FEATURE
[Special Report] 全長約1.7kmの敷地に、テラスハウス、温泉旅館、保幼園、商店街、広場、シェアオフィス、映画館、ホテルが誕生。最新施設はツバメアーキテクツが設計したアートギャラリーとシモキタ園藝部の拠点
FEATURE2022.05.29

ニュー・シモキタ出現! 下北線路街 全面開業

[Report] 小田急電鉄が推し進めたニューノーマル時代に即した「駅前開発」とは?

前回レポート "まちのラウンジ" (tefu) lounge 開業

CULTURE2022.01.25

下北沢のまちのラウンジ (tefu) lounge 開業

小田急線路跡地「下北線路街」における最後の開発エリア

敷地は全長約1.7km!

東京・新宿と小田原間を結ぶ私鉄・小田急電鉄小田原線の一部線路の複々線化事業などに伴う一連の開発で、東北沢駅・下北沢駅・世田谷代田駅の3駅間に生まれた旧線路跡地における大型開発「下北線路街」が、このほど完成し、5月28日に全面開業を迎えました。

「下北線路街」は、小田急電鉄が、地元住民との対話を重ねつつ、世田谷区とも連携して進めてきた開発プロジェクト。
前段階として、2004年9月に地下化工事が着工(2013年3月に地下化を完了)、2016年2月には開発エリアのトップをきって〈リージア代田テラス〉が開業。以降も6年以上をかけて、下北沢駅直上の商業施設、私立の保育園、温泉旅館やホテルなどの主要施設が順次オープンしてきました。

下北線路街 主要施設
「下北線路街」13施設の配置(2021年6月発表時のもの)

主要13施設の配置(通番は上のマップと連動、カッコ内は開業時期、施設規模)
01.リージア代田テラス
(2016年2月開業、規模:2階建・延床面積約700m²)

02.世田谷代田キャンパス
(2019年4月開業、規模:2階建・延床面積約400m²)

03.CAFE KALDINO
(2020年1月開業、規模:2階建・延床面積約300m²)

04.温泉旅館 由縁別邸 代田
(2020年9月開業、規模:2階建[一部3階建]・延床面積約2,000m²)

05.世田谷代田 仁慈保幼園
(2020年4月開業、規模:2階建・延床面積約1,400m²)

06.BONUS TRACK
(2020年4月開業、規模:2階建・延床面積約900m²)

07.SHIMOKITA COLLEGE
(2020年12月開業、規模:5階建・延床面積約2,500m²)

08.NANSEI PLUS
(2020年5月28日開業[※先行開業 (tefu) loungeや世田谷区が整備する広場などを含む]、面積約3,460m²)

09.シモキタエキウエ
(2019年11月開業、規模:2階建・延床面積約1,500m²)

10.下北線路街 空き地
(2019年9月より当面の間、敷地面積約1,400m²)

11.reload
(2021年6月開業、規模:2階建・延床面積約1,900m²)

12.ADRIFT
(2021年9月開業、規模:1階建・延床面積約400m²)

13.MUSTARD™ HOTEL SHIMOKITAZAWA
(2021年9月開業、規模:2階建・延床面積約1,700m²)

※西から東へ立地の順、通番は計画概要のMAPによる
※下北沢駅東口駅前の「空白地」は世田谷区の管轄エリア

「下北線路街」各施設案内(公式ウェブサイト)
https://senrogai.com/facility

開発プロジェクトにおける最終開発エリアである、下北沢駅南西側の「NANSEI PLUS」において、建築家の山道拓人、千葉元生、西川日満里の3氏が設立した設計事務所・ツバメアーキテクツが設計を手がけた園芸ショップとアートギャラリーが先ごろ竣工、4月13日と5月28日にそれぞれオープンしました。
これをもって、小田急電鉄が予定していた施設建設が全て終了しています(※広場「ののはら」は世田谷区と連携した整備事業、植物と芝生の養生のため、使用開始は今夏を予定)。

