美術館」におけるパッサージュは、建物の「spine=背骨」であり、1–5階までの吹き抜け天井から柔らかく光が降り注ぐ立体的な空間として美術館の中心に位置付けられています。
大阪中之島美術館にとってパッサージュとは、誰もが気軽にアクセスでき、訪れる人にとって居心地の良い場所。美術館に興味がある人も、ない人も、誰もが自分の「居場所」を見い出せるような存在となる場所を象徴しています。大阪のまちを移動する人びとが通り抜け、そこはときにアートを体感できる、アートの活動拠点となり、さまざまな活動ができる流動的な空間となります。そして、建物の内と外を融合する空間でもあります。
——大阪中之島美術館ウェブサイト:ABOUT US「建築について」より
また、建物と同様に館内共用空間に設置するロビーベンチ、サイドテーブルなどの家具の製作者も、公募型プロポーザルを実施して決定。19組の応募者の中から、カンディハウス・ 藤森泰司アトリエ共同事業体が選出されています。
美術館の顔ともいえるパッサージュを中心とした、共用空間に設置する家具の製作者について公募型プロポーザル方式による選定を実施しました。多数の応募者の中から「カンディハウス・藤森泰司アトリエ共同事業体」が製作者に選ばれました。
大阪中之島美術館に来館された方が最初に足を踏み入れるのは共用空間・パッサージュです。ここに設置されるチェアやベンチのデザインは、館内の印象を大きく左右します。提案にあたって藤森泰司氏は「この空間には、天然の木を使った家具が合う」と考え、北海道ナラ材にて製作されています。建築と調和するように配慮したデザインと木質の柔らかな手触りが来館者を豊かな美術体験へ導きます。——大阪中之島美術館ウェブサイト:ABOUT US「家具について」より
デザイナー・藤森泰司氏インタビュー(同館「開館準備ニュース」)
https://nakka-art.jp/nakka-news/16/
設計・監理:大阪市都市整備局、遠藤克彦建築研究所
オリジナル家具製作:カンディハウス・藤森泰司アトリエ共同事業体
VIデザイン:direction Q(代表:大西隆介)
施工:銭高組
主要用途:美術館
構造:S造(基礎免震)
規模:地上5階建
建築面積:6,680.56m²
延床面積:20,012.43m²
工期:2019年2月~2021年6月
開館日:2022年2月2日
大阪市「大阪中之島美術館整備計画」
https://www.city.osaka.lg.jp/keizaisenryaku/page/0000481617.html
2022年2月2日にいよいよ美術館が開館を迎えるにあたり、開館記念展「Hello! Super Collection 超コレクション展—99のものがたりー」が開催されます。
同館の収蔵品は、前述の「山本發次郎コレクション」をはじめ、19世紀後半から今日に至る、日本と世界の優れた美術とデザインを核としつつ、 地元・大阪で繰り広げられた豊かな芸術活動にも目を向けた構成となっており、この中から約400点を選りすぐり、公開します。
講演会やトークイベントなどの関連イベントも各種開催予定です(詳細は会場ウェブサイトを参照)。
第1章 Hello!SuperCollectors
山本發次郎氏は、自らの眼にかなうもののみを徹底的に蒐集した個性的なコレクター。そのコレクションから、佐伯祐三、原勝四郎の絵画、高僧の墨蹟、インドネシアの染織などを公開。さらに、開館準備段階の初期に寄贈を受けた「田中徳松コレクション」と「高品アートコレクション」も披露。
主な出品作家:佐伯祐三、白隠、マリー・ローランサン、キスリング、荻須高徳、上村松園、赤松麟作、小出楢重、鍋井克之、小磯良平、北野恒富、島成園、竹内栖鳳、池田遙邨、山沢栄子、前田藤四郎、吉原治良、今井俊満 ほか
第2章 Hello!SuperStars
今春開催の「モディリアーニ」展に先駆け、エコール・ド・パリを代表する作家の1人、モディリアーニ(1884-1920)の名画をはじめ、同館が誇る近代・現代美術のコレクションからの出展。フォーヴィスム(野獣派)、シュルレアリスム(超現実主義)、未来派、抽象表現主義、ミニマリスムなど。2019年に開催された国内初の大回顧展の記憶も新しいバスキア(1960-1988)の作品など、20世紀美術の名作を公開。
主な出品作家:アメデオ・モディリアーニ、ジョルジオ・デ・キリコ、マックス・エルンスト、サルバドール・ダリ、ルネ・マグリット、 アルベルト・ジャコメッティ、マーク・ロスコ、フランク・ステラ、ゲルハルト・リヒター、ジャン=ミシェル・バスキア、草間彌生、森村泰昌、やなぎみわ、杉本博司 ほか
3.クラシック・ポスター、家具コレクション
同館に寄託されている「サントリーポスターコレクション」から、ロートレックやミュシャらのクラシック・ポスターが公開される。そのほか、大阪市が1992年より収集してきた、希少な家具コレクションも披露される。アルヴァ&イイノ・アアルト夫妻がデザインした家具のオリジナルや、製作台数が少ないことで知られる〈ミス・ブランチ〉を含む、倉俣史朗デザインの家具が6点も登場。
主な出品作家:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック、ピエール・ボナール、アルフォンス・ミュシャ、ヨーゼフ・ホフマン、 コロマン・モーザー、アルヴァ・アアルト、亀倉雄策、田中一光、早川良雄、ウンベルト・ボッチョーニ、グスタフ・ クリムト、ジョエ・コロンボ、剣持 勇、倉俣史朗、レイモン・サヴィニャック、エル・リシツキー、モホイ・ナジ、A.M. カッサンドル ほか
本展の会場では、構想から長い年月を経てようやく開館を迎える、〈大阪中之島美術館〉と収蔵品とのかかわりを盛り込んだ、99の「ものがたり」が、作品解説として添えられます。
サブタイトルにある「99」とは、未完成であることを意味した数字であり、新しい美術館を訪れる人々それぞれの鑑賞体験=100個目のものがたりをもって、この展覧会は「完成」となります。
本展に続いて、4月9日からは、特別展「モディリアーニー愛と創作に捧げた35年」が開催され、世界初公開作品を含む、国内外のモディリアーニ作品約40点が揃うほか、エコール・ド・パリの傑作が展示されます。
会期:2022年2月2日(水)〜3月21日(月・祝)
開館時間:10:00-17:00(入場は16:30まで)
※2月27日以降の土・日曜・会期末は閉館時間を18:00まで延長(最終入場時間は変更なし)
休館日:月曜(会期中の3月21日と、臨時休館を除く)
会場:大阪中之島美術館 4,5階展示室
住所:大阪府大阪市北区中之島4丁目3-1(Google Map)
観覧料:一般 1,500円、高大生 1,100円、中学生以下無料
※COVID-19(新型コロナウイルス感染症)対策を実施
※入館は、日時指定予約を推奨(混雑時優先)
※最新の開館状況は、公式ウェブサイト・SNSにて告知あり
大阪中之島美術館 公式ウェブサイト
https://nakka-art.jp
『TECTURE MAG』への感想など、アンケートにお答えいただいた方の中から、本展の観覧券を2組4名さまにプレゼント!
受付期間:2022年2月12日(土)〜20日(日)※終了
※応募者多数の場合は抽選
※結果発表:チケットの発送をもって了
※発送に関する個々の問合せにはお答えできませんのでご了承ください
※発送完了後、都道府県を除く住所情報は削除し、データとして保有しません