下北線路街〈NANSEI PLUS〉エリアマップ

〈NANSEI PLUS〉エリアマップ

『TECTURE MAG』では、要所の施設が順次開業を迎えるごとに概要を速報。今年1月にも、「NANSEI PLUS」内にて先行オープンした、まちのラウンジ (tefu) loungeを取材。カフェ、シェアオフィス、シアター設備を内包した複合施設のレポートを掲載しました。

全面開業の前日に行われた報道関係者向け内覧会を、編集部では取材。世田谷区側の整備工事が続く最新の現場の様子と、小田急電鉄による13の主要施設について、スクロールで総覧できるページとして以下にまとめます。

いわゆる「あかずの踏切」の解消、朝夕のラッシュ時の増発、輸送時間の短縮などを実現できる、線路の地下化と複々線化事業に伴い、誕生した「下北線路街」の全長は、約1.7km、敷地面積は約27,500m²(東京都の連続交差立体事業の交差道路と鉄道施設にかかる面積を除く)。13に区分された開発エリアには、さまざまな新施設が建設され、それらの中心に位置するのが下北沢駅です。

テーマは「支援型開発」

演劇や音楽、古着ファッションなどサブカルチャーの発信地として知られる「シモキタ」(実のところ、世田谷区の町名として「下北沢」は存在しない。駅周辺の町名は代田、北沢、代沢の3つ)。この地ならではの個性をまちづくりに反映すべく、小田急電鉄では「BE YOU. シモキタらしく。ジブンらしく。」を開発コンセプトとして策定しました(2019年9月発表)。
事業者である小田急電鉄が地元の人々をサポートする側にまわり、テーマに「支援型開発」を掲げているのが大きな特徴です。

「下北線路街」ロゴ

プロジェクトの詳細は1冊の書籍に

ターニングポイントは脱・ハコモノ開発

同書および、5月27日にマスコミ各社に向けて行われた披露会での小田急電鉄側の発言などによれば、計画の当初は、いわゆる「ハコモノ開発」だったとのこと。有名ブランドを誘致したテナントを主力に、海外を含めた「街の外」からの人々の流入を見込むという、従前の手法です。
地元や周辺に住む人々が”普段使い”をしている姿が顕著にみられる今の「下北線路街」とは、趣を異にするものでした。

このままでは地元住民の共感を得られないと、コンセプトと方向性が大きく変わったのは、2017年のこと。
「下北沢開発プロジェクトチーム」のメンバーに、前述書籍の編著者である向井隆昭氏(現・小田急電鉄まちづくり事業本部エリア事業創造部課長代理)と、橋本 崇氏(同創造部課長)が、それぞれ2015年11月と2017年7月に参加。なお、両氏は、ブルースタジオが企画・設計監修を担当し、座間駅前の小田急電鉄の旧社宅を賃貸住宅にリノベーションした「ホシノタノ団地」のプロジェクトも経験しています。
橋本氏がメンバー入りした3カ月後の同年10月に、現在のかたちとなった全体構想がまとまり、翌年1月には、ツバメアーキテクツが〈BONUS TRACK〉のプロジェクトに招聘されました。

〈BONUS TRACK〉計画段階 全体模型(設計:ツバメアーキテクツ)

〈BONUS TRACK〉は2021年グッドデザイン・ベスト100に選出

〈BONUS TRACK〉の運営を担う散歩社とともに、ツバメアーキテクツはゾーニングの段階から計画に携わり、およそ線路2本分の幅しかない敷地(2093.35m²)の中に、店舗・住宅一体型のSOHO4棟と、4つの区画をもつ商業棟から成る”商店街”を出現させたことは建築業界ではよく知られています。
施設の竣工とグランドオープンは2020年、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大時期による外出自粛期間と重なる不運に見舞われましたが、高い集客と人気を誇り、優れた設計コンセプトへの評価は高く、2021年にはグッドデザイン賞を獲得、「グッドデザイン・ベスト100」にも選出されています。

地域のプレーヤーがまちの価値を高める主体に

〈BONUS TRACK〉開業時に顕著にみられ、下北沢のまちのラウンジとして今年1月に開業した〈(tefu) lounge〉を含む「NANSEI PLUS」全体に踏襲されているのが、下北沢に住む人・働く人・訪れる人の毎日をさらに充実したものにするための多彩なコンテンツです。
ここで主体(主役)となるのは、地元住民など地域のプレーヤー。事業者である小田急電鉄はサポートに徹しています。

プロジェクトの根底に流れるテーマを具現化した施設として、4月13日に園芸ショップ〈シモキタ園藝部 ののこや〉が、そして5月28日にアートギャラリー〈SRR Project Space〉がオープンしました。

小田急電鉄と世田谷区の共同事業で整備が進む、NANSEI PLUS内の広場「ののはら」

広場「ののはら」概要
所在地:東京都世田谷区北沢2丁目21番
敷地面積:約713m²(世田谷区が整備する広場などを含む)
事業主:小田急電鉄株式会社 / 世田谷区
基本設計・デザイン監修:ツバメアーキテクツ、フォルク
実施設計・施工:ランドフローラ
植栽管理:一般社団法人シモキタ園藝部
開放時期:2022年夏頃予定(現在、植栽養生中)

下北線路街〈シモキタ園藝部 ののこや〉竣工直後の外観(提供:小田急電鉄)

園芸ショップ〈シモキタ園藝部 ののこや〉施設概要
所在地:東京都世田谷区北沢2丁目21番12号
規模・構造:鉄骨造 平屋
延床面積:28.83m²
施設用途:園芸ショップ
建築主:小田急電鉄
設計・監理:ツバメアーキテクツ
施工:山菱工務店
運営:一般社団法人シモキタ園藝部
開業日:2022年4月13日

園芸ショップ〈シモキタ園藝部 ののこや〉へのアクセスは、下北沢駅南西口改札を出て、〈BONUS TRACK〉などがある世田谷代田駅方面に進んだ徒歩圏内。地上通路または歩行者専用の上空デッキを抜け、現在は植栽養生中にて今夏オープンを待つ広場「ののはら」と、世田谷区の整備事業で建設途上の「世田谷区立シモキタ雨庭広場」の間に建設されました。
地上2階建て・延床面積28.83m²の小さな建物の設計を、〈BONUS TRACK〉に続いてツバメアーキテクツが担当しています。

園芸ショップ〈シモキタ園藝部 ののこや〉では、道に面してティースタンドが設けられたほか、園芸関連品の物販を行います。

外階段から上がれる屋上にもスペースを設け、眼下に広がる緑の「ののはら」の風景とともに、地域で採れたハーブと蜂蜜を使ったハーブティーを味わうことができます。

〈シモキタ園藝部 ののこや〉の運営は、一般社団法人シモキタ園藝部が行います。地元住民を中心に2020年3月に発足し、各種有料イベントの実績をもとに2021年3月に法人化された団体です。
2021年12月の時点で、部員数は約60名。

〈BONUS TRACK〉をはじめとする「下北線路街」にはランドスケープデザイナーが参画し、細やかな植栽計画がなされていますが、これらの草花の手入れを、今後はシモキタ園藝部も行っていくのが特筆点です(現状、reloadを除く)。

建物内には、緑を介したまちづくりを担う拠点となるコミュニティスペースも設けられています。まちのみどりの”守り人”となる「エコガーデナー」の育成を目指す、「シモキタ園藝學校」も4月に開校するなど、小田急電鉄が掲げるエリアテーマ「支援型開発」の実践です。

園芸ショップ〈シモキタ園藝部 ののこや〉屋上から、アートギャラリー〈SRR Project Space〉2棟の見下ろし

園芸ショップ〈シモキタ園藝部 ののこや〉と向かいあう2つのアートギャラリー〈SRR Project Space〉の設計も、ツバメアーキテクツが手掛けています。
大きなガラスショーケースのような、2階建ての「ミニギャラリー」と、訪れた人が内部に入って鑑賞できる「アートギャラリー」です。

アートギャラリー〈SRR Project Space〉施設概要(2棟:以下1と2で表記)
所在地:東京都世田谷区北沢2丁目22番2号・1号
規模・構造:1.木造 平屋 / 2.木造 2階建
延床面積:1.44.10m² / 2.73.75m²
施設用途:1.アートギャラリー / 2.ミニギャラリー / 倉庫 / 住宅
建築主:小田急電鉄
設計・監理:ツバメアーキテクツ
施工:山菱工務店
運営:スタートバーン
開業日:2022年5月28日

アートギャラリー〈SRR Project Space〉の運営は、アートのためのブロックチェーンインフラを構築し、作品の信頼性と真正性の担保を確保し、価値継承を支えることを掲げる企業・スタートバーン(代表:施井泰平)が担います。

〈SRR Project Space〉では、絵画やオブジェ、インスタレーションなど、さまざまな表現方法で、下北線路街のコンセプトの1つ、「であう、まじわる、うまれる」を成熟させるような、アート作品を展示していく予定とのこと。
こけら落としは、現代美術作家の田村友一郎氏による新作の展示です。

(tefu) lounge(読み:テフ ラウンジ)施設概要
所在地:東京都世田谷区北沢2-21-22
構造:鉄骨造
規模:地上5階建
延床面積:約1,460m²

建築主:小田急電鉄
事業主体:UDS
運営:UDS
企画・基本設計・建築デザイン監修:UDS
実施設計・施工:フジタ
インテリアデザイン:UDS
インテリアデザイン監修:福田和貴子
家具デザイン・制作:BULLPEN、未来創作所
グラフィックデザイン:アカオニ
シアター音響設計:stu inc.
開業日:2022年1月20日
URLhttps://www.te-fu.jp/shimokita

 

〈NANSEI PLUS〉施設概要
所在地:東京都世田谷区北沢2丁目21番22号ほか
敷地面積:約3,460m²(世田谷区が整備する広場などを含む)
付帯施設:複合施設(tefu) lounge、路面店集積施設(飲食・食物販4テナント)、広場、園芸ショップ、アートギャラリー(2棟)、駐輪場(137台)

下北線路街「NANSEI PLUS」俯瞰(提供:小田急電鉄)

2016年〜2021年にオープンしたそのほかの施設

その土地がもとから持っている魅力や個性を引き出し、地域住民と一体となってそれらを育てていく。まちから遠く離れている人々よりも、徒歩圏内の地元の人々をターゲットに、呼び込むことを狙いとしたというプロジェクトの立案と実際の進め方は、従前の駅前開発とは趣を異にするものであり、奇しくも開業時期が重なったコロナ禍がもたらした、人々のライフスタイルの変化や、ニューノーマルと呼ばれる時代に即した「まちづくり」となりました。
各所から注目され、視察の申し込みも多いとのこと。

鉄道会社としては、コロナによる外出自粛で乗降客が大幅に減っており、従前の手法に頼らない、駅前の活性化やまちづくりによって、エリアの価値を高めることが急務となっています。
小田急電鉄では、「下北線路街」での経験をもとに、沿線各所(登戸・向ヶ丘遊園、藤沢、秦野、町田、海老名、本厚木、大和、相模大野、小田原)で計画・進行中のまちづくりや、地域によってはコンパクトシティ化などに活かし、これを発展させていく考えです。

そして、今回の「下北線路街」では、全面開業をもってプロジェクトが終了したわけではなく、新たなスタート地点と位置づけています。

5月28日と29日の2日間にわたり、下北線路街まちびらきイベント「下北線路祭(しもきたせんろさい)」が開催されます。

「下北線路祭」詳細
https://senrogai.com/event/senrosai_2022

下北線路街 Webサイト
https://senrogai.com/

前回レポート "まちのラウンジ" (tefu) lounge 開業

CULTURE2022.01.25

下北沢のまちのラウンジ (tefu) lounge 開業

